Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

しし座の三つ子銀河 (2017/3/7)

予報によると明日の夜は晴れそうなのですが、満月から間もないこともあって無理して出撃するべきかどうか迷います。というか普通はパスするのでしょうが…

そういえばテスト撮影ということで月齢を気にせず撮ったしし座の三つ子銀河の写真があったなと*1 3月7日に撮影した写真を引っ張りだしてきて、当時はまだ使っていなかった FlatAide Pro も使って再処理してみました。

M65, M66, NGC3628 (2017/3/7 23:51)
M65, M66, NGC3628 (2017/3/7 23:51)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6)
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAide Pro 1.0.04, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1600mm相当にトリミング

当日の月齢は 9.0 (輝面比 0.73) で、しし座の三つ子銀河からは約 58 度離れていました。*2 結構バックグラウンドが明るくなっていましたが、FlatAide Pro の補正が効いているのかそれなりの仕上がりに。

明日出撃するなら先日撮りそこねた M51 を撮りたいのですが、月齢は 16.6 (輝面比 0.94) で、M51 との角距離は約 65 度です。条件的にはやや悪い?どうしようかなぁ…

ところで FlatAide Pro のレベル調整、1.0.04 になって調整 UI を操作してもプレビュー画面が更新されないことがありませんか?というかバーのドラッグ操作とか一部の操作でしか更新がかからないような。

*1:スカイメモSの追尾精度の限界は?」で撮影したもの。

*2:真木さんの 赤道座標の2つの星の角距離計算 Version 1.01 で計算しました。

モバイルバッテリー Poweradd Pilot Pro2 を買いました

月は満ちるわ雨は降るわで天体撮影が全然できなくてストレスのたまる日々ですが、前回の撮影失敗の原因だったノート PC のバッテリー切れの対策を練っていました。

省電力設定はもう一段低くできるのですが最悪 1 時間半ぐらいでバッテリー切れの状況では効果は疑問です。直焦撮影をするようになって露出時間も極軸の追い込みにかける時間も余計にかかるようになってきたので少々の節約では追いつきそうにありません。一晩に天体を 3 つ撮影して、極軸調整に 30 分かけるなら、3時間半はもってほしいところです。

そんなわけで考えられる対策は、

の二択です。後者は現在はほぼ Lenovo ThinkPad X260/X270 以外の選択肢がなく*1 大容量バッテリーの予備と合わせて 18 万円くらいの予算が必要。これには当面手が出せないので、前者を検討します。

現在の 6 セルバッテリーの容量が 63Wh で、これで持続時間 1 時間半なら平均消費電力は 42W。3時間半もたせるなら最低 84Wh の容量が追加で欲しいところです。実測値からの計算なので DC-DC コンバーターのロスを含めても公称 84Wh で大丈夫なはず… 出力は ThinkPad X201s の最大消費電力の 65W (20V, 3.25A)が必要。

天文ファンの間ではアウトドア用品のディープサイクルバッテリーを使うのが定番らしいけど、これは車での移動が前提で、重量が20kgとかになるのでパス。

天文ショップで扱いのあるアウトドア用の軽量バッテリーとしては Meltec SG-1000 があります。重量は 3.2kg で軽いと言っても結構なもの。容量は 84Wh (12V * 7Ah)。12V 出力のみで DC-DC コンバーターは別途必要。出力は84Wまであるので ThinkPad の駆動は余裕です。

モバイルバッテリーでノート PC に給電できるものとしては、サンワダイレクト 700-BTL017BK があります。重量は 560g、容量は 85Wh (3.7V * 23000mAh)。20V 出力と ThinkPad 用のプラグがついていますが、出力は 20V/3.0A = 60W で少し足りないのが気になります。

連続稼働時間の延長が目的なので電源を落として充電できるだけだと意味がないのですが。「ノートPCのバッテリー残量が約70%の状態から接続」して稼働時間を延長できるということなので大丈夫なのでしょうか?

まあ、本体バッテリーが残っている状態なら一時的に出力が足りなくなっても AC 電源を抜いた状態を同じなので本体バッテリーに切り替わってくれるはずだし、最悪スマホタブレット用のモバイルバッテリーとして使えばいいかと思い、これに決めようとしたのですが…

この 700-BTL017BK、色が違う以外全く同じスペックの他社製品がいくつかあります。おそらく同じ OEM 元の製品だと思うのですが、その中で一番安いのは Poweradd 23000mAh モバイルバッテリー

4000円弱の差なら国内サポートが期待できそうなサンワダイレクトにしようかなと思ったのですが、サンワダイレクトのサイトをよく見ると、ノート PC 用の出力のコネクタの種類が違います。サンワダイレクト製品の方には最近の ThinkPad 用の角形 20V 用コネクタ(Poweradd の M 型コネクタ)がありません。当面必要ないとはいえ将来 X270 を買ったりした時に困るかもしれません。

迷いましたが、「ぶっちろぐ」のレビューなども参照して、結局 Poweradd の製品を購入しました。

POWERADD Pilot Pro2 23000mAh

Amazon の製品紹介に記載はありませんでしたが Pilot Pro2 というのが製品名でした。ノート PC 用出力のない Pilot Pro3 と紛らわしいので記載がないのでしょうか?

大きさはコミックス1冊分くらい、重さは手で持った感じ昔の iPad ぐらいで、持ち運びに不便はなさそうです。

POWERADD Pilot Pro2 の大きさ

残量 55% の状態で届いたので、試しにバッテリーを抜いた ThinkPad に給電した状態で ThinkPad の電源を入れるとあっさり起動。その後 WiFi を ON にしてネットを見たり PHD2 を起動したりしていましたが、特に問題なく使えました。

モバイルバッテリーを接続した状態では ThinkPad 側からは AC 給電に見えるので省電力設定が変わります。デフォルトでは AC 給電時は最大パフォーマンスで動く設定ですが、これでは困るのでバッテリー給電時と同等の省電力設定に変更しました。

3 分ほどの使用で Pilot Pro2 の残量は 52% になったので 100 分くらいは使えるということでしょうか?後日テストしてみようと思います。

*1:法人向けモデルでは Panasonic Let's note MX5 と NEC VersaPro UltraLite VB-T がありますが、バッテリー容量も値段も不満です…

無理やり仕上げてみたけど…

先日の失敗した撮影の写真ですが、くやしいので無理やり仕上げてみたのですが…

M51 (2017/4/4 01:30)
M51 (2017/4/4 01:30)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6)
ISO 200, 300s x 4枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0.02, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1920mm相当にトリミング

やっぱりブレブレ&ザラザラですね… 苦労してまで救う価値もないので光線漏れのカブリの修正はやめました。

なんか id:Safork さんが 200mm で撮ったこの写真の方がイケてるような…

カメラは PENTAX K-70 だそうですがセンサーのノイズが少ないのかノイズリダクションが賢いのかずいぶんクリアな絵です。画素ピッチは 3.9μm で E-M5 とそんなに変わらないんですけど。ノイズの問題というよりは、そもそも撮影地が北海道ということで光害が少ない分淡い光までシグナルとして使えてるってことなのですかね。

何の成果も得られませんでしたぁぁぁあああっ!!

4月3日は久々に深夜から晴れるということで、仕事を早めに切り上げて帰宅して出撃準備をしてからサクッと就寝。23:30 頃に目を覚まして近所の公園に初出撃。少し距離があるものの機材を抱えての移動もさほど苦にならず。横浜では夜雨が降るという予報もあったのですが、結局降らなかったようで地面は濡れていませんでした。

夕方に下見に来たことはあったけど夜中に来るのは初めてで、照明灯が思いの外眩しかったのですが、天頂付近を撮るならなんとかなりそうな気配。今回のターゲットはおおいぬ座の銀河 M51 と M101、PHD2 を動かす ThinkPad X201s のバッテリーがもてばヘルクレス座球状星団 M13 も、という目論見でした。8cm F6 レデューサーなしの直焦点で狙います。

北天の高い位置を狙うのは初めてなのでカメラが赤道儀にぶつからないように調整するのに手間取りました。赤緯微動台座をスライドさせていつもより鏡筒を赤道儀から少しだけ離して固定してバランスもギリギリとれました。

ここで先にフラットを撮ろうかと思ったら光源がわりの iPad を忘れているのに気付きました。まあバッテリーが切れる前に ThinkPad の液晶を使えばいいかと思い後回しに。

極軸合わせは極望でアバウトに合わせてからいつも通りドリフトアライメント。高度調整は東の空が木立で隠れてしまっているのでいつもと逆の西の空を使って調整。スムースにやれたつもりでしたが結局 40 分以上かかってピント合わせ・導入に入ったのが 1:00 過ぎ。

ピント合わせは木星の縞模様でしっかり合わせたのですが、天頂付近の M51 を導入するためにアルカイド*1に鏡筒を向けた時にクレイフォード式接眼部がカメラの重みに負けてピントがズレてしまいました。しかもフォーカサーのハンドルを回してもカメラが上がらずピントが合わせられません。

念の為に持ってきた六角レンチでローラーの当たりをキツめに調整したところ無事ピントが合わせられるようになって事なきを得ましたが、またピントがズレるのが嫌なので今度はアルカイドでピント合わせ。

やっとのことで M51 の導入が終わり撮影を開始したのが 1:30。一息つけるかと思ったら、ガイドグラフを見ると赤緯方向にガクつくようなブレが出ています。どうやら時折吹いてくる北からの風に鏡筒が煽られているようです。そよ風よりは強い、ぐらいの弱い風なのですが…

Dec の RMS エラーは ±3 秒を超えていて使い物にならなさそう。1 枚 5 分の露出なので風が止んでいる間にうまいこと露出が終わるというのも期待薄ですが、とりあえず撮影を続行します。

4枚目の撮影中、1時間半くらいは残っていたはずの ThinkPad のバッテリー残量が突然残り 6% との警告が出てメーターが一気に 13 分などという値に激減。前回は 2 時間半は余裕という結果になったはずなのになんで?何かの間違いかと思ったのですが残量は減る一方。バッテリー延命モードに設定してみたものの焼け石に水で、結局 5 分足らずで自動シャットダウンしてしまいました。

撮影続行不可能になって、カメラの液晶画面で確認した 4 枚の写真も明らかにブレているし、おまけに 4 枚目には謎の虹色の縞模様のカブリまで写っていたので、もうダークもフラットも撮らずにそのまま撤収しました… 2:10 に帰宅。

帰宅後 PC で確認したところ 4 枚のうち一番ブレの少ないカットでこの程度でした。

M51 (失敗) (2017/4/4 01:35)
M51 (失敗) (2017/4/4 01:35)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6)
ISO 200, 300s
Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 4320mm 相当にトリミング

というわけで、

何の成果も得られませんでしたぁぁああああぁぁっ!!

orz

今回は、

  • 初の公園での撮影
  • 野外では初の直焦撮影(480mm)
  • 野外では初の巻きつけフード使用
  • SSD に換装した ThinkPad の初投入

と、色々初めての事が多かったのですが、問題だらけの結果となりました。

  • 風はなんとかならんのか?
  • ThinkPad の早すぎるバッテリー切れの原因は?
  • 謎の虹色の迷光の原因は?

まず風に弱いのは、さすがに直焦はシビアというのと、長い巻きつけ延長フードをつけているせいで風にあおられやすいのもあるのだと思います。しかし、公園内には複数の照明灯が立っていてしっかりフードでガードしないと筒先からの迷光は避けられそうにない状況です。

そもそもスカイメモ S には文字通り荷が重いというのが一番の問題でしょう。公園内には風よけになるようなものもなく、風が吹かないことを祈るしか…

ThinkPad のバッテリー切れの問題はよくわかりません。12月末に余裕で 2 時間半はもったので寒さのせいではなさそう。念の為帰宅後暖房を入れて温まったところで確認してみましたが残量はそのままでした。省電力設定も確認しましたが前回の設定のまま。

となると SSD に換装したせいでしょうか? 換装した SSDIntel SSD 320 Series 300GB ですが、換装前の Seagate Momentus 5400.6 320GB に比べるとアクティブ時の消費電力が 0.7W ぐらい大きいのですが、アイドル時はむしろ小さいようです。バッテリー持続時間に 1 時間以上差が付くとも思えないですが…

謎の迷光の方はどうやら原因が判明。こんな迷光なのですが、

迷光
謎の迷光

3 枚目にも同じ形のカブリがうっすらとですが写っていました。筒先から入るような形でないこと、鏡筒の角度によって写ったり写らなかったりすることから、接眼部側のどこかに光線漏れがあるのではないかと考えました。

直焦アダプターにはフォーサーズ用ではなくニコン用の T リングを付けていて、それに RAYQUAL のマウントアダプターを付けて E-M5 (+ MMF-3)を接続していたのですが、

IMG_4388
RAYQUAL NF FOURTHIRDS マウントアダプター

よく見るとロックレバーの取り付け部分に隙間があり、そこから光線漏れがあるようです。

IMG_4389
ロックレバーの取り付け部分の隙間

おそらく追尾中に鏡筒がいい感じの角度になって公園内の照明灯の光がダイレクトに隙間から差し込んで、内側にネジが切ってある直焦アダプター内面を照らしてあんな形の迷光になったのでしょう。これは横着せずフォーサーズ用のTリング*2を使えば解決するはずです。

とにかく ThinkPad のバッテリー問題は死活問題なのでなんとかしたいところですが、ノート PC を新調するしかないのかも…

*1:北斗七星の柄の端にある星。

*2:いつもはレデューサーに付けっぱなしにしている

M81 + M82, M108 + M97 (2016/12/29)

昨年12月29日深夜、かねてから撮りたかったおおぐま座の二つの銀河 M81 と M82 を撮ろうといつもの駐車場に出撃しました。が、駐車場は取り壊されて工事現場に… でも今更他に場所を探すのも大変なので結局工事現場の隅っこで撮影。後に建物が建ち、ここで撮るはこれが最後になりました。

目当ての M81 と M82 はフルサイズ換算 1000mm くらいの画角ならツーショットで撮れます。この日はおおぐま座のもうひと組のツーショット M108 と M97 も撮りました。M108 銀河、M97 は惑星状星雲で通称「ふくろう星雲」。北天の天体はなかなか撮れなくてどれもこの日が初めてでした。

星像の歪みを嫌って光害カットフィルターは使わず 180 秒露出。*1 時折強めの風が吹き望遠鏡が揺れてガイドが荒れ気味だったのですが、予備のカットを多めに撮ってなんとか 8 枚使えるカットを確保。やや像が甘いですがそこそこ満足できる結果になりました。

この日撮った M81 と M82 の写真はこちら。

M82, M81 (2016/12/30 02:13)
M82, M81 (2016/12/30 02:13)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 200, 180s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC, FlatAidePro 1.0 で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

M81 の渦巻きっぷりも好きなのですが、この日一番の目当ては不規則銀河の M82 です。普通の銀河と違って形がモコモコしているのが不規則と呼ばれる所以です。

子供の頃に読んだ藤井旭『全天 星雲星団ガイドブック』では M82 は「爆発小宇宙」などと呼ばれていて、銀河中心で大爆発が起こっているのだとされていました。銀河規模の爆発というだけでもアツいものがありますが、滅びゆく銀河の姿というのもロマンチックで、子供の頃からずっと見たかった天体でした。

今回撮った写真でも中心に爆炎のような模様がうっすら浮き上がっているのが見えます。なのですが、今では爆発のように見えるのは「爆発的に星が生成されている」ためと考えられていて、「スターバースト銀河」と呼ばれています。

M82 から Hα 線が噴き出す原因は、1960 年代の初頭には銀河の中心部で起こった巨大な爆発によると考えられていた。その後、M82 の中心部には巨大な分子雲や多くの超新星の残骸が発見され、また国立天文台野辺山宇宙電波観測所の 45m ミリ波望遠鏡による電波観測では、M82 の中心部から外側に向かって分子ガスが流出していることが分かってきた。そこで現在では、銀河中心部における活発な星生成 (スターバーストと呼ぶ) や超新星爆発により、高温の電離した水素ガスが銀河の外側まで噴出し Hα 線として見えている、と解釈されている。このような現象は「スーパーウィンド」と呼ばれており、銀河内の物質を銀河の外側へ運び出し、銀河間空間を加熱する重要な役割を持っている。
観測成果 - 銀河から噴出す真紅の光 (M82, NGC 3034) - すばる望遠鏡

爆発してなくなってしまうというわけではないみたいです。残念…!? 「スーパーウィンド」で広がった赤いガスは今回撮った写真ではほとんど写りませんでした。Hα 線なので改造デジカメじゃないと写らないでしょうか。そういえば M81 の渦巻きの腕の中にも Hα 線を出す赤い星雲が点在しているはずなのですが写っていません。

M81 と M82 のツーショットは偶然ではなく実際にお隣同士の銀河です。M82 のスターバーストは M81 とすれ違った時に受けた重力の影響だと言われるくらいです。

続いて M108 と M97 の写真はこちら。

M108, M97 (2016/12/30 03:05)
M108, M97 (2016/12/30 03:05)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 200, 180s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC, FlatAidePro 1.0 で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

M108 も妙にモコモコ感があって M82 と雰囲気が似ていますが、これは不規則銀河ではなくて普通の渦巻銀河です。M97 は「ふくろう星雲」の名の通りふくろうの正面顔のような形が特徴です。

なんだかかわいらしいツーショットですが、こちらは偶然同じ方向に見えているもので、地球からの距離は M108 が 4600 万光年、M97 が 2000 光年です。*2

*1:参照:「LPS-D1 QRO について

*2:Stellarium 0.15.2 のデータより。

マルカリアンの銀河鎖, M100, M83 (2017/2/2)

新月を前に色々妄想していたのですが、月末はずっと天気が悪くて全然天体撮影ができませんでした。しかたがないので 2 月に撮った銀河の写真を再処理していました。

光害もしくは迷光によるカブリで淡い部分が上手く出なかった写真なのですが、フラットのムラや光害などのカブリを除去できると評判のソフト FlatAidePro を試してみました。有料のソフトですが 800 万画素までの画像なら無料でフル機能が使えます。

以下いずれも2月2日の深夜に撮ったものです。

まずはおとめ座銀河団の中にある銀河でできた首飾り「マルカリアンの銀河鎖」です。

マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算815mm相当にトリミング

たくさんの銀河が写っています。例によってマップも作ってみました。

マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
マルカリアンの銀河鎖マップ (2017/2/3 01:32)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算815mm相当にトリミング

Lightroom での調整だけでは NGC4438 の周囲の淡く広がった部分を強調すると背景のムラが浮いてきてどうしても綺麗に仕上がらなかったのですが、少しはマシになりました。とはいえやはり厳しい…

次は、これもおとめ座銀河団の銀河 M100 です。

M100 (2017/2/3 02:34)
M100 (2017/2/3 02:34)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

以前撮った時には見えなかった渦巻き構造がはっきり写っています。いいですね、渦巻き。

最後はうみへび座の銀河 M83 です。

M83 (2017/2/3 03:46)
M83 (2017/2/3 03:46)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

南中高度が 25 度と低く、ちゃんと写るか不安だったのですが思いの外よく写りました。ていうかでかいですね… M100 の倍くらいあります。迫力ある腕がいい感じのフェイスオン銀河です。

さて、画像処理はいろいろ試行錯誤してこんな感じにしましたが、こんなんでいいんでしょうか…

  • DSS の出力を Lightroom でノイズ軽減・トリミングして TIFF 出力
  • FlatAidePro で元画像をレベル補正
  • レベル補正済み画像をフラット補正(減算)
  • フラット補正済み画像をレベル補正(バックグラウンドを50%くらい残す)
  • FlatAidePro の最終出力を Lightroom に読み込んでノイズ軽減・レベル・トーンカーブ・明瞭度の調整

最初に元画像のレベル補正をせずにフラット補正すると後で強調処理した時に背景のムラが残ってしまいました。また、FlatAidePro のレベル補正で適正なレベルまで仕上げてしまうと淡い部分がザラザラになりがちなので背景がグレーになるぐらいにしてから Lightroom で処理した方がノイズが目立たないようでした。

FladAidePro にはフラット補正以外にもたくさん機能があって、星だけをシャープにしたり、ガイドエラーで少し流れた星像を丸く補正したり、輝星だけにソフトフィルターをかけたりと色々できるようなので、今後ぼちぼち試していきたいと思います。

オートガイダー導入記 (10): 暴走するオートガイダー

前回の続きです。

オートガイダー導入記 (7): 屋外での撮影のテスト」でちらっと触れたガイドが暴走した件、その後何が起こっていたのか判明しました。

当時具体的にどういう状況だったか当時のメモから引用します。

M31の後はM33。そしてM45を撮り始めたのだがガイドに異常が。ガイドパルスが全く効かない感じで赤経方向にガイド星がどんどん流れていってしまう。赤緯クランプが緩んでいるのに気付いてクランプを締め直すがガイドズレは直らない。
一度赤道儀の電源を落として再接続してみたがダメ。結局PHD2を再起動したら正常にガイドするようになった。しかし今度は赤緯方向のズレ。極軸がズレている。M33からM45に望遠鏡を向けた時、子午線を超えるために鏡筒を反転させたせいか、バランスが崩れてしまったらしい。

PHD2 の不具合だろうと思ったまま忘れていたのですが、年明けに HIROPON さんの記事にこんな話が出てきてピンときました。

ところでこの時、ちょっとしたトラブルに見舞われています。M76からM1にターゲットを移してガイドを再開したところ、ガイド星が暴走気味にどんどん外れていくのです。
一瞬、赤道儀の不具合やケーブルの断線を疑いかけましたが、気づけば答えは簡単な話。M76→M1の移動で望遠鏡の姿勢が東西入れ替わっているので、オートガイダーからの指令と動作方向の対応も逆にしなければいけないのですが、キャリブレーションのやり直しをサボっていたため、これがされていなかったのです。

ひょっとしてこれと同じ話だったのでは?PHD2 を再起動したら治ったのは再起動後にいつも通りキャリブレーションをやり直していたから?

M33 を撮った 11月5日 23:06 南中から約1時間経過した M33 に向けた望遠鏡の姿勢は望遠鏡が東側 (telescope-east) でした。その後南中前の M45 に望遠鏡を向け直した時に望遠鏡が西側の姿勢 (telescope-west) に切り替えていたのでした。

望遠鏡の東西を入れ替えると同じ方向を向いたままガイドカメラが逆さになるのでオートガイダーから見た上下左右と赤道儀から見た東西南北の対応関係が逆になるのです。その状態でガイドするとオートガイダーがガイドを修正するとますますガイド星がズレていく悪循環になりガイドが暴走してしまうのです。

自分でもこれがすぐにはわからなかったので順を追って説明します。

まず「望遠鏡の東西を入れ替えるとカメラが逆さまになる」について。

一般的なドイツ式赤道儀の場合、子午線を超えて望遠鏡を動かす時に望遠鏡が三脚などにぶつからないように望遠鏡の東西を入れ替えます。具体的には望遠鏡を極軸を中心に 180 度回転してさらに赤緯軸を中心に 180 度回転します。

図解するとこうなります。


https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-01.png
https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-02.png
https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-03.png

telescope-west で南の空を見ている状態から telescope-east に入れ替える場合を図解したものです。極軸を 180 度回すと望遠鏡がこっちを向くのがわかりづらいかもしれませんが、極軸を垂直に立てた状態を想像するとわかりやすいです。

これをやるとカメラが逆さまになり星が逆さまに写ります。なので撮影用のカメラはここからさらにカメラを回転させて正位置に戻すのが普通ですが、ガイドカメラの場合はそのままにすることが多いと思います。そのためカメラの映像を解析するオートガイダーにも逆転した映像が入力されることになります。

続いて、この状態では「オートガイダーがガイドを修正するとますますガイド星がズレていく悪循環」になるということについて。

最初に telescope-west の状態でキャリブレーションしたオートガイダーは、

  • 映像上でガイド星が右に動いたら赤道儀を西に動かす
  • 映像上でガイド星が左に動いたら赤道儀を東に動かす

というルールで赤道儀を制御します。

https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-04.png

ガイド星が西に動くと映像上では右に動き、最初のルールでガイド星が最初の位置に戻るまで西に動かすことになります。このルールのまま望遠鏡の東西を入れ替えてしまったらどうなるでしょう?

https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-05.png

オートガイダーからはガイド星の動きが逆さまに見えていますから、西に動いたガイド星は映像上では左に動き、二番目のルールが適用されて赤道儀を東に動かしてしまいます。

こうするとガイド星は元の位置からさらに左へと離れてしまいます。そして離れたガイド星を追うために二番目のルールがさらに適用されてますますガイド星は離れていってしまい… と悪循環に陥り、結果的に暴走のような動きになってしまうのです。

なので望遠鏡の東西を入れ替えたらオートガイダーの動作ルールを逆にしないといけません。PHD2 にそういうオプションもあるようですが、簡単にはキャリブレーションをやり直せばよいわけです。望遠鏡の姿勢を大きく変えると各部のたわみなど変化するので再キャリブレーションする習慣を付けておいたほうがよさそうです。

「気づけば答えは簡単な話」とは言うものの、言われるまで気付きませんでしたし完全に納得するには時間がかかりました。でもこれでもう大丈夫。

ということで赤道儀購入からオートガイダー導入までを振り返るシリーズはこれでおしまいです。過去に撮った写真については時々振り返って個別の記事にしたいと思います。