Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

オートガイダー導入記 (3): なぜ小さなガイドスコープでガイドできるのか

前回の続きです。

オートガイダーを注文したのは昨年10月12日で届いたのが土曜日の15日ですが、それまでの間、オートガイダーについて色々予習をしていました。

オートガイダーの使い方については PHD2 Guiding を使うなら公式マニュアルの日本語訳を公開している HIROPON さん(id:hp2)の書いたものがベストだろうと Starry Urban Sky の解説記事を読んでいました。

もうひとつ予習しておきたかったのは、なぜ小さなガイドスコープで長焦点鏡をガイドできるのかということ。最近オートガイダーとセットで売られているガイドスコープは 100mm 前後のものが多く、それで焦点距離 500mm 程度までのガイド撮影が可能と謳っています。なぜそんなことが可能なのでしょう。

オートガイダーのセンサーの画素ピッチは QHY5L-IIM の場合 3.75μm とデジタル一眼とさほど変わりはありません。マイクロフォーサーズ 1600 万画素の E-M5 ならほぼ同じです。オートガイダーのセンサー上で 1 ピクセル星が動くのを検出してから追尾速度を修正するのなら撮影鏡と同じくらいの焦点距離のガイド鏡が必要なはずです。

しかし実際にはオートガイダーのソフトウェアは 1 ピクセル以下の星の動きを検出することでガイド鏡の焦点距離の 5 倍程度なら問題なくガイドできるのです。そのあたりの原理について、PHD2 Guiding の前バージョンの PHD Guiding を開発した Stark Labs のブログに解説がありました。

PHD, subpixel guiding, and star SNR | Ask Craig | Stark Labs
http://www.stark-labs.com/help/blog/files/PHDSubpixelAccuracy.php

話を思いっきり単純化すると、こんな話です。

例えば星像の広がりがオートガイダーのセンサーの画素 1 ピクセルの面積に収まっているとします。星像が画素の中心にあるならオートガイダーの映像にはその画素だけが光っているように写ります。

https://rna.sakura.ne.jp/share/subpixel-guiding.png

ここで星像が 1/2 ピクセル分右に動いた場合を考えると、星像は二つの画素をにまたがることになり、それぞれの画素は半分ずつの光を受け取るので、オートガイダーの映像には明るさ半分の画素が二つ並んで光っているように写ります。

このように星像がまたがった複数の画素の明るさのバランスを見れば 1 ピクセル以下の星の動きを検出できるのです。PHD の場合、理論上は 1/250 ピクセルの動きまで識別できるそうです。

しかし実際にはセンサーにはノイズが入り、微妙な明るさのバランスの変化はノイズにかき消されて検出できなくなってしまうので、そこまでの精度ではガイドできません。シミュレーションでは比較的大きなノイズがある場合 1/5.5 ピクセル程度の精度になるとのこと。

ガイド鏡の約 5 倍の焦点距離の撮影鏡をガイドできるというのはこのあたりから来ているようです。

というわけで 130mm のミニ・ガイドスコープなら 700mm 程度までなら安心してガイドできそうだということがわかりました。BLANCA-80EDT の直焦撮影も余裕です。スカイメモS が PHD2 の制御についてこられれば、ですけど…

10月14日の夜は久しぶりの快晴。でも残念ながらオートガイダーはまだ届いていません。月齢も満月前日で天体撮影には不向きでしたが、ノータッチ追尾の限界を確認しておく意味で深夜に馬頭星雲の撮影にチャレンジしてみました。馬頭星雲の撮影はこれが初めてです。

馬頭星雲 (2016/10/15 02:56)
馬頭星雲 (2016/10/15 02:56)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 1000, 30s x 6枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

馬頭星雲の上にある NGC2024 通称「燃える木星雲」はそれらしく写っていますが、馬頭星雲の背景になる赤い星雲はほとんど写っていません。肝心の馬の首… と呼ぶとなんだか不気味なので僕はポニーヘッドと呼んでいますが、その肝心の部分は、元の形をよく知っていれば存在はなんとかわかる = 普通はわからない、という写りです。

馬頭星雲の背景の散光星雲のような赤い星雲は普通のデジカメでは写りにくいものです。水素の出す赤い光の波長は、普通のデジカメのセンサーの前に付いている赤外線カットフィルターがカットする波長と被ってしまうので、センサーの感度が落ちてしまうからです。

そのため天文ファンは Canon の EOS 60Da や、Nikon の D810a のような天体専用機や、普通のデジカメから赤外線カットフィルターを除去した改造カメラを使ったりするのですが、志の低い僕は普段使いのデジカメを天体撮影に流用しているのでそういうわけにもいきません。

もっとも天文雑誌のデジカメの新製品レビューなどを見ると無改造でも十分露出時間をかければ赤い星雲もそこそこ写るようです。オートガイダー導入で馬頭星雲はどこまで写るようになるでしょうか。(つづく)

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