Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

オートガイダー導入記 (10): 暴走するオートガイダー

前回の続きです。

オートガイダー導入記 (7): 屋外での撮影のテスト」でちらっと触れたガイドが暴走した件、その後何が起こっていたのか判明しました。

当時具体的にどういう状況だったか当時のメモから引用します。

M31の後はM33。そしてM45を撮り始めたのだがガイドに異常が。ガイドパルスが全く効かない感じで赤経方向にガイド星がどんどん流れていってしまう。赤緯クランプが緩んでいるのに気付いてクランプを締め直すがガイドズレは直らない。
一度赤道儀の電源を落として再接続してみたがダメ。結局PHD2を再起動したら正常にガイドするようになった。しかし今度は赤緯方向のズレ。極軸がズレている。M33からM45に望遠鏡を向けた時、子午線を超えるために鏡筒を反転させたせいか、バランスが崩れてしまったらしい。

PHD2 の不具合だろうと思ったまま忘れていたのですが、年明けに HIROPON さんの記事にこんな話が出てきてピンときました。

ところでこの時、ちょっとしたトラブルに見舞われています。M76からM1にターゲットを移してガイドを再開したところ、ガイド星が暴走気味にどんどん外れていくのです。
一瞬、赤道儀の不具合やケーブルの断線を疑いかけましたが、気づけば答えは簡単な話。M76→M1の移動で望遠鏡の姿勢が東西入れ替わっているので、オートガイダーからの指令と動作方向の対応も逆にしなければいけないのですが、キャリブレーションのやり直しをサボっていたため、これがされていなかったのです。

ひょっとしてこれと同じ話だったのでは?PHD2 を再起動したら治ったのは再起動後にいつも通りキャリブレーションをやり直していたから?

M33 を撮った 11月5日 23:06 南中から約1時間経過した M33 に向けた望遠鏡の姿勢は望遠鏡が東側 (telescope-east) でした。その後南中前の M45 に望遠鏡を向け直した時に望遠鏡が西側の姿勢 (telescope-west) に切り替えていたのでした。

望遠鏡の東西を入れ替えると同じ方向を向いたままガイドカメラが逆さになるのでオートガイダーから見た上下左右と赤道儀から見た東西南北の対応関係が逆になるのです。その状態でガイドするとオートガイダーがガイドを修正するとますますガイド星がズレていく悪循環になりガイドが暴走してしまうのです。

自分でもこれがすぐにはわからなかったので順を追って説明します。

まず「望遠鏡の東西を入れ替えるとカメラが逆さまになる」について。

一般的なドイツ式赤道儀の場合、子午線を超えて望遠鏡を動かす時に望遠鏡が三脚などにぶつからないように望遠鏡の東西を入れ替えます。具体的には望遠鏡を極軸を中心に 180 度回転してさらに赤緯軸を中心に 180 度回転します。

図解するとこうなります。


https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-01.png
https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-02.png
https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-03.png

telescope-west で南の空を見ている状態から telescope-east に入れ替える場合を図解したものです。極軸を 180 度回すと望遠鏡がこっちを向くのがわかりづらいかもしれませんが、極軸を垂直に立てた状態を想像するとわかりやすいです。

これをやるとカメラが逆さまになり星が逆さまに写ります。なので撮影用のカメラはここからさらにカメラを回転させて正位置に戻すのが普通ですが、ガイドカメラの場合はそのままにすることが多いと思います。そのためカメラの映像を解析するオートガイダーにも逆転した映像が入力されることになります。

続いて、この状態では「オートガイダーがガイドを修正するとますますガイド星がズレていく悪循環」になるということについて。

最初に telescope-west の状態でキャリブレーションしたオートガイダーは、

  • 映像上でガイド星が右に動いたら赤道儀を西に動かす
  • 映像上でガイド星が左に動いたら赤道儀を東に動かす

というルールで赤道儀を制御します。

https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-04.png

ガイド星が西に動くと映像上では右に動き、最初のルールでガイド星が最初の位置に戻るまで西に動かすことになります。このルールのまま望遠鏡の東西を入れ替えてしまったらどうなるでしょう?

https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-05.png

オートガイダーからはガイド星の動きが逆さまに見えていますから、西に動いたガイド星は映像上では左に動き、二番目のルールが適用されて赤道儀を東に動かしてしまいます。

こうするとガイド星は元の位置からさらに左へと離れてしまいます。そして離れたガイド星を追うために二番目のルールがさらに適用されてますますガイド星は離れていってしまい… と悪循環に陥り、結果的に暴走のような動きになってしまうのです。

なので望遠鏡の東西を入れ替えたらオートガイダーの動作ルールを逆にしないといけません。PHD2 にそういうオプションもあるようですが、簡単にはキャリブレーションをやり直せばよいわけです。望遠鏡の姿勢を大きく変えると各部のたわみなど変化するので再キャリブレーションする習慣を付けておいたほうがよさそうです。

「気づけば答えは簡単な話」とは言うものの、言われるまで気付きませんでしたし完全に納得するには時間がかかりました。でもこれでもう大丈夫。

ということで赤道儀購入からオートガイダー導入までを振り返るシリーズはこれでおしまいです。過去に撮った写真については時々振り返って個別の記事にしたいと思います。