Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

月 (2019/1/9)

1月9日は早く帰宅できたので夕方に月齢3.3の月を撮りました。久しぶりに 8cm F6 + 2xテレコン + E-M5 で撮影。

月齢3.3 (2019/1/9 17:23)
月齢3.3 (2019/1/9 17:23)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 1/40秒 / Lightroom CC で画像処理

月齢3.3の地球照 (2019/1/9 17:23)
月齢3.3の地球照 (2019/1/9 17:23)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 4秒 / Lightroom CC で画像処理

月の上(北)に見えている星はやぎ座のδ星デネブ・アルゲディ(2.8等)です。狙ったわけではなくて撮ったらたまたま写っていました。地域によっては食になったりしてたんですかね?今年の天文年鑑まだ買ってなくてわからない…

部分日食は撮れませんでした

1月6日の部分日食ですが、結局撮れませんでした。夜明け前からベランダに赤道儀を出してアライメント、と思ったら空一面雲に覆われていて金星すら全く見えず。結局そのまま朝になってしまいました。8cm F6 + 2xテレコンで撮る予定だったので、ちゃんとアライメントを取って導入に手間取らないようにしたかったのですが…

夜が明けてからもずっと曇り空で食が始まっても太陽の位置すらわからないありさま。9時頃からずっと望遠鏡の前に張り付いていたところ、最大食分の直前の10時頃、雲の薄い部分が太陽の前を横切ってちらちらと欠けた太陽が肉眼で視認できました。

あわてて撮影しようとしたのですが、見えるのがあまりに瞬間的だったし、日食用のフィルターが暗すぎてカメラでは厚い雲越しの太陽がほとんど見えず導入もピント合わせもままならなかったので、結局1枚も撮れませんでした。

フィルターを外すかどうか迷いましたが、やはり危険なのでフィルターはそのままに、テレコンだけ外して明るく、写野を広くして雲が切れるのを待ちました。食の終わる11時半まで粘りましたが結局その後はノーチャンスで終了。

まあ、一瞬ですが肉眼で欠けたところを見れたのでよしとします…

ガイド星のドリフト方向の反転について

一方向赤緯ガイド(uni-directional Dec guiding)では赤緯方向のガイドエラーは一方向のズレしか修正しないので、ガイドの修正方向がガイド星がドリフト方向の反対になるようにガイドモードを設定します。

しかしガイド星のドリフト方向はガイド星の天球上の位置によって反転することがあります。

極軸のズレがあれば、空の何か所かで赤緯の修正の方向が変わります(技術的には、空の 2 つの地点で方向が逆になりますが、そのうちの 1 つは通常地平線より下にあります)。逆転するポイントがどこにあるかは極軸の高度、方位が相対的にどのくらいずれているかによって決まります。もしかすると、逆転するポイントは通常の撮影では遭遇しないほど地平線に近いかもしれません。
PHD2 v2.6.5 User Guide 日本語版』p55

一方向赤緯ガイドで撮影中に「逆転するポイント」をまたいでしまうと、設定とは逆方向にガイドが流れていってしまいます。この「逆転するポイント」は具体的にはどこにあるのでしょう?

これを知るには極軸がどの方向にどれだけズレるとガイドエラーがどの方向にどれだけ出るかという関係式を知る必要があります。『天文年鑑』の「天体望遠鏡データ」の章に「極軸の設定誤差による追尾誤差」という節があり、以下の公式が載っています。

\mathit{H'} = \mathit{H} - \mathit{H_P}
\mathit{\Delta}\mathit{H} = \varepsilon_P \tan \delta \: [ \sin (\mathit{H'} + t) - \sin (\mathit{H'}) ]
\mathit{\Delta}\delta = \varepsilon_P \: [ \cos (\mathit{H'} +t) - \cos (\mathit{H'}) ]
天文年鑑2018』p328

\mathit{H_P} は極軸の指す方向の時角*1\varepsilon_P は極軸の指す方向の天の極からの角距離を表します。図にするとこうなります。

https://rna.sakura.ne.jp/share/uni-dir-guide/PA-errors.png

このとき時角 \mathit{H} にあるガイド星を t 時間追尾した際の赤経方向のズレが \mathit{\Delta}\mathit{H}赤緯方向のズレが \mathit{\Delta}\delta です。ここでは赤緯方向のドリフトが問題なので \mathit{\Delta}\delta だけ考えます。

ガイド星のドリフト量と方向はガイド星の時角で決まります。ガイド星の赤緯のドリフト方向が逆転するポイントは、t がごく小さい正の値の時に \mathit{\Delta}\delta の符号が入れ替わる場所です。つまり、\cos (\mathit{H'}) = \cos (\mathit{H} - \mathit{H_p})) のグラフの傾きが 0 になる点、すなわち極値になる場所です。

以下、これが極軸のズレ方によってどこに来るかを見ていきます。

まず、極軸の方位の調整が完璧で、高度が少し高い方にズレている場合を考えます。先の図上に示しましたが、この時の極軸の指す方向の時角 \mathit{H_P} は 0 です。\cos (\mathit{H'}) のグラフはこうなります(横軸は \mathit{H} = ガイド星の時角です)。

https://rna.sakura.ne.jp/share/uni-dir-guide/DEC-drift-PA-error-0h.png

この場合、子午線(時角0)の前後でドリフト方向が逆転してしまいます。対象の南中の前後に撮影する場合、これは困った状態です。

次に、極軸の方位が西に少しズレていて、高度も高い方に同じだけズレている場合を考えます。この時の極軸の指す方向の時角 \mathit{H_P} は 3 時です。グラフはこうなります。

https://rna.sakura.ne.jp/share/uni-dir-guide/DEC-drift-PA-error-3h.png

この場合、子午線超えの3時間後にドリフト方向が逆転します。子午線超えを避けて南中後の対象を狙う場合は要注意です。

最後に、極軸の方位が西に少しズレていて、高度の調整は完璧な場合を考えます。この時の極軸の指す方向の時角 \mathit{H_P} は 6 時です。グラフはこうなります。

https://rna.sakura.ne.jp/share/uni-dir-guide/DEC-drift-PA-error-6h.png

この場合、ドリフト方向の逆転は子午線超えの6時間前と6時間後、南天で撮るなら*2 地平線の下ということになりますから安心して撮影できます。

ということで、一方向赤緯ガイドをやるなら極軸は、高度は十分追い込んで方位は少し誤差を残す感じで調整するとよさそうです。最終的には撮り始めの位置と撮り終わりの位置に実際にガイド鏡を向けてドリフト方向を確認するのが確実でしょう。

個人的には極軸の高度の追い込みは厳しいのですが… というのは、マンションの南向きベランダからドリフト法で極軸を追い込む場合、高度調整はマンションの壁スレスレの東または西の星を使うのですが、星が揺れるんですよね… おそらく昼に温まった建物から陽炎が出てシンチレーションが発生しているのだと思います。

まあ、過去2回うまくいってるので、なんとかなりそうではあります。でも撮り終わりの位置のドリフト方向の確認はやっておいたほうがいいかな…

なお、先日のエントリで「ドリフト方向の反転は南天で撮る分には大丈夫そうだし」などと書いてしまいましたが、これは大嘘で、南天・北天は関係なく極軸のズレの方向によって反転する場所が決まります。お詫びして訂正します。

*1:子午線から西回りに測った角度で、360度が24時。

*2:北半球の場合

月と金星の接近 (2019/1/2)

元日の夜にばら星雲を撮影した後は撤収せずに朝まで待って月齢25.6の月と金星の接近を撮りました。

月と金星の接近 (2019/1/2 06:10)
月と金星の接近 (2019/1/2 06:10)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 2秒 / Lightroom CC で画像処理

月が出てすぐの4時前に一度撮影した時は意外と離れていて 8cm F6 (フルサイズ換算960mm)の画角ではバランス良くフレームに収まらなかったので、いまいちだなーと思ったのですが、Stellarium を見てこのあとぐんぐん近づくのだと知って連続撮影することにしました。

4:10から7:20までの様子を10分毎に撮ったものをアルバムにまとめました。薄明が明るくなってからは空が露出オーバーにならないように段階的に露出を落として撮影しています。

月と金星の接近 (2019/1/2)
月と金星の接近 (2019/1/2)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 2秒〜1/250秒 / Lightroom CC, Photoshop CC で画像処理

赤道儀は月追尾モードでしたが、結構追尾がズレていったので途中手動で調整しつつ、最終的には Photoshop 上で手動で位置合わせしました。

比較明合成で連続写真にもしてみたのですが…

月と金星の接近 (2019/1/2 04:10-07:20)
月と金星の接近 (2019/1/2 04:10-07:20)

これだと夜明け後の空で地球照が消されてしまってイマイチですね。星食の連続写真の時にも書きましたが、月基準で合成しているので金星が動いているように見えますが、実際には(ほぼ)月が動いて接近しています。

タイマー撮影の合間に肉眼でも見ていましたが、欠けた月のすぐそばで金星がキラキラと瞬いている様子がなにやら神秘的で心動かされるものがありました。

こればかりは写真では伝わらない、いや、動画で撮れば?とも思ったのですがカメラが一台しかないのでどうにもならず。

天体観測的には無意味、あるいはむしろ邪魔な星の瞬きですが、眼視で眺める分には美しいですよね。星空の美しさの半分くらいはそこにあるかも…

ばら星雲 (2019/1/1)

あけましておめでとうございます。元日の夜は天気がよかったので久しぶりにばら星雲を撮ってみました。

今回は 8cm F6 直焦。フォーサーズセンサーでは写野がギリギリなのですが少々はみ出すのも覚悟で撮影しました。幸いばら星雲中心部の散開星団 NGC2244 の中央の星がライブビューでも視認できたので、これを写野の中心に導入して撮ったところ大きくはみ出すこともなく撮れました。

ガイドは年末に試した一方向赤緯ガイドを今回もやってみました。今回は最初 PHD2 のマニュアルで推奨されていたガイドアルゴリズム「ローパス」または「ローパス2」のうち「ローパス2」を使ってみたのですが、ガイドグラフを見ると一方向ガイドのはずなのに反対方向にもガイドパルスが出ていて、若干蛇行運転気味になることも。

バックラッシュを避けるための一方向ガイドなのに逆回転もしているようでは困るので、結局途中から「レジストスイッチ」に戻しました。「レジストスイッチ」でも過修正でガイドが暴れ気味になることがあったのですが、積極性を40まで落とすと安定したようです。赤緯RMSエラーは±1.7秒前後に落ち着きました。

ちなみに今回はガイド星が南(マイナス方向)にドリフトしていた状態で赤緯ガイドモード「South」を選択するとプラス方向のガイドパルスが出て正常にガイドしてくれました。やっぱりマニュアルと逆のような… それとも PHD2 のバージョンが古い(2.6.1)せいでしょうか?

結果はこうなりました。

ばら星雲 (2019/1/1 21:54)
ばら星雲 (2019/1/1 21:54)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 15分 x 12コマ 総露出時間 3時間 / RStacker 0.6.4, DeepSkyStacker 4.1.1, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 984mm 相当にトリミング

2年前に撮った写真と比べると、なかなか迫力ある絵になりました。が、明るい星雲とはいえ冬の天の川の中にあるので無数に散らばる天の川の星ぼしに埋もれ気味です。やはり星マスクを使うべきなんでしょうか…

個人的には星マスクってどうも抵抗があります。光害カブリ等を消すのにフィルターをかけるのはノイズ除去のための処理なので抵抗はないのですが、星マスクって星をノイズ扱いするみたいでどうも… まあ HDR なんかと似たようなものかとも思うので、そのうちやってみようと思います。

ガイドの方は当面一方向赤緯ガイドで決まりな感じです。ドリフト方向の反転は南天で撮る分には大丈夫そうだし、*1 極軸をどの程度ずらすかというのは課題ですが、今のところドリフトアライメントで頑張っても追い込みきれなかった、ぐらいのズレでちょうど良さそうな感じです。

もっとも一方向赤緯ガイドだと風であおられて鏡筒が撓んだ分を修正してしまうと撓みが戻った時に過修正になってしまって長時間ズレっぱなしになってしまうのが困りものです。今回もそれっぽい動きがあったような… 部屋にいて風があったか確信はないのですが。

そんなわけで今年は DSO の撮影を頑張っていこうと思います。

*1: (2019/1/5追記) 南天なら大丈夫というのは大嘘でした。南天・北天は関係ありません。極軸のズレの方向で反転する場所(時角)が変わります。

2018年をふりかえって

2018年の天文活動は元日の最近の満月(スーパームーン)の撮影から始まりました。CMOSカメラによるモザイク撮影です。

月齢14.2 (2018/1/1 21:28-22:35)
月齢14.2 (2018/1/1 21:28-22:35)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), 笠井FMC3枚玉2.5倍ショートバロー (合成F15) / Kenko-Tokina スカイメモS / QHY5L-II-M / 露出 0.5ms x 200コマをスタック処理 x 19枚をモザイク合成 / AutoStakkert!2 2.6.8, Lightroom Classic CC, Photoshop CC で画像処理

2018年は何と言っても火星大接近が最大のイベントで、去年からその練習も兼ねてオートガイド用に使っているCMOSカメラで月面を撮影し始めたのですが、月全体を高解像度で撮るモザイク撮影に結構ハマりました。一枚撮りとは一味違ったシャープな写りが魅力です。

月といえば1月31日には皆既月食がありました。天気予報は微妙でしたがあきらめずに事前に準備を進めていたところ、当日の横浜は快晴。皆既終了の直前には雲が出てしまいましたが、なんとか地球の影の中を進む月の連続撮影に成功しました。

皆既月食 (2018/1/31 20:55-23:26)
皆既月食 (2018/1/31 20:55-23:26)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Kenko-Tokina スカイメモS 恒星時追尾 / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO400, RAW) / 露出 1/500s, 1/250s, 1s, 4s, 1s, 1/125s を比較明合成 / Lightroom CC Classic, Phothoshop CC で画像処理

皆既月食をこれだけ好条件で見たのは生まれて初めてで、とてもエキサイティングな夜になりました。

ここまではスカイメモSと8cm屈折(BLANCA-80EDT)で撮ってきましたが、本格的な惑星の撮影には力不足ということで、まず20cm級の鏡筒を載せる赤道儀ということでビクセン SX2 を購入しました。

鏡筒の方は20cmシュミカセが第一候補だったのですが、散々悩んだ挙句18cmドールカーカムの μ-180C を購入しました。

が、火星大接近を控えて注文が殺到中で届くのは2ヶ月先ということで、先に届いた新しいCMOSカメラ(ZWO ASI290MM/MC)とADCを使って8cm屈折で惑星撮影の練習を始めたところ、予想外によく写って驚きました。8cm屈折は元々玉ズレによるものと思われる色ズレが出ていたのですが、これをADCで補正するという荒業(?)で自分史上最高の木星像をGETしました。

木星 (2018/4/29 02:00)
木星 (2018/4/29 02:00)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), 笠井FMC3枚玉2.5倍ショートバロー, ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 2000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理


そうこうしているうちに6月16日に μ-180C が届き、21日にファーストライト。さすがに迫力のある木星像に興奮しました。

木星 (2018/6/21 19:54)
木星 (2018/6/21 19:54)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), William Optics 3枚玉1.6倍バロー, ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理

その後撮影システム*1 を何度か組み替えて7月上旬には火星撮影の準備が整いました。

その後は連日木星土星、火星の撮影です。LRGB撮影や WinJUPOS による de-rotation にも手を出しました。色々おぼつかないところもありますが本格的な惑星撮影の真似事程度はできるようになりました。

木星 (2018/7/8 20:05-20:07) (2)
木星 (2018/7/8 20:05-20:07) (2)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1500コマをスタック処理 x 2 を de-rotation スタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 10.3.9, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理

土星 (2018/7/29 20:42-20:44) (1500/3000 LRGB)
土星 (2018/7/29 20:42-20:44) (1500/3000 LRGB)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM, RGB: ZWO ASI290MC / L, RGB: 露出 1/30s x 1500/3000コマをスタック処理したものをLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 10.3.9, Lightroom Classic CC で画像処理

が、火星は5月末に発生したダストストームが拡大、全球を覆う「大黄雲」となりました。こうなると火星表面の模様がほとんど見えなくなります。3ヶ月は続くということで7月31日の最接近時にはただの赤い星にしか見えなくなる可能性が出てきました。7月15日撮影の火星は強調処理をかけてもこの程度。

火星 (2018/7/16 00:02)
火星 (2018/7/16 00:02)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / L, RGB: 露出 1/60s x 2000/5000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理

この時期は事ある毎に天文ニュースや火星を観測している人のブログを見てはダストストームの様子をチェックしていました。よその惑星のお天気をここまで気にしたのは生まれて初めてでした。

しかし手をこまねいているわけにもいかず、何か対策をということで、先人の知恵を頼ったところ赤外線(IR)でLを撮るといいらしいということで、シーイングの影響を抑制できると聞いてとりあえず買っていたIRフィルター(850nm)を火星撮影に投入。

IR撮影は暗くてゲインを上げないと写らない、リムの二重化が目立つ等の問題はあるものの効果はあるということで最接近の日の本番のLもこれで撮ることにしました。

そして迎えた7月31日は快晴。夜半から深夜まで火星の連続撮影に成功しました。

火星 (2018/8/1 01:06) (IR+RGB)
火星 (2018/8/1 01:06) (IR+RGB)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), L: IR 850nmパスフィルター 1.25", RGB: ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM, RGB: ZWO ASI290MC / L, RGB: 露出 1/60s x 2000/5000コマをスタック処理 x 4 を de-rotation したものをLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 10.3.9, Lightroom Classic CC で画像処理

火星 (2018/8/1 01:06) (RGB)
火星 (2018/8/1 01:06) (RGB)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 2000/5000コマをスタック処理 x 4 を de-rotation / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 10.3.9, Lightroom Classic CC で画像処理


今年はここでやや燃え尽きた感があるのですが、その後も8月末まで惑星を取り続けました。木星土星、火星以外では金星も撮りました。勇気がなくて内合近くの金星は撮れませんでしたが8月の半月よりは少し欠けた金星を撮りました。

金星 (2018/8/14 17:37)
金星 (2018/8/14 17:37)
橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/125s x 1000/3000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理

惑星シーズンが終わってからは月面撮影に挑戦したのですが、今に至るまで満足いく結果が出せずにいます。シーイングに恵まれないのか、惑星撮影用のシステムを流用したせいで拡大率が大きすぎなのか。結局6月に最初にテスト的に撮ったものが一番いいというありさま。

夜明けのアルプス谷が好きで何度か撮ったのですが、結局 μ-180C のファーストライトで撮ったこれがベストです。

アルプス谷 (2018/6/21 19:45)
アルプス谷 (2018/6/21 19:45)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), William Optics 3枚玉1.6倍バロー, ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理

あとはバローレンズを使わず直焦で撮った虹の入江の写真がお気に入りで、会社のデスクトップに貼っていたりします。

虹の入江 (2018/6/25 22:40)
虹の入江 (2018/6/25 22:40)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM / 露出 1/60s x 1000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, Lightroom Classic CC で画像処理

彗星はほとんどスルーだったのですが、年末にウィルタネン彗星だけは撮りました。

46P ウィルタネン彗星 (2018/12/13 23:25-23:58)
46P ウィルタネン彗星 (2018/12/13 23:25-23:58)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), 笠井 0.6倍レデューサー (合成F3.6) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 1分 x 32コマを彗星核基準でコンポジット 総露出時間 32分 / DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 800mm 相当にトリミング

彗星核基準コンポジットは初めてやりました。でもやっぱり星が流れない方がいいんですが、天文リフレクションズで紹介された手法はちょっと抵抗があってやってません。

さて、このブログはそのタイトルからもわかるように星雲・星団 = Deep Sky Object (DSO) の撮影がメインテーマだったのですが、今年は DSO 撮影では失敗も多くあまり成果が得られませんでした。SX2 を使いこなせてない感じです。

SX2 の購入後喜び勇んで色々撮ったのですが、トラブルで最後まで撮れなかったり、撮れたと思ったら春霞のカブリがひどくて使い物にならなかったりと、心が折れる場面が多かったです。

それでもいいとこ探しでふりかえってみると、まず1月に撮った M78。

M78 (2018/1/11 22:07)
M78 (2018/1/11 22:07)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), 笠井 ED屈折用0.6xレデューサー (合成F3.6), LPS-D1 48mm / Kenko-Tokina スカイメモS, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 6分 x 14コマ 総露出時間 1時間24分 / RStacker 0.6.4, DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 1033mm 相当にトリミング

これはスカイメモSで撮ったもの。(スカイメモSの)限界まで露出を伸ばして淡いところを出そうとするもいまいち残念な結果だったのですが、画像処理方法を変えて少しはマシになりました。


SX2 を導入してからはトラブル続きだったのですが、やっとまともに撮れたのがこの三裂星雲(M20)。

M20 (2018/4/22 01:42) (RS→LR→DSS→LR)
M20 (2018/4/22 01:42) (RS→LR→DSS→LR)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 12分 x 8コマ 総露出時間 1時間36分 / RStacker 0.6.4, DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 1920mm 相当にトリミング

しかしその後も赤緯ガイドが安定しないことが多く頭を抱えていたのですが、年の瀬に PHD2 のガイドアシスタントの神託に従い「一方向赤緯ガイド」を試したところ良好な結果が得られました。

馬頭星雲 (2018/12/30 23:25)
馬頭星雲 (2018/12/30 23:25)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 15分 x 5コマ 総露出時間 1時間15分 / RStacker 0.6.4, DeepSkyStacker 4.1.1, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 1045mm 相当にトリミング

ということで来年は DSO の方を頑張りたいところなのですが、重くて外部電源を必要とする SX2 を野外に持ち出す算段ができておらず、当分はベランダから撮れる南天の天体に限られそう。とりあえず今年は春霞が出る前に春の銀河を撮ってみたいです。

最後になりますが、撮影や観察以外の「天文活動」としてこんな記事も書きました。


映画『オデッセイ』を見ました」は火星でのサバイバルをテーマとした映画の、いわば聖地巡礼です。自分で撮った火星の写真から作中に登場した場所を特定するというもの。

イラクの月」はちょっとした探偵ものというか、2006年にイラクに派遣された自衛隊員の日記に記された月に関する奇妙な記述の謎を解く話です。

どちらも天文ファンならではのオタクな楽しみという感じで書いていて楽しかったです。

そんなわけで来年も天文ファンで良かったと思えるような年にしたいと思います。

*1:曖昧な言葉ですがバローレンズやリング、フリップミラー等の全体。英語では imaging train と言うようです。

一方向赤緯ガイドで馬頭星雲 (2018/12/30)

晦日イブの夜は先月のオートガイドの失敗のリベンジで馬頭星雲を撮りました。前回の失敗の原因がよくわからないままテスト的に撮影したのですが、最終的には「一方向赤緯ガイド」が功を奏しました。

月が出るまで撮れるだけ撮るということで、21:00過ぎに撮影を開始したのですが、案の定途中から赤緯ガイドが暴れ出します。±6〜8"の幅で蛇行運転。RMSエラーは±3"前後。一時的なものかもしれないと思いそのまま続けても改善せず、途中からガイドパラメータをいじったりしてみたのですが…

  • 積極性を上げる(85 → 95)
    • 大きくブレた時に修正しきれてないように見えたので。効果なし。
  • Max duration を上げる(2500 → 3500)
    • 修正量が足りてないように見えたので。効果なし。
  • ガイドカメラの露出を短くする(1.5s → 1.0s)
    • 修正が出遅れているのではないかと思って。途中まで良かったが最後大暴れ。
  • ガイド星を変える
    • 最初のガイド星がサチっていたので。でも赤経はガイドできてるし関係なかった。

ということでどれも効果なく合計8枚が無駄になりました。ここで初心に帰ってガイドアシスタントを起動。すると、概ね以下のような事を言われました。

赤緯軸を回して行って来てするグラフが出てきたのですが、行ったっきり全然戻らない状態。

ということは、PHD2 は赤緯方向のズレを戻そうとするもバックラッシュのせいで全然戻らないのでもっと強く修正をかけて、ギアが効いた時には戻し過ぎになる、ということを繰り返していたのでしょうか。

とにかく一方向赤緯ガイドをやってみようということで、ガイド星は北にドリフトするので赤緯ガイドモードは… North なの? South なの?

赤緯ガイドモードの南北がドリフトの方向を意味するのか修正する方向を意味するのかわからなかったので、とりあえず North に設定したところうまくいきました。後でマニュアルを見たら「星が北へとずれていくようなら、ガイドモードを south にします」と書いていたのですが…

とにかく一方向赤緯ガイドを開始してからは赤緯方向の揺れは±4"程度、RMSは±2"以内に収まり大きな蛇行はなくなりました。過修正気味の動きが気になって途中から積極性を50まで下げましたがあまり変わらない感じでした。馬頭星雲は既に子午線を超えていましたが、月の出までに5枚撮って撮影終了。

後でマニュアルを読むと赤緯ガイドアルゴリズムには「ローパス」または「ローパス2」を使うといいようです。過修正気味の動きは「レジストスイッチ」のままにしていたのが良くなかったのかも。

最後に一方向赤緯ガイドで撮った5枚をコンポジットしたのがこちら。

馬頭星雲 (2018/12/30 23:25)
馬頭星雲 (2018/12/30 23:25)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Kenko-Tokina Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 15分 x 5コマ 総露出時間 1時間15分 / RStacker 0.6.4, DeepSkyStacker 4.1.1, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 1045mm 相当にトリミング

やはり5枚では若干ノイジーなので最初の蛇行運転の分のうち比較的マシな3枚を足して8枚をコンポジットしたのがこちら。

馬頭星雲 (2018/12/30 21:09)
馬頭星雲 (2018/12/30 21:09)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Kenko-Tokina Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 15分 x 8コマ 総露出時間 2時間 / RStacker 0.6.4, DeepSkyStacker 4.1.1, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 1045mm 相当にトリミング

ガイドエラー、縮小画像だとほとんどわかりませんね… 等倍だと星が楕円になっているのがはっきりわかるのですが。

ということで、赤緯ガイドが暴れるのはどうやらバックラッシュのせいで、一方向赤緯ガイドが効果的ということがわかりました。

が、PHD2 のマニュアルを見ると極軸のズレを利用した一方向赤緯ガイドには以下のような注意点があるとのこと。

  • 極軸のズレが大きすぎると極の近くを撮影したときに視野が回転してしまう
  • 赤緯の修正方向が逆転する箇所があり、それは極軸のズレの方向によって異なる
  • ディザリングは「赤経(RA)のみ」で

ということでハマりどころもある感じ。当面これでしのぐとしても、いずれ赤道儀のギアを調整したほうがいいのか…

あとディザリングは赤経のみだといまいち縮緬ノイズが取り切れない感じ。マニュアルディザならディザ実行後にオートガイドOFF/ONすれば赤経のみじゃなくてもいいのかな?