Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

M83 再処理(星マスク初挑戦)

先日撮った M83 ですが、強調処理が強すぎてザラザラなのがやっぱり気になって再処理してみました。

前回と同じ DeepSkyStacker の出力を元にして、前回は Lightroom (LR)だけで処理したのを今回は8割くらいの処理を Photoshop CC で行って、最終調整のみ LR を使ってみました。これに伴い今までやったことのない星マスクを使った処理もやってみました。

M83 (2019/3/9 01:26)
M83 (2019/3/9 01:26)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 12分 x 8コマ 総露出時間 1時間36分 / DeepSkyStacker 4.1.1, Photoshop CC, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 1915mm 相当にトリミング

前回より強調処理は抑えて、ノイズ除去は強めにかけてザラザラ感を低減してみました。ちょっと地味だし、周辺の円盤状に広がった淡い領域も見えにくくなっていますが、iPad の画面サイズくらいでもまあまあ見れる仕上がりになったと思います。

淡い部分をこれ以上あぶり出すと背景のノイズが浮いてくるし、それをギリギリのところで抑えようとすると星雲がザラザラになってしまいます。

今まで星マスクはいらないと思っていたのですが、やってみると違うものですね… マスクはレベル補正 + ガウスぼかしで作成していますが、明るい二つの星は周囲に広がった光が大きかったので手描きでマスクを広げています。

星マスクは天体写真の嘘の部分を増やすというか、強調処理という嘘があることを見えなくする処理なので抵抗があったのですが、観賞用の写真としては、やはりやったほうがいいんだろうなぁ、という気がしてきました。

Photoshop はまだ不慣れで、Photoshop で処理と言いつつカラーバランスとかノイズ除去とかは Camera RAW のフィルターを使っています。慣れた Lightroom と同じ感覚で調整できるのはいいのですが、調整値が残らなくて後から同じ調整を再現できないのが不満です。何かやり方あるのかな?

月齢4.7の月面モザイク (2019/3/11)

昨日は早めに帰宅して月齢4.7の月をモザイク撮影しました。μ-180C での月全体のモザイク撮影は初めてです。

月齢4.7 (2019/3/11 18:20-18:40)
月齢4.7 (2019/3/11 18:20-18:40)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/125s x 1000/3000コマをスタック処理 x 14枚をモザイク合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Image Composite Editor 2.0.3.0, Photoshop CC, Lightroom Classic CC で画像処理

14枚モザイクで長辺7263ピクセルの巨大な画像になりましたが、正直等倍ではかなりボケてます。シーイングが悪くて川底みたいな感じだったのですが、撮影終盤で少し落ち着いてきたので鏡筒の温度順応が不十分だったせいでもあるのかもしれません。

長辺2048pxぐらいまでの縮小画像で見る分には悪くないのですが、それだったら8cm屈折でもよかったかも… 上の画像から等倍切り出しした画像も貼っておきます。

ヘラクレス、アトラス (2019/3/11 18:37)
ヘラクレス、アトラス (2019/3/11 18:37)

オニール橋付近 (2019/3/11 18:33)
オニール橋付近 (2019/3/11 18:33)

メシエ、メシエA (2019/3/11 18:31)
メシエ、メシエA (2019/3/11 18:31)

やっぱり等倍で見ると残念な気持ちに… 口径18cmの実力の半分くらいしか出てない感じです。

今回は月の表面の色味も表現しようとカラーカメラで撮りましたが、低い空の月は全体に黄色みが強くて表面の色味とかわからないですね…

ちなみに動画記録時に間違えて16bit SER形式で記録してしまったで1カット12GBという巨大なファイルが大量にできてしまって往生しました。細い月でカット数が少なく済んだのが幸いですが、半月ならこの倍近くになるので8bit AVIで撮らないとヤバいですね。

1年ぶりの M83 (2019/3/8)

3月8日の深夜はうみへび座のフェイスオン銀河 M83 を撮りました。昨年は思わずこれはひどいと言ってしまうくらいひどい写りだったのでリベンジです。本当は2月中に撮りたかったのですが天候に恵まれず3月に入ってしまいました。

M83は7等台の明るい銀河ですが横浜からは南中高度が25度以下と低く、光害の影響を受けやすいのがネックです。一昨年初めて撮った時は2月の始めだったのでよく写ったのですが、昨年は3月下旬に撮ったところ春霞で光害カブリが増大してひどい写りになりました。

昨日は朝富士山がよく見えたので空の透明度は悪くないと思って期待しつつ撮りましたが、結果は…

M83 (2019/3/9 01:26)
M83 (2019/3/9 01:26)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 12分 x 8コマ 総露出時間 1時間36分 / DeepSkyStacker 4.1.1, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 1915mm 相当にトリミング

まあまあ、ですね。等倍ではザラザラなのですが縮小画像なら見れるといったところでしょうか。レデューサー使用で撮った一昨年の写真と比べると、渦巻き構造の詳細が見えてきて、腕に沿って走る暗黒帯も見えてきました。

F6, ISO200で12分露出ですが、本当はもう少し露出をかけたかったところです。でも背景の輝度が75%もあったのでこれ以上は無理と判断しました。南中時にはもっとマシでしたが露出を伸ばすと結局最初と最後に高度の低い(背景の明るい)カットが入ってしまうんですよね。高度の低い対象を長時間露出で撮るのは難しいです。Fの明るい鏡筒が欲しい…

この日も本当は12枚コンポジットの予定でしたが、最後の方は背景が明るすぎるのでボツにしました。最初の方はトラブルで撮れなかったりボツにしたりだったのですが、ちゃんと撮っていてもやはりボツだったと思います。

トラブルというのは… 今回はちょっと色々やらかしてしまいました。

22:30頃からドリフトアライメントを始めようとしたのですが、オートガイダーのキャリブレーションができません。キャリブレーション中にガイド星がほとんど動かないのです。この時点ではガイドカメラはいつもの QHY5L-II-M を使っていました。

ここで先日ガイドカメラのファームウェアをアップデートしたのことを思い出し、てっきりそのせいだと思い込んでしまいました。ドライバも PHD2 も3年前に入れたままの古いものなので、新しいファームとの相性問題が発生したと思ったのです。

まず、カメラドライバを最新にしましたが、状況は変わらず。次に PHD2 を 2.6.1 から最新の 2.6.5 にアップデートしましたが、やはり変わらず。これはカメラが逝かれてしまったのかも… と思い惑星撮影用の ASI290MM をガイドカメラにすることを思いつきます。

しかしCマウントのガイド鏡に取り付けられるのか?と思ったのですが、ASI290MM を買った時に付いてきたTマウントで取り付けるレンズを見るとレンズの先がねじ込み式になっていて、このネジがCマウントでした。レンズを外したところにガイド鏡をねじ込んだところ、無事接続できました。

もっとも QHY5L-II-MM とはフランジバックに差があり、ガイド鏡のピントが大きくずれてしまいました。miniGuideScope は対物レンズのネジを回してピントを調節するのですが、レンズが外れるんじゃないかと思うくらいの量を繰り出してやっとピントが合いました。

PHD2 から接続すると無事カメラとマウントに接続。最初は映像が真っ白でしたが設定でゲインを落とすと星が写るようになりました。ここでキャリブレーションを開始したのですが… 動きません。ガイド星が。

ここに至ってやっと気付きを得ました。これはケーブルがマズいのではないかと。断線かなと。しかしオートガイダー用のケーブルの予備は買ってなかったよなー、電話の線の6芯のやつなら使えるんだっけ、でも持ってないなー、などと思ったのですが、よく考えたら ASI290MM/MC の付属品のケーブルがありました。

というわけで、ケーブルを交換。カメラ側の線を抜いて新しいケーブルを挿し、SB-10 側の線を… ?…!?

オートガイダーケーブルをLANポートに挿してはいけません。
※ 再現映像

…なるほどね。

はい。SB-10 コントローラーのLANの方のモジュラージャックにオートガイダーケーブルを挿していたのです。A.G.の方ではなく。挿した時プラグのツメがカチッて鳴ったからヨシ!*1 って思ってたんですよね。LANの方はサイズ違うからゆるゆるになると思うじゃないですか。でも実際は意外とピッタリと挿さるんですね。

今までやったこと全部無駄!と崩れ落ちそうになりましたが、気を取り直してこのまま ASI290MM でガイドすることにしました。QHY5L-II-M とケーブルが無事であることを確かめたかったのですが、色々元に戻そうとすると時間がありません。

しかし PHD2 も「マウントに接続」とかドヤ顔で言ってたけど接続してへんやん!などと八つ当たりしつつキャリブレーションを無事完了、ドリフトアライメントに入ります。ガイドグラフの傾きは上向き(ガイド星が北にドリフト)だな、と極軸を東に調整したのですが、再びドリフトさせるとガイドグラフの傾きがもっと上を向いてしまいました。

原因はわからないのですが、ガイドグラフの北(赤緯の+側)と南(赤緯の−側)が入れ替わっているっぽいのです。ガイドカメラを変えたせいでしょうか?それとも PHD2 のバージョンを上げたせい?深く追求している時間がないのでとにかくいつもとは逆方向に調整することにしました。

これは後で確認して場合によっては「ドリフト法による極軸調整」の方も修正しないとマズいですね。うちも逆だったよ、という方はコメント欄にガイドカメラの機種とPHD2のバージョンを添えてコメントしていただけると助かります。

そんなわけで、なんとか極軸を合わせた後、スピカを導入しバーティノフマスクでピントを合わせ、M83 を自動導入し、60秒で試し撮りしながら構図を調整して、12分露出の試し撮り。結果をPCで見て光害カブリがひどいなーと思いつつ本番1枚目を撮影して、2枚目の途中で巻きつけフードを付け忘れているのに気が付きました。

バーティノフマスクを固定できない段ボール製の自作巻きつけフードなのでピント合わせをしてから取り付けるのですが、慌てててすっかり忘れていました。高度が低く地上の明かりからの迷光が怖いので2枚目の撮影を中断してフードを取り付けた後1枚目からやり直しました。時刻は1:25。結構ギリギリです。

この後はトラブルもなくスムースに撮影できました。今回はドリフト方向の混乱もあって一方向赤緯ガイドはやめて、普通に二軸ガイドでガイドしましたが、蛇行運転もなく順調にガイドできました。

RMSエラーは赤経赤緯共に1.1秒前後。いつも2秒以内にするのに苦労してることを思うと嘘のようです。ガイドカメラのセンサー解像度が上がったせいもあるのでしょうか。でもバックラッシュの影響は?なんだかよくわかりません。

あと PHD2 の画面を見て気づいたのですが、ターゲット表示の上下と履歴(ガイドグラフ)の上下が逆になってますね。ガイドグラフがマイナス(下)方向に振れるとターゲットのプラス(上)方向に点が打たれます。今までは同じ方向だったのですが… ガイドに影響ないとはいえ気持ち悪いです。なんなんでしょう。

というわけで、M83 はなんとか撮れました。画質に不満はありますが、今年はこれが限界ですかね。また来年頑張ってみたいです。

シリウスBの撮影にチャレンジ (2019/3/8)

3月8日の日没後、シリウスの伴星のシリウスBの撮影にチャレンジしました。離角が約10秒ということで直焦では厳しいと思い惑星撮影システムC(f=7265mm)での撮影です。カメラはシリウスの色を出したいと思いカラーカメラの ZWO ASI290MC を使いました。

結果は…

シリウス (2019/3/8 19:48)
シリウス (2019/3/8 19:48)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 2s x 30/30コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, Lightroom Classic CC で画像処理

いつものように北が上です。うーん… Sky & Telescope の記事 によるとシリウスのやや左上、10秒角ほど離れたところにシリウスBがあるはずなのですが、副鏡スパイダー由来の光条がその方向に伸びていて重なってしまっているようです。

よく見ると左上に伸びる光条の根本にコブのようなものが見えるのですが、これがシリウスBでしょうか?こんな感じ?

シリウスB? (2019/3/9 19:48)
シリウスB? (2019/3/9 19:48)

カメラの水平*1 が厳密にはとれてないので S&T の記事の星図とはちょっとズレていますが、位置的にはだいたい合っている気がします。

ぼんやりした写り方ですが、昨年フォボスダイモスを撮った時もぼんやりした写りだったのでこんなものでしょうか?

でもこの時以上に微妙ですね。ちょっとこれでは「撮れた」と自信を持って言えない感じです…

*1:というか、フレームの水平を天の赤道に並行にすること。

QHY5L-II-M が macOS で使えるようになっていた

以前 Mac では認識してくれない言っていた QHY5L-II-M の件。

これは2016年10月の話ですが、その後も時々ググって Mac 対応の状況を調べていました。昨夜久しぶりにググってみたところ、QHYCCD の BBS にファームウェアを更新すれば使えるらしいとの情報が…

You can input "system_profiler SPUSBDataType" on terminal,and check if camera's VID/PID is 1618/0921,if nor,but show 1618/0920,it is because didn't download firmware for camera.You can download EZCAP_Qt for Mac to download firmware,you can download EZCAP_Qt from our official website.About download firmware method,you can open EZCAP_Qt,and connect camera,after success,close software.
QHY5L-II with PHD2 on Mac OSX

これは初耳だったので試してみようとしたのですが…

まず、macOS Mojave にアップグレード済みの MacBook Air (11-inch, Mid 2012) に QHY5L-II-M を接続して Terminal から system_profiler SPUSBDataType を実行ししてみました。

$ system_profiler SPUSBDataType
USB:

    ...(中略)...

    USB 3.0 Bus:

      Host Controller Driver: AppleUSBXHCIPPT
      PCI Device ID: 0x1e31 
      PCI Revision ID: 0x0004 
      PCI Vendor ID: 0x8086 

        Vendor-Specific Device:

          Product ID: 0x0920
          Vendor ID: 0x1618
          Version: 0.00
          Speed: Up to 480 Mb/sec
          Location ID: 0x14100000 / 2
          Current Available (mA): 500
          Extra Operating Current (mA): 0

Vender ID / Product ID が 0x1618 / 0x0920 で、どうも古いファームのようです。

続いて 公式のダウンロードページから Mac 版の EZCAP-QT をダウンロードしたのですが、これを実行する前に一度最新版の PHD2 (v2.6.5)でカメラを認識しないことを確かめておこうと、PHD2 を再インストールして実行してみたのですが…

なんか認識してるっぽいんですけど!?

https://rna.sakura.ne.jp/share/PHD2-macOS-20190305.jpg

カメラに QHY Camera を選択したところ、カメラからの映像が入力されてきました。暗い室内を写しているのでピンぼけですが、カメラを動かすと像も動くので間違いなくカメラからの映像です。

上のスクリーンショットは何度か USB を抜き挿しした後に撮ったもので、挿し直した後 system_profiler を再実行た時の出力が Terminal の画面に写っていますが、よく見ると Product ID が 0x0921 に…

BBS の書き込みでは EZCAP-QT を起動終了するだけでカメラのファームが更新されるようなことが書いてありましたが、PHD2 でもカメラを接続するだけでファームが更新されるのでしょうか?

PHD2 の Changelog を見ると v2.6.4 (2017/9/25)で QHY のカメラサポートが更新されています。github の issue は2017年4月に fixed とあるのでやはりこの頃から対応されていたようですね。

というわけで、ずいぶん前からサポートされていたのに気付いていなかっただけみたいですが、日本語の情報が見当たらないのでエントリとしてアップしておきます。

近いうちに実際に Mac でオートガイドを試してみようと思います。

アニメ『スター☆トゥインクルプリキュア』に登場する望遠鏡について

先月から始まったプリキュア新シリーズ『スター☆トゥインクルプリキュア』は宇宙をテーマとしたシリーズで、主人公は「星座と宇宙が大好きな中学二年生」*1 ということで一部の天文&アニメファンからは放送前から注目されていた作品です。

現在第5話まで放送されメインキャラクターが一通り揃ったところですが、天体観測のシーンは第1話冒頭だけ。でも主人公と親しい天文台のおじいさんも登場しているので今後に期待したいところ。また、望遠鏡をイメージしたアイテムも登場予定で、本編ではまだなのですがエンディングには既に登場しています。

ということで主人公の使用する望遠鏡と登場予定のアイテム「リズムスコープ」について見ていきます。

星奈ひかるの望遠鏡

本作の主人公・星奈ひかる(キュアスター)は「星座と宇宙が大好きな中学二年生」という設定です。ということはいわゆる天文ファン的なキャラクターなのか?と思っていたのですが、実は望遠鏡で見た星々の並びからオリジナルの星座を作るという一風変わった趣味の持ち主でした。

そもそもひかるの宇宙への興味はオカルト趣味と渾然一体となっているようで、部屋にはグレイの人形や、幼稚園の頃に描いたと思われる宇宙人の絵、UFOマップといった怪しげなアイテムがあふれ、オリジナルの星座も「グレイ座」「UFO座」「ビッグフット座」… あと飼い犬の名前がイエティです。

そんなひかるの愛用の望遠鏡がこれです(第1話より)。

https://rna.sakura.ne.jp/share/STPrecure/stprecure-20190203-01.jpg
https://rna.sakura.ne.jp/share/STPrecure/stprecure-20190203-02.jpg
https://rna.sakura.ne.jp/share/STPrecure/stprecure-20190203-03.jpg

どうやらスコープテックのラプトルシリーズのような初心者向けの望遠鏡のようです。正直これには安心しました。というのは、アニメや漫画で望遠鏡が登場する際に赤道儀式の望遠鏡を出てきて奇妙な描かれ方をしていることがよくあるからです。

たとえば同じプリキュアシリーズ『ふたりはプリキュア Splash Star』のこんな描写が典型的です(第34話より)。

https://rna.sakura.ne.jp/share/STPrecure/precuress-34-01.jpg

そう、みんなやたらと北極星を見たがるんですよ!というか、もそも極軸を合わせて軸を回転させて使うという発想がないらしく、この回でもシーン毎に極軸の向きが違っています。どうもこの種の望遠鏡は見たい方向に極軸を向けて見るものと思って描いているようです。

望遠鏡のカタログや販売店に展示されている望遠鏡が決まってこの姿勢になっているので、それをよくわからずにそのまま描いてしまったのでしょうか?

あるいは軸を回した姿勢をとった望遠鏡を見慣れず違和感を感じてしまう一般視聴者に配慮して記号的な表現として敢えてこのように描いているのかもしれません。そもそも赤道儀は機構が複雑で天文をやってない普通のアニメーターが描くのは難しいから、という理由もありそうです。

しかしそれなら経緯台式の望遠鏡を出せばいいのに、と常々思っていたわけですが、*2 本作ではちゃんと経緯台を出してくれました。

もっとも敢えて初心者向けの安価な望遠鏡を出してくるとは予想していませんでした。主人公の愛機ということでテレビを見た子供が同じものを欲しがった際に保護者の負担が軽いようにという配慮だったりするのでしょうか…

望遠鏡型アイテム「リズムスコープ」

宇宙がテーマのシリーズということで本作では望遠鏡型のアイテムが登場予定です。その名も「リズムスコープ」。屈折望遠鏡を模したアイテムで、本編ではまだですが既にオープニングやエンディングでは使用され、おもちゃも発売済みです。

https://rna.sakura.ne.jp/share/STPrecure/stprecure-20190203-04.jpg

オープニングやエンディングダンスでリズムスコープを覗くポーズがあったのでもしや!?と思ったのですが、おもちゃの方には望遠鏡としての機能はないようです。残念。子どもたちが天文の道に入るきっかけになればと思ったのですが…

もっとも、番組の対象年齢が4〜6歳ということを考えると望遠鏡は早すぎる、というか太陽を見ると危険なので、子供に持たせっぱなしにするおもちゃとしてはあり得ないのかもしれません。

おまけ: エンディングに出てくる星座について

本作のエンディング、宇宙がテーマということで背景に星座が出てくるのですが、何故か全部裏返しなんですよね… たとえばこのカット、

https://rna.sakura.ne.jp/share/STPrecure/stprecure-20190203-05.jpg

さそり座としし座が明らかに裏返しですね。これはどういうことなんでしょう?ひょっとしてひかるが望遠鏡で天頂ミラーを使って裏像で星空を眺めているので、それに合わせた、とか…!? まあ、単に星座のテクスチャを球の表面に貼ってカメラを球の中に入れたらこうなった、というのが一番ありそうですが…

そういえばひかるがノートに描いているオリジナル星座も裏像なんですかね?気になります。

星座と言えば設定では地球は「宇宙の端っこ、辺境の中の辺境」*3 という設定なのに、「地球からずっと遠く離れた宇宙」から宇宙を見守る「12星座のプリンセス」がいるというのも謎です。

「おうし座のプリンセス」とか言ってもそっちからは星座の形全然違うはずですよね。そもそもそこは銀河系内なのか?という疑問も。まあそのへんは『宇宙戦隊キュウレンジャー』でも宇宙の地域を「星座系」で区分してましたし、子供向けのフィクションとしてはお約束なのでしょうね。

それはともかく、星座が裏返しなのは教育上も問題ありそうなのでなんとかして欲しいところかな、と思います。

*1:スター☆トゥインクルプリキュア|ストーリー|キラやば~☆宇宙に輝くキュアスター誕生!|朝日放送テレビ より。

*2:もっとも Splash Star については、美翔家の父は天文学者、長男は宇宙飛行士を目指す高校生という設定なので、それに見合った本格的な望遠鏡を出したい、という事情もあったのかもしれません。

*3:第1話のプルンスのセリフより。

「5万枚の写真をつなぎ合わせた月の写真」の話

昨夜ネットメディアの GIGAZINE にこんな記事が公開されました。

約5万枚の写真をつなぎあわせて超高解像度の月の写真を作成した猛者現る - GIGAZINE

ちょっと「盛ってる」タイトルですね。天文やってる人ならピンと来る話ですが、スタックとモザイク撮影で合計5万フレーム撮って合成したよ、という話です。天体写真としては標準的な手法で、同様の写真は多くの人が撮っています。しかし「5万枚」というのが一般向けにはフックになるんですねえ。

記事中で撮影者の ajamesmccarthy さん本人からの反応なかったとありますが、今見ると本人による解説が投稿されています。

I took nearly 50,000 images of the night sky to make an 81 Megapixel image of Tuesday's moon. Uncompressed image linked in the comments. [OC] : space

他の投稿の内容と合わせてまとめると、

  • 月面(の明るい部分)はCMOSカメラ(ZWO ASI 224MC)で撮影
    • AutoStakkert! で2000フレーム中50%をスタックした写真を25枚モザイク
  • 地球照と恒星はデジカメ(SONY α7 II)で撮影
  • 鏡筒は Orion XT10 (10インチ(25cm)の反射)、赤道儀は SkyWatcher EQ6-R Pro

とのこと。地球照と星空をどうやって撮ったのか不思議だったのですが、デジカメで別撮りして合成したんですね。

5万枚というのは撮影した全フレームで、実際に使用したのはその半分。GIGAZINE の記事では解説者の brent1123 さんの撮影した同様の写真を10万枚と書いていますが、こちらは全フレーム数で言うと21万枚、使用したフレームはその20%で4万2千枚です。*1

一般向けの解説

なぜ5万枚も撮るのかについての説明は概ね GIGAZINE の記事にある通りですが、曖昧な部分もあるので自分で解説してみます。

まず、1カットで2000枚撮影する理由について。

月面を望遠鏡で大きく拡大して見ると、像がぐにゃぐにゃと歪みながら揺らいでいるのがわかります。これは陽炎と同じ現象で、大気の密度が均一でなく光が場所によって異なる方向に屈折するため像が歪むのです。

これをそのまま写真に撮ると、シャッタースピードが遅いとブレてしまいますし、速いシャッタースピードで撮っても像は歪んで写ります。そこで大気の揺らぎで歪む像をたくさん重ね合わせて(スタッキング)、像を平均化します。大気による像の歪みは概ねランダムなので、大量の写真があれば歪みを平均することで本来の像の形を復元することができます。これが2000枚撮る理由の一つです。

スタックするもう一つの理由は、高速シャッターで撮影するためにセンサーの感度を上げると発生するノイズを消すためです。こういったノイズはランダムに発生するため、スタッキングで平均化することで軽減することができます。

スタックした直後の画像は細部がぼやけたピンぼけ写真のような画像になりますが、これは画像処理(wavelet変換等)で復元することでシャープな画像が得られます。

2000フレーム中50%とあるのは、画質を上げるために像の歪みが少ない画像を選別してスタックしているからです。こういった選別は今時はソフトが自動でやってくれます。

スタッキングにはコンピュータによる高度な画像処理が必要ですが、2000年代に入ってから Registax や AutoStakkert! といったPCで利用できるフリーソフトが公開されて、アマチュアでも気軽に処理できるようになりました。

なお、実際の撮影では2000枚を非圧縮動画の形で撮影します。動画ファイルは1カットにつき数GB、月面全体を撮ると100GBとかになります。いくら高画質になると言っても一般人の感覚では割に合わないレベルですよね…

次に、月面全体を25カットに分割して撮影してつなぎ合わせた(いわゆるモザイク撮影)理由について。

これは単に撮影に使用したCMOSカメラのセンサーが小さくて月全体が一度に撮れないから、という理由ですが、大きなセンサーのカメラを使わないのにも理由があります。

まず、小さなセンサーなら高解像度(画素数が多いという意味ではなくて画素が小さいという意味)のセンサーが安価に入手できるからというのが理由の一つ。安価なCMOSカメラでモザイク撮影することで、高価な超高解像度の大型センサーで撮るのと同等の写真が撮れます。

ajamesmccarthy さんの使ったCMOSカメラ ASI224MC は約130万画素ですが、画素のサイズは3.75μmと、フルサイズセンサーなら6000万画素相当になるものです。ちなみに最近惑星用カメラとして一番売れ筋の ASI290MC なら画素サイズは2.9μmで、フルサイズなら1億画素相当です。

もう一つの理由は、望遠鏡の画質のいい部分だけ使うため。一般的な天体望遠鏡はカメラレンズなどと比べると中心像は先鋭ですが周辺像はあまり良くありません。そこで小さなセンサーで画質の良い中心部分だけを撮ってモザイク撮影すると全体的に高画質な写真に仕上げることができるわけです。

ajamesmccarthy さんの使った望遠鏡は口径 25cm のニュートン反射望遠鏡です。ニュートン式は中心像は無収差ですが、周辺像はコマ収差で像がボケます。

ちなみに…

実は僕も同クラスのCMOSカメラで月面のモザイク撮影をしたことがあります。

月齢14.2 (2018/1/1 21:28-22:35)
月齢14.2 (2018/1/1 21:28-22:35)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), 笠井FMC3枚玉2.5倍ショートバロー (合成F15) / Kenko-Tokina スカイメモS / QHY5L-II-M / 露出 0.5ms x 200コマをスタック処理 x 19枚をモザイク合成 / AutoStakkert!2 2.6.8, Lightroom Classic CC, Photoshop CC で画像処理

これは昨年のスーパームーンです。ajamesmccarthy さんの望遠鏡よりはずっと小さい 8cm 屈折での撮影ですが、1カット2000フレームを19枚モザイクなので3万8000枚ですね。フル解像度の写真はクリックした先(flickr)でダウンロードできます。壁紙等の私的利用はご自由にどうぞ。

ちなみに去年の夏に買った μ-180C (18cm 反射)ではまだ月面モザイクは撮っていません。気流が安定する春になったら是非撮ってみたいと思います。

*1:写真の説明に50%とあるので勘違いしたのかもしれませんが、quality が50%以上のフレームが枚数にして全体の20%ということです。