Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

Linked Wavelts で月と太陽を再処理

前回の記事に天リフから結構アクセスが来ているようです。

うれしいです。調子に乗って月面写真と太陽黒点の写真も再処理してみました。

まず月面。5月24日未明に惑星用の機材構成で撮った強拡大の写真です。

アルキメデス、アリスティルス、オートリクス (2019/5/24 03:17) (再処理)
アルキメデス、アリスティルス、オートリクス (2019/5/24 03:17) (再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1500/2000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

カラーカメラで撮った写真ですが、色味がほとんどなかったのでグレースケール化した疑似L画像だけで処理しました。単純にグレースケール化するとコントラストが強いのか、明るいクレーターが強調処理で白飛びしやすいのでLabカラーのLチャンネルをグレースケール化して保存したものをL画像にして処理しました。

Before と比べるとディテールがクッキリ浮かび上がってはいますが、ピンぼけ感は残っています。というか Before は霞がかかったようなボケ方ですが After はピントが合ってない感じのボケ方です。月面なのでもっとキリッとエッジの立った硬質な描写が欲しいのですが…

もう一枚。

プラトー (2019/5/24 03:06-03:08) (再処理)
プラトー (2019/5/24 03:06-03:08) (再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1500/2000コマをスタック処理 x 4枚をモザイク合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Image Composite Editor 2.0.3.0, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

4枚モザイクのプラトーです。モザイクした分縮小表示になっているのでピンぼけ感は和らいではいるのですがやはりもっと硬い感じになって欲しい…

Before と比べるとプラトー内部の小クレーターが、斑点に近い写りではなくちゃんとクレーターらしい形に解像するようになりました。

しかし月面写真の強調処理は難しいですね。あまり強く処理すると白飛びするし、影の境界線の周りが明るくなって不自然な描写になってしまいます。

最後は5月8日に撮影した太陽黒点の写真(可視光)です。

【注意!】 太陽の観察・撮影には専用の機材が必要です。専用の機材があっても些細なミスや不注意が失明や火災などの重大な事故につながる危険性があります。未経験の方は専門家の指導の元で観察・撮影してください。

2740, 2741黒点群 (2019/5/8 10:31) (再処理)
2740, 2741黒点群 (2019/5/8 10:31) (再処理)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), 笠井FMC3枚玉2.5倍ショートバロー (合成F??), Kenko PRO ND-100000 77mm, ZWO IR/UVカットフィルター 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 0.7ms x 1000/5000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

セルフLRGB合成で仕上げています。粒状班のパターンの空間周波数が高いので Initial Layer は 1 に設定しました。粒状班のつぶつぶの一つ一つが粒として見えるようになりましたし、黒点もクッキリして悪くないと思います。

撮影時のゲインが低くノイズが少ないせいか、いくらでも強調できる感じだったのですが、ついついやりすぎて粒状班が砂のようにザラザラになってしまって、一度やり直しています。

ということで RegiStax 6 の Use Linked Wavelet Layers (Linked Wavelts)の威力を見てきたのですが、惑星、月、太陽、どれも効果はあるようです。月面は期待ほどではなかったのですが、これは何かもうひと工夫必要なのか、単に元画像のクォリティが低いのか…

Linked wavelets 流行るといいなー。というかみんな既に使っていたりするのかな?日本語でも英語でも詳しい解説記事が見当たらなくて、使ってみたという報告も日本語だとこちらのブログぐらいしか見つけられませんでした。

英語ではちらほら話題になっていますが、reddit で "You're right that linked wavelets can be confusing, mysterious and hard to use effectively." とか言われてたりして… 確かに Linked Wavelets は通常の wavelet と違って直観的でなく、なんというかじゃじゃ馬みたいなところがあります。常用はせずに3倍 Drizzle できるクォリティで撮れた時だけ使っているという人もいました。

Linked Wavelts が何をやっているのかがわかれば少しは扱いやすくなると思うので、動作原理を(できれば噛み砕いて)解説した記事を読みたいんですが、どこかにないですかね。雑誌記事とか論文の形でならあるのかなぁ…

惑星写真の画像処理 Before-After

6月13日撮影の木星の写真は Linked Wavelets の導入等、画像処理方法を変えたことで見違えるように解像感がアップしました。



これに気を良くして昨年のベストショットを新しい方法で再処理して、before → after の順に並べたものをアルバムにまとめてみました。

惑星写真の画像処理
惑星写真の画像処理
画像処理方法の変更に伴う before-after

以下 After の画像を順番に見ていきます。

まずは火星。

火星 (2018/8/1 01:06) (IR+RGB) (2019/6/30 再処理)
火星 (2018/8/1 01:06) (IR+RGB) (2019/6/30 再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), L: IR 850nmパスフィルター 1.25", RGB: ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM, RGB: ZWO ASI290MC / L, RGB: 露出 1/60s x 2000/5000コマをスタック処理 x 4 を de-rotation したものをLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 10.3.9, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

7月31日夜の最接近の火星です。ダストストームで地形がほとんど見えない状態でした。L 画像を赤外線(IR)で撮影することで地形を浮かび上がらせていますが、元々あまりクッキリとは写っていません。

L、RGB共に wavelet 処理をやり直しました。IR で撮った L 画像はノイジーなのでやや控えめな強調です。火星は縁の二重化が目立つのですが de-ringing で目立たなくしています。LRGB 合成は Photoshop で手動合成です。元々模様が淡くあまりはっきりしませんが、若干ディテールの描写が改善しています。

火星 (2018/8/25 23:09)  (2019/6/30 再処理)
火星 (2018/8/25 23:09) (2019/6/30 再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 2000/5000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

こちらはダストストームが晴れてきて複雑な模様が見えてきた頃の火星です。カラーカメラのみでの撮影なのでセルフLRGB合成で処理しています。

これも de-ringing に苦労しましたがあまりうまくいかず二重化が残ってしまいました。強調処理のせいで南極冠の境目が二重になっているのもクッキリしてきましたが、これは実際の模様ではないと思います。このあたりは画像処理のせいとも光学的な現象とも言われていますが、よくわかりません… とはいえ、中央の真珠の海や左の方のオーロラ湾のディテールがだいぶはっきりしてきて悪くはないかなと。

次は土星

土星 (2018/7/29 20:42-20:44) (1500/3000 LRGB)  (2019/6/30 再処理)
土星 (2018/7/29 20:42-20:44) (1500/3000 LRGB) (2019/6/30 再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM, RGB: ZWO ASI290MC / L, RGB: 露出 1/30s x 1500/3000コマをスタック処理したものをLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 10.3.9, Lightroom Classic CC で画像処理

昨年の土星のベストショットです。再処理で土星本体の縞模様や北極付近に写っている白斑が少しはっきりしてきました。

こちらは L と RGB 1本ずつを de-rotation して合成するので L, RGB 別々に wavelet 処理したものを WinJUPOS でLRGB合成しました。元々土星は強調処理をキツくすると輪の描写がギトギトしてくるのであまり強調をかけないようにしてきたのですが、今回は wavelet をがんばりつつ、de-ringing をかけたり、Layer 4 でマイナスの wavelet をかけたりして輪がエグくならないようにしてみました。

最後に木星です。

木星 (2018/7/29 19:52-20:07)  (2019/6/30 再処理)
木星 (2018/7/29 19:52-20:07) (2019/6/30 再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM, RGB: ZWO ASI290MC / L, RGB: 露出 1/60s x 1500/3000コマをスタック処理 x 6 を de-rotation したものをLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 10.3.9, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

これは昨年の大赤斑が見えてない方のベストショットです。北赤道縞のウネウネやそこから伸びる青いフェストゥーンがクッキリ写ったお気に入りの写真だったのですが、再処理でそのあたりがよりクッキリ解像するようになりました。

やはり wavelet を強めた分縁の二重化が強まったため de-ringing で抑えています。LRGB合成は WinJUPOS で偽の模様が出る疑惑があったため、Photoshop で手動でやっています。

木星 (2018/7/8 20:06) (2019/6/29 再処理)
木星 (2018/7/8 20:06) (2019/6/29 再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1500コマをスタック処理 x 2 を de-rotation スタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 10.3.9, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

これは大赤斑が見えてる方のベストショット。RGBのみの撮影なのでセルフLRGBです。解像感も上がりましたが、なんだか生々しい感じに仕上がりました。これに比べると Before の方は油絵っぽいベタっとした仕上がりです。

というわけで、新しい画像処理方法は、たまたまうまくいったわけではなく、ちゃんと一般的に通用するものらしいということがわかりました。

6月13日の木星(最終版)

懲りずにまた6月13日の木星を再処理(再々々々々処理!)していました。以下の各件への対応です。

  • 前回セルフLRGBを真っ当なやり方でやり直した結果、解像感が落ちてしまった。
  • 前々回 Linked Wavelets を使ったら木星の縁(外周)が明るくなってしまった。
  • 前々回セルフLRGBのRGB画像の wavelet が強すぎてカラーノイズが残ってる気がした。

最初の解像感の問題への対応はL画像の wavelet パラメータのチューニングで、denoise を下げつつ sharpen は上げて wavelet の効きは少し弱めるという感じで、前回よりノイズを少し許容する方向で調整しました。

二番目の縁が明るくなる問題は RegiStax の Denoise/Deringing 機能で De-ringing を ON にして Dark side / Bright side を調整しました。あまり強く(各値を大きく)すると全体の階調が平坦になるのですが、元々白飛び気味の場所もあるので Bright side は思い切って大きめに設定しました。

三番目のRGB画像のカラーノイズの件は当然 wavelet の効きを弱めに設定して対応するのですが、あまり弱くすると色乗りが悪くなってしまったので適度に強調を効かせました。もっともそれでも色が薄くなってしまったので Lightroom で彩度を上げて仕上げました。

結果はこうなりました。

木星 (2019/6/13 22:07) (再々々々々処理(セルフLRGB))
木星 (2019/6/13 22:07) (再々々々々処理(セルフLRGB))
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1000/3000コマをスタック処理 x 4 を de-rotation / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 11.0.2, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

縁の処理はうまくいきました。やってみるとやらないのとは全然違いますね。

解像感の方は前回よりはマシになりましたが、前々回には及ばない… でも前々回の解像感はどうもウソっぽいのでここはこれで納得したいと思います。

カラーノイズはうまく抑えられたと思います。比べてみると前回や前々回は結構偽色が出ていますね。比べて初めて気付きましたが。ただ色のコントラストが落ちていて、これが解像感の低下にも繋がっている気がします。

L画像の wavelet パラメータは以下の通り。

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelet Layers: ON
  • Contrast: 130
  • Brightness: 20
  • De-ringing:
    • Dark side:10
    • Bright side:100
Layer Denoise Sharpen 設定値
1 0.16 0.140 22.0
2 0.14 0.140 22.0
3 0.08 0.120 2.4

RGB画像の wavelet パラメータは以下の通り。

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelet Layers: ON
  • Contrast: 140
  • Brightness: 0
  • De-ringing:
    • Dark side:10
    • Bright side:100
Layer Denoise Sharpen 設定値
1 0.16 0.130 14.0
2 0.14 0.130 16.5
3 0.08 0.110 1.8

仕上げの Lightroom の現像設定は以下の通り。トーンカーブコントラストを少し上げる方向に調整しています。

WB   
色温度 0
色かぶり補正 +2
階調
露光量 +0.00
外観
テクスチャ +0
明瞭度 +0
かすみの除去 +0
自然な彩度 +15
彩度 +30
シャープ
適用量 0
ノイズ軽減
輝度 15
- ディテール 70
- コントラスト 20
カラー 10
- ディテール 50
- 滑らかさ 50

良し悪しありますが、全体としてはこのくらいがバランスが取れているかなと思います。一応これを最終版にします。って、また色々試したくなるかもしれませんが…

しかし「μ-180C の限界って?」で見ていた一回目の再処理画像と比べると雲泥の差ですね… 「画像処理の問題じゃなさそう」とか言ってましたが、かなりの部分画像処理の問題な気がしてきました。

「限界」に向けての検討課題、画像処理、シーイング、ピント、光軸、バローレンズ、の他にはADCの調整(RGB Align OFF でスタックしたら R と B がそれぞれ2ピクセルくらいズレていました)、筒内気流対策(銀色シートを鏡筒に巻いたらいいって本当かな?)、といったところでしょうか。

木星は衝を過ぎて遠ざかっていくのでさらなるベスト記録更新は来年になるかもしれませんが、画像処理では頑張れば頑張っただけの甲斐はあったので、他の課題も頑張っていきたいと思います。

木星のセルフLRGB合成の件

前回のエントリで出てきた、カラー画像から擬似的にL画像を生成してLとRGBを別々に処理して最後にLRGB合成する「セルフLRGB合成」(と勝手に命名)について。

セルフLRGB合成の狙いは、カラー画像の wavelet 処理で発生するカラーノイズを抑制することです。特に linked wavelets で処理すると強烈なノイズを denoise でぼかす形になるため、カラーノイズが偽色として残って不自然になりやすい傾向があるようです。

そこで、wavelet を弱めにかけたノイズの少ない画像をRGB画像とし、元画像をグレースケール化したものに wavelet を強くかけたものをL画像にして、LRGB合成する、というのが「セルフLRGB合成」です。

なのですが、前回は「元画像をグレースケール化したもの」をうまく作れませんでした。Photoshop CC でグレースケールに変換した画像に wavelet をかけるとモアレのようなノイズが盛大に出てしまうのです。

木星 (2019/6/13 22:07) (グレースケール化→PNGクイック書き出し→wavelet)
木星 (2019/6/13 22:07) (グレースケール化→PNGクイック書き出し→wavelet)

前回はこれがどうして出るのかわからなくて、仕方なく wavelet → グレースケール化の順に処理してL画像にしました。偽色の部分が色は違っても輝度が変わらないならこれでも大丈夫では、と思ってのことですが、考えてみれば怪しいですよね。

というわけでもう少し試行錯誤していたらモアレが出る原因がわかりました。グレースケール化した画像は Photoshop の「書き出し」(PNGとしてクイック書き出し)で出力していたのですが、これがまずかったようです。「別名で保存」でTIFF形式で保存したところ問題なく wavelet 処理できました。

木星 (2019/6/13 22:07) (グレースケール化→TIFF保存→wavelet)
木星 (2019/6/13 22:07) (グレースケール化→TIFF保存→wavelet)

どうも「書き出し」だと等倍で出力しても再サンプル(バイキュービック補間)がかかって劣化してしまうようですね… 「保存」なら無劣化で出力されるようです。

さて、こうやって無事グレースケール化した画像ですが、元のカラー画像用に調整した wavelet パラメータで処理するとカラーの時よりもぼやけた感じになってしまいました。なぜでしょう?ひょっとして前回のあの解像感はカラーノイズに由来するアーティファクトだったのか?

そこで wavelet を少し強化したのが上の画像です。パラメータは以下の通り。

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
  • Contrast: 140
  • Brightness: 0
Layer Denoise Sharpen 設定値
1 0.15 0.120 22.0
2 0.17 0.130 25.7
3 0.10 0.120 3.0

これをL画像にしてLRGB合成したのがこちら(RGB画像は前回と同じ)。

木星 (2019/6/13 22:07) (再々々々処理(セルフLRGB))
木星 (2019/6/13 22:07) (再々々々処理(セルフLRGB))
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1000/3000コマをスタック処理 x 4 を de-rotation / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 11.0.2, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

前回と比べると解像感が落ちてますね… ただ今回の方が自然な描写になっている気がします。大赤斑あたりが全然違って、前回はもっと滲んだようになっていたのが、今回はくっきり落ち着いた描写になっています。

理屈の上では今回の方がより正しい描写になっているはずなので、前回の解像感の一部はカラーノイズ由来の濃淡によるものである疑いが濃厚です。

ということで、今回の結果が現時点でのベストということにしたいと思います。

Linked Wavelets で木星を再処理

またしても6月13日の木星の再処理です。今回は今まで使ったことがなかった RegiStax 6 の機能「Use Linked Wavelet Layers」(以下 Linked Wavelets)を試してみました。結果は…

木星 (2019/6/13 22:07) (再々々処理(セルフLRGB))
木星 (2019/6/13 22:07) (再々々処理(セルフLRGB))
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1000/3000コマをスタック処理 x 4 を de-rotation / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 11.0.2, Photoshop CC 2019, Lightroom Classic CC で画像処理

これ、結構違いますよね?かなり解像感上がった気がします。今回は他にも色々やっていますが、解像感という点では Linked Wavelets が効きました。この解像感、本当にディテールを抽出しているのか、それともアーティファクトなのか… ALPO-Japan に寄せられた同じ日の写真と比べる限りはそんなにデタラメなものでもないようには思いますが。

Linked Wavelets は原理が全然理解出来てないのですが、公式ドキュメントを参考に手探りでやってみました。

単に ON にするだけだと盛大にノイズが乗るので、Denoise を上げて抑えるのですが、これで不思議とディテールが浮き上がってきます。謎。ただし、惑星の縁が不自然に明るくなって縁取りっぽくなる傾向があるようで、これを抑える方法はわかりませんでした。

Linked Wavelets 以外にやった色々というのは、以下のようなことです。

  • Waveletscheme は Linear で、Initial Layer を 2 にした。
    • 1 だと大きいレイヤーを使っても強調が不十分だったので。
  • RGB Balance の Auto Balance でカラーバランスを調整した。
    • 今までは Lightroom で手動で調整していたが、こちらの方がよさそう。
  • 「セルフLRGB合成」をしてみた。
    • 同じ元画像に対して wavelet を強めにかけたものをグレースケール化して L 画像に、弱めにかけたものを RGB 画像にして Photoshop で LRGB 合成。
    • wavelet を強めにかけると目立つカラーノイズ(偽色)を抑えるため。

ずっと Linear では強い強調処理はできないと思い込んでいたのですが、Initial Layer を増やすと嘘のようにモリモリ強調できることに気が付きました。びっくり。

カラーバランスはずっと悩みのタネだったのですが、RegiStax で調整するという発想がなくて、ずっと Lightroom で調整していました。が、今更ながら RegiStax の Auto Balance 機能を見つけて試してみたら随分自然な、というかネットでよく見るようなバランスになったのでびっくりしました。というか、ひょっとしてみんなこれ使ってるとか?

「セルフLRGB合成」は僕のオリジナルのアイデアではなくて*1M42 を wavelet 処理してみたけど…」であぷらなーとさんから頂いた以下のコメントにインスパイアされたものです。

ビニングしてからウェーブレットをかける。一度モノクロに変換した物にウェーブレットをかけて、LRGB再合成する。RAW画像のままホットピクセルを除去し、現像なしでビニングしてモノクロ画像にしたものにウェーブレットをかける。
などなど、素材のコンディションによって色々な処理を使い分けています。

実は最初はそのまんま「一度モノクロに変換した物にウェーブレットをかけて」をやってみたのですが、何故かモアレ状のすごいノイズが浮き出てきて使い物にならなかったので、手順を逆にしてカラーのまま wavelet 処理したものをモノクロ化して L 画像にしました。何がまずかったんだろう… モノクロ変換って Photoshop でグレースケールモードにするだけじゃダメなんですかね?

というわけで、wavelet のパラメータ、まず L 画像用の強めのやつ。

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
  • Contrast: 140
  • Brightness: 0
Layer Denoise Sharpen 設定値
1 0.15 0.130 23.2
2 0.15 0.120 22.0
3 0.00 0.100 3.0

次に RGB 画像用の弱めの wavelet パラメータ。

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
  • Contrast: 140
  • Brightness: 0
Layer Denoise Sharpen 設定値
1 0.15 0.130 16.5
2 0.15 0.120 14.6
3 0.00 0.100 3.0

これはもっと弱くしてもよかったかも。

Photoshop での LRGB 合成は以下の手順。

  • RGB 画像のイメージモードを「Lab カラー」に。
  • L 用画像のイメージモードを「グレースケール」に。
  • L 画像を全選択してコピー。
  • RGB 画像で L チャンネルを選択してペースト。
  • レベル補正で中間調入力レベルを 1.6 に。

仕上げの Lightroom の現像設定は以下の通り。トーンカーブ微調整と彩度とノイズ軽減です。

WB   
色温度 0
色かぶり補正 0
階調
露光量 +0.00
外観
テクスチャ +0
明瞭度 +0
かすみの除去 +0
自然な彩度 +23
彩度 +23
シャープ
適用量 0
ノイズ軽減
輝度 20
- ディテール 70
- コントラスト 20
カラー 0
- ディテール 0
- 滑らかさ 0

というわけで、上手い人たちとの差は画像処理の問題じゃないと思ってたけど、割と画像処理の問題だったのかも?ていうかみんな Linked Wavelets 使ってるんですかね?

*1:「セルフLRGB合成」という言葉は僕の造語です。変ですかね?気持ちは通じると思うのですが…

6月13日の木星を再々処理

先日再処理した6月13日の木星の「ベストショット」ですが、

ふと思い立ってさらに再処理してみました。きっかけは id:snct-astro さんとのこんなやりとり。

こう答えたものの、実際 wavelet → de-rotation で処理したらどうなるのだろう?と思って試してみたところ、de-rotation → wavelet とほとんど変わらない結果になって、だったら wavelet 最後に一回だけ調整すればいい分 de-rotation → wavelet の方が楽だよね、と思ったのですが…

そこでふと、wavelet 処理後の画像にさらに wavelet 処理をかけて微調整とかできないんだろうか?ということが気になり、試してみた結果がこちら。

木星 (2019/6/13 22:07) (再々処理(wavelet 2回))
木星 (2019/6/13 22:07) (再々処理(wavelet 2回))
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1000/3000コマをスタック処理 x 4 を de-rotation / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 11.0.2, Lightroom Classic CC で画像処理

解像感は上がりましたが、ちょっとエグいかな…?

前回の再処理で作った wavelet 処理済み画像(Lightroomで調整する前のもの)にさらに wavelet 処理をかけました。ポイントは最初の wavelet 処理では waveletscheme で「Dyadic (2^n)」を使っていたのに対して、2回目の wavelet 処理では「Linear」を使って、しかもほんの少しだけ強調するところ。

2回目の wavelet パラメータを以下に。

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 1
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Contrast: 100
  • Brightness: 0
Layer Denoise Sharpen 設定値
1 0.10 0.100 1.0
2 0.10 0.100 1.0
3 0.05 0.100 4.2
4 0.05 0.100 4.2
5 0.00 0.100 1.0
6 0.00 0.100 1.0

1回目の wavelet 処理を Linear にしてレイヤー増やして頑張れば2回目いらない気もするのですが、2回に分けたほうが調整しやすい気がします。

仕上げの Lightroom の現像設定は以下の通り。

WB   
色温度 -1
色かぶり補正 +30
階調
露光量 +0.00
外観
テクスチャ +0
明瞭度 +0
かすみの除去 +0
自然な彩度 +6
彩度 +6
シャープ
適用量 0
ノイズ軽減
輝度 34
- ディテール 70
- コントラスト 20
カラー 10
- ディテール 50
- 滑らかさ 50

ちなみに再処理で wavelet パラメータを強めにする前の wavelet 画像に2回目 wavelet をかけたのがこちら。このくらいの方がいいかなぁ。だとすると、1回目の wavelet は控えめにした方がいいのかも。

2段 wavelet で少しはシャキっとしたものの、まだワンランク上とはいかないですね… やっぱり画像処理でなんとかするのではなくて、根本的に対策が必要そうです。

μ-180C の限界って?

6月13日夜の木星は今の所今期ベストの写りで、昨年のベストと比べても悪くはないといったところで、暇さえあれば13日の写真を見てニヤニヤする毎日だったのですが…

でも、他の人の写真をながめていると、同クラスの機材でもまだ上が目指せるみたいなんですよね。それがシーイングの差なのか光学系の差なのか画像処理の差なのかわからなくてもやもやしています。

たとえばホシミスト3013さんの6月12日夜の写真。セレストロン Edge HD800 (口径203mm)によるものなんですが、ディテールの描写が全然違います。

元画像を見ると北赤道縞のモヤモヤとか細かいところまで解像しているし、北赤道縞から伸びたフェストゥーンもシャープに解像しています。比べると僕の写真はピンぼけのよう。

シーイングの差でしょうか?今季最高とのことでしたし稀に見る好シーイングだったとか?でも、6月5日夜の写真を見ても十分解像してるんですよね。年に一回あるかないかレベルのシーイングじゃなくてもこのくらいは写るってことですよね。

口径の差なのかなー。でも2cm程度の差でここまで違うものなのか?と、思っていたら、ALPO-Japan でよく見かける鈴木邦彦さんの撮影機材が 19cm ニュートンじゃないですか。しかも観測地は横浜で、僕が撮影したのと同じ時間に撮った写真がありました。

13:59.8 UT の写真がベストシーイングのようですが、やっぱり僕の写真と比べるとワンランク上の解像感です。これが口径1cmの差、とは思えませんねぇ… 同じ横浜での撮影ということで、シーイングだってそこまで差はなさそうですし…

ALPO-Japan の常連で20cm級の使い手と言うと Christofer Mauricio Baez Jimenez さんもそうです。使用機材は Orion Skyquest XT8 Plus (203mm ニュートン)。撮影時刻が近い写真だと2019/06/13 03:04.4 UT の写真がありますが、やっぱりよく解像しています。撮影地はドミニカ共和国サントドミンゴ。他の日の写真も似たような良い写りなのでシーイングのいい土地柄なんでしょうか。

こうして見ると僕の腕ではまだ μ-180C の性能を十分引き出せてない気がするんですよね。一体何が違うのか…

画像処理の差?と思って、いろいろやってみましたが、

  • AutoStakkert! 3 の AP Size を色々変えて試してみたけど、96 〜 112 あたりがベストらしく、ほとんど改善の余地なし。
  • 1.5x Drizzle かけたら RegiStax 6 の wavelet 処理がやりやすくなったりしないかと思ったけど、特に改善せず。
  • de-rotation を4セットから8セットに増やしてノイズを減らして wavelet 処理を強めにかけてみたけど、解像感は改善しないし、明るい部分が白飛びしたのでボツに。

ということで、画像処理の問題じゃなさそう。

では光学系の問題?たとえば撮影システムのどこかでケラレが発生していて口径を活かしきれてない状態になっている、とか。気になってあぷらなーとさんの記事を参考に計算してみたのですが…

今のシステムだとADCの開口部がボトルネックになるのですが、直径7mmくらいでも木星の写りには影響が出ない計算。実際には20mm程度あるので全然余裕。

他に考えられるのがバローレンズの収差とか、光軸がズレているとか。以前焦点内外像を撮ったのですが、バローレンズによる拡大像は確かに緩いんですよね。

2箇所ある2インチスリーブ接続部、特にフリップミラーの接続部あたりのガタが影響してる気がするのですが、それ以前に収差が大きい気も… 元の写りが悪いのでは LRGB 撮影やっても意味ないので、フリップミラー外してみてもいいかも?フリップミラーやめたら 2.5x バローレンズも適正な拡大率で使えるのでそっちも試してみたいですね。

もう一つ考えられるのは、そもそもピントが合ってないという可能性…

ノイジーかつ歪みながら揺れる木星面でのピント合わせは困難で、合焦ノブを指先の感覚でギリギリ調整できる回転角までは追い込めてないのが現状です。合焦位置から2, 3捻りくらいしてもピントのズレが視認できない感じ。

試し撮りをくり返して追い込めばいいのかもしれませんが、スタックに時間がかかりますし、シーイングがよほど安定していないとシーイングの変化の影響の方が大きいので追い込みきれない気がするんですよね。

むしろ恒星で FWHM Meassurement とか使って追い込んだほうが正確なんですかね。以前試してみた時はシーイングの影響でグラフの山が掴みどころのない感じになって追い込みきれなかったんですけど、シーイングが良ければ大丈夫なのかなぁ…

そんなわけで悶々とする毎日です。