Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

IC2177 かもめ星雲 (2022/1/1)

あらためましてあけましてどうもです。元日の夜は去年の積み残しを消化すべくブログ執筆を頑張ろうと思っていたのですが、夕方にベランダに出てみると快晴。まさかと思い SCW を見ると深夜まで雲ひとつない快晴が続きそう。新月期の休日に快晴、という状況をスルーできず正月早々ベランダ天体撮影に勤しみました。

ターゲットは今まで2回撮って2回とも満足できる結果が出せなかった IC2177 かもめ星雲です。


以前は「わし星雲」とも書きましたが、最近は M16 との名前かぶりを避けて海外の Seagull Nebula の訳で「かもめ星雲」と呼ばれることが多いのでそれに合わせます。

今まで無改造のデジカメ(OM-D E-M5)で撃沈してきたのは、ただでさえ Hαの感度が低いのに、かもめ星雲は馬頭星雲などと比べてもかなり淡く、しかも比較的低空で光害の影響を受けやすいため無理に強調処理するといろんなノイズを拾ってダメになってしまうからです。

そこで今回はモノクロ冷却カメラで Hα + LRGB という鉄板の布陣で臨みました。

22:00撮影開始の計画で20:30から準備を始めましたが、構図を追い込んでさあ撮ろうかという段階で巻き付けフードを付け忘れていることに気付いてフードの取り付け、構図の再調整、となって、撮影開始は5分ほど遅れました。

最初に Hα をたっぷり時間をかけて撮り、それから R, L, G, B の順番で撮りました。以前*1 Hαで合わせたピントのまま撮影したところ、B がかなりピンぼけになっていたことがあったのでHαの後は一度Lでピントを合わせ直しました。

構図をずらさずに写野内の星で合わせようとしたのですが、SharpCap のバーティノフマスク支援機能がなかなか反応せず、ゲインを調整して反応しても、数値だけ見て追い込んだつもりが撮って見ると実際にはボケボケで、慌てて再調整という一幕も。ちゃんと回折像を目視で確認しないとダメですね。

RedCat のピントリングはスムースには程遠い出来なので苦労しました。普通に回すと微調整のつもりが「カクッ」て動いてダメなんですよね。うちの個体だけなのかな?両手の手のひらでリングを包み込むように握り込んで、握力で微妙にズラすようにすると微調整できます。

というわけでまたロスタイムがありましたが、なんとかLRGBも予定枚数撮れて1時過ぎに撮影終了。足りないダークだけ撮ってフラットは12月30日のものを流用しました。

結果は…

IC2177 かもめ星雲 (2022/1/2 00:20:19)
IC2177 かもめ星雲 (2022/1/2 00:20:19)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折) + ZWO LRGB Filter & ZWO Ha Filter / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 2.6.10 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro(Binning 2, Hα:Gain 300 LRGB:Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.8334.0, 露出 Hα: 4分 x 16コマ, L: 2分 x 12コマ, RGB: 2分 x 各8コマ / DeepSkyStacker 4.2.6, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

カラーバランスは再考の余地ありですが、とりあえずこれで。これなら撮れたと言っていいのではないでしょうか。RとLにHαをブレンド、というかどちらもHαメインでR,Lを50%加算しています。

星雲のディテール描写はもちろん Hα のおかげです。たっぷり1時間露出をかけた甲斐がありました。冬の天の川の微光星たちもクッキリ写っていて賑やかです。ガイドが終盤を除き絶好調(RMSエラー DEC/RA 共に±1秒以下)だったのが効いていると思います。


しかし「かもめ」の頭、意外とイカつくてかっこいいですよね。仮面ライダーのマスクみたいな… というか、撮影中横位置で見ていたせいで、鳥というよりはなんだかヒーローっぽく見えてしまって。ガッチャマンみたいな?

EAシリーズα 科学忍者隊ガッチャマン FILE(NEKO MOOK) (NEKO MOOK EAシリーズα)
科学忍者隊ガッチャマンのリーダー「大鷲の健
(『EAシリーズα 科学忍者隊ガッチャマン FILE』表紙より)

って、あれ?やっぱりカモメじゃなくてワシのイメージ?

*1:まだ記事を上げていませんが、12月30日の夜の勾玉星雲の撮影です。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (2021/12/30)

12月30日の深夜にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(P67)を撮りました。12月30日は、夕方にレナード彗星を、

夜からは勾玉星雲、M35と撮っていました(両方とも未処理)が、こちらは「二重赤緯体方式」で撮っていました。

上の記事の最後に書いたように、元々この方式はチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星をどうやって撮ろうかと思って採用した方式ですが、正直この頃には撮る気がかなり冷めつつありました。

この彗星を撮ろうと思った理由は、ESOの探査機ロゼッタが残された彗星というのもあるのですが、やはり最近観測されている細く長い尾に興味をそそられたからです。しかしレナード彗星で彗星の長い尾の淡さを思い知らされて、いくら天頂付近とはいえ、10等くらいの彗星のさらに暗い尾がまともに写るだろうか?と…

とはいえ、時間もあるし、せっかくなので撮ってみることにして導入してみました。STAR BOOK TEN には彗星のデータが入ってないので手動導入。*1 M44 プレセベを自動導入してアライメントを確認してからiステラで確認した彗星の座標まで鏡筒を振ると、プレビューに恒星とは違うぼんやりした星が見えました。露出をかけるとコマも見えています。意外と明るい?

ということで、例によって1コマ毎にフィルターを切り替える方法でLRGB撮影。機材は RedCat 51 + ASI294MM Pro で12月4日のレナード彗星 + M3 の時と同じですが、

今回は彗星の動きが遅そうですし、そもそも暗いので、Lは2分、RGBは4分ずつ露出をかけて撮りました。とにかく少しでも多く露出をかけたいのですが、「二重赤緯体方式」だと子午線は越えられないのでギリギリまで粘って 1:50まで撮りました。約2時間半、LRGB各9コマです。

高度が上がって光害の影響が和らぐにつれコマの形がはっきりしてきたのですが、どっちを向いているのかよくわからず。コマが扇状に拡がっていて尾がどっち方向に流れているのかよくわかりません。そもそもフレーミングする前に調べとけって話ですが、どうせ写らないと思っていたので…

撤収後は確認のため勾玉星雲のHαだけ処理して就寝。翌大晦日は疲れてぐったりしてて、夜は頑張ってブログを2本アップして、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の画像処理は年越し後の夜中になりました。

というわけで結果はこちら。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(P67) (2021/12/31 01:34)
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(P67) (2021/12/31 01:34)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折) + ZWO LRGB Filter 31mm / Vixen SX2, 30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 2.6.10 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (Binning 2, Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.8334.0, 露出 L:2分 x 9コマ, RGB:4分 x 各9コマ を彗星核基準コンポジット / DeepSkyStacker 4.2.6, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

尾の向きですが、正解は西向きちょっと北寄り、でした。鋭く細い尾が伸びています。コマの周りはやっぱり扇形になってますね。あまり彗星を撮らないこともありますがこういうのは初めてです。

色は、もっと緑色っぽく写るかと思ったのですが、コマの周辺にごく淡くしか緑色成分がない感じ。LRGB合成がヘタなだけ?光害カブリの緑色に負けてる?

RGBフィルターを替えながら撮って彗星核基準コンポジットやると流れる恒星がカラフルになるかと思ったのですが、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は動きがゆっくりなせいもあってほとんど目立ちません。等倍で見ると暗めの恒星の軌跡が色ズレしたように写っているのがわかるくらいです。

ちなみに尾が西向きだと彗星は東向きに(左に)動いているように見えますが、実際には尾の流れている方向の西向きに(右に)移動しています。恒星の軌跡の色ズレで左端が赤くなっていることからもわかります。これは撮影の時に R, G, B, L の順で撮ったからです。

それにしても意外と明るい?と言っても彗星核基準コンポジットなので恒星が暗めに写っていて恒星との比較はできないので、Lフィルターで撮ったシングルショットの画像を見てみます。画像処理はクロップしてトーンカーブを反転して直線のまま傾きを変えた以外は変えていません。

P67 チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (2021/12/31 01:34) (シングルショット)
P67 チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (2021/12/31 01:34) (シングルショット)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折) + ZWO L Filter 31mm / Vixen SX2, 30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 2.6.10 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (Binning 2, Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.8334.0, 露出 2分 / DeepSkyStacker 4.2.6, Lightroom Classic で画像処理

明るさの近そうな恒星をマークしてみます。カッコ内は等級です(wikisky 調べ)。

P67 チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (2021/12/31 01:34) (シングルショット) (マーカー付き)

TYC 1956-830-1 (9.7等)よりは暗く、TYC 1956-231-1 (11.2等)よりは明るいので、10等台のようです。10等台前半くらいに見えます。

今更ながら吉田誠一さんの計算した光度予想グラフを見てみると、

ピークは9等前後?11月から12月にかけてくらいですかね?既に暗くなってますし、10等台というのは妥当なところでしょうか。というか、もうだいぶ暗くなっているものだと思っていました。



さて、日本人なら(?)「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」の名を聞く度に思い浮かべるのはやはり「カラシメンタイコ」ですよね!って、発見者の名前なわけですからあんまりイジるのも失礼なんですが、どうしても… 撮っている間ずっとこの曲が頭の中で流れていました。

2014 6 18 TSUTAYA O-EAST 絵恋「 カラシメンタイコ」

地下アイドル界の毒蝮三太夫絵恋ちゃん*2 の初期の名曲(迷曲)「カラシメンタイコ」(2013)です。歌詞をよく聴いてください。全く意味がわかりません。

毒蝮三太夫呼ばわりはライブでのオタクイジリの毒舌ぶり*3 から僕が勝手に言っているだけなんですけど Twitter を検索すると1年に1回くらいはその類似性が指摘されています。一応アイドルなのですがこれは一体… という。

僕は絵恋ちゃんのファンというわけではないのですが、当時追っかけていた速水ゆかこさん*4 と共演していた関係でイベントで何度かお会いした他、速水さんの配信で絵恋ちゃんの楽曲が度々流れていたため洗脳クセになって初期のアルバムを2枚買いました。

一言で言うと「聴くと頭が悪くなりそうな音楽」です。「カラシメンタイコ」も含め、初期の音源は Amazon Music 等のストリーミングサービスで配信されているので、頭が悪くなりたい時に聴いてみてください。

って、ここ何のブログでしたっけ?

あ、あけましてどうもです(昨日言い忘れてた)。

*1:今調べるとビクセンのサイトから「軌道要素ファイル」をダウンロードして STAR BOOK TEN に登録できるんですね。今度試してみます。

*2:読みは「えれんちゃん」。初期のクレジットはちゃんなしの絵恋でした。ちゃんが付くようになったの今知りました。

*3:動画の最後の方にその片鱗が。

*4:現在は芸能活動は停止して漫画家として活動しています。

ベランダから天頂付近を通る天体を撮影するための危険な技

マンションの南向きベランダからの撮影では、ルーフバルコニーのようなタイプは別にすると、ベランダの天井が邪魔になって天頂付近を通る赤緯の大きい天体は撮影できません。うちのベランダでも SX2 だと M45 プレアデス星団(赤緯24°07′)あたりが限界で、M33 さんかく座銀河(赤緯30°40′)は無理でした。

スカイメモSでは北側に飛び出ない小さな赤緯体と開き幅の小さいカメラ三脚との組み合わせのおかげで、三脚の脚を一本ベランダの縁石に乗り上げる形にすれば M33 はギリギリ撮れたのですが、SX2 でこれをやる勇気はないし、SX2 のサイズだとそれでも無理です。

なのでそういう天体を撮る時は野外で撮影するのが常でしたが、SX2 を階段 + 徒歩で持ち出すのは無理があるため、使える機材は限られるしポタ赤とはいえ直焦撮影でオートガイドの機材も持っていくとなると体力の消耗も激しいし、近所の公園は照明が明るすぎて条件も良くないし…

ということで、悩んだ挙げ句こうしました。じゃん。

※以下で示す機材の使用法はメーカーの想定外の使い方になるため安全性は一切保証できません。真似する場合は自己責任でお願いします。

ベランダの天井との戦い(ホームポジション)

ベランダの天井との戦い

おわかりいただけただろうか…

はい。スカイメモS用の赤緯体をSX2のアリミゾに取り付けて、鏡筒を赤緯軸から南に20cmほどオフセットしました。赤緯体は純正の「微動台座&アリガタプレート」「バランスウエイト1kg」、アイベルの「スカイメモS用タカハシプレート」、ビクセンの「プレートホルダーSX」の組み合わせです。

スカイメモSのビクセンのアリミゾ対応改造については以前こちらに書きました。

この改造は必ずしも必要ないのですが、元々のカメラネジによる固定だと、この方法を使うと赤緯体が倒立して鏡筒の荷重がカメラネジに集中してしまうので機材の重量によってはかなり危険と思われます。

12月29日に RedCat 51 とフォーサーズセンサーの ASI294MM Pro の組み合わせでこの方法を試してみたところ、20:00頃から IC405 勾玉星雲(赤緯34°23′)がベランダの天井から姿を表しました。そしてマンションの向きの関係で22:00過ぎに再び天井に隠れました。画角内に天井が入らずに撮れるのは2時間弱。雲が多かったので撮影自体は失敗でしたが、撮れるということは確認できました。

この方法自体は僕の発明ではなくて、以前どなたかのブログで似たような方法を紹介されていたのを見て真似したのですが、ブックマークしておいたはずなのに今探しても見当たらない… すみません。

ただしこの方法(以下「二重赤緯体方式」と呼びます)、色々問題があります。

導入時に窓やベランダの柵などに衝突する可能性

赤緯軸から20cm以上張り出した位置に鏡筒があるため、旋回半径が予想外にデカくなります。ぶつからないように事前にクランプフリーでゆっくり旋回して安全を確認するべきです。

鏡筒が前方あるいは後方に余計に飛び出ている場合は、導入後の姿勢でクリアランスに余裕があっても導入の経路によっては途中でどこかにぶつかる危険性があります。自動導入の際には鏡筒から目を離さないようにして、危ない時は即座に導入を停止できるように備える必要があります。

子午線を越えられない

ドイツ型赤道儀だと鏡筒があまり太くなければ子午線を越えてもある程度追尾を続行可能です。いわゆる「イナバウアー」姿勢です。しかし二重赤緯体方式だと子午線を越えるとすぐ鏡筒が赤道儀に衝突します。気付かずに放置すると鏡筒やカメラが破壊されてしまいます。

かといって子午線越えの自動反転も危険ですし無意味です。鏡筒の旋回ルートによっては衝突の危険性もありますし、ケーブル類が絡まったり長さが足りなかったりで事故に繋がります。しかも二重赤緯体方式は鏡筒を南側にオフセットするための方法なのに、そのまま子午線越え反転すると鏡筒が北側にオフセットしてしまうので意味がありません。

やるとしたら二つ目の赤緯体の赤緯軸で反転させる必要がありますが、自動制御する方法はいまのことろないですし、手動でやるにしても鏡筒を赤道儀に衝突させないようにするにはかなりややこしい動きをさせる必要があります。*1

そんなわけで…

これでベランダからの撮影可能範囲が若干広がりました。実はこの方法、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を撮りたくて試したのですが、その件については改めて。

*1:たぶん。実際には試していません。

夕空のレナード彗星 (2021/12/30)

さて、毎年恒例の一年の振り返りエントリ、ではなくて… 昨日の夕方に撮ったレナード彗星です。振り返りエントリは?その点に付きましてはこのエントリの最後でご説明させていただきます。

12月30日の夕方、ベランダからレナード彗星を撮影しました。レナード彗星は前日の29日夕方に金星を撮った後に μ-180C のファインダーで探して、見つけたら撮ろうかと思ってはいたのですが、透明度が悪かったせいもあってか全く見つけられませんでした。

30日は29日より低空まで透明度が高く、遠くの山の稜線もクッキリ見えていたので再チャレンジ。5cm 8倍の正立ファインダーで探して RedCat 51 + OM-D E-M1 Mark II で撮影します。

16:40頃にベランダに SX2 を出して金星と木星土星でアライメントを取ってから STARBOOK TEN の座標表示を iPhone のiステラに表示された彗星の座標に合わせて待機。しかし空が明るすぎて星一つ見えません。カメラのライブビューを拡大しても何も見えず。

位置が違うのかなーと鏡筒を振って周囲も探しているうちに段々空が暗くなって17:15頃、ライブビューに二つ並んだ星が写りました。iステラを見るとどうやらけんびきょう座の6等星と7等星のようです。レナード彗星はその少し東にあるはず。見てみるとそこには恒星とは違うぼんやりとした星が。

その後は空の明るさに合わせて露出を変えながら連写。近くのマンションの陰に隠れる直前まで撮り続けました。ファインダーでは結局確認できませんでしたし、ライブビューでもコマのぼんやりした広がりは視認できましたが、尾は全く見えませんでした。

尾が見えるようならカメラレンズでも撮ってみようかと思っていたのですが、SNSに流れてくる海外の写真のような長くたなびく複雑な形の尾はとてもじゃないけど撮れそうにないのでそのまま RedCat 51 で撮り続けました。画像処理で尾が出てくることを期待してフレーミングだけはズラしてみたのですが…

結果はこちら。クロップして2.5倍くらいに拡大しています。画像の向きは最後の方に写り込んだマンションの壁を基準に水平にしてあります。

レナード彗星(C/2021 A1) (2021/12/30 17:44)
レナード彗星(C/2021 A1) (2021/12/30 17:44)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 15s x 28 コマ を彗星核基準でコンポジット 総露出時間 7分 / DeepSkyStacker 4.2.6, Lightroom Classic で画像処理

長い尾は無理でしたが、コマの後ろにふくらむように拡がった赤っぽい尾がわずかに写りました。よく見ると膨らんだ放物線状の尾とは別に真ん中にほぼ真っ直ぐ伸びる尾があるような… 心眼で見ると結構後ろの方まで伸びている気もします。

まあ世界レベルで見るとショボい写りではありますが、一応は彗星らしい姿が撮れて満足です。国内でも条件の良い山の上に遠征してすごいのを撮ってる人もいますが…

というわけでこれが今年の撮り納めになるかと思ったのですが、天気も月齢も良い夜を逃すのはもったいないと、この後徹夜で3つの対象を撮影しました。

ASI294MM Pro での撮影で画像処理が追いついていません。チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は正直写らないかと思っていたのですが、なんとか写っているようです。

さらにさらに、実は年内のブログのネタが最低でも三つ、執筆が追いつかず溜まっています。

  • M1 かに星雲 (μ-180C + ASI294MM Pro)
  • EFWmini の光線漏れの検証
  • ベランダから天頂付近を撮影するための工夫

ということで年内にはとてもまとまりそうにないので、2021年の振り返り記事はこれらをアップしてからになります。三が日中になんとかしたいと思います…

モノクロ冷却CMOSカメラ購入(その5): M31 アンドロメダ座大銀河 (2021/12/1)

最近、撮影後の画像処理に時間がかかったり、撮影自体が疲れるので心身の回復までに時間がかかったりするせいで、撮影の速度にブログを書く速度が追いついてません。今日はもう大晦日ですが12月1日の夜の話を今更書いています。今年の撮影は今年のうちにブログに書きたいと思っていたのですが、昨夜4つも撮影したので無理です…

さて、「モノクロ冷却CMOSカメラ購入」シリーズ最後のエントリになります。このシリーズの前回のエントリはこちら。

12月1日の夜は M31 を撮りました。超メジャーな天体ですが、直焦点で撮ったのは一度しかありません。オートガイダーを導入した年にスカイメモSと BLANCA-80EDT + 0.6倍レデューサーで撮ったっきりです。

当時はまだスカイメモSを使いこなせてなくて、デジカメで 90秒 x 8コマ と控え目な露出でした。その後ちゃんと撮り直したいとは思っていたのですが、ベランダからは撮れない位置にあるので野外で撮影しなくてはならないし、0.6倍レデューサーは周辺の星像がかなり流れるのでどうせ撮るならちゃんと撮りたいというのもあって後回しになっていました。

RedCat 51 を買った理由の一つは M31 を撮ることで、フォーサーズセンサーとの組み合わせでちょうど良い画角になりますし、スカイメモSに安心して載せられる大きさです。ASI294MM Pro + EFWmini を付けても標準のバランスウェイトでバランスしました。

というわけで何度か行っている近所の公園で撮影したのですが… まずは結果を。

M31 アンドロメダ座大銀河 (2021/12/1 22:37)
M31 アンドロメダ座大銀河 (2021/12/1 22:37)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折) + ZWO L Filter 31mm / Kenko-Tokina スカイメモS, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.10 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (Binning 2, Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.8334.0, 露出 2分 x 16, 1分 x 8, 30秒 x 8 / DeepSkyStacker 4.2.6, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

流石に横浜の空では一番外周の淡い部分は写らず、一回り小さい感じになっていますが、まあまあ写っているのではないでしょうか。

え?なんでモノクロなのかって?実はトラブル続きで時間がなくてRGBが撮れませんでした…

準備

トラブルについては追って話すとして、今回は久々の野外での撮影で、しかも冷却CMOSカメラを初めて野外で使うということで色々準備が大変でした。

ノートPC

まずノートPCを買い替えました。中古の Let's Note CF-SZ6 (Core i5 7300U)です。横河レンタ・リースのレンタルアップ品を扱う Qualit にて 40,700円で購入。バッテリー容量が若干不安だったので、Lバッテリーも別途購入。なぜか新品在庫が残っていたヨドバシにて。Windows 11 非対応ですが、天体撮影専用ですし当分なんとかなるでしょう。

今までは2010年発売の ThinkPad X201s に6セルバッテリーを付けて使っていたのですが、HDDをSSDに換装したとはいえUSBが2.0までですし、CPUも今となっては非力ですし、バッテリーの保ちもイマイチというか、さすがに古くてヘタってるようなので。

MacBook Air (Retina, 13-inch, 2019)もあって最初はこれを使うつもりだったのですが、コロナ以降リモートワーク用にガッツリ使うようになってしまって、仕事のデータが入ったものをむやみに野外に持ち出すのもよくないのでやめました。それに PHD2 以外は Windows とは違うソフトを使わなくてはならず、憶え直すのも大変なので…

Let's Note には撮影用に PHD2 と SharpCap をインストール。念のため DSS, AS!3 等もインストール。PHD2 は接続テストもして、ダークライブラリも作成したのですが、後述するようにその後トラブルが発生します。

約3時間の撮影でバッテリー残量は75%でした。これならLバッテリーいらないかも?念のため Poweradd Pilot Pro2 も持っていきましたが、不要でした。*1

電源

スカイメモSは乾電池で十分ですが、冷却CMOSカメラには12V電源が必要です。元々 SX2 の電源用にと用意した suaoki S200 を使いました。去年の春にマンションの廊下での撮影で使ったものです。

電源にシガーソケット変換ケーブルが付属しているので「その1」で買ったケーブルでカメラに繋ぎます。

こちらは特にトラブルなく給電でき、-10℃の冷却も問題なく維持できました。約3時間の撮影で残量は目盛り4/5。

SX2 を使った時に冷却カメラと両方に給電できるのかどうかは未確認ですが、当分 SX2 を野外に持ち出すことはないので、そのうち気が向いた時に試してみます。

運搬方法

現場でカメラと EFW を組み付けるのは神経を使いますし、それをやるとフラット撮影も現場でやることになり荷物も撮影時間も増えてしまいます。徒歩で往復するのでなるべく荷物は減らしたいし早く帰りたいので、カメラは家で取り付けてそのままの状態で持っていき、持ち帰る、フラットは家で撮る、ということにしました。

問題はカメラ付きの RedCat 51 をどうやって持ち運ぶか。RedCat 51 にはかわいいキャリングケースが付いてきますが、ゴツい冷却カメラを付けたままでは収納できません。そこで、BLANCA-80EDT 付属のハードキャリングケースのウレタンを一部切り抜いて使うことにしました。このハードケースはノートPCを置く台にもなるので便利です。

長いアリガタとファインダー台座の出っ張りが収まるようにウレタンを2箇所切り抜くと、RedCat 51 + EFWmini + ASI294MM Pro がピッタリ収まるようになりました。EFW は BLANCA-80EDT の接眼部から横に張り出した合焦ノブが収まるところにすっぽり収まります。運搬の問題はこれで解決しました。

トラブル続出

今回は撮影も画像処理もトラブル続出でした。

ガイドカメラから映像が入らない

Let's Note に繋いだ QHY5L-IIM からの映像が PHD2 に流れてきません。これではオートガイドができませんし、ドリフトアライメントによる極軸合わせもできません。

USBケーブルを抜き差ししてるうちに直ったのですが、その後(というかこの日の明け方)レナード彗星の撮影の時にも同じ現象が発生して、この時は復帰が間に合わずノーガイドで撮ることに。顛末は12月3日のブログに書いた通りです。

PHD2 のトラブルですが、後で調査したものの原因がわからず、結局今後は ASI290MM を使うことにしました。ノートパソコンは Panasonic Let's Note CF-SZ6 で、最近天体撮影用に買った中古品です。事前のテストでは問題なかったのですが…

前夜の撮影でも同様のトラブルがあったのですが、ケーブルをつなぎ直したりしているうちに直ったのでケーブルの接触が悪かったのかと思っていたのですが、その状況でも SharpCap では普通にプレビューできるし、同じケーブルでデスクトップPCに繋いだら PHD2 でも問題ありません。

レッツノート本体の Wi-Fi のスイッチを OFF/ON すると復帰して10秒くらい映像が流れてくるのですが、また止まってしまうのも謎です。QHYのドライバーを再インストールしたりインテルのオプションのドライバを更新したり、デスクトップで使っている古いドライバに入れ替えたりと色々試したのですが症状は変わりませんでした。
C/2021 A1 レナード彗星 (2021/12/2)

M31 が導入できない

スカイメモSなので手動導入なのですが、これが苦労しました。アンドロメダ座のβ星ミラクからスターホップするはずが、どうしても届きません。なんで?そもそもミラクだと思った星が違う星だった?横浜の空といえども2等星は見えるはずなんですが、公園の真ん中あたりは四方からかなり強力なLED照明で照らされていて肉眼では星座の形はもちろん2等星すらも視認が難しい状態。

何度もトライしましたがダメでした。光学ファインダーを持ってきておけばよかったのですが… あとガイドカメラからプレートソルブできるようにしておけばよかったかな、とも。

今回はボウズで帰るしかないかと諦めかけたのですが、最後にペルセウス座のα星ミルファク(1.79等)からのスターホップにチャレンジ。むちゃくちゃ遠回りですが、なんとか M31 にたどり着きました。21:00頃には撮影開始の予定が既に22:30。公園に到着してから2時間以上経っています。

銀河中央と周辺で輝度差の激しい天体なので多段階露光で撮影したのですが、予定の枚数を撮り終わったのが23:30。高度があまり下がると公園の照明が直撃してしまうので、ここからRGBを撮っても間に合わないし、フラット撮影もあるし、未明にはレナード彗星の撮影もあるし、ということで、ここで撤収しました。

フラットが合わない

帰宅後ベランダでフラットを撮影しました。赤道儀を設置して鏡筒を真下に向けて床に置いた iPad を撮影というものです。BLANCA-80EDT ではこれで安定したフラットが撮れていたのですが、RedCat 51 は画角が広いせいかフラットが偏ってしまいました。このフラットを使うと画像の下半分が暗くなって星がほとんど見えなくなる有様です。

結局、4日未明の レナード彗星 + M3 の撮影前に別の方法で撮ったフラットを流用してなんとかなりました。

その方法というのは、「ライトボックスアプリで画面タッチに反応しないようにした iPad の画面に直に鏡筒を立てて撮影」というもの。ライトボックスアプリというのは iPadトレース台として使えるようにするアプリです。古い iPad ですが*2 Lightbox Trace というアプリが使えました。

鏡筒を鏡筒バンドから取り外して(そうしないとアリガタが邪魔になる)、フードを外して、一応自立するとはいえ倒れるとまずいので座布団の上に置いた iPad の上に、近くに置いた箱に少し寄りかかる感じで立てました。

冷却カメラと EFW を付けると結構重いとはいえ RedCat 51 なので画面が割れることもなく無事フラットが撮れました。もっとデカい鏡筒だと無理かも。何らかの治具を作った方がいいのかな…

カメラと鏡筒は全てネジ接続なので、バラして組み直す度にねじ込み具合によってカメラの角度がズレてしまうはずですが、周辺光量に変な偏りがないせいか問題なく使えました。撮ったフラット自体には若干変な偏りがあるのですが、これは EFW 周りで少しケラれてるのかな… ここはカメラ本体と EFW の一箇所のネジ込み具合にしか影響されない部分なので大丈夫だったのかも。

DSS のHDR合成が失敗

画像処理にも苦労しました。LRGB合成でもないのに。

これはフラットを撮り直す前の話ですが、多段階露光の露出時間毎にコンポジットした結果画像を DeepSkyStacker のHDR合成(Entropy Weighted Average Stacking)でコンポジットしたのですが、謎のアーティファクトが発生して使えませんでした。

DSS HDRスタック失敗
DSS HDRスタック失敗

DSS の出力の中央部をクロップしたものです。M31 の中心部にブロックノイズ状のパターンが発生しています。なんなんですかねこれは?

仕方なく PhotoshopHDR Pro を使ったのですが、よく見ると星がズレて二重になっている部分があります。ボツにする前に気づかずアップしてしまったので、画像をクリックして flickr の機能で拡大して確認してみてください… 画面上の方です。

M31 アンドロメダ座大銀河 (2021/12/1 22:37-23:29) (HDR Pro 失敗)
M31 アンドロメダ座大銀河 (2021/12/1 22:37-23:29) (HDR Pro 失敗)

フラットを新しいものに換えて DSS のHDRをやりなおしたところ、最初に出てきたアーティファクトはなくなったのですが、やはり微妙にズレてスタックされてしまい、星がズレる部分がでてきてしまいました。

スタックの様子を見るとアライメント処理で位置ズレを直しています。本来全部同じ reference frame でスタックしているので位置ズレはないはずなのでアライメントを行わない設定でスタックしたところ、無事冒頭の結果となりました。

うーん、なんなんでしょうね?最初に撮った2分露出と最後に撮った30秒露出では撮影時の高度がかなり違うので大気差で歪みが出たのか?とも思いましたが、それならどうやってもズレてしまいそう。ズレが部分的なのも謎です。

まとめ

ということで野外でも冷却CMOSカメラで撮影できそうです。色々トラブルはありましたが、特にモノクロ冷却カメラに関係あるトラブルというわけでもなさそうなのでこのシリーズはひとまずこれで終わりにして、冷却CMOSカメラを普段使いしていこうと思います。

しかし RedCat 51 の固定接眼部最高ですね。ヘリコイドのピント合わせはむちゃくちゃやりづらいですが。8cm も接眼部のしっかりした鏡筒に買い替えた方がいいかなぁ。あと、冷却カメラだと重くて 8cm 屈折はスカイメモSに載せられないし、ポタ赤ももっと頑丈なの欲しいなぁ。などと、際限なく沼にハマっていきそうで怖いです…

*1:Poweradd Pilot Pro2 というのはこれですが、 Let's Note 用の変換プラグは付属していません。しかし、16V に設定して付属のコネクターCを使うとバッテリーを抜いた状態では使えるのを確認しました。ただし、Panasonic の電源プラグは信号線が出ている特殊なもののようで、純正ACアダプター以外を繋ぐと起動時に警告が出ます。無視して起動できるのですが、充電の方は怪しいのでバッテリーを抜いた状態でしか試していません。何が起こるか一切保証できないのでやるなら自己責任で…

*2:名前は「新しい iPad」(第三世代 iPad)ですが…

金星 (2021/12/29)

12月29日の日没後、金星を撮影しました。今年は金星が南向きベランダから撮りやすい位置にいるのでちょいちょい撮っていて、せっかくなので年末に大きく欠けた細い金星を撮りたいなと思っていました。


12月31日には60"超え!輝面比は0.03ということで三日月より細いです。-4.3等ということなのできっと見えるのでしょうが上の撮影と同じ機材では写野に余裕があまりなくて、極軸調整が甘いとすぐフレームアウトしそうですね…

4日の金星の太陽からの離角は40度、年末には14度まで近づきます。この日ですら日中は鏡筒の内側の10cmくらいまで直射日光に照らされていてA3サイズぐらいの段ボールをフードにして影を作っていたのですが、これ以上近づくと完全に日光を遮るのは難しくなります。

どこまで細い金星が撮れるか頑張ってみますが、主鏡に太陽光が届いてしまうと危険ですので、ヤバそうだったら諦めます…
最大光度の金星 (2021/12/4)

結局どうしたかというと、日没直後に撮りました。やはり地球をフードにするのが最強なので… 極軸の方は特に対策しなかったのですが、なんとかなりました。

結果はこうなりました。

金星 (2021/12/29 16:49)
金星 (2021/12/29 16:49)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC (Gain 255), SharpCap 4.0.8334.0, 露出 1/125秒 x 1500/3000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 12.0.7, Lightroom Classic で画像処理

デカいです。惑星はいつも 720 x 720 の等倍で貼っていますが、今回はそれだとはみ出してしまうので 960 x 960 を 800 x 800 に縮小して貼っています。 WinJUPOS で位置と向きを合わせたので、画像の中心が金星の中心で向きは金星の北が上です。金星って地軸が倒立してても南北は逆にならないんですかね?天球の南北とほぼ一致するので自然に見えます。

視直径は59.5秒、輝面比は0.04です。月にたとえると三日月より細い月齢2の手前ぐらいの欠け具合。めちゃくちゃ細いですが、シーイングがひどかったのでこれでもかなりぼやけてて、本当はもっと細いはず。

撮って出しの動画はこんな感じ(等速、フレームレートは落としています)。

金星 (2021/12/29 16:49)
金星 (2021/12/29 16:49)(動画)

こんな状態なんで、ADCの調整はテキトーです。ていうか無理。

これで今まで撮った中で一番細い金星が撮れた、と思ったら、8年前に撮ったやつの方が細かった!

金星と飛行機 (2014/1/4 16:18)
金星と飛行機 (2014/1/4 16:18)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12)
/ K型微動マウント / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) 露出 1/500s / Lightroom 4.4 で画像処理
金星 (2014/1/4 16:18)(色分散補正済)
金星 (2014/1/4 16:18)(色分散補正済)
GIMP 2.8 で画像処理。他は同上。

これは視直径61.3秒、輝面比0.02でした(iステラで確認)。むむむ、これを超えるのは年明け1月3日以降ですか。頑張ります…

モノクロ冷却CMOSカメラ購入(その4): 馬頭星雲 (2021/11/11)

11月11日の夜は馬頭星雲を撮りました。今回はHαのナローバンドでも撮影してカラー画像に合成して赤い星雲がクッキリ写った写真にできるかどうかのテストです。

実は前回の M42 でもHαは撮っていたんですが、LRGB合成でいっぱいいっぱいでしたし、星像の伸びと色付きの問題が発覚して、これ以上手間をかけるのもなーという気持ちになって放置していました。

でも今回はHαが主役です。ナローバンドフィルターは光量ががっつり減るのでHαは Bin 2 (120万画素), Gain 300 の4分 x 8 で撮りました。HDR合成のために2分 x 8 も撮っています。驚いたことに4分露出のプレビューはストレッチしなくても「馬の首」がはっきり見えています。

撮影開始が遅れて深夜1時過ぎからになってしまったのでHαだけにしようかと思っていたのですが、是非これに色を付けて見てみたいと思い、LRGBを各 1分 x 8 (Lだけ 30秒 x 8 も追加)で撮りました。

ガイドは好調。今回は赤経方向のガイド精度を上げるために PHD2 の PPEC を試しました。ガイドしながらガイド星の揺らぎの傾向を学習して途中から揺らぎを予測して先回りして赤経軸の速度を調整するというものです。パラメータはよくわからないのでデフォルトのまま。

今回は接眼部の調整もテーマで、事前に締められるネジは全部締め直してガタが残らないように調整。そのおかげなのか縦位置での画像下部の星像の伸びは多少マシになりました。でも下から20%弱ぐらいの領域は縮小画像で見てもわかる程度には伸びでいます。

やはり接眼部の強度が原因と思われる、子午線越え後に時間が経つとガイドエラーとは無関係に赤経方向に星像が流れる現象ですが、これは今回は見られませんでした。やはりドローチューブが横滑りしていたのが原因だったようです。

ということで撮影自体は比較的スムースに終えたのですが、画像処理がなかなか思うようにいかず苦労しました。なんとか満足できる範疇まで持っていった結果がこちら。

馬頭星雲 (2021/11/12 01:38-03:14)
馬頭星雲 (2021/11/12 01:38-03:14)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) + ED屈折用フィールドフラットナーII (合成F6) + ZWO LRGB Filter & ZWO Ha Filter / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.10 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro(Binning 2, Gain 300, -10℃), SharpCap 3.2.6482, 露出 Hα: 4分 x 8 + 2分 x 8, L: 1分 x 20 + 30秒 x 8, R: 1分 x 8, G: 1分 x 8, B: 1分 x 8 / DeepSkyStacker 4.2.6, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

今までもベランダから何度か撮った馬頭星雲ですが最高の仕上がりになりました。ポニーヘッドの暗黒星雲らしいモクモクしたディテールがクッキリ写り、背景の赤い星雲にもまさに雲のような構造が浮かび上がっています。

Hαだけを仕上げたモノクロ画像を見るとディテールの描写がほぼほぼHα由来であるのがわかります。

馬頭星雲 (2021/11/12 01:38-02:25) (Hα)
馬頭星雲 (2021/11/12 01:38-02:25) (Hα)

Hαの総露出時間は48分ですが、1時間足らずでここまで写るとは思いませんでした。今までは無改造デジカメ(OLYMPUS OM-D E-M5) + 光害カットフィルターで総露出時間2時間とか、

惑星用の非冷却カラーCMOSカメラ(ZWO ASI290MC) + UV/IRカットフィルターで総露出時間1時間半とか、

そういう撮り方をしていて、横浜の空だとこんなものかな、と半ばあきらめていたのですが、冷却モノクロカメラ + ナローバンド、最強ですね。

撮る前はナローバンドは暗いのでこの程度の露出時間では… とあまり期待してなかったのですが。バックグラウンドとのSN比の高さが相当効いているようです。逆に言えば光害がいかに邪魔なのか思い知らされるわけですが…

主役のHα画像はLとRにブレンドしています。画像処理で苦労したというのはこの部分で、Hαをブレンドした時のカラーバランスがなかなかうまくいかなかったのです。

最初はLにだけブレンドしていました。僕の雑なLRGB合成の理解ではLチャンネルにRGB合成した色がそのまま乗るものだと思っていたのですが、妥当なカラーバランスに調整したLRGB合成画像が、LにHαをブレンドした途端に赤い星雲の色が茶色っぽくなってしまうのです。

ネットを色々検索すると、ぴんたんさん(FlatAidPro の作者)のブログに Photoshop でLRGB合成するとサーモンピンクになることがあるという話がありました。

対策も書いてあって意味もわからず真似してみたのですがうまくいかず。あ、でも今良く見たらHαはLに比較明合成って書いてありますね。僕は単純にレイヤーを重ねて不透明度を調整してブレンドしてました。そのせいなんだろうか…

で、そこから試行錯誤した結果、RGB画像の方のガンマ値を調整すると多少それっぽい色が出てきたので一度はそれで仕上げました。こんな感じ。

馬頭星雲 (2021/11/12 01:38-03:14) (Hα+L+RGB 合成いまいち版)
馬頭星雲 (2021/11/12 01:38-03:14) (Hα+L+RGB 合成いまいち版)

燃える木星雲(NGC2024)はこっちの方が黄色っぽくてデジカメに近い色になっています。が、やはり馬頭星雲のバックの赤い星雲が茶色っぽいのが気になってしまいます。

そのあと色々検索していて、どこで見たのかメモるのを忘れててわからなくなってしまったのですが、LだけじゃなくてRチャンネルにもHαをブレンドするといいよみたいな話があって、それを参考に仕上げると赤い星雲が綺麗に赤くなりました。

それが最初の写真なのですが、上の写真と比べると今度は燃える木星雲が赤っぽくなってるのが気になってしまいますね… そこはちょっと妥協してしまいました。

ということで課題関係はこんな感じ。

  • Bin 2 悪くない。使い勝手もいい。
  • 赤経ガイド精度が足りない問題、PPEC が効いた?そもそも Bin 2 で撮れば精度は十分かも。
  • R, G, B のガイド精度やシーイングの違いで輝星の飽和部分の周りに偽の色が付く問題、今回も若干あるが画像処理で解決できるのかどうか不明。今の所運まかせ…
  • 縦位置で星像が伸びる部分ができる問題、接眼部のネジの締め増しで多少良くなったが、まだ不十分。どうやって調整するか要検討。
  • フラット撮影は前回と同じ方法で今回もうまくいった。
  • Hα撮影は強力だがカラー画像にするとカラーバランスの調整が難しい。今後の課題。

Bin 2 の約1200万画素ってちょっとどうかなと思っていたのですが、低ノイズなら体感の解像感が向上するので無理に Bin 1 (約4700万画素)で撮らなくても十分かなと思いました。画像処理も軽いですし。

赤経ガイド精度は PPEC が効いたのかなんなのかよくわからないですが、様子見です。シーイングの影響は Bin 1 ならそこまで神経質にならなくてもいい?

接眼部の調整はどうしたものか。もう少し考えます。ていうか、もっと工作精度のしっかりした鏡筒を買うという手も…

そんなわけでまだまだ課題はありますが、モノクロ冷却カメラ、なんとかやっていけそうな気持ちがちょっとは出てきました…

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