Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

ADCの間違った使い方

先日のエントリ「木星、1.6倍バローのテスト (2018/6/2)」の機材写真を見た人は「あれ、この ADC の向き変じゃね?」と思ったかもしれません。この ADC の変な使い方については、これまで何度か触れてきたのですが改めて。

ADC (Atmospheric Dispersion Corrector: 大気分散補正プリズム)にはプリズムの向きを水平にする仕組みが付いています。垂直方向に出る大気色分散にプリズムの向きを合わせるためです。ZWO の新型の ADC には水準器が付いていて、これが上向きになるように取り付けて水平を調整します。

しかし先日の機材写真では水準器が横倒しになっていて、どう見ても水平になっているようには見えません。実はこれ、意図的にやっていて、望遠鏡の光学系で発生している色分散を補正しているのです。

いつも使用している笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6 屈折)は良い望遠鏡ですが、わずかに色ズレが発生します。直焦点撮影では問題にならないレベルなのですが、テレコンで2倍に拡大すると1.5ピクセル程度の色ズレが発生していました(ピクセルサイズ3.75μmの OM-D E-M5 場合)。

視野中央でも周辺でも同じ方向にズレるので色収差ではなく、光軸のズレかレンズエレメントのズレによるものと思われます。笠井トレーディングに問い合わせた際には、回転式の接眼部の工作精度による光軸ズレが原因かもしれないが、構造上微妙なズレは避けられないので接眼部のネジの締め込み等で緩和するしかないとの回答でした。

ズレの方向は経緯台で使う場合(三脚座を下に向けた場合)にはおおむね垂直方向に、赤道儀で真南に向けた場合はおおむね水平方向にズレます。接眼部の回転角はあまり影響ないようです。

というわけで南中した木星を ADC の補正量を0にした状態で撮った写真がこれです。

木星 (2018/4/28 00:29) ADC補正なし
木星 (2018/4/28 00:29) ADC補正なし

大気分散と光学系の分散が合成されて斜め方向に色ズレがているのがわかります。

この日は普通に ADC を水平に取り付けて撮っていたのですが、ADC を調整して撮ったのが下の写真です。

木星 (2018/4/28 00:38) ADC補正あり(垂直方向)
木星 (2018/4/28 00:38) ADC補正あり(垂直方向)

だいぶクッキリしましたが、光学系由来の水平方向の色ズレが残っているのがわかります。

翌日、ADC を斜めに取り付けて光学系の色ズレを補正したのが下の写真です。

木星 (2018/4/29 02:00) ADC補正あり(斜め方向)
木星 (2018/4/29 02:00) ADC補正あり(斜め方向)

4月28日深夜はここ2ヶ月で最高のシーイングだったので、こうやってビフォー・アフターにするのは詐欺みたいなものなんですが… でも、光学系の色ズレが ADC でキャンセルされてクリアな写りになっているのがわかると思います。

というわけで、ADC を斜めに取り付けていたのはこんな理由があったのでした。同様の色ズレに悩まされているのなら一度試してみる価値はあると思います。