3月14日の夜は、またベランダで春の銀河祭りを開催しました。夜から強風との予報もありましたが、北からの風なので南向きベランダなら大丈夫かと思って。今回も 8cm F6 屈折 + モノクロCMOSカメラ(ASI290MM) での撮影ですが、前回とは異なり赤外撮影ではなくノーフィルターで赤外と可視光を合わせた波長で撮りました。
というのは、前回のエントリで、赤外(IR Pass 850nm)で撮ると銀河の暗黒帯の写りが悪いという話をしましたが、コメント欄で「もりのせいかつ」の k さんから光害地での銀河撮影ではクリアフィルターを使うよ、と教えてもらったからです。
はじめまして。
銀河の暗黒帯描出の件ですが、岡野邦彦さんが「光害地での銀河はSN確保優先の為、赤外カット無しのクリアフィルターで(但し、甚だしい赤外収差が発生しない光学系である場合)」を実践なさっていましたが、
http://www.asahi-net.or.jp/~rt6k-okn/event.htm
同時に、御著書で「暗黒帯のコントラストが若干薄まる」とも書かれていますので、近赤外フィルターをお使いの場合、この傾向が更に強まるのは必至と思います。
解像への短波長の貢献につきましては、UTOさんも書かれていますので、
http://oozoradigital.web.fc2.com/sakugo/Blue/Blue.htm
その兼ね合いの見極めが必要かもしれません。
私はSQM19程度の場所で撮影しておりますが、銀河はクリアフィルターです。
「M60 + NGC4647 + M59 + NGC4638、M83 (2021/2/19)」コメント欄の k さんのコメント
光害はカットしないが光害の少ない赤外も一緒に撮ればSN比は上がる、という発想ですね。
ただし屈折望遠鏡だと赤外のピント位置が可視光とはズレたり収差が残ったりする場合があるので要注意。うちは3枚玉アポですが、果たして大丈夫なのか… と思いつつ、とにかく試してみたくて撮ってみることに。LRGB 撮影をするわけではないのでクリアフィルターではなく単にフィルターなしで撮りました。
ターゲットは、実験としては前回と同じにするべきでしょうが、それじゃつまらないので M83 だけは再撮影することにして、それとは別にしし座4重銀河(NGC3190 + NGC3193 + NGC3187 + NGC3185)と、かみのけ座の NGC4302 + NGC4298 のペアを撮ることにしました。
19:00前から準備して最初のしし座4重銀河を撮り始めたのが20:45、総露出時間2時間で3対象を撮って撤収完了は4:00過ぎということで9時間以上撮り続けていました。途中布団に入って寝落ちしてたりもしてましたが…
露出は Gain 75 で2分。ダイナミックレンジ優先でこのくらいにしました。センサーのDRはこのあたりが最大だし、3分だと背景濃度が50%を越えるので。さすがにノーフィルターだと明るいですね。
ガイドはまあまあ好調でした。RMSエラーは RA, DEC 共に ±1.0" 前後。DEC は一時乱れてガイドグラフ上では ±1.4" くらいになっていましたが、変化は緩やかで2分露出だとあまり影響はない感じでした。風の影響と思われるブレは時々ありましたがほぼ問題なし。
画像処理は最初はスタックして Lightroom で調整しただけで Twitter に上げたりしてたのですが、だいこもんさん(id:snct-astro)のブログ*1 に触発されて wavelet 処理など色々やってみました(後述。でも Pixinsight はまだ敬遠…)。
まずは結果から。横位置で撮りましたが横長の画像はスマホで見た時「映え」ないので正方形にトリミングしたものを貼ります。写真のリンク先から前後を辿ると横長サイズ(オリジナルサイズは4K)の写真もあるのでPCのデスクトップに貼りたい場合はそちらを。
撮影順では最後の対象なのですが赤外との比較が気になるので M83 から。
前回の赤外のやつとは全然違うのですが… もっとも微光星の写りを比べると前回はシーイングもしくはピントにも問題がありそうです。当日は深夜から冷え込んだのでピントがズレたのかも…
今回は途中で一度ピントを再調整しましたが、実際バーティノフマスクの星像をひと目見てわかるくらいにはズレていました。調整後この写真を撮るまでにさらに冷え込んでいたのでまだ改善の余地はあるかも。
暗黒帯の写りは以前デジカメで撮ったものに比べると若干薄い気はしましたが、軽い wavelet 処理で改善しました。総露出時間は前回と同じですが、実際に受光した光量が全然違って低ゲインで撮れたのもあってノイズも比較的少なく、軽い wavelet 処理ならそれぼと荒れずに済みました。
フェイスオン銀河はこのくらいの解像すると楽しいですね。光害カブリで元の写りは淡かったのですが、ダイナミックレンジが良かったからか、画像処理で淡い部分もそこそこ出ています。
次は最初に撮ったしし座4重銀河。
中央の暗黒帯の見える銀河が NGC3190、左上の楕円銀河が NGC3193、右上の両端から腕が出てカギ型になっている棒渦巻銀河が NGC3187、右下の少し離れたところにある楕円形の棒渦巻銀河が NGC3185 です。
10.9等から13.4等と、メシエナンバーのついた銀河と比べるとやや暗い銀河の集まりで、特に13.4等の NGC3187 は両端に直角に曲がって伸びる淡い腕があり、横浜の空でこれは写らないのではと思っていたのですがギリギリ写りました。腕の先端部は写りませんでしたが腕の形の雰囲気は伝わるかな…
ちなみに NGC3190 は Stellarium では NGC3189 と表示されるのですが、NGC3190 の暗黒帯で分割された南西部分を別の銀河と誤認したもののようです。*2
「しし座4重銀河」という名称も Stellarium の表示に出てくるものですが、あまりメジャーな呼び方ではないようです。コンパクト銀河群のカタログのナンバーで HCG44 (Hickson Compact Group 44)と呼ぶのが正式のようです。
最後は NGC4302 と NGC4298 です。
左のエッジオン銀河が NGC4302、右の楕円状の渦巻銀河が NGC4298 です。NGC4302 の暗黒帯ははっきり写っていて、暗黒帯の構造もある程度見えています。NGC4298 の渦巻き腕の網目状の暗黒帯の構造はさすがに解像していませんが、モコモコした感じは見えています。
2017年にハッブル宇宙望遠鏡打ち上げ27周年記念に公開された写真がこの銀河のペアで、当時こちらの記事で紹介しました。
ちょうどこの頃 8cm F6 + 0.6x レデューサーとデジカメでこのペアを含む写真を撮っていたので記事にしたのでした。
解像度は今回の写真が断然上ですが、褐色の NGC4302 と白い NGC4298 という色の対比が写っているのはいいですね。やはりこれはカラーで撮りたいところ。もう一夜頑張ってカラーで撮って LRGB 仕上げてみようかな…
画像処理についてですが、だいたいこんな手順で処理しました。
- DeepSkyStakker の出力を Photoshop で軽くストレッチして 16bit モノクロTIFFで保存(stretch)
- stretch を StarNet++ 処理した画像を Photoshop で TIFF のバイトオーダーを「IBM PC」に変更して再保存(starless)
- stretch から starless を減算して星だけ画像作成(star)
- star をぼかして軽くストレッチして反転して RegiStax 6 用のマスクを作成(wavelet-mask)
- RegiStax 6 でマスクに wavelet-mask を適用して starless を軽く wavelet 処理(wavelet)
- wavelet 画像の穴埋め部分のノイズを Photoshop の「コンテンツに応じた塗りつぶし」やガウスぼかしで平滑化(fixed-wavelet)
- fixed-wavelet をストレッチ、段階フィルターによる傾斜カブリ補正、ノイズ軽減フィルター等で処理したものに、star を加算合成(wavelet+star)
- wavelet+star を LR で調整して result に
ただし、しし座4重銀河については StarNet++ がうまく星を消してくれなくて、楕円銀河が半分残ったり、銀河の中心付近に目立つブロックノイズが出たりしたので、諦めて「明るさの最小値」でフィルターしたものを減算して作った星マスクで処理しました。
低ノイズの60枚コンポジットとはいえ、強い wavelet 処理ではノイズがバリバリ浮いてくるので、気持ち程度に軽くかけるだけにとどめました。それでもその後の本番ストレッチで見てわかる程度には解像感が上がりました。
というわけで、ノーフィルター(もしくはクリアフィルター)の銀河撮影はいいぞ、でもカラーも撮りたいな… やはりここは LRGB 撮影か?といった感じです。
ASI290MM/MC では感度低くて一晩で両方撮るのは厳しいですね。ていうかまともな冷却CMOS欲しい…