Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

モノクロ冷却CMOSカメラ購入(その2): NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2021/10/29)

ばたばたしているうちに1ヶ月経ってしまいましたが、10月29日に行った初のLRGB撮影*1 について書きます。

前回はモノクロ冷却CMOSカメラ ZWO ASI294MM Pro のセットアップについて書きました。

カメラが届いた頃には満月期だったのでDSOをターゲットとした最初のテスト撮影は月の出がだいぶ遅くなった10月29日になりました。

テスト撮影なので明るく撮りやすいM42あたりがいいかなと思っていたのですが、この日は月齢22の月がかに座にあり、月の影響で実力が分かりづらいのもテスト撮影としては好ましくないと思い、月の出前に撮れる対象としてNGC253「ちょうこくしつ座銀河」を選びました。色的には地味なのですが、中心部のオレンジ色など目立つ色もあるので、LRGB合成の具合もある程度は判断できるかなと。

撮影鏡はいつもの 8cm F6 屈折の直焦点(BLANCA-80EDT)です。接眼部は購入時にオプションのDXマイクロフォーカス接眼部に換装済み。月面のテスト撮影では合焦に問題はなかったのですが、長時間露出のガイド撮影に耐えられるかどうかはまだ不明。また、今回初めてフラットナーを使います。

この日までにLRGBの撮影方法や画像処理方法は他の天文家の方のブログ等を見て予習していました。フィルター毎の撮影順は高度が低い時に R や Hα、高い時に B と L、G はその中間の時に、同じフィルターのフレームをまとめて撮るのが一般的なようです。

フィルター毎にスタックするので1フレーム毎にフィルターを変えて撮影時間が長くなると光害カブリの変化が大きくなって画像処理が難しくなるのでチャンネル毎にまとめて撮った方がよい、大気による散乱の影響を受けにくい長い波長は高度が低い時に、大気の影響を受けやすい低い波長は高度が高い時に、Lは画質の要なので南中時の良い条件で撮る、という理屈です。

今回は対象が撮影開始時に南中していたので、L、B、G、R、Hα の順で撮りました。ASI294MM は Bin 2 (4144 x 2822, 約1200万画素)で撮るのが標準ですが、ちょうこくしつ座銀河は以前同じ鏡筒で ASI290MC で撮ったことがあり、比較のためにも同等以上の解像度で撮りたいと思い Bin 1 (8288 5644, 約4700万画素)で撮りました。bin1 ではピクセルサイズが2.315μmになり、ASI290MC の2.9μmより高解像度です。

春頃に銀河はクリアフィルターもしくはノーフィルターで撮るのがよいという話があったのですが、EFWmini には5つしかフィルター穴がなくて L/R/G/B/Hα で埋まってしまったので、L画像は普通にLフィルターで撮りました。Hα撮るのやめて外そうかとも思ったのですが、枠なしフィルターの付け外しは手間ですし神経を使う作業なので諦めました…

この日は SharpCap でのフィルターの切り替え方法がわからなかったので ASCOM Diagnostics の Choose Device から EFW を選んで [Properties] で開いたダイアログから操作していました。

これは後日 SharpCap の設定で SharpCap から制御できるようになりました。メインメニューの [File - SharpCap Settings] で設定画面を開いて [Hardware] タブの Filter Wheel から [ZWO FilterWheel (1)] を選択して [OK] です。*2

カメラの冷却は SharpCap から2℃/分を目安に手動調整でゆっくり冷やしていきました。-10℃まで冷やしましたが冷却パワーは50%くらいだったかな?まだまだ余裕がありました。

気を付けたいのは撮影後。うっかりカメラを Close Camera で閉じてしまうと冷却も即停止して一気に温度が上がります。結露の原因になるのでゆっくり温度を戻すべきとのことなので、撤収時は最後までカメラの接続を保ったまま設定温度を徐々に上げていきます。というか、この日はこのうっかりをやらかしてしまいました。幸い結露はなかったようですが…

ピントはLフィルターで SharpCap のバーティノフマスク支援機能で追い込んだ後、他のフィルターでもそのまま撮影しました。3枚玉アポですし、フィルターの光路長もほとんど変わらないらしいし、RGBの方はLRGB合成時にぼかし処理を入れるくらいなのであまり神経質にならなくてよいかなと。

露出時間はL画像で試し撮りして Gain 150 で2分露出に決めました。RGBも同じ露出にしました。RGB の方が光量が落ちるので長めに露出した方がよいかとも思ったのですが、画質への影響が少ないからLより短くても構わないとの話もあり、いまいち判断がつかないのでとりあえず同じに。

Hαはさらに暗くて2分ではほとんど何も写らないので4分露出で撮る予定でしたが、後述するようにガイドが安定しなかったので Gain 300 の2分露出で撮影。それでも星像が流れてしまって結局撮影をあきらめました。

L/R/G/B/Hα各8コマを目標に撮影しましたが、Bin 1 での高解像度撮影のせいかガイドの乱れが目立ちます。極軸はドリフト法で追い込んだので赤緯ガイドは安定していたのですが、そのせいで赤経方向の揺らぎが赤緯より大きくなり星像が東西に伸びる傾向があり、時折伸びすぎて一つの星が二つに写ってしまうこともありました。

最後のHαの撮影はかなり「イナバウアー」状態での撮影だったのですが、このあたりから異変が。PHD2 のターゲット表示ではガイドに大きな偏りはないのに撮影画像では明らかに星像が東西方向に流れているのです。それが何分間も続いて写野がどんどんズレていきます。

接眼部がゆっくり撓んでいるのか、あるいはフィルターがゆっくり傾いているのか。ガイド鏡は接眼部の根本のファインダー台座に取り付けているので、ドローチューブから先の部分で何かが起きているのは確かなのですが特定できませんでした。

結局Hαの撮影は断念して撮影を終了。フラットは今まで通り対物レンズの前に白画像を表示した iPad をかざして撮ったのですが、これが間違いでした… LRGB撮影だとフィルター毎にフラットを撮らなくてはならないのですが、手持ちでかざした iPad では平行性が安定せずフィルター毎にフラットの品質がバラついてしまったのです。

LRGB 合成するとこれが色ムラの原因となり、処理が困難になりました。結局 FlatAidPro でフィルター毎にフラット補正を行ってからLRGB合成しました。FlatAidPro は未だに無料版を使っているので画像は800万画素に収まるようにトリミング。

結果はこうなりました。基本的にストレッチやノイズ処理、カラーバランス調整等のみで、星マスク等のマスク処理はしていません。

NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2021/10/29 21:58-23:38)
NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2021/10/29 21:58-23:38)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) + ED屈折用フィールドフラットナーII (合成F6) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.10 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro(Binning 1, Gain 150, -10℃), SharpCap 3.2.6482, 露出 L: 2分 x 8, R: 2分 x 8, G: 2分 x6, B: 2分 x 7 / DeepSkyStacker 4.2.6, Photoshop 2022, FlatAidPro 1.2.3, Lightroom Classic で画像処理

フィルター毎にコンポジット枚数がバラバラですが、ガイド不調でボツにしたコマが出たせいです… とはいえコマ数の割には結構よく写っているのでは?

昨年11月に ASI290MC で撮ったのがこちら。3分露出の32コマコンポジットです。

低空の対象で大気の透明度などの条件が異なりますし、画像処理も違うので単純には比較できませんが、今回の写真のL画像が2分露出の8コマコンポジットなのを考えるとノイズの少なさは明らかなようです。

一方で分解能は今回の方が劣ります。今回はガイドエラーが大きく星像が明らかに流れているのでその影響でしょうか。淡い部分の写りは今回の方が良くて、あぶり出し耐性が高そうに見えるのですが、このあたりは空の透明度次第でだいぶ変わるので何とも言えません。

写野周辺部の写りも確かめたかったので FlatAidPro(FAP) で撮影画像を40%縮小したものからシェーディング画像を作成して2.5倍に引き伸ばして Photoshop で処理するという脱法 FlatAid 処理(?)をやってみました。

NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2021/10/29 21:58-23:38)
NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2021/10/29 21:58-23:38)
撮影データは上に同じ。

フラットナーはそこそこ効いている感じですが、四隅の星像は等倍で見ると明らかに伸びていますね…

さて、画像処理ですが、DeepSkyStacker(DSS) でのスタック処理はこちらの記事を参考にしました。

具体的には以下のような手順で処理しました。

  1. まず DSS でL画像をスタックする
  2. スタック後 Score が最大で dx, dy が 0 のライトフレームを参照フレームに設定
    • フレームを選択して右クリックメニューから [Use as reference frame] を実行
    • 参照フレームは Score の頭に「(*)」マークが付く
  3. 参照フレームだけ残してファイルリストの内容をR画像のものと入れ替える
  4. 参照フレームのチェックを外してR画像をスタックする
    • 参照フレームのチェックを外すとスタックの対象にはならないが位置合わせの基準として使用される
  5. 同様の操作をG,B画像についても繰り返す
  6. Phothoshop で DSS でスタック済みのR,G,B画像を 軽くストレッチ(レベル補正)
    • R,G,B 全て同じパラメーターで補正すること
  7. FAP でストレッチ済みのR,G,B画像をそれぞれフラット処理
  8. DSS でスタック済みのR,G,B画像を Phothoshop でそれぞれ開く
    • 画像のタブが3つ開いた状態にする
  9. R,G,B いずれかの画像で [チャンネル] タブを選択してタブバーの右端のボタンで開くメニューから [チャンネルの統合...] を選択
  10. ダイアログの画像モードのメニューで [RGB カラー] を選択して [OK]
  11. 開いている3つの画像をレッド、グリーン、ブルーのチャンネルに適切に割り当てて [OK]
    • 3つの画像が閉じてRGB合成済みの新規画像が開く
  12. カラーバランスを調整して保存

あとは惑星のLRGB合成と同様に Lab モードに切り替えて、LチャンネルにL画像のLチャンネルをコピペすればOKです。

ちなみに脱法 FlatAid の場合は縮小画像のフラット画像(ファイル名末尾に _ff が付く)を保存して元の倍率に拡大後、元画像の上にレイヤーで重ねて不透明度50%にして減算すると良さそうな感じになりました。最初はフラット補正だから除算だろと思ってやってみましたがうまく行かず試行錯誤してこれにたどり着いたのですがこれでいいんでしょうか… この機会にちゃんと課金して合法 FlatAid に移行しようかと思います…

ということで結果自体はやや残念な結果になりましたが課題の洗い出しはできました。

  • 望遠鏡の姿勢によってガイド不良になる問題
  • 手持ち iPad ではフラット画像が安定せずRGB合成時に色ムラが発生する問題

最初の問題の原因は接眼部の撓み(冷却カメラが重いため姿勢変化でドローチューブが傾いた?)の可能性が濃厚です。西の低い方向を向くまでは顕在化しなかったのでその方向での撮影を避けることで回避はできそう。でもLRGB撮影はどうしても長時間撮影になってしまうので、避けられるかどうか… あとは接眼部の各種固定ネジの締め増しでしょうか。

二番目の問題はフラット光源を固定する方法があれば解決できますが、筒先に被せる方式の専用のフラット光源は値が張りますし小口径用のものは国内に在庫がないようです。

後日それぞれ対策を試みたのですが… (続く)

*1:惑星でやっていたモノクロカメラとカラーカメラを組み合わせたL+RGBではなくモノクロカメラとカラーフィルターを使ったL+R+G+Bの撮影。

*2:ただしこれをやると Filter Wheel を接続していない状態で SharpCap を起動すると警告が出るようになります。起動時に一回無視すればよいだけですが最初はびっくりしました。