12月4日の明け方にレナード彗星(C/2021 A1)と球状星団 M3 の接近を撮りました。M3 との接近は日本では3日明け方が最接近、海外ではほとんど重なるくらいに大接近したツーショットを撮った人もいました。*1
しかし、3日明け方は前日の撮影の疲労が激しくて目覚ましが鳴っても起き上がれず、結局パスしてしまいました。「レナード彗星のバカ!このまま崩壊しちゃえ!」ぐらいの気持ちでいましたが、回復してくると「ごめんさっきのナシ!」ってなって撮ることにしました。
接近と言っても実際の距離はぜんぜん近くなくて、地球からの距離は M3 が 32620光年 = 約31京km、レナード彗星は 0.890AU = 約1.3億km と、M3 の方が24億倍遠くにあります。*2 要するにこの現象は本来「M3 とレナード彗星と地球がほぼ一直線上に並んだ」と言うべきもので、物理的には特に意味はありません。が、M3 星人(いたとして)の方は誰一人気づかない地球人だけが知っている現象ですので、地球人の責務として撮っておこうかな、と。
出遅れてしまったものの、まだ RedCat 51 + マイクロフォーサーズセンサーの写野内にはおさまります。前回はデジカメ(OM-D E-M1 Mark II)での撮影でしたが、ダークノイズの多さ、処理のしにくさに不満があり、思い切ってモノクロ冷却CMOSカメラ(ASI294MM Pro)で撮ることにしました。どうせ最接近じゃないし失敗してもいいから冒険に出るのもいいかなと思って…
ということで、結果はこうなりました。
やりました。これは撮れたと言っていいでしょう。 光害で尾はあまり写らないと思ったのですが、想像以上に尾が伸びています。M3 もちゃんと球状星団の星のつぶつぶが解像して存在感のある写りになりました。
ちなみに尾の淡い部分が見づらい時は画面を揺らすと見やすくなるようです。ウインドウを素早く振ったり、マウスホイールで拡大縮小できるなら素早くズームインズームアウトを繰り返しても可。
暗い場所でよく見ると背景に結構色ムラが残ってたりもするのですが、実はカブリが盛大に出て段階フィルターを5つ使って整えました。低空の光害カブリも情報のうちだと思って少しカブリを残しておきましたが、ひょっとすると背後から直撃していたLED照明の光が機材のどこかから光線漏れして迷光になっていたのかも。*3
撮影は大変でした。これまでLRGB撮影は、フィルター毎の必要なコマ数をまとめて撮影していたのでフィルター切り替え回数はフィルターの種類の数だけで済んでいましたが、今回は1コマ撮る毎にフィルターを切り替えていたからです。
低空から昇っていく天体を撮ると光害の影響が刻一刻と変わるためフィルター毎にカブリ方が大きく違ってくることが予想され、そうなるとRGBチャンネル毎の画像処理が大変になるからです。コマ毎に1分露出なら毎回フィルターを切り替えればどのフィルターの画像もほぼ同じカブリになるためチャンネル合成後の画像でカブリを処理しても色ムラになりにくいはずです。
そのかわり撮影はめちゃくちゃ忙しくて #天文なう とかつぶやく暇もない有様でした。SharpCap はスクリプトを書けばフィルター切り替えと撮影を自動でできるらしいんですが、今から書いてデバッグしてる暇ないし、他人のスクリプト使うにしても事前テストは必要なため、今回は気合で手動切り替えすることにしました。
フィルターを切り替えて撮影開始をクリック、フィルターを切り替えて撮影開始をクリック… 繰り返すこと48回。さすがに1回間違えて露光中にフィルターを回してしまってボツにして再撮影したり、露光時間の設定を間違えて(これは後で気付いた)1枚ボツにしたりというのはありました。*4
今回はLRGBの露光時間は全部同じなので露光時間の設定ミスなんてしなくてよさそうなものですが、SharpCap は露光ループ中に撮影開始すると既に露光が始まったフレームから保存する仕様で、普通はこれで便利なのですが、露光中にフィルターホイールを回してもそのまま露光を続けてしまうため、そのコマをボツにするために1回の露光時間分待たなくてはならず、それを避けるために一度露光時間を別の値に切り替えてから元に戻すということをやっていました。
架台は今回もカメラ三脚(マンフロット 055XDB)とスカイメモSです。前回のオートガイドのトラブルはガイドカメラを ZWO ASI290MM に交換することで回避しました。極軸合わせは PHD2 のポーラードリフトアライメントで追い込みましたが、そこそこズレていたようで1時間で赤緯方向に30ピクセルぐらい(角度にして40秒くらい)流れていました。
1分露出なら十分な精度ながらコンポジットすると縮緬ノイズが出るのでは?と思いましたが意外と大丈夫だったようです。別の撮影では盛大に縮緬ノイズが出たことがあるので、冷却カメラなら出ないってわけでもないみたいですが、理由はまだよくわかりません。
導入は前回手動導入に苦労したので事前に Stellarium の望遠鏡視野プラグインでスターホップの時にカメラの写野に星がどう見えるか表示したものをスマホに保存しておいて、それを見ながらアークトゥルスから辿っていきました。
実はピント合わせが終わって導入開始の時点でカメラの向きが南北逆だったのに気付いて、RedCat 51 は鏡筒回転で対応できるものの、うっかりピントリングに触ってピントがズレるとやり直す時間がないので*5 星図の画像の方を逆さに見ることで対処しました。
結果的にはほとんど迷うことなく導入できました。SharpCap のプレビューにレナード彗星の彗星らしい姿が飛び込んできた時は感動しました。デジカメのライブビューだとノイジーで「恒星とはなんか違うやつ」ぐらいにしか見えなかったので。
露光時間は迷ったのですが ASI294MM Pro の Bin 2 (1200万画素)だとピクセルサイズが大きめで目立たないかと思って前回の40秒から1分に伸ばしました。当日のレナード彗星の移動速度は赤経方向が+7.5"/分、赤緯方向が-2.6"/分で、3.8"/ピクセルの解像度だと1分間に +2.0ピクセル/-0.7ピクセル の移動量。このくらいなら許容範囲かなと。
画像処理は、彗星核基準コンポジットだとRGB合成で恒星が重ならなくなって恒星の流れる線がカラフルになってしまうはずです。それはさすがに見苦しいので彗星核基準/恒星基準の双方でσ-κクリッピングでブレる恒星/彗星を消してから合成して彗星も星も止まった写真にしました。以前ウィルタネン彗星でやった処理です。
が、今回は彗星の跡だけでなく、彗星核基準の方にも M3 の跡がクッキリ残ってしまいました。球状星団は星の粒が密集しているので、星粒が流れても他の星粒と重なってσ-κクリッピングでも消えない部分がたくさんできてしまうのです。今回はそれぞれマスクを作るのが面倒なので、やや邪道ですが目立つ部分を手動で範囲選択して「明るさの中間値」フィルタで処理しました。
というわけで最接近は逃しましたが構図的には悪くないし、満足です。でもあんな忙しい撮影はなるべくならやりたくないので SharpCap のスクリプトを勉強するか(言語は Python のようです) N.I.N.A に移行するか…