Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

ベランダから天頂付近を通る天体を撮影するための危険な技

マンションの南向きベランダからの撮影では、ルーフバルコニーのようなタイプは別にすると、ベランダの天井が邪魔になって天頂付近を通る赤緯の大きい天体は撮影できません。うちのベランダでも SX2 だと M45 プレアデス星団(赤緯24°07′)あたりが限界で、M33 さんかく座銀河(赤緯30°40′)は無理でした。

スカイメモSでは北側に飛び出ない小さな赤緯体と開き幅の小さいカメラ三脚との組み合わせのおかげで、三脚の脚を一本ベランダの縁石に乗り上げる形にすれば M33 はギリギリ撮れたのですが、SX2 でこれをやる勇気はないし、SX2 のサイズだとそれでも無理です。

なのでそういう天体を撮る時は野外で撮影するのが常でしたが、SX2 を階段 + 徒歩で持ち出すのは無理があるため、使える機材は限られるしポタ赤とはいえ直焦撮影でオートガイドの機材も持っていくとなると体力の消耗も激しいし、近所の公園は照明が明るすぎて条件も良くないし…

ということで、悩んだ挙げ句こうしました。じゃん。

※以下で示す機材の使用法はメーカーの想定外の使い方になるため安全性は一切保証できません。真似する場合は自己責任でお願いします。

ベランダの天井との戦い(ホームポジション)

ベランダの天井との戦い

おわかりいただけただろうか…

はい。スカイメモS用の赤緯体をSX2のアリミゾに取り付けて、鏡筒を赤緯軸から南に20cmほどオフセットしました。赤緯体は純正の「微動台座&アリガタプレート」「バランスウエイト1kg」、アイベルの「スカイメモS用タカハシプレート」、ビクセンの「プレートホルダーSX」の組み合わせです。

スカイメモSのビクセンのアリミゾ対応改造については以前こちらに書きました。

この改造は必ずしも必要ないのですが、元々のカメラネジによる固定だと、この方法を使うと赤緯体が倒立して鏡筒の荷重がカメラネジに集中してしまうので機材の重量によってはかなり危険と思われます。

12月29日に RedCat 51 とフォーサーズセンサーの ASI294MM Pro の組み合わせでこの方法を試してみたところ、20:00頃から IC405 勾玉星雲(赤緯34°23′)がベランダの天井から姿を表しました。そしてマンションの向きの関係で22:00過ぎに再び天井に隠れました。画角内に天井が入らずに撮れるのは2時間弱。雲が多かったので撮影自体は失敗でしたが、撮れるということは確認できました。

この方法自体は僕の発明ではなくて、以前どなたかのブログで似たような方法を紹介されていたのを見て真似したのですが、ブックマークしておいたはずなのに今探しても見当たらない… すみません。

ただしこの方法(以下「二重赤緯体方式」と呼びます)、色々問題があります。

導入時に窓やベランダの柵などに衝突する可能性

赤緯軸から20cm以上張り出した位置に鏡筒があるため、旋回半径が予想外にデカくなります。ぶつからないように事前にクランプフリーでゆっくり旋回して安全を確認するべきです。

鏡筒が前方あるいは後方に余計に飛び出ている場合は、導入後の姿勢でクリアランスに余裕があっても導入の経路によっては途中でどこかにぶつかる危険性があります。自動導入の際には鏡筒から目を離さないようにして、危ない時は即座に導入を停止できるように備える必要があります。

子午線を越えられない

ドイツ型赤道儀だと鏡筒があまり太くなければ子午線を越えてもある程度追尾を続行可能です。いわゆる「イナバウアー」姿勢です。しかし二重赤緯体方式だと子午線を越えるとすぐ鏡筒が赤道儀に衝突します。気付かずに放置すると鏡筒やカメラが破壊されてしまいます。

かといって子午線越えの自動反転も危険ですし無意味です。鏡筒の旋回ルートによっては衝突の危険性もありますし、ケーブル類が絡まったり長さが足りなかったりで事故に繋がります。しかも二重赤緯体方式は鏡筒を南側にオフセットするための方法なのに、そのまま子午線越え反転すると鏡筒が北側にオフセットしてしまうので意味がありません。

やるとしたら二つ目の赤緯体の赤緯軸で反転させる必要がありますが、自動制御する方法はいまのことろないですし、手動でやるにしても鏡筒を赤道儀に衝突させないようにするにはかなりややこしい動きをさせる必要があります。*1

そんなわけで…

これでベランダからの撮影可能範囲が若干広がりました。実はこの方法、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を撮りたくて試したのですが、その件については改めて。

*1:たぶん。実際には試していません。