Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

土星の傾きの変化と環の消失について

22日深夜に撮った土星の環は今まで撮った中で一番水平に近い傾きでした。土星を今の機材で撮るようになったのは2018年からですが、その時は環がもっと丸い楕円形に見えていました。いつの間に?ということで、2018年から今までに撮った土星の画像を並べてみました。*1

土星の傾きの変化 (2018〜2022)
土星の傾きの変化 (2018〜2022)

写真の向きは土星の北極が上になるように揃えてあります。画像処理が揃ってないのでちょっと見苦しいですが… 2019年から2020年の間に傾きの変化が加速しているようですね。

2018年には土星の傾きがほぼピークでした。地球からは土星の北極方向から見下ろすような角度で見え、土星の南半球の大部分が環とその陰に隠れて、カッシーニの間隙からわずかに垣間見えるのも萌えポイントでした。とはいえ、今ぐらいが一般の人のイメージする土星の姿に近いのかもしれません。

地球から見た土星の傾きは約30年周期で変化しており、約15年周期で地球に対して環が水平になって見えなくなり「消失」する時期が巡ってきます。今から3年後の2025年がその時期にあたります。

どうしてそうなるかは国立天文台の「暦Wiki」の解説や、鈴木充広さんの「こよみのページ」の解説が詳しいです。

ざっくり言うと、土星の自転軸が公転軌道に対して傾いているため、それを正面から見るか横から見るかで傾きが変化して見えます。そのため軌道の内側から見ると土星の傾きは土星の公転周期である約30年の周期で変化します。

さらに、土星と地球の位置関係は地球の公転によっても変化するため、一年の間でも土星の傾きがわずかに変化します。そのため、傾きの推移をグラフにすると大きなサインカーブのような周期に小さなギザギザの揺らぎが重なったようなグラフになります。*2

このあたりについては、ぐんま天文台のサイトに大変わかりやすいアニメーションで示した解説があります。

そして「環の消失」ですが、実はこれには二通りあります。

一つは「土星が地球に対して横を向くとき」に起こる「環を真横から見る位置に来ると環の厚みが薄すぎて*3 地球からは消えて見える」という現象。もう一つは「土星が太陽に対して横を向くとき」に起こる「太陽に対して環の傾きが水平だと環に光が当たらなくなるので、暗くなって見えなくなる」という現象です。

土星から見ると地球も太陽もほとんど同じ方向なので、2種類の「環の消失」は同じくらいの時期に起きるのですが、現象としてそれぞれ異なるものです。というか、後者の「土星が太陽に対して横を向くとき」の方は今まで知りませんでした…

2025年の環の消失は「土星が地球に対して横を向くとき」と「土星が太陽に対して横を向くとき」が1回ずつ起きます。「暦Wiki」によると、前者が日本時間で3月24日の午前4時ごろ、後者が5月7日の午前1時ごろです。*4

2025年3月24日の環の消失は日本からだと地平線下ということもありますが、太陽からの離角が10度しかなく、地上からだと世界中どこでも夜に見るのは不可能で、よくても薄明下でしか見えません。土星は望遠鏡で見れば昼間でも見えなくはないのですが、消失前後の暗くなった環はおそらく見えないので見てもしょうがないかも…

2025年5月7日の環の消失も日本からだと地平線下です。離角は48度あるので、海外なら見れる場所もあります。条件が良いのはクック諸島あたり?ステラリウムでシミュレーションすると、首都のアバルアからだと天文薄明中に高度33度ぐらいで見えるようです。さすがにそんなところまで惑星撮影用の機材を持って遠征する気にはなれませんが…

日本でも4時頃には薄明下で高度15度まで昇りますが、その時点で環がどう見えるかよくわかりません。ステラリウムは「土星が太陽に対して横を向くとき」の環の消失はシミュレーションしてくれないようです。

2025年を逃すと次は2038年から2039年にかけての時期。「土星が地球に対して横を向くとき」が3回、「土星が太陽に対して横を向くとき」1回ありますが、日本から見れそうなのは後者の1回のみ(2039年1月23日午前6時)。その頃まで天文続けられるかなぁ…

*1:それぞれの撮影時の記録は以下の通り。

*2:ガイドグラフみたいな、と言ったらマニアにはわかりやすい?

*3:土星の環の厚みは数10mから数100mと考えられています。

*4:後者は「こよみのページ」では4月26日になっていますが「少々雑な計算の結果なので実際の消失日と3~4日程度の差がある」とのことなので、「暦Wiki」の方が正確なのだと思います。