惑星写真の画像処理で WinJUPOS の de-rotation を使う場合、de-rotation と wavelet の順番をどうするかという問題があります。以前だいこもん(id:snct-astro)さんから尋ねられた時はこう答えました。
de-rotation してから wavelet ですね。ノイズを減らして wavelet で攻める余地を作るのが de-rotation の目的だと思うので、必然的に。measurement の際には wavelet したものを一度読み込んで位置合わせしますが。
— 🌻ナょωレよ″丶)ょぅすレナ🌻 (@rna) June 21, 2019
例えば同じ wavelet パラメータを使う場合、ノイズが少ない画像を前提に設定した強いパラメータをノイズが多い画像に適用するとノイズが強調されてザラザラになったり、RGB画像だとカラーノイズが強調されてしまって、de-rotation でこれを数枚スタックしてなんとかなるのか?という疑問があります。
また、linked wavelets を有効にして処理すると、強すぎるパラメータではヘックス状の周期的なノイズパターンが浮いてくるため、こういったランダムではないパターンはスタックしても消えないだろうということもあり、やはり de-rotation してから wavelet だろうと考えていました。
WinJUPOS のヘルプにも de-rotation してから wavelet するような記述があります。「De-rotation of images」の節の以下の記述です。
- Tip:
- It is better to choose a 48 bits format for the final image, PNG or TIFF. Then, you can use the wavelet function of Registax to sharpen the image. The image should be saved with 8 or 24 bits only after this enhancement.
- Pay attention to put a correct LD valuefor each separate image. If the values are too high (it can be tested in the module Image Measurement), the result is a very ugly limb effect in the final image:
結果画像をPNG/TIFFで出力すると際に 48 bits を選択すると、出力画像で Registax の wavelet 機能が使えるよ、というもの。実のところ 24 bits でも使えるはずですが wavelet の耐性がかなり落ちるので*1 48 bits がいいよ、という趣旨なのだと思います。
ということで、de-rotation してから wavelet で OK だろう、そもそも逆にするメリットはないし…
先日の木星の画像処理の時、実は de-rotation でリムに出るアーティファクトがどうしても抑制できなくて悩んでいたのですが、
そこでふと思ったのです。これ、wavelet 前のボケた像を de-rotation すると木星の円盤の外にはみ出したボケの部分どうなってるんだろう?ひょっとして、ボケの部分が泣き別れになって、それで変なことになってるんじゃないか?と。
というわけで試してみました。まず、今まで通りの de-rotation してから wavelet したもの。
右側のリムに細くて明るい弧が出ているのがわかるでしょうか。これは de-rotation しないと出てこないもので、実際には存在しないアーティファクトです。WinJUPOS のヘルプにはこういう時は LD value を下げよとあります。
LD value は惑星の端からの反射光が、惑星が球体であるため中央からの反射光より暗くなるのを補正するためのパラメータです。de-rotation で中央寄りにあった像を端に持っていく場合、像の明るさを暗めに補正するのですが、その度合いを調整するもので、小さい値を設定するとより暗く補正されます。僕は経験上 0.9 前後にすることが多いです。
ところが、前回の撮影画像では LD value をいくら低くしてもアーティファクトが消えませんでした。そのため最終的には Photoshop でマスクしたりトーンカーブを調整して誤魔化したのですが…
では wavelet してから de-rotation したものはどうでしょう?それがこちら。
アーティファクトがなくなりました!ノイズもさほど不自然なところはありません。ということは wavelet してから de-rotation が正解なのでしょうか?
ちなみに左側のリムの外側に薄く弧が出ているのは de-rotation 前の wavelet で既に浮き出ているもので、元々の画像にある像が強調されたものです。これは「リムの二重化」などと言われ、惑星の明るい側のリムには付きものなのですが、光学的な原因(回折)で発生するもので、本質的には画像処理のせいではないのだそうです。これについては以前火星の画像処理について書いた時に触れました。
元々リムが明るく輝きがちな火星の場合はなかなかいい方法がなくて、観賞用に仕上げるならマスクをかけるしかないだろう、という話。木星ぐらいだとトーンカーブを少しいじって目立たなくできるのですが。
ということで、この画像にさらに wavelet を軽くかけて仕上げたものがこちら。
RGB画像の方も同様に wavelet してから de-rotation しています。RGB の方がアーティファクトが目立っていたため、前回は RGB は2本分しか de-rotation しなかったのですが、今回は3本分 de-rotation しています。本数を増やすほどアーティファクトが目立つため処理が難しくなるのですが、wavelet してから de-rotation では平気でした。
de-rotation 前の画像の wavelet と後の画像の wavelet の強度の配分など課題はありますが、wavelet してから de-rotation が正解かなという気がしてきました。
そういえば、ずっと「土星の de-rotation がうまくいかない」と言っていましたが、ひょっとしてそれも解決できちゃう?と思ってやってみました。
7月22日深夜の土星です。まず、de-rotation してから wavelet したものがこちら。
うまくいかない、というのは土星の環と本体が重なる部分。*2 環の向こうの本体の縁に黒い弧のアーティファクトが出てしまうのです。これを画像処理で補正するのは無理があるので、今まで諦めていたのですが…
そして wavelet してから de-rotation したものがこちら。
カンペキじゃないですか?これ!?
ということで土星の方も仕上げてみました。せっかくなので同じ元画像から超キツい wavelet であぶり出した衛星の像も合成して仕上げたものがこちら。
de-rotation によるノイズ低減を当てにして wavelet を強めにかけたので、土星の縞模様も de-rotation しないものより見やすくなりました。衛星は左から、エンケラドゥス、ミマス、木星を挟んで右上にディオネ、テティスです。衛星をあまり明るくすると不自然になるので押さえ気味にしています。ミマスが見えない人は部屋を部屋を暗くするかモニターを掃除してください…!
ということで積年の懸案も解決しました。しかし惑星撮影5年目にして今更気付くとは… 不覚です。ひょっとして、みんな知ってて黙ってたんですか!?
まあ、木星の方は今まで LD value の調整でなんとかなっていたし、おそらくシーイングが悪かったり口径が小さくて回折像がデカかったりすると誤魔化しきれなくなるという話で、大口径で撮ってる人やシーイングのいい海外で撮ってる人にはあまり関係ないのかも?