Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

皆既月食・天王星食 撮影記

既にエントリにまとめた通り、11月8日に皆既月食天王星食を撮影しました。


このエントリでは撮影までの準備と撮影中のあれこれや反省点をまとめます。

方針を決める

今回は皆既月食天王星食が同時に起こるということで、どちらかに絞るのか、両方撮るのかというところから悩んでいました。両方撮るとなると赤道儀が2つしかなくて、しかも SX2 の方は自力で外に持ち出す手段が今のところなく、必然的にベランダでの撮影になります。

当日は月が北に寄っていて、ほぼ東北東の位置から月の出で、欠け始めの月は南向きのベランダからは撮れません。かといってマンションの北側の廊下の東の端に陣取ると皆既の月が撮れません。途中でベランダに移動するのは極軸合わせが間に合いそうにないのでナシ。

ということでまず月食の全過程を撮るのは諦めて、ベランダから皆既の前後のみ撮ることにしました。これで同時に天王星食を撮るのも現実的になります。

天王星食の方は、せっかく撮るからには天王星が円盤状に見えるだけのクローズアップで潜入と出現の過程をじっくり動画で撮りたいと思い、μ-180C の直焦点に CMOS カメラを付けて撮ることにしました。動画は等倍速でじっくり見れる30fpsで撮りたいし、青緑色の天王星と赤銅色の月面の色の対比を楽しみたいので、ASI294MM Pro で撮るのはナシにして、ASI290MC を選択。

できれば天王星の衛星が次々と掩蔽を起こす様子も撮れればと思ったのですが、1/30秒露出で映るかどうか… でも30fpsにはこだわりたいし、天王星露出オーバーになると少しずつ隠れていく様子が見えなくなるので、衛星は写ればラッキーぐらいの気持ちで行くことにしました。結果的には1/30s露出では衛星はノイズに埋もれてしまい、スタックして炙っても何も出てこなかったのですが…

うちの機材で μ-180C を載せられるのは SX2 だけなので、月食を撮る鏡筒はスカイメモSに載せることになります。当然カラーで撮りたいのですが、天王星食と並行してモノクロCMOSカメラでLRGB撮影なんてやってられないので OM-D E-M1 Mark II で撮ります。

FSQ-85EDP をスカイメモSに載せる

ここで迷ったのがどの鏡筒を使うか。以前と同じ BLANCA-80EDT で撮るか、今年買った FSQ-85EDP で撮るか、ということ。直焦点で月を撮る分にはどちらもたいして違いがないのですが、せっかくなので FSQ-85EDP で撮りたいという気持ちが強くありました。

ですが、BLANCA-80EDT は2.4kg(DX接眼部に換装)でスカイメモSの純正オプション「微動台座&アリガタプレート+バランスウエイト」(ドイツ式赤道儀にするオプション)に載せてもバランスしますが、FSQ-85EDP は4.6kg(K-ASTEC 鏡筒バンド一式込み)もあり、そのままでは載せられません。

ちなみに「微動台座&アリガタプレート+バランスウエイト」はビクセン規格アリミゾ付きの改造品で、重量は全部合わせて2.0kgあります。

これに FSQ-85EDP を載せるなら追加のウエイト(1kg)が必要になり、合計で7.6kg。耐荷重約5kg(ウエイト等込みの合計)のスカイメモSには文字通り荷が重すぎます。

しかし諦めきれず10月の末にこんなものを買いました。

Neewer のカーボン製ジンバル雲台 GM100 です。これでスカイメモSをフォーク型赤道儀にしようという目論見です。

似たようなジンバルは他の中国メーカーから色々出ていますが、カーボン製で軽いのと、Neewer はかなり長く続いているブランドで、過去にアルカクランプやカニ目レンチなどを買って概ね満足していたので、これにしました。

ジンバルの三脚への取り付けネジは3/8インチで、スカイメモS付属のショートプレートをねじ込んでスカイメモSに取付可能です。ショートプレートと合わせた重量は1.2kgで、FSQ-85EDP を載せると5.8kg。

ちなみに BLANCA-80EDT をドイツ式で載せると4.4kg。それに比べて1.4kg重く、さらに重心が前方に飛び出すことを考えると過積載には違いないのですが、でもダメ元で買ってしまいました。

ジンバルへの鏡筒の取り付けはアルカクランプになるのでアルカ互換のアリガタが必要になりますが、これは RedCat 51 の付属のアリガタが裏返すとアルカ互換になる優れものなので、それを使うつもりでした。が…

はい。「アルカあるある」ですが、相性問題が出てしまいました。ジンバル側のクランプをいくら締めてもアリガタを固定できません。どうやらアリガタの溝の断面の台形の斜めの部分の角度が微妙に違うようで、0.5mmほどの隙間ができてしまうようです。加えてこのアリガタ、M6ネジで固定するタイプなので、鏡筒バンドのベースプレート(TP-60-222)のM8ネジとは合いません。

ということで、アルカ互換アリミゾガチャを引くべくネットの海を彷徨っていたところ、三基光学館のオリジナルのアルカ互換アリガタ「アリガタレールA10-145」を見つけました。タカハシ互換の35mm間隔のM8ネジで固定するタイプで、これなら素直に取り付けられるはず。

早速発注しようかと思ったのですが、お店が相模原ということで、通販するより直接お店に行ったほうが早いかも?と思って営業日を確認したところ、サイトの更新が3月で止まっていることに気付きました。店長ブログの方も2月の「リハビリ開始です」を最後に更新が止まっています。Twitter で調べると3月20日に Sam さんがお店に寄った時はおやすみだったとのこと。サイトのカレンダーでは営業日だったはずなのですが…

ということで店長の様子が心配なのですが、一応三基のアリガタを発注しつつ、別のアリガタも探すことにしました。ちなみに発注後すぐ自動返信メールは届きましたが、その後今に至るまで音沙汰がありません…

さて、別のアリガタですが、M8ネジのアルカ互換アリガタは他には見当たらず、M6ネジのものしか見つけられませんでした。そこでM6ネジをなんとかM8ネジに変換する方法はないかと探して見つけたのがこちらです。

埋め込みナットと呼ばれる、形は中空のイモネジで内側にM6の雌ねじが切ってあり外側がM8の雄ねじになっているものです。ただ、この手の製品のレビューを見ると意外と割れやすいという記述もあったり… まあ、中にM6ネジが通っている状態ならなんとかなるのでは、と思い発注しました。ベースプレートの厚みが8mmなのではみ出さないように長さ6mmのものを選びました。

これが使えることを祈りつつ、注文したのはユニテックの「アルカスイスレールL」です。こちらは KYOEI-TOKYO に発注したところ、即日発送されて翌日に届きました。びっくり。皆既月食前ということで気を遣ってくれたのかも。

そしてこれらを組み上げてこうなりました。じゃん(個人情報保護のために背景はボカしてあります)。

「NEEWER GM-100 ジンバル雲台」を使ってスカイメモSにFSQ-85EDPを載せる
「NEEWER GM-100 ジンバル雲台」を使ってスカイメモSにFSQ-85EDPを載せる

ルカクランプとの相性は大丈夫でした。しっかり固定できます。過積載については、決して安定しているとは言えませんが、ピント合わせが不可能なほどではなく、鏡筒に触れても5秒くらいで揺れは収まる感じです。

テスト撮影では電子シャッターの1秒程度の露出なら問題なく撮れました。ただ風には滅法弱いのですが、これは BLANCA-80EDT でも相当弱かったので当日風が吹かないことを祈るのみです。スカイメモSでの追尾には問題なく、構図調整に使う正逆の2倍速も大丈夫でした。

ジンバルそのものはフリーストップの動きもスムースで、さすがに焦点距離450mmではクランプを締めた時に構図がズレるのですが、慣れればそれを見込んで構図調整することは可能でした。

アルカスイスレールの取り付け状況はこんな感じです。

M6-M8埋め込みナットを使って「ユニテック アルカスイスレールL」を「K-ASTEC TP-60-222」に取り付ける (1)M6-M8埋め込みナットを使って「ユニテック アルカスイスレールL」を「K-ASTEC TP-60-222」に取り付ける (2)
M6-M8埋め込みナットを使って「ユニテック アルカスイスレールL」を「K-ASTEC TP-60-222」に取り付ける

ベースプレートの K-ASTEC TP-60-222 の中心にはM8の貫通穴とネジ穴が交互に並んでいますが、ネジ穴の方に埋め込みナットをねじ込んで、そこにアルカレールの裏側からM6のキャップボルトをねじ込んで固定しました。

高速SDカードを発注する

機材は一通り揃ったのですが、撮影前日になって E-M1 Mark II で連写した時に SD カードの書き込みが遅くて書き込み待ちで連写が止まるのをなんとかしたいな、などと思い始めました。

月食の写真は stack & wavelet 処理して赤い月面のディテールを出したいと思っていたので一回80連写ぐらいはしたいのですが、昨年の月食では50コマ弱で連写が止まり、時間をあけて撮った分は欠け際の変化のせいなのか、月が動いたのをAS!3が追尾しきれなかったのかうまくスタックできず、結局前半の50コマ弱を選別せずに全部スタックすることになってしまいました。

今まで使っていたのは昔何気なく買った Transcend の SDXC カードで UHS-I, U3, V30 のもの。もっと速いカードはあるのか?と思って調べてみると、E-M1 Mark II では UHS-II の SDXC が使えるとのことで、実写テスト記事もありました。

U3 だの V30 だのの意味は SD Association のサイトに書いてありました。

V90 とかいうやつが最高なのですが、これは最低保証速度90MB/sという意味。ただ実写テストでは最大書込速度が90MB/sの最速UHS-1カードでも、RAWの連写は54コマまで、書込完了して次に連写できるようになるまで30秒程かかるとのこと。最大書込速度260MB/sのUHS-2のカードなら74コマ連写で10秒ほどで次の連写が可能。

ということで、UHS-II V90 で最大書込速度200MB/s超のカードで翌日の夕方までに届くものをヨドバシ.comで探して、KIOXIA EXCERIA PRO (UHS-2, U3, V90, 最大書込速度260MB)にしました。

https://www.yodobashi.com/product/100000001005731170/

普通のSDXCカードに比べるとかなりお高いのですが(税込13,300円)、色々使いみちもあると思うので買ってしまいました。

実際使ってみると確かに速くて、皆既中の1秒露出とかならいくらでも連写できそうでした。満月の撮影では最高連写速度での書き込みになりますが、60コマ程度連写できました。結局当日の撮影では64GBほぼ使い切りました。

天王星食の撮影

天王星食の方は新しい機材はないのですが、前々回のエントリにも書いたように追尾精度が足りないと「出現」の撮影で失敗するので、薄明がまだ残る17:20頃からドリフト法で極軸合わせを始めて18:00過ぎまでかけて追い込みました。誤差0.5分以下まで追い込んだと思います。

次に問題なのはADCの調整。天王星で調整するのは厳しそうなので、木星の高度が天王星の潜入時の高度と同じになる19:00頃に木星でプリズムの角度(2つのノブの開き具合)を調整しました。このときピントも合わせました。

木星天王星赤緯が異なるため高度が同じでもADCの向きは変わってくるので、撮影時にはADCのプリズムが水平になるように2つのノブを同じ方向に回転させて調整しました。ちなみに結局RとBに1ピクセルずつズレが残ったので、撮影した SER 動画を SER Player の機能で align したものを使って動画編集しました。

あとは前々回のエントリに書いた通りです。NVMe のSSDを使っていたにも関わらずフレームドロップがちょいちょい出たのは残念でしたが、動画は十分鑑賞できるものになったので満足しています。衛星が写らなかったのだけは残念ですが…

天王星食の撮影 (2022/11/8)
天王星食の撮影 (2022/11/8)

月食の撮影

月食の撮影については反省点がいくつもあります。一番は前回のエントリに書いたように、連続撮影の途中で FSQ-85EDP のピントをずらしてしまうというポカをやってしまったことです…

撮影は10分毎で途中でピントをチェックをする余裕はなくもなかったのですが、皆既中の月面でのピント合わせは暗すぎて無理で諦めてしまいました。今思えばバーティノフマスクを使って恒星でピント合わせする手もあったのですが…

SX2 の極軸合わせに時間を取られてスカイメモSの極軸合わせをする時間がなくなり、SX2 を横目で見て目分量で合わせてしまったのも危なかったのですが、こちらは意外となんとかなりました。しかし毎回構図の修正が必要で、それがピントをずらしてしまう要因の一つでした。とはいえ、極軸が追い込んであっても月の赤緯自体が結構動くのでどのみち赤緯方向の構図修正は必要で同じことだったかも…

もう一つ、こちらの鏡筒では天王星食の撮影ができなかったこと。本当は撮るつもりでいたのですが、実際に動画を撮影し始めてリアルタイム映像を見ていると決定的瞬間をリアルタイムに見たくなり目が離せなくなって撮るのをやめてしまいました。動画撮影中に狭いベランダを行き来して、うっかり鏡筒に体をぶつけたりするのが怖かったのもあります。

今思えばインターバルタイマーレリーズがあったのだから、ダメ元でもいいからタイマーを仕掛けて撮っておけばよかったんですね。実際10分毎の構図のズレは少なかったのでそれでも撮れていたと思います。でもとにかく忙しい撮影でしたし、動画撮影の方でいっぱいいっぱいだったのでそこまで頭が回りませんでした…

画像処理について補足

画像処理の勘所は前回と前々回のエントリに書きましたので、補足程度のことを。

月食の写真は、アルバムで連続で見る時に月の位置が揃ってないと欠け方の変化が見にくいので、月がぴったり画像の中心に来るようにクロップしたのですが、位置合わせは全部 Photoshop で手動でやりました。実はこれが一番キツかった…

AutoStakkert!3 でも、Photoshop でも、輝度重心を画像の中心にすることはできるのですが、月食の写真の場合は輝度重心が月の中心になりませんし、食の進み具合で輝度重心が変化してしまうので、自動での位置合わせは無理でした。

「差の絶対値」でレイヤーを重ねて目視で位置合わせしたのですが、月面の模様で合わせようとすると輪郭が合わなくなりました。スタックの誤差のばらつきが相当あるのに加え、2時間以上撮っていると月の秤動の影響もあるようです。

次こそは…

そんなわけで色々大変でした。まあ、次はもっと上手くやります。って、次っていつ?次は2235年6月2日だそうです。

天王星食に限らなくても惑星食と皆既月食が同時に起こるのはこれが次。日本では見えません。南米あたりで見えるようです。Stellarium でシミュレーションするとこんな感じ。

https://rna.sakura.ne.jp/share/stellarium-20220602-lunar-occultation-of-Uranus.jpg

う〜ん、楽しみですネ!!