1月14日と1月15日、前回の経験と反省を活かして(?)真昼のアトラス彗星(C/2024 G3)の撮影に再チャレンジしました。平日ですがリモートワークなのをいいことに部屋のモニターに彗星を映したまま仕事して時折撮影していました。正直あんまり仕事になってなかったような…
SOHO 画像ではアトラス彗星は無事近日点を通過して、崩壊・消滅したアイソン彗星の二の舞にはならず、13日より明るく、尾の向きも変わった姿が見えました。
軸外収束光の対策
前回はよく考えずに危険な撮影をしていたことに後で気付いて反省文を書くはめになりました…
今回は前回の反省を踏まえて今回は軸外に収束する太陽光への対策を施しました。太陽からの離角は前回より少し大きくなっているため、たぶん何もしなくても大丈夫だろうとも思いましたが、より安全に撮影できるようにできることはやっておこうと。
前回大丈夫だったのはおそらく内径43mmの眼視アダプター(CCA-250)の端面が遮光環の役割を果たしたためだと思われます。しかし、完全には遮れてない可能性がありますし、アダプター内面のつや消し塗装へのダメージも心配です。
そこでます、眼視アダプターの端面は対物レンズの焦点面から56mm離れた位置にありますが、これをもっと焦点から離して収束する太陽光のエネルギー密度を離します。さらに、より内径の小さいリングで遮光することで、焦点面に近いパーツに太陽光が当たらないようにします。
ということで、本来ドローチューブと CA-35(TSA-102) の間に入れる延長筒(フィルターボックス補助リング(TSA-102))を抜いて、接眼側に延長用のリングを取り付けて光路長を稼ぎ、CA-35(TSA-102) の内側に ZWO 1.25インチフィルターアダプターを遮光環として取り付けました。
かなりややこしい構成になっています。パーツ構成は接眼側から順に、
- AstroStreet 1.25" - To 2" Adapter
- 接眼側: 1.25" スリーブメス
- 対物側: 2" スリーブオス
- ビクセン 42T→50.8AD
- 接眼側: 2" スリーブメス
- 対物側: M42 メス
- 笠井トレーディング CNC2インチLP直焦点アダプター
- 接眼側: M42 オス
- 対物側:
- 外側: 2" スリーブオス
- 内側: M48 メス → ①
- タカハシ接続リング M54-M48
- 接眼側: ① M48 オス
- 対物側:
- 外側: M54 オス → ②
- 内側: M48 メス → ③
- タカハシ CA-35 (TSA-102)
- 接眼側: ② → M54 メス
- 対物側: M72 → ドローチューブ
- ZWO M48-M42変換リング
- 外側: ③ → M48 オス
- 内側: M42 メス → ④
- ZWO M42M-M42F-21Lリング
- 接眼側: ④ → M48 オス
- 対物側: M42 メス ← ⑤ / ← ⑥
- ZWO T2-1.25" フィルターアダプター
- 外側: ⑤ ← M42 オス
- 内側: M28.5 メス
- ZWO T2-T2 アダプター
「タカハシ接続リング M54-M48」の対物側 M54 部分の内側が M48 メスになっていることを利用して、ここに変換リングを噛ました M42 の延長筒を取り付けて、この延長筒の内側に遮光環として「ZWO T2-1.25" フィルターアダプター」を取り付ける、というのがキモです。
延長筒と CA-35 の隙間から CA-35 の内面に太陽光が当たるのを避けるのと、1.25" フィルターアダプターの取り付けにかなりガタがあるので自然に脱落しないように、「ZWO T2-T2 アダプター」を重ねてねじ込んでいます。「ZWO T2-T2 アダプター」の外径は CA-35 の接眼側の内径より大きいので他を組み上げた後に最後に取り付けます。
これで遮光環は焦点面から約13cm離れることになります。前回の眼視アダプターは56mmだったので、収束光の直径は前回の倍以上、面積は4倍以上になり、エネルギー密度は1/4以下になります。計算すると前回64倍だったエネルギー密度は、今回は12.5倍まで下がります。これならだいぶマシではないでしょうか。
1.25" フィルターアダプターの内径が小さいためケラレが発生しないかと思いましたが、焦点面からの距離130mmをF値で割ると24.5mmで、光軸付近ではケラレはありません。
とはいえ、割とギリギリなので周辺減光が気になりますが、1/3インチクラスのセンサーなら大丈夫だろうと割り切りました。後で計算すると写野周辺の25%くらいはケラレが発生していたようですが、ASI290MM/MC で実際撮ってみた感じではあまり気になりませんでした。
1月14日の撮影
14日の昼には13日の昼よりも明るくなった姿が見えました。

高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), ZWO IR-Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM (Gain 0), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 0.25ms x 1000/2000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 4.0.11, Lightroom Classic で画像処理
構図は前回同様、上が北です。西に傾いて伸びていた尾の向きが変わって東に傾いていました。13日に近日点を通過して太陽との位置関係が逆になったためです。
あと、微妙に尾が上に反り返っているような… 尾をたなびかせながら太陽の周りをグルッと回るので彗星の進行方向と逆方向に尾が曲がるのが SOHO 衛星のコロナグラフ(LASCO C3)画像でも見られますが、そういうことでしょうか?
また、尾の中心部にコマから鋭く尖ったトゲのように伸びた明るい細い尾見えます。太く薄い尾と違って反り返っていないのでイオンテイルでしょうか?
動画も貼っておきます。撮影動画からクロップした等倍速の動画です。
日没後にカラーカメラ(ASI290MC)でも撮りました。ちょうど飛行機雲の近くを通っていました。
昼でも見える明るさとはいえ夕空の飛行機雲の明るさにはかないません。一般人が飛行機雲を彗星と誤認するのもやむなしでしょうか。
双眼鏡でも探してみましたが、この日は見つけられませんでした。
1月15日の撮影
14日から15日にかけて、LASCO C3 の画像では写野から出るのを目前にしたアトラス彗星はは、巨大な尾が何本にも分かれる姿が見られ「九尾の狐」などと呼ばれていました。SOHO の公式サイトに貼られた画像は白飛びしていますが、未処理のFITS画像も公開されていて、Bluem さんがそれをディテールがよく見えるように処理して公開していました。
近日点通過から1日経ったC/2024 G3 (ATLAS)
— Bluem (@bluewaterspace) January 14, 2025
何度見てもこの尾の形には驚かされる!
SOHO LASCO C3による画像https://t.co/BWjuKb6LnY https://t.co/5ikAZmQySp pic.twitter.com/HajdI4srtn
まあそこまでは見れないだろうとは思いつつもちょっとは期待して撮影しました。今回はカラーカメラをメインにしました。
青空の中を飛ぶ彗星の姿も風情があっていいですね。尾は東向きにほとんど横になって伸びています。
そして日没後…
来ました!明るい!尾が長い!「九尾の狐」は無理でしたが、それでもここまで見えると嬉しいです。
これなら双眼鏡でも見えるかと探してみたところ、見えました!夕空がまだ明るく気をつけないと見失いますが、尾の伸びた姿ははっきり見えました。残念ながら肉眼では識別できませんでした。
スタックするとこうです。背景の明るさが激しく変化する動画でスタック枚数を増やすとうまくアライメントされなかったので、3000フレーム撮りましたが1000フレームに制限してスタックしました。

高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), ZWO IR-Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC (Gain AUTO), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 24.5ms x 500/1000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 4.0.11, Lightroom Classic で画像処理
尾が長いと言ってもフルサイズ換算で約3000mmの画角なのでたいしたことないだろうと思うかもしれませんが… 同じ光学系でセンサーサイズと解像度が同じカメラ(ASI290MM)で撮った太陽がこれです。
そしてこの日のアトラス彗星は太陽とほとんど同じ距離に位置しています。地球からアトラス彗星までは 0.954 AU (1億4275万km)、太陽までは 0.984 AU (1億4715万km)。3% くらいしか差がありません。
撮影したアトラス彗星を3%縮小して太陽に重ねてみたのがこちらです。
アトラス彗星の尾のうち夕空に負けない明るさの部分だけでも太陽の直径(地球109個分!)の半分以上の長さがあります。
ちなみに LASCO C3 の画像の中央の白い円は太陽(光球)のサイズなので、アトラス彗星の尾は大気に邪魔されなければ見える淡いところまで含めると、太陽の直径の何十倍もの長さに伸びていることになります。
さて、双眼鏡でも見えたのでデジタル一眼でも撮ってみました。換算200mmのレンズではだいぶクロップしないとよく見えない写りでしたが…
フルサイズ換算で約500mmの画角にクロップしています。手前のアンテナがなければなかなかエモい写真になったのですが… ともあれ、双眼鏡で見た時の印象に近い写りです。
最後にアトラス彗星が山の向こうに沈む「アトラス彗星の入り」の動画です。
入りの開始から尾が完全に見えなくなるまで1分近くかかりました。
ということで…
上に貼った Stellarium のシミュレーション動画からもわかる通り、アトラス彗星はこの先地球から離れていく一方です。太陽からも離れて明るさも急速に落ちていくものと思われます。太陽との離角は大きくなるのですが、日本からだと日没後の地平高度はほとんど上がらず観測条件的には今日がピークだったのではないでしょうか。
横浜は明日は昼は天気が悪く、夕方はワンチャンあるかなといった感じですが、そのへんでラストでしょうか。名残惜しいですがサングレイザーのパワーを堪能できて満足です。ある意味アイソン彗星(C/2012 S1)のリベンジですね。地球に近付かない軌道とタイミングだったのは残念でしたが…















