Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

Astro Image Measurement Tool v0.1 (シリウスBチャレンジ(略) (その2))

先日、シリウスBチャレンジでシリウスの位置が計算と合わないという話を書きましたが、

その時に作ったスクリプトを改良して github で公開しました。

シリウスの位置が合わない件は、ほぼほぼ解決しました。まだちょっとズレてるんですが…

シリウスA と シリウスB  (2022/3/12 19:52)
シリウスA と シリウスB (2022/3/12 19:52)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射) / Vixen SX2 / ZWO ASI294MM Pro (Bin 1, Gain 150, 10℃), SharpCap 4.0.8667.0, 露出 1/15秒 x 250/500コマ / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic, GIMP 2.10.18 で画像処理。

これに測定結果を重ねたのがこちら。

シリウスAとシリウスBの位置 (2022/3/12 19:52)
シリウスAとシリウスBの位置 (2022/3/12 19:52)
Astro Image Measurement Tool 0.1 で生成したアノテーションInkscape 0.92 で加工。

入力ファイルについては Astro Image Measurement Tool のサンプル を見てください。

オレンジ色で描かれた「Sirius A」のマーカーの位置は astroquery というパッケージを利用して SIMBAD から赤経赤緯、固有運動、年周視差、視線速度のデータを取得して、astropy の SkyCoord オブジェクトを、この赤経赤緯を J2000.0 時点の位置として生成し、apply_space_motion() メソッドで観測時点での位置を計算して得たものです。観測値とは3.2秒角ほどズレていますが、astrometry.net や Stellarium で表示されるものよりはずっと近い位置になりました。

結局、星表に書かれている元期(epoch)が J2000.0 の赤経/赤緯というのは、大雑把に言うと、ある日時に観測された赤経/赤緯から既知の固有運動の分だけ位置を巻き戻して(または進めて)、J2000.0 (2000-01-01 11:58:55.816 UT)時点の位置を計算で求めたもの、ということでいいんですかね?

大抵の星は固有運動が小さくて星表に書かれた赤経/赤緯の値からほとんど動かないので astrometry.net とかがそのままの値を元にアノテーションを描画しても問題ないけれど、シリウスのように近くにあって固有運動の大きな星の場合は結構ズレてしまうと。

僕は天文学の正式な教育を受けていない素人なので計算結果は保証できませんが、まあ、なんかそれっぽい計算はできた、ということで。

そういえば、僕が中学の頃にプログラミングを始めたのは元々天文計算がやりたかったんですよね。三角関数とか頑張って勉強したんですが、結局ほかのことにうつつを抜かして、天文の趣味からも遠ざかってしまって、気がつくと天文計算とは何の関わりもないところでプログラミングで飯を食う大人になっていたのですが、ここにきてようやく初心に戻った、と思ったけど、肝心の計算そのものは astropy 任せなので、よく考えるとあまり関係なかったかも…

惑星写真の画像処理、de-rotation してから wavelet する?wavelet してから de-rotation する?

惑星写真の画像処理で WinJUPOS の de-rotation を使う場合、de-rotation と wavelet の順番をどうするかという問題があります。以前だいこもん(id:snct-astro)さんから尋ねられた時はこう答えました。

例えば同じ wavelet パラメータを使う場合、ノイズが少ない画像を前提に設定した強いパラメータをノイズが多い画像に適用するとノイズが強調されてザラザラになったり、RGB画像だとカラーノイズが強調されてしまって、de-rotation でこれを数枚スタックしてなんとかなるのか?という疑問があります。

また、linked wavelets を有効にして処理すると、強すぎるパラメータではヘックス状の周期的なノイズパターンが浮いてくるため、こういったランダムではないパターンはスタックしても消えないだろうということもあり、やはり de-rotation してから wavelet だろうと考えていました。

WinJUPOS のヘルプにも de-rotation してから wavelet するような記述があります。「De-rotation of images」の節の以下の記述です。

Tip:
It is better to choose a 48 bits format for the final image, PNG or TIFF. Then, you can use the wavelet function of Registax to sharpen the image. The image should be saved with 8 or 24 bits only after this enhancement.
Pay attention to put a correct LD valuefor each separate image. If the values are too high (it can be tested in the module Image Measurement), the result is a very ugly limb effect in the final image:

結果画像をPNG/TIFFで出力すると際に 48 bits を選択すると、出力画像で Registax の wavelet 機能が使えるよ、というもの。実のところ 24 bits でも使えるはずですが wavelet の耐性がかなり落ちるので*1 48 bits がいいよ、という趣旨なのだと思います。

ということで、de-rotation してから wavelet で OK だろう、そもそも逆にするメリットはないし…

https://rna.sakura.ne.jp/share/刃牙「そんな風に考えていた時期が俺にもありました」AA.png

そんなふうに考えていた時期が俺にもありました

先日の木星の画像処理の時、実は de-rotation でリムに出るアーティファクトがどうしても抑制できなくて悩んでいたのですが、

そこでふと思ったのです。これ、wavelet 前のボケた像を de-rotation すると木星の円盤の外にはみ出したボケの部分どうなってるんだろう?ひょっとして、ボケの部分が泣き別れになって、それで変なことになってるんじゃないか?と。

というわけで試してみました。まず、今まで通りの de-rotation してから wavelet したもの。

木星 (de-rotation してから wavelet)
木星 (de-rotation してから wavelet)

右側のリムに細くて明るい弧が出ているのがわかるでしょうか。これは de-rotation しないと出てこないもので、実際には存在しないアーティファクトです。WinJUPOS のヘルプにはこういう時は LD value を下げよとあります。

LD value は惑星の端からの反射光が、惑星が球体であるため中央からの反射光より暗くなるのを補正するためのパラメータです。de-rotation で中央寄りにあった像を端に持っていく場合、像の明るさを暗めに補正するのですが、その度合いを調整するもので、小さい値を設定するとより暗く補正されます。僕は経験上 0.9 前後にすることが多いです。

ところが、前回の撮影画像では LD value をいくら低くしてもアーティファクトが消えませんでした。そのため最終的には Photoshop でマスクしたりトーンカーブを調整して誤魔化したのですが…

では wavelet してから de-rotation したものはどうでしょう?それがこちら。

木星 (wavelet してから de-rotation)
木星 (wavelet してから de-rotation)

アーティファクトがなくなりました!ノイズもさほど不自然なところはありません。ということは wavelet してから de-rotation が正解なのでしょうか?

ちなみに左側のリムの外側に薄く弧が出ているのは de-rotation 前の wavelet で既に浮き出ているもので、元々の画像にある像が強調されたものです。これは「リムの二重化」などと言われ、惑星の明るい側のリムには付きものなのですが、光学的な原因(回折)で発生するもので、本質的には画像処理のせいではないのだそうです。これについては以前火星の画像処理について書いた時に触れました。

元々リムが明るく輝きがちな火星の場合はなかなかいい方法がなくて、観賞用に仕上げるならマスクをかけるしかないだろう、という話。木星ぐらいだとトーンカーブを少しいじって目立たなくできるのですが。

ということで、この画像にさらに wavelet を軽くかけて仕上げたものがこちら。

木星とエウロパ (2022/8/19 02:28) (再処理)
木星エウロパ (2022/8/19 02:28) (再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 240), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 310), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/60s x 1500/3000コマをスタック処理 x6 (L:3, RGB:3) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.1, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

RGB画像の方も同様に wavelet してから de-rotation しています。RGB の方がアーティファクトが目立っていたため、前回は RGB は2本分しか de-rotation しなかったのですが、今回は3本分 de-rotation しています。本数を増やすほどアーティファクトが目立つため処理が難しくなるのですが、wavelet してから de-rotation では平気でした。

de-rotation 前の画像の wavelet と後の画像の wavelet の強度の配分など課題はありますが、wavelet してから de-rotation が正解かなという気がしてきました。

そういえば、ずっと「土星の de-rotation がうまくいかない」と言っていましたが、ひょっとしてそれも解決できちゃう?と思ってやってみました。

7月22日深夜の土星です。まず、de-rotation してから wavelet したものがこちら。

土星 (de-rotation してから wavlet)<
土星 (de-rotation してから wavlet)

うまくいかない、というのは土星の環と本体が重なる部分。*2 環の向こうの本体の縁に黒い弧のアーティファクトが出てしまうのです。これを画像処理で補正するのは無理があるので、今まで諦めていたのですが…

そして wavelet してから de-rotation したものがこちら。

土星 (wavelet してから de-rotation)
土星 (wavelet してから de-rotation)

カンペキじゃないですか?これ!?

ということで土星の方も仕上げてみました。せっかくなので同じ元画像から超キツい wavelet であぶり出した衛星の像も合成して仕上げたものがこちら。

土星と衛星(左からエンケラドゥス、ミマス、ディオネ、テティス) (2022/7/23 1:58)
土星と衛星(左からエンケラドゥス、ミマス、ディオネ、テティス) (2022/7/23 1:58)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 336), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 405), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/30s x 1500/3000コマをスタック処理 x5 (L:2, RGB:3) をLRGB合成、別途 wavelet 処理して強調した衛星を合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.1, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

de-rotation によるノイズ低減を当てにして wavelet を強めにかけたので、土星の縞模様も de-rotation しないものより見やすくなりました。衛星は左から、エンケラドゥス、ミマス、木星を挟んで右上にディオネ、テティスです。衛星をあまり明るくすると不自然になるので押さえ気味にしています。ミマスが見えない人は部屋を部屋を暗くするかモニターを掃除してください…!

ということで積年の懸案も解決しました。しかし惑星撮影5年目にして今更気付くとは… 不覚です。ひょっとして、みんな知ってて黙ってたんですか!?

まあ、木星の方は今まで LD value の調整でなんとかなっていたし、おそらくシーイングが悪かったり口径が小さくて回折像がデカかったりすると誤魔化しきれなくなるという話で、大口径で撮ってる人やシーイングのいい海外で撮ってる人にはあまり関係ないのかも?

*1:先日書いたように、強い強調でトーンジャンプが目立つようになります。

*2:背景に丸いアーティファクトがあるのは衛星の公転の補正(Correction of the planetary moons outside the planetary disc)の影響です。WinJUPOS の比較的新しい機能で、LD value 的なパラメータもなく、いまいちこなれていないようです。

「KAGAYA 星空の世界展」に行ってきました (2022/8/23)

8月23日の夕方、そごう美術館(横浜)で開催中の KAGAYA さんの個展「KAGAYA 星空の世界展」を観に行きました。

この個展、天文マニアの間でも話題になっていたし、せっかく横浜で開催ということで何とか観に行きたいなーと Twitter でつぶやいていたところ、なんと KAGAYA さん直々にお返事が…!

ここまで言われると行くしかないですよね。こういうのは思い立ったが吉日。ちょうど翌日出社予定だったので早朝出社して早めに仕事を切り上げて帰り道に横浜駅で降りてそごう横浜店に寄ったというわけです。

横浜駅地下通路に貼られた「KAGAYA 星空の世界展」のポスター

夏休み中ではありましたが、平日の定時前ということで激込みということもなく程々に人もいて、KAGAYA ファンの皆さんやご家族連れなど、天文マニア以外の人たちの反応も楽しめました。会場は写真撮影OK(静止画のみ)、SNSで公開OKということで、写真を交えながら感想を。*1

「写真撮影OK」の掲示

まず何と言っても展示のボリュームがすごいです。星景だけではなく各種ネイチャーフォトや、世界各地の絶景を撮った写真も多数あり、天文マニアが気になるようなガチの天体写真もあり、大スクリーンでの短編映像作品もあり、割と駆け足で周ったつもりでしたが、会場を出た時には1時間半ぐらい経っていました。

写真展に行くのは4年前の「138億光年 大いなる宇宙の旅」以来です。

元々僕は小学生の頃から写真をやっていて大学の写真部では部の行事で毎年街のギャラリーの展覧会にも参加していたのですが、ここ20年ほどの間に写真をプリントで楽しむ習慣はすっかり失われていて、今ではほぼ100%モニター画面で写真を鑑賞する生活を送っています。

色の再現性や拡大表示機能、そして家庭での照明環境のことを考えると、もはや写真を敢えてプリントで見る価値ってあまりないのでは?というのが正直なところ。なので、展覧会でプリントを見る価値って迫力ある大判プリントを堪能するぐらいだと思っていました。が、実際にこの展覧会の展示を見て、決してそんなことはないと思いを新たにしました。

同じ写真でも明らかにネットや写真集で見た印象とは違うのです。どうも照明の工夫が効いているようです。会場の照明は写真を照らすスポットライトだけなのですが、たとえばこの写真。

作品:「春宵のシルエット」
作品:「春宵のシルエット」

夜空に三日月が浮かぶ風景写真ですが、

「春宵のシルエット」の展示の照明の様子

ちょうど月にスポットが当たる形で照らしています。これで体感のダイナミックレンジがぐっと上がり、家で写真集を見るのとは全く違う体験になるのです。

照明の工夫が特に際立っていたのはこの満月の写真。

作品:「満月」
作品:「満月」

「満月」の部分拡大
「満月」の部分拡大

既に天文マニアの間でも話題になっていますが、これがすごい。高解像度の月面写真なのですが*2 この手の写真の表現にはあるジレンマがあります。月面の地形のディテールと眼視で月を見た時に感じるあの眩しさを両立する表現が困難なのです。

というか、両立はできないものだと思っていました。しかし、KAGAYA さんはそこを「高品質のプリントに高輝度の照明をガツンと当てる」という方法で見事に表現。

「満月」他の作品の展示の照明の様子

その他、上の写真を見るとわかるように展示する写真毎に照明の色温度を変えるなど照明の効果が緻密に計算されているのがわかります。今時の写真展ってここまでやるものなのですかね?確かにここまでやられると写真展で写真を鑑賞するという体験には十二分な付加価値があると断言せざるを得ません。

展示された写真の多さ、クォリティの高さもさることながら、随所に配置された大きな解説パネルも目を引きます。

解説パネル:「星の明るさ」

解説パネル:「月の欠け方と位置」

初心者向けに要点を押さえたわかりやすい解説で大人でも子供でもためになること請け合いです。天文マニアにとっても、観望会等で一般の方にどう説明したら良いかという点で参考になると思います。

僕は最初このパネルは主に子供向けの教育的配慮だと思っていました。というのも、順路の最後の方にこんなコーナーがあったからです。

メモ台の掲示

宿題プリントやメモを記入するための机が置かれたコーナーです。つまり子供たちが夏休みの自由研究とかの一環でKAGAYAさんの展覧会を見に来ることを想定してるんですね。そこまで考えてるのか!と驚きました。

…なのですが、KAGAYA さんによると、解説パネルのメインターゲットは大人で、解説パネルを充実させたのは「知識を持って世界を見たほうが「天空の贈り物」をより見つけやすくなると考えているからです。」とのことでした。*3 言われてみれば解説文にふりがなもなかったですし、平易な文章とはいえ子供向けに砕いた表現でもなく、大人でも素直に読める内容でした。

Twitter に書いた感想では子供向けのパネルと言ってしまい申し訳ありませんでした。子供向けという印象を与えてしまって大人の方がスルーしてしまっては KAGAYA さんも悲しいですよね…

そういえば、展示された星景写真の横には漏れなくアノテーション付きの小さな写真を添えてありました。

作品横のアノテーション付き写真

これも素敵な配慮です。一般の方はもちろん、天文マニアでも見慣れない南天の星座や天体を確認できるのは助かります。南半球への遠征経験がない僕もとても助かりました。

解説関係では巨大な月面図も目を引きました。

会場の床に設置された直径2m以上はあるかという巨大な月面図

一見満月のようでいて、月面のどの位置でもクレーターの形がわかりやすいように独特の影の付け方をしています。しかしこの図、どこかで見たような… ひょっとしてこれ?

https://rna.sakura.ne.jp/share/STARBOOK-TEN-KAGAYA-02.jpg

ビクセンの STARBOOK TEN の月面図です。実はこれも KAGAYA さんの作品なんですよね。

https://rna.sakura.ne.jp/share/STARBOOK-TEN-KAGAYA-03.jpg

解像度も違うし若干タッチの違う部分もあるので同じものではないのかもしれませんが、マニア的には、おおっ!?と声が漏れてしまう展示でした。

話を作品の方に戻して、天文マニア注目のガチの天体写真について。星景ではないストレートな天体写真(直焦点撮影したものとか)は、全体のボリュームからすると少なめでした。対象は有名どころを押さえた形ですが、

作品:「アンドロメダ銀河」
作品:「アンドロメダ銀河」

一方で、マニアックな写真もちらほら。

作品:「オリオン座の星間分子雲」
作品:「オリオン座の星間分子雲」

作品:「すばるとカリフォルニア星雲」
作品:「すばるとカリフォルニア星雲」

分子雲!一般には馴染みのない対象ですが、目には見えない極々淡くしか光らない星雲で、一般にデジタルカメラで撮ってデジタル画像処理で「炙る」ことでやっと可視化できる対象です。天文マニアの間ではここ十数年ほどの間に被写体として注目されるようになりました。しかし分子雲をここまでカラフルに表現した写真は初めて見ました。

マチュアの天体写真の表現はサイエンスとアートの間のグラデーションの中に位置づけられますが、上の「アンドロメダ銀河」はサイエンス寄りというか定番の表現ですが、それに比べて分子雲の表現はアート寄りの感があります。もっとアート側に振った表現もありました。

作品:「オリオン大星雲」
作品:「オリオン大星雲」

この「オリオン大星雲」のミニチュア写真的な擬似的な遠近感の表現、どうやっているんでしょうね?

その他、2020年のネオワイズ彗星の見事な写真などもありましたが、惜しいなと思ったのは惑星写真がなかったこと。見落としていたら申し訳ないのですが、写真集の方にもなかったので、なかったのだと思います。土星の写真がないか探している子供も見かけたので、需要は大いにあると思うのですが…

おそらくアマチュア天文家が通常所有できる機材では KAGAYA さんが望むようなクオリティの惑星写真を撮るのは難しいという事情もあるのだと思います。特に日本は気候の関係で*4 高画質の惑星写真撮影には不利な土地柄です。惑星写真の大家 Damian Peach 氏の作品ぐらいになるとまた違うのでしょうけど、氏も市販の最大クラスの望遠鏡*5 には飽き足らず、最近はチリのリモート天文台の 1m 鏡で撮ってますからね…


ここからは映像作品について。会場の一角には幅5mぐらいはある巨大なスクリーンが設置され、「一瞬の宇宙 + 天空賛歌」という10分間の短編映像が常時上映されていました。国内外の各地で KAGAYA さんが撮った星景のタイムラプスが中心の作品で、映像と BGM だけで観る者を圧倒する作品です。スクリーンにはかなりの高解像度で投影しているようで、このサイズのスクリーンで間近で見ても破綻しない高画質で、すごい迫力です。

ちょっと自分語りになりますが、実は僕は「絶景」的な写真ってあまり興味がなくて、「星景」もそれほどではありません。きっとその場で見れば感動するし写真も撮りたくなると思うのですが、なんというか、家に帰ってから思い出したり写真を見たりしても夢を見たみたいな気分になりそうで、なんなら鬱になりそうなんですよね… たぶん、そういった風景と自分が今生きているこの場所とが繋がっているように感じられないのだと思います。

その点、星景写真には見慣れた星空が写っているので、写真の風景と普段ベランダから撮っている星空とが繋がっている感覚があって、この風景は遠く離れてはいるけど自分と繋がっているんだなぁ、みたいな気持ちになれて、そういうところは好きです。

なので、「一瞬の宇宙 + 天空賛歌」も視覚刺激としての快感というのはあるのだけれど、作品に込められたエモーショナルな部分は、僕はたぶん普通の人ほどは楽しめないタチだと自覚しています。なのですが、どういうわけかイプシロンロケットの打ち上げシーンのところ*6 で、不覚にも涙が…

これには自分でもびっくりしてしまいました。宇宙開発にも特別な思い入れってない方なんですが、なんか、「来る」ものがあったんですよね。後になって思い出してみてもこみ上げてくるものが… なんなんでしょうこれは?

未だに自分でもイマイチ言語化しきれずにいるのですが、僕が感じたのはおそらく「儚さ」。

いや、イプシロンロケット、迫力あるだろ! Will to Power だろ!って言われたら全くその通りなんですが、ここまでずっと宇宙の大きさ、果てしなさを見せられたところであのシーンを見ると、人類のちっぽけさ、それでも飛び立たずにはいられない哀しさ、明日にも死んでしまう運命のかげろうが必死で飛び立つような… といった思いが、そうとわからないような形で、この胸に去来したのだと思います。

うーん、やっぱり言葉にするとしっくりこない… なんというか、アートってこういう力があるんだな、と漠然と思ってます。自分は天体写真にアートを一切求めないタチなので、ちょっと不意討ちを食らったというか、とても貴重な体験でした。

映像展示としてはもう一点、40インチほどの大型モニターで5分間のメイキング映像も上映していました。KAGAYA さんのロケハンや撮影の様子をまとめたものです。マニア的には気になる機材一式も映っていました。

KAGAYA さんの撮影機材一式(1)

KAGAYA さんの撮影機材一式(2)

遠征用の赤道儀はやっぱり SWAT ですね。上の写真の右側に見えているのはおそらく SWAT-350V-spec、下の写真の左側に見えているのは今は生産終了となった SWAT-200 でしょうか?

三脚やカメラについても詳しい方はチェックしてみてはいかがでしょう。

最後に、会場の出口には物販コーナーが待ち構えています。まあ、買うよね。買っちゃいますよね、これは!

物販で買った本とジグソーパズル

買ったのは『一瞬の宇宙』と『Starry Nights ── The Best of the Best』、そして今回の展示にもあったウユニ塩湖で撮った有名な作品「銀河のほとりで」のジグソーパズルです。

『一瞬の宇宙』は2018年発売のフォト&エッセイ集。まだパラパラとしか見ていませんが、撮影記録的な文章も多くて天文マニア的な視点でも面白そうです。

『Starry Nights──The Best of the Best』は写真集で、今回展示された作品の多くが収録されています。素晴らしい写真の数々はもちろんのこと、巻末には簡潔ながら各写真の撮影データが掲載されており、マニアならこれだけでも見る価値ありかも!?

というわけで、ずいぶんと楽しませていただきました。KAGAYA さん、素晴らしい写真と展示をありがとう!「KAGAYA 星空の世界展」は8月31日まで。残りは平日だけですが夜20時までやってるのでみなさんも是非!

*1:このエントリは当日夜に Twitter に書いた感想を加筆修正したものです。

*2:後述する写真集『Starry Nights ── The Best of the Best』によると VC200L と ASI533MC Pro でモザイク撮影したものだそうです。

*3:参照: https://twitter.com/rna/status/1562086747210940416

*4:気流の影響で好シーイングに恵まれない。

*5:セレストロン C14

*6:このシーンの元になった動画は琉球新報ウェブマガジンの記事「【動画】まるで星空を舞う不死鳥 沖縄本島から見たイプシロンロケットの打ち上げ」に公開されています。でもやっぱり映像作品の流れの中で観て欲しいシーンです。

木星と目が合って魂吸い取られた (2022/8/18)

8月18日の深夜、北アメリカ星雲の撮影から帰ってきて少し休憩した後、ベランダで木星を撮影しました。温度順応のために帰宅後すぐ鏡筒だけはベランダに出して、30分ほど休憩した後、赤道儀を設置・調整して、1:00頃撮影開始。

体力的に厳しい状況でしたが、大赤斑が見える日なので頑張りました。シーイングがめまぐるしく変わる日でしたし、度々雲に邪魔されたりして、去年の7月の撮影みたいにタイムラプス動画を作れるような連続撮影はできませんでしたが、なるべく沢山撮りました。

大赤斑は1:30頃にははっきり見えてきて、撮影終了の3:00前に正面を通過しました。

撮影した動画はLとRGB合わせて42本。まだ一部しか画像処理できていませんが、とりあえず比較的シーイングが良く大赤斑がよく見えていた2:30前後のデータを処理した写真がこちら。

木星とエウロパ (2022/8/19 02:28)
木星エウロパ (2022/8/19 02:28)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 240), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 310), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/60s x 1500/3000コマをスタック処理 x5 (L:3, RGB:2) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.1, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

左上の衛星はエウロパです。せっかくエウロパが写っているのでクロップサイズをいつもより大きくしてあります(いつもは 800 x 800、今回は 960 x 960)。

ベストとは言えないまでも、そこそこ見れる仕上がりになりましたが、頑張ればもう少しディテールを出せるのではないかとも思います。この日はシーイングの変化や薄雲の通過による輝度変化などがあり、その影響で AutoStakkert!3 のフレーム選別があまり機能していない懸念があります。

実際 AP の自動配置を使うとスタック結果で惑星の縁が割れたようになる現象が発生しました。以前シーイングが悪い時に撮った火星の画像処理で起こったのと同じ現象のようです。

この時と同様に Min Bright を上げて惑星の縁ぎりぎりに AP が自動配置されないようにして、足りない部分には手動で AP を配置するようにしたところ解決しました。火星の時と違って中央部の模様のディテールは保たれており、終始像が歪んでいたわけではなさそうなので、フレーム選別をもっとうまくやれれば改善しそうな気もします。

スタック以降の画像処理には以前と違う手順が二つあります。

まず、フリップミラー経由で鏡像で撮影されたRGB画像の処理ですが、かつては Photoshop で鏡像反転したものを「コピーを保存」でTIFF保存したものを使っていましたが、最近は XnConvert というフリーソフトで一括変換していました。この変換は非圧縮TIFFから非圧縮TIFFへの変換なので画質の劣化はないと思っていました。

それが今回、シーイングの乱れが気になって鏡像反転前のスタック画像に強めの wavelet 処理をかけて写りを確認していたのですが、本番の画像処理で XnConvert で一括変換した画像に同じ wavelet をかけるとモアレ?(トーンジャンプ?)が発生してしまいました。wavelet パラメータは同じなので XnConvert の時に画質の劣化が起こっているということです。

迂闊なことに今まで気付いてなかったのですが、よく見ると変換後のファイルサイズが変換前の半分になっています。画像のプロパティを確認すると色深度 48bit (16bit/channel)の元画像が、変換後は 24bit (8bit/channel)になっています。調べると XnConvert は 48bit TIFF が入力されても、黙って 24bit に変換して読み込んでから画像処理を行うようです。これでは 16bit/channel で撮影した画像には使えません。

替わりのツールを探すか、あるいは pythonruby で ImageMagik を使って変換するスクリプトを書くか… と思っていましたが、ひょっとして?と思って WinJUPOS の Image Measurement の画面を見ると、ありました。画像を鏡像として扱うオプションが。

https://rna.sakura.ne.jp/share/WinJUPOS-opt-01.png

Opt タブの Image orientation のラジオボタンで Mirrored-inverted image を選択すると、画像を鏡像として扱います。画面上では画像が反転するのではなく Outline frame の方が反転するのですが、de-rotation で出力すると反転した画像が出てきます。

これで問題は解決したのですが、今までの分は… とはいえ、惑星を L/RGB で撮影した時は RGB 画像は弱めの wavelet で処理していたのであまり影響はない、というかそれ故に今まで気付かなかったわけですし、RGB の方はディテールの表現には影響しないので、手間をかけてやり直す価値はあまりなさそう。

とはいえ、やはり気持ち悪いので今後は今回のやり方で処理していこうと思います。

もう一点、これも WinJUPOS の機能なのですが、今回初めて de-rotation 時に衛星像が複数できないように補正する処理を入れてみました。

De-rotation 画面の Options にある、Correction of the planetary moons outside the planetary disc にチェックを入れるとこの処理が有効になります。

https://rna.sakura.ne.jp/share/WinJUPOS-derotation-options-01.png

このオプションの存在は今回たまたま Options を見直していて気付いたのですが、ヘルプにも説明がないのですが、どうも最近のバージョンアップで追加された機能のようで、こちらのブログによると7月18日の 12.1.0 から追加されたそうです。

とりあえず試してみたところ、出力画像の衛星像は一つになりました。ただし他のパラメータを色々試していた時に全部消えてしまうこともあって、まだ挙動が安定しないところがあるようですが、以下のような処理が行われるようです。

  • 各画像の衛星像はオプションで指定した半径の円形に切り取られる
  • 出力画像の衛星像は切り取られた衛星像をスタックしたものになる
  • 出力画像の衛星像の位置は Reference time の位置になる

2番目はフレームに印を付けたダミー画像を使って確認しました。衛星の自転の扱いについては不明です。衛星面も de-rotation するのでしょうか?

まあ、18cm では衛星の模様なんて写らないし… と思ったら、上のブログの主*1 は8月3日に 18cm でカリストの衛星の模様を撮れてますね。すごい。

木星面の写りを見てもベストに近いシーイングだったようですが、ここまで写るものなんですね…

ということで、一年ぶりに大赤斑を正面から見ることができました。去年の大赤斑は色が薄いというかあまり赤くなくて、色が濃くなった赤道帯北組織(EZn)とあまり変わらない色でした。*2

今年はちゃんと赤くなっていて安心です。でも大赤斑の周りに縁取りができて目のような形になっていて、2019年の「赤い涙」騒動の時と似た形になっているような…

でもなんか… 普通な気もしてきた。戻って画像処理しなきゃ。*3

*1:ココログの不具合なのかプロフィールが表示できないので名前がわかりませんが… やきしいたけさん?

*2:それとも EZn が赤いのにカラーバランスを見誤っただけ?

*3:元ネタ: https://twitter.com/ngnchiikawa/status/1560610893733322755

北アメリカ星雲(NGC7000) (2022/8/18)

8月18日の夜、近所の公園に出撃して北アメリカ星雲(NGC7000)を撮りました。久々の野外での撮影で、トラブル続きでHαしか撮れませんでしたが…

北アメリカ星雲(NGC7000)とペリカン星雲(IC5070) (2022/8/18 22:03) (Hα)
アメリカ星雲(NGC7000)とペリカン星雲(IC5070) (2022/8/18 22:03) (Hα)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折) + ZWO Ha Filter / Kenko-Tokina スカイメモS, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (11 Megapixel*1, Gain 300, -10℃), SharpCap 4.0.8949.0, 露出 2分 x 24コマ / DeepSkyStacker 4.2.6, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

一時間足らずの露出ですがよく写ったと思います。撮影したコマの大部分は月の出の後に撮ったものですが、さすがナローバンドです。

モノクロの天体写真は「映え」ないせいかSNSに貼っても反応が激薄なんですが、個人的にはカラーよりも星雲の構造がよく見えるので、Hα画像だけ何度も見返したりします。子供の頃(1970〜1980年代)の天文書や天文雑誌に乗っていた写真はモノクロの方が多かったので、子供の頃に憧れていたあんな写真を撮りたい!という気分にもマッチしますし。

カラー写真はもちろん綺麗なんですが、赤い色だと細部の形が見えにくいんですよね。単にLRGB合成が下手なせいかもしれませんが… とはいえ、散光星雲の透明感の表現はやっぱりカラーでないと難しいので、やっぱりカラーも撮りたいのです。

今回は月の出までにLRGBを撮って、残りの時間でHαを撮る予定だったのですが、トラブル続きで撮影開始が月の出直前になってしまったので、Hαだけ撮って帰ることになってしまいました。

トラブルというのはまず忘れ物。出撃を決めたのがその日の夕方だったので、バタバタと準備していたため、落ち着いて持っていくものを点検する余裕がありませんでした。

20:00過ぎに現地に着いて三脚を広げて水平を取って、スカイメモSを載せて極軸をおおまかに北極星に向けて、さて、というところで赤緯体を持ってきてなかったことに気付きました… さすがにこれはなければどうにもならないものなので取りに帰りました。荷物を置いて帰るわけにもいかず機材は一度撤収。

帰宅して赤緯体をバッグに入れて即再出撃して、改めて機材を設置したのですが、冷却カメラに電源を繋ごうとした時に、DC電源ケーブルとポータブル電源のシガーソケットアダプターケーブルを忘れていたことに気付きました… 間違えてベランダ撮影で使うACアダプタを持ってきていたのです。

この時は崩れ落ちそうになって、もうこのまま帰ろうかと思ったのですが、ふとポータブル電源にAC出力用のコンセントが付いていることを思い出しました。ACアダプタをここに挿せば使えるはず… バッテリーのDCをACに変換してACアダプタでDCにまた変換するわけで、効率は悪いのですが、さすがにもう一度撤収して帰宅してまた戻ってくる気力はないので、これで行くことにしました。

極軸合わせはいつも通りドリフトアライメントですが、元のズレが大きすぎて極軸の水平方向の調整幅を越えてしまいました。最初に三脚を設置する時に大まかに北極星の方に向けて、スカイメモSの極軸望遠鏡にざっくり北極星を導入したつもりだったのですが、どうも北極星だと思っていた星は全然違う星だったようです…

公園には敷地を取り囲むように高輝度LEDの照明が設置されていて、北の方向にも照明があり、低空は2等星でもほとんど見えない状況でしたが、なんとか心眼?で見た北極星がどうも違ったらしいです。仕方がないので三脚ごと機材を動かして、三脚の水平を取り直してやり直しです。

極軸を合わせ、カメラの向きを合わせ、その後デネブを導入してピント合わせをしたのですが、写野に派手にカブリが出ていてびっくり。これはフード先のクリアバーティノフマスクに斜めから入射した照明の光が屈折?反射?して迷光になっていたようで、撮影前に取り付ける予定だった巻き付けフードを付けることで解決しました。

時刻は22時前。月の出は22:10頃で、この時点でもうHα以外は諦めていたのでHαでピント合わせ。そして巻き付けフードを外して、バーティノフマスクを外して、また巻き付けフードを付けて北アメリカ星雲を導入。これはデネブのすぐ東なので楽勝。Hαだと、ゲインを最大にして15秒露出で北アメリカ星雲がはっきり見えました。

これらの作業の合間に冷却カメラの温度を少しずつ下げていました。SharpCap には冷却速度の調整機能がないようなので、手動で1分間に2〜3℃ずつ、26℃ぐらいから-10℃まで冷却。

さて撮影、とオートガイドを始めるとガイド星が赤緯方向にずんずん流れていきます。どうも作業中に極軸がズレてしまったようです。まあ、スカイメモSではよくあることなので、極軸を水平方向にドリフトアライメントでの調整方向と同じ向きに微調整。調整量は勘です。

ガイドエラーはだいぶマシになったようなので、2分露出ぐらいならなんとかなるだろうと、ダメならダメでいいや、と、かなり投げやりな気持ちでそのまま撮影開始。この時点ですっかり疲れ果てていたので極軸を追い込む余裕はありませんでした。

途中風が吹いたりもしてたので正直もうダメかと思っていました。疲れて立ったり座ったりが億劫になっていたのでガイドグラフもあまりチェックしていませんでした。以前はやっていた手動ディザリングもやりませんでした。トータルで赤緯方向にだいぶ流れているのは気付いていましたが、撮影画像の写野のズレは一見してわかるほどではなかったのでそのまま撮影を続行。

結果的には撮影中に赤緯方向のエラーは減っていって、ガイドエラーは許容範囲に収まりましたし、スタックしても縮緬ノイズは見当たらず、Hαの撮影結果としては成功でした。

とはいえ、野外で余裕のない状況でのモノクロカメラでの撮影はなかなか厳しいという思いは強まりました。撮影コマ数が3〜4倍になるので、トラブルで撮影可能コマ数が減るとカラーの撮影は不可能になります。去年の M31 の撮影でも結局L画像しか撮れませんでしたし…

こうなるとカラーカメラが欲しくなってきますね…

対象の向き的に「イナバウアー」はできないため、子午線を越える前に撮影終了して、0時前に帰宅。ポータブル電源の容量の減り具合は5段階の目盛りの1つ分で十分余裕がありました。DC出力で使った時とたいして変わらないようです。

帰宅後は薄明前まで木星を撮影して、その間カメラと鏡筒はバラさずに置いておいて、木星の撮影が終わった後、室内でフラット、ダーク等を撮りました。画像処理はいつも通りDSSを使いましたが、実は話題のPixInsight本も買ってあるので、近いうちにそちらも試してみようと思います。

木星の撮影の話はまた後ほど。

*1:ASI294MM Pro の解像度選択は、今まで SharpCap 3 の表記にならい 8288x5644 のモードを Binning 1, 4144x2822 のモードを Binning 2 と書いていましたが、SharpCap 4 では前者を 46 Megapixel モードの Binning 1、後者を 11 Megapixel モードの Binning 1 と扱うようになりました。ややこしいので今後 SharpCap 4 の表記に合わせます。Binning については記載がない場合は 1 とします。

土星と木星の再処理

7月22日深夜に撮った土星木星の画像を再処理しました。単にL画像の wavelet パラメーターを再調整しただけですが、木星の方はだいぶ見栄えが良くなったと思います。

先に木星の方を。

木星 (2022/7/23 02:47) (再処理)
木星 (2022/7/23 02:47) (再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 250), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 320), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/60s x 1500/3000コマをスタック処理 x7 (L:4, RGB:3) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.1, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

木星 (2022/7/23 03:44) (再処理)
木星 (2022/7/23 03:44) (再処理)
(撮影データは上に同じ)

一番条件が良かった2:47と大赤斑がチラってた3:44の分を再処理しました。だいぶ良くなりましたが、2枚目は夜明け前でシーイングも良くなくて大赤斑は相変わらずはっきり見えません。

前回のパラメーターは昨年のベストショットのパラメーターを読み込んで使ったのですが、そのままでは弱すぎたようです。wavelet は秘伝のタレのごとく過去のパラメーターを調整していけばよいというものでもなくて、同じ機材で撮影した画像でもシーイング等の条件次第で一からやりなおした方がよいことがあります。

今回の場合は Wavelet scheme を Linear から Dyadic に切り替えてガッツリやり直しました。L 画像の wavelet パラメーターは以下の通り(RegiStax 6 の .rwv ファイルそのままです)。

[scheme]
Linked=1
itemindex=0
initial=1
step=0

[method]
itemindex=1

[checkbox]
layer1=1
layer2=1
layer3=1
layer4=1
layer5=0
layer6=0

[slider]
layer1=650
layer2=595
layer3=275
layer4=30
layer5=10
layer6=10

[Gauss]
layer1=11
layer2=10
layer3=10
layer4=10
layer5=10
layer6=10

[Blur]
layer1=20
layer2=25
layer3=20
layer4=10
layer5=0
layer6=0

このままコピペして拡張子 .rwv で保存したのをロードすれば使えます。scheme の itemindex は 0 が Dyadic, 1 が Linier です。method の itemindex は 0 が default, 1 が gaussian です。

そして土星

土星 (2022/7/23 01:56) (再処理)
土星 (2022/7/23 01:56) (再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 336), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 405), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/30s x 2000/3000コマをスタック処理 x2 (L:1, RGB:1) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.1, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

ちょっと良くなりましたがそんなに代わり映えしませんね… でも土星は wavelet が強すぎると環と本体の境目が不自然になりがちなのでこのくらいがいいかな。

土星の傾きの変化と環の消失について

22日深夜に撮った土星の環は今まで撮った中で一番水平に近い傾きでした。土星を今の機材で撮るようになったのは2018年からですが、その時は環がもっと丸い楕円形に見えていました。いつの間に?ということで、2018年から今までに撮った土星の画像を並べてみました。*1

土星の傾きの変化 (2018〜2022)
土星の傾きの変化 (2018〜2022)

写真の向きは土星の北極が上になるように揃えてあります。画像処理が揃ってないのでちょっと見苦しいですが… 2019年から2020年の間に傾きの変化が加速しているようですね。

2018年には土星の傾きがほぼピークでした。地球からは土星の北極方向から見下ろすような角度で見え、土星の南半球の大部分が環とその陰に隠れて、カッシーニの間隙からわずかに垣間見えるのも萌えポイントでした。とはいえ、今ぐらいが一般の人のイメージする土星の姿に近いのかもしれません。

地球から見た土星の傾きは約30年周期で変化しており、約15年周期で地球に対して環が水平になって見えなくなり「消失」する時期が巡ってきます。今から3年後の2025年がその時期にあたります。

どうしてそうなるかは国立天文台の「暦Wiki」の解説や、鈴木充広さんの「こよみのページ」の解説が詳しいです。

ざっくり言うと、土星の自転軸が公転軌道に対して傾いているため、それを正面から見るか横から見るかで傾きが変化して見えます。そのため軌道の内側から見ると土星の傾きは土星の公転周期である約30年の周期で変化します。

さらに、土星と地球の位置関係は地球の公転によっても変化するため、一年の間でも土星の傾きがわずかに変化します。そのため、傾きの推移をグラフにすると大きなサインカーブのような周期に小さなギザギザの揺らぎが重なったようなグラフになります。*2

このあたりについては、ぐんま天文台のサイトに大変わかりやすいアニメーションで示した解説があります。

そして「環の消失」ですが、実はこれには二通りあります。

一つは「土星が地球に対して横を向くとき」に起こる「環を真横から見る位置に来ると環の厚みが薄すぎて*3 地球からは消えて見える」という現象。もう一つは「土星が太陽に対して横を向くとき」に起こる「太陽に対して環の傾きが水平だと環に光が当たらなくなるので、暗くなって見えなくなる」という現象です。

土星から見ると地球も太陽もほとんど同じ方向なので、2種類の「環の消失」は同じくらいの時期に起きるのですが、現象としてそれぞれ異なるものです。というか、後者の「土星が太陽に対して横を向くとき」の方は今まで知りませんでした…

2025年の環の消失は「土星が地球に対して横を向くとき」と「土星が太陽に対して横を向くとき」が1回ずつ起きます。「暦Wiki」によると、前者が日本時間で3月24日の午前4時ごろ、後者が5月7日の午前1時ごろです。*4

2025年3月24日の環の消失は日本からだと地平線下ということもありますが、太陽からの離角が10度しかなく、地上からだと世界中どこでも夜に見るのは不可能で、よくても薄明下でしか見えません。土星は望遠鏡で見れば昼間でも見えなくはないのですが、消失前後の暗くなった環はおそらく見えないので見てもしょうがないかも…

2025年5月7日の環の消失も日本からだと地平線下です。離角は48度あるので、海外なら見れる場所もあります。条件が良いのはクック諸島あたり?ステラリウムでシミュレーションすると、首都のアバルアからだと天文薄明中に高度33度ぐらいで見えるようです。さすがにそんなところまで惑星撮影用の機材を持って遠征する気にはなれませんが…

日本でも4時頃には薄明下で高度15度まで昇りますが、その時点で環がどう見えるかよくわかりません。ステラリウムは「土星が太陽に対して横を向くとき」の環の消失はシミュレーションしてくれないようです。

2025年を逃すと次は2038年から2039年にかけての時期。「土星が地球に対して横を向くとき」が3回、「土星が太陽に対して横を向くとき」1回ありますが、日本から見れそうなのは後者の1回のみ(2039年1月23日午前6時)。その頃まで天文続けられるかなぁ…

*1:それぞれの撮影時の記録は以下の通り。

*2:ガイドグラフみたいな、と言ったらマニアにはわかりやすい?

*3:土星の環の厚みは数10mから数100mと考えられています。

*4:後者は「こよみのページ」では4月26日になっていますが「少々雑な計算の結果なので実際の消失日と3~4日程度の差がある」とのことなので、「暦Wiki」の方が正確なのだと思います。