Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

三脚の石突問題

マンションの工事が終わってまたベランダで天体撮影ができるようになったのですが、工事前と変わったことが一つあります。以前はベランダの床はコンクリートの打ちっぱなしだったのですが、工事で防水塗装が施されました。

せっかくの防水塗装を天体望遠鏡の三脚の金属製の石突で傷つけるのはマズいですし、賃貸住宅ですので後々問題になることも考えられます。ということでベランダで天体撮影を続けるに当たって何らかの対策が必要になりました。

要は石突の下に何か敷いて荷重を分散させることで塗装にダメージを与えないようにしたいのですが、最終的にたどり着いたのがこれでした。

スパイクインシュレーターのスパイク受け (直径25mm/厚さ5mm ステンレス製)
スパイクインシュレーターのスパイク受け (直径25mm/厚さ5mm ステンレス製)

オーディオ用のインシュレータの一種「スパイクインシュレーター」の受け側の金属製のプレートです。4個セットで1198円でした。

インシュレーターはオーディオ機器(スピーカーやレコードプレーヤー等)の振動が、棚や床等の設置面に伝わって発生した反動が音質に影響を与えるのを防ぐために機器と接地面の間に挟む防振用の敷物のことです。

いろんなタイプがあるのですが、尖った金属製の足を機器側に取り付けて、それを受ける金属製のパッドを接地面側に置くことで振動を抑えられるそうで*1 そういうタイプのインシュレーターをスパイクインシュレーターといいます。

このスパイクインシュレーターの受け側のパッドを三脚の石突の下に敷いて SXG-HAL130(5.5kg) + SXGハーフピラー(1.8kg) + SX2(7kg) + バランスウェイト(3.7kg) + μ-180C(6.2kg) + 拡大光学系/CMOSカメラ/STARBOOK TEN (1.5kgくらい) = 25kg強 を支えて撮ったのが10月3日と4日の撮影でした。


結果は、床の塗装に傷が付くこともなく、インシュレーターが歪んだり割れたりすることもなく、期待通りでした。撤収時にインシュレーターが塗装面に密着してなかなか剥がれなくなって焦りましたが、剥がしたところを見ても肉眼で見てわかるような跡は付いておらず、問題なさそうです。

実はここにたどり着く前にはこんなものも試していました。

洗濯機用防振ゴムパッド (硬質ゴム製)
洗濯機用防振ゴムパッド (硬質ゴム製)

硬質ゴム製の何らかのパッドなら塗装面に優しいし振動も吸収していいのでは?と思ったのですが、実際使ってみると機材が無茶苦茶揺れます。もっと機材の重みで沈み込むかと思ったのですが、ちょっと触っただけでフワフワ揺れてしまう有様でした。

9月28日の月面の撮影にはこれを使ったのですが、当日無風だったからよかったものの、風があるとヤバかったかなという感じでした。月面は合成焦点距離960mmでの撮影でしたが惑星撮影は合成焦点距離7400mmですから、これはもう無理だなと思ってその後他のを探していました。

最初は木製のプレートを探していたのですが、石突が刺さって割れない強度がありそうなものがなかなか見つからず。木の枝をスライスした切り株状のプレートなら中心部に石突が刺さっても簡単には割れないだろうと、その手のもの探したのですが、サイズや平面性の点でこれといったものがなかなかなく、唯一良さそうなものは納期が遅いということで、他に何かないかと検索していたところ、偶然みつけたのがスパイクインシュレーターでした。

ちなみに洗濯機用防振ゴムパッドの前はこんなものも検討していました。

セレストロン製のものとアストロストリート扱いのものは3個セットですがタカハシの三脚フラットナーは1個の値段なので3個買うと9900円(税込)。アストロストリートの以外は結構なお値段です。今回は防振よりも床の塗装を傷つけないのが目的なのでオーバースペックでもあり、別のものを探すことにしたのでした。

そういう目的の製品がないということは需要もほとんどないということでしょうけど、まあブログに書いて10年くらい放置しておけば誰かの役に立つこともあるかもしれないので、書いておきました。

*1:原理はよくわかりません…

金星 (2021/10/4)

10月4日は土星を撮る前、空がまだ明るいうちに金星を撮りました。

金星 (2021/10/4 17:46)
金星 (2021/10/4 17:46)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 138), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 222) / 露出 1/250s x 1250/5000コマをスタック処理 x2 (L:1, RGB:1) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.0.7, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic で画像処理

半月よりちょっと太ったぐらいの欠け具合です。この日は昼間暑かったせいもあったのか夕方の低空はかなり悪シーイングでしたがスタックするとそれなりになりました。

金星はこれから年末にかけてどんどん欠けて細くなっていきます。細い金星は長らく撮っていないので狙っていきたいと思います。

土星と衛星 (2021/10/3, 2021/10/4)

色々ばたばたしていて遅くなりましたが、10月3日と4日に撮った惑星撮影の話を書いていこうと思います。まずは土星とその衛星の撮影。

10月3日は SCW では夜は曇りの予報でしたが夕方からベランダに機材を出して準備しました。実は前日の10月2日は雨の予報があったにもかかわらず曇る気配がなかったので19:00前からあわてて準備したのですが途中で雲が出てきて遠くで雷まで見える始末で、木星でピント合わせまで行ったのですが19:30頃に撤収。なのでそのリベンジというわけでした。

土星は既にだいぶ遠くなっているのですが、そのかわり小型センサーの狭い写野に衛星が入りやすい状況です。そこでROIを設定せずにセンサー全面を使って土星と衛星を合わせて撮りました。露出は普通に土星を撮るのと同じ設定で、衛星は画像処理であぶり出す作戦です。

10月3日の結果はこうなりました。

土星と衛星(ディオネ、テティス、ミマス、エンケラドゥス、レア) (2021/10/3 20:10)
土星と衛星(ディオネ、テティス、ミマス、エンケラドゥス、レア) (2021/10/3 20:10)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 311), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 385) / 露出 1/30s x 2500/5000コマをスタック処理 x2 (L:1, RGB:1) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.0.7, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic で画像処理

土星と衛星(ディオネ、テティス、ミマス、エンケラドゥス、レア) (2021/10/3 20:10) (マーカー入り)

タイタンは写野の外でしたが5つの衛星が写りました。衛星は別処理で wavelet を攻めまくり & Photoshop であぶり出ししたものを合成しています。ミマスはなかなか厳しいですが確かに写っています。モニターによっては見えないと思うのでガンマ補正用のスクリプトを実装しました。画像下の [-] ボタンを押すと画像が明るくなります。ただしIEでは動作しません(ボタンが表示されません)。

翌日の10月4日も撮りました。3日続けて望遠鏡を運んだので腰が痛かったのですが、この日はタイタンが土星に(見かけ上)近づいていたので無理やりタイタンも写野内に入れて撮りました。

土星と衛星(ミマス、ディオネ、テティス、エンケラドゥス、レア、タイタン) (2021/10/4 19:26)
土星と衛星(ミマス、ディオネ、テティスエンケラドゥス、レア、タイタン) (2021/10/4 19:26)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 302), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 390) / 露出 1/30s x 2500/5000コマをスタック処理 x2 (L:1, RGB:1) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.0.7, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic で画像処理

土星と衛星(ミマス、ディオネ、テティス、エンケラドゥス、レア、タイタン) (2021/10/4 19:26) (マーカー付き)

右上の明るい星がタイタンです。薄黄色い大気の色がわかります。土星が中心にないので AS!3 では Surface モードでスタックしています。そのせいなのかなんなのか衛星がイマイチシャープに写っていません。衛星の位置にAP置くのも試したんですがそれやると衛星の周りに継ぎ目が浮いてきたのでやめました。

こちらもガンマ補正できるようにしましたが、γ減らすとノイズも浮いてきますねぇ… まあ、衛星の位置の確認用にご利用ください。

というわけで土星と衛星 I (ミマス)から VI (タイタン)までを一枚の写真に収めることができました。本当は連続写真で衛星の動きも撮りたいところですが2日とも雲に邪魔されがちで長時間の連続撮影はできませんでした。またの機会に狙いたいと思います。でも来年になっちゃうかな…

下弦の月 (2021/9/28)

8月から始まったマンションの工事ですが、天候の関係で工期が延びて9月も終わりになってやっと終わりました。

ベランダ側の足場も撤去されてやっとベランダから天体撮影が可能になったのですが、9月28日の夜は体調が悪くて早寝してしまいました。

深夜、夢から醒めてベランダに出てみると南東の空に冬の大三角が見えていてシリウスが瞬いていました。南東の空高くには下弦の月が見えています。今夜はこの下弦の月を撮ることにしました。

久しぶりに SX2 赤道儀を出して極軸合わせ。PHD2 は 2.6.10 にアップデート。途中でドリフトアライメントでもマルチスターガイドができることに気付きました。マルチスターガイドにするとドリフトの揺らぎがかなり改善されて極軸の精度を結構追い込めました。

普通は月面撮影でそこまで追尾精度は要らないのですが、デジカメの連射で数百コマ連続で撮る場合は途中何度もSDカードの書き込み待ちが発生し、その間にあまり追尾がズレてしまうと AS!3 のスタックで破綻することがあるので精度は良いに越したことはありません。

4:20 頃から撮影開始。結果はこうなりました。

月齢21.8 (2021/9/29 04:27) (1.5x Drizzle)
月齢21.8 (2021/9/29 04:27) (1.5x Drizzle)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 1/80s x 150/302コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic で画像処理

月が傾いて見えますが、月の北極/南極が上下になる向き(北が上)にしてあります。この基準だと太陽の光がやや左斜め上から当たっているので傾いて見えています。

シリウスが瞬いていたのでシーイングはあまり期待していなかったのですが、ライブビューで見るとかなりの好シーイング。写りが良かったので1.5倍 Drizzle で処理してみました。

縮小画像での「映え」よりもピクセル等倍に近い倍率での鑑賞を想定した仕上げにしてあるので、写真をクリックして flickr で拡大して見てみてください。flickr で写真を1回クリックすると拡大、さらにクリックするとさらに拡大します。

ちなみに今回は連射時のシャッター方式をメカシャッターと電子シャッターの両方を試してみました。以下は画像処理の条件を揃えてコペルニクス付近を拡大したものです。

コペルニクス (2021/9/29 04:23) (メカシャッター)
コペルニクス (2021/9/29 04:23) (メカシャッター)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 1/80s x 125/250コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic で画像処理

コペルニクス (2021/9/29 04:27) (電子シャッター)
コペルニクス (2021/9/29 04:27) (電子シャッター)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 1/80s x 125/250コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic で画像処理

メカシャッターは明らかにブレてますね… 電子シャッターはローリング歪みが大きいとか連射するとダイナミックレンジが落ちるとかいう話を聞いたので試してみたのですが、メカシャッターの連射は無茶でした。ていうかローリング歪みって言ってもどうせスタックするなら関係ないですよね。

緊急事態宣言も解除されますし、明日から本格的に天文復帰、と言いたいところですが、関東は週末まで台風で星は見れなさそうです…

お詫び: 「産総研の開発した全方向形標準LEDのスペクトルがエグい」の件について

8月30日に発表された産業技術総合研究所(産総研)のプレスリリース「産総研:LEDを用いた全方向に光を放射する新たな標準光源を開発」に対する僕の Twitter でのツイートは誤解に基づくもので、天文ファンに対して無用な不安を煽る不適切なものでした。このエントリにてお詫びして訂正させていただきます。

産総研のプレスリリースは「全方向形標準LED」の開発に関するものです。プレスリリース中には新開発のLEDのスペクトルが図示されており、それを見て僕は以下のようにツイートしました。

このツイートは天文ファンにはあまり知られていない僕のアカウントとしては結構な数のいいね・RTがあり、天文ファンの方から「ヤバい」「何で撮ればいいんだ…」等のコメントもいただきました。

LED照明が光害源として厄介なのは天体撮影をする天文ファンには周知のことですが、LED照明で使われる一般的な白色LEDは、波長470nm付近の大きなピークと570nm付近の小さめのピーク(強度は大きなピークの40%程度)を持つスペクトルで、多くの天体(散光星雲や惑星状星雲)の光の主成分であるいくつかの輝線スペクトルの波長に対する影響は比較的軽微でした。

近年では、白色LEDのスペクトルのピーク付近をカットしたり、あるいは天体の輝線スペクトル付近だけを通すような光害カットフィルターが普及して、都市近郊でも鑑賞に耐えるレベルの天体写真が比較的容易に撮れるようになりました。最近の光害カットフィルターの特性については HIROPON さんの以下の記事を参照してください。

また、系外銀河のような連続スペクトルの天体については、近赤外に高い感度を持つカメラで赤または赤外フィルター(IRパスフィルター)を使って撮ることで光害をカットしてSN比を上げる技法も最近流行しています。これについても HIROPON さんがまとめてくださっています。

このようなフィルターワークで光害の影響を回避する撮影技法は、天体の発する光のスペクトルと光害源となる光源の発するスペクトルに差があることで成り立つ技法です。

しかし産総研日亜化学工業が開発した今回のLEDのスペクトルは、2つ目のピークが天文ファンが好んでターゲットとする赤い星雲の輝線スペクトル(波長656nmのHα線)にぴったりと重なっており、しかもそのピークは従来のLEDよりも強め(大きなピークの60%強)で、近赤外方向にも結構な強度が残るものでした。

日頃光害カットフィルターのスペクトル特性グラフとにらめっこしているような天文ファンなら背筋が寒くなるようなスペクトルです。リリース中には「今回開発した全方向形標準LEDの技術は、これからの照明産業を支えるものと期待できる」との文言もあり、こんなスペクトルのLEDが街灯等に利用されることになったら大変だ、という思いで上のようにつぶやきました。

産総研に問い合わせてみては?との声もあり、早速産総研に上のような事情を説明し、今回のLEDが一般のLED照明の基準になることはあるのか、また660nm付近のピークにはどういう意図があるのか、という点を問い合わせたところ、概ね以下のような回答がありました。

  • 全方向形標準LEDは照明用光源のスペクトルの手本となるものではない
  • このLEDは市販のLED電球等の明るさを測定するために使用するものである
  • よって天体撮影への影響については心配には及ばない
  • 660nm付近のピークは計測器がこの波長域で感度が落ちるため意図的に上げている

要するに全ては僕の誤解だったのです… 以下その後勉強した内容を交えて順番に説明します。

まず、電球等の明るさは通常ルーメン(lm)という単位で表示しますが、これは電球からあらゆる方向に放出される全ての光の総量 = 「全光束」を表すものです。*1

LED電球等を作るメーカーでは製品の明るさ = 全光束を測定する必要がありますが、これが厄介です。センサーで測定できる明るさはセンサーの面積に当たった光の明るさだけで、全光束を直接には測定できないからです。

愚直にやろうとするとセンサーを少しずつずらして電球を中心とした球面を覆い尽くすように測定を繰り返し、測定値の総和を求めることになります。この測定方法を「配光測定方式」といいます。天体撮影にたとえると「望遠鏡の直焦点で全天球をモザイク撮影するようなもの」と言えば大変さが伝わるでしょうか。

配光測定方式は時間がかかる上、大掛かりな設備が必要ですし、測定中に電球の点灯状態を安定に保つ必要がある等、測定技術的にハードルが高いため、一般の電球等の測定には使われません。ではどうするかというと「積分」という装置を使って2回測定するだけで全光束を測定できる「積分球方式」という方法があり、この方法か、あるいはその変法で測定するのが一般的です。

積分球というのは内側を白く塗った中空の球で、球の中心に光源を設置します。センサーは球面の内側に一つ取り付けてあり、球の内壁の一箇所の照度を測定する形になります。なぜ一箇所でよいかというと、積分球の内壁の明るさは理論上均等になり、その値は全光束に比例するからです。*2

この積分球で測定対象となる電球等を測定し、同じ積分球で全光束があらかじめわかっている光源 = 「標準光源」も測定することで、全光束の絶対値を計算することができます。たとえば電球の測定値が標準光源(全光束90ルーメン)の測定値の倍なら、電球の全光束は標準光源の全光束の倍 = 180ルーメン であるとわかるわけです。これを「相対比較測定」といいます。

詳しくは以下のサイトを参照してください。

ここまで書けばお分かりかと思いますが、今回産総研が発表した「全方向形標準LED」というのはこの「標準光源」として使用するためのLED光源なのです。標準光源は対象の光源と明るさの比を計算する性質上、可視光の全波長域で十分な強度が必要です。

なので、「全方向形標準LED」では「可視光のほぼすべての波長範囲をカバー」しつつ、通常使用されるセンサーでは感度が低い赤色の波長域で強度が上がる形のスペクトルになっているのです。一般の照明用のLEDがこのようなスペクトルである必然性はありません。

また、プレスリリースにある「今回開発した全方向形標準LEDの技術は、これからの照明産業を支えるものと期待できる」というのはあくまで標準LEDのために開発した配光方式についての記述で、スペクトルのことではありません。

では、今回開発されたLEDと同様のスペクトルを持つLEDが照明用に使われる可能性はあるのでしょうか?これについては twitter で、やなぎさん(@photo_chem )からコメントがあり、赤外側に広がるようなスペクトルのLEDは一般的な照明用としてはエネルギー的にも無駄になるので使われないだろう、とのことでした。

確かに人間のための照明ですから可視光の波長域を越えて光っていても電力の無駄ですよね。もっとも監視カメラやドラレコ等の赤外域に感度のあるカメラのために赤外域でも光る街灯のニーズが出てきたら… とも思いますが、今のところは杞憂でしょうか。

なお、やなぎさんには僕の標準光源についての誤解についても産総研から回答が来る前に指摘して頂いて、おかげで早めに訂正ツイートをすることができました。どうもありがとうございます。

というわけで、全ては僕の誤解でした。今後も新たに開発される照明用のLEDのスペクトルについては注視していく必要はあると思いますが、今回の「全方向形標準LED」に関しては天文ファンが心配する必要は全くないものでした。

誤解を招く大袈裟なツイートをしてしまい申し訳ありませんでした。産総研の関係者の皆様と心配された天文ファンの皆様にお詫びします。

最後に僕の不躾な問い合わせに対しても誠実に回答してくださった産総研の担当者の方*3 に感謝します。

*1:参考: 明るさ?全光束とは!あかりNETの豆知識

*2:理論については「2.積分球の構造と原理 積分半球を用いた光源の全光束測定 |大塚電子」を参照。

*3:当初プレスリリースに名前とメールアドレスが掲載されていたのですが、今見ると問い合わせフォームに置き換えられていますので名前は伏せます。というか、お手数かけさせてしまって申し訳ありません…

夏の終わり

早くも夏が終わってしまいました。

先月、8月からマンションの工事があるとのお知らせがあり、ひょっとして… と思ったらさっそくこうなってました。

IMG_2326

ベランダから見た空です。工事のための足場が組まれて、これが9月まで続くようです…

足場の隙間から木星くらいは見えないかと思ったのですが、深夜に望遠鏡の主鏡の位置から木星を見上げるとこうなりました。

IMG_2308

…終わりました。

今年は8月が惑星シーズンだというのにこれでは… エレベーターのない建物ですので SX2 と μ-180C 一式を一人で外に持ち出すのはさすがに無理です。まあ、夏場に地面がアスファルトの地上から惑星撮るのはおそらく厳しいので、どっちみち…

惑星は諦めて近所の公園に出かけてスカイメモSと RedCat 51 で DSO 撮影でも、と言いたいところですが、このご時世ですので… 公園、結構夜中に若者がたむろってたりするんですよね。別に絡まれるわけではありませんが、最近ノーマスクの若者を結構見かけるので、そういうのにエンカウントすると50代基礎疾患ありワクチン未接種のおじさんとしては辛いのです。

というわけで今年の夏はお天気とか月齢とか気にせずのんびり過ごそうと思います…

木星タイムラプス

7月16日深夜に撮った大量の木星の撮影データからタイムラプスムービーを作成しました。

撮影時の記録はこちら。

μ180C で惑星を撮り始めて4年目になりますが、16日深夜は過去最高レベルのシーイングが1時間半ぐらい続いていたので、雲が切れてからはADCの調整を除いてほぼぶっ続けで撮影していました。おかげて画像処理が大変だったのですが、これだけデータがあれば木星がぐるぐる回るタイムラプスムービーが作れるのでは?と思いついてしまって、もっと大変なことになってしまいました…

作業に5日かけてやっとできました。若干粗い部分もありますが、こちらになります。

木星 (2021/7/17 1:42:24-2:57:36)
木星 (2021/7/17 1:42:24-2:57:36)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 276), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 360) / 露出 1/60s をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.0.7, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic, ffmpeg 4.2.4, mp4fpsmod 0.26 で画像処理

どうでしょう?ちょっと左側のリムの処理がイマイチですが… 600倍速で約7.5秒と短い動画ですが、むちゃくちゃ手間がかかりました。

まず、実際の撮影ではモノクロカメラとカラーカメラを切り替えながら撮影しているので、元データは L/RGB それぞれ 3〜4 分間隔で撮影した動画になります。これをそれぞれ AutoStackkert!3 で stack した L と RGB の画像を、WinJUPOS でそれぞれ de-rotation して、wavelet 処理して、Photosho で LRGB 合成して、Lightroom で微調整して1枚の写真に仕上げています。

いつもは stack した L 画像3コマを撮影時間の中心時刻に reference time を合わせて de-rotation し、RGB 同様に3コマからから L と同じ reference time で de-rotation しています。3コマの選択を1コマずつずらしていって、44枚の写真ができるはずだったのですが、試しに7枚の写真でタイムラプスを作ってみると動きが粗くてイマイチ…

そこで ffmpeg のフレーム補完機能(minterpolate)を使って中割りを自動生成してみたのですが、イオの公転はそれっぽく補完されたものの、木星の模様が単なる自転による動きではない謎の動きをするようになってしまって使えませんでした。パラメータを色々試したのですがどうしてもダメ。

結局 WinJUPOS の de-rotation で reference time をずらしていって中割り画像を生成することにしました。600倍速25fpsで再生することを目標に、0.4分(24秒)毎に1枚生成してL/RGB各189枚。これをLRGB合成して、リムの明るさの変動を調整して、衛星を消して木星だけのフレームを生成して動画化。

WinJUPOS は衛星を de-rotation できないので、衛星だけの画像を別に用意し ffmpeg でフレーム補完した動画を作成して、最後に ffmpeg木星だけの動画にクロマキー合成して仕上げました。

タイムラプスと言っても正確に等間隔で撮影できていないので、de-rotation で等間隔のフレームを生成できる木星本体はともかく、衛星の方はそのままではタイムラプスにできませんが、mp4fpsmod というツールを使ってフレームのタイムコードを指定して可変fpsの動画を生成し、それを ffmpeg のフレーム補完で25fpsの動画に変換しました。

なお、衛星の軌道がうまく補完されるように、衛星だけの画像は少し大きめにトリミングしたものを使っていて、補完後に目標のサイズにトリミングした動画を生成しています。そうしないとフレームの外に飛び出た衛星の画像と飛び出る前の衛星の画像の間がうまく補完できないので。

作業はなるべく自動化したかったのですが、WinJUPOS は自動化機能がなく全部手作業、RegiStax6 はバッチ機能があるためそれを活用しましたが、フレームの輝度(コントラスト)が時間と共に変わってしまうため、3回くらいに分けてコントラストを調整しながら処理しました。

Photoshop でのLRGB合成はアクションの記録を活用して省力化しました。本当はスクリプトで完全自動処理と行きたかったのですが、雛形になる Photoshop が生成したスクリプトが全く理解できない代物だったので今回は諦めました。適当に加工すれば使えなくはなさそうだったのですが、かなり試行錯誤が必要そうだったのと、理解してないコードを使うのは抵抗があったので…

リムの輝度の変化の処理は、明るくなった部分についてはマスクするレイヤーを透過率を変えてコピペしていくことでまあまあ処理できたのですが、周期的に発生する暗くなって二重化したリムを持つフレームについては簡単に繰り返せる処理を思いつかなかったのでそのままにしてあります。WinJUPOS の LD value をうまく設定すればそもそもリムの輝度ムラは出ない気もしますが、そのへんはまだ追求していません。

ちなみに例の「こってり」「あっさり」の2種類作って合成するやつは今回はやっていません。Wavelet のパラメータを追い込んで一発でちょうどいい感じになるよう調整しました。

ということで、7.5秒の動画を作るのに延べ10時間くらいかかってしまいました。パペットアニメ『PUI PUI モルカー』のコマ撮り撮影が1日5秒分くらいとのことなので、結構いい勝負ですね…

というわけで、まあ半分CGみたいなものではありますが、あこがれの木星タイムラプスができました。もう一度やれ、と言われてもなかなかできないし、これだけの好条件で連続撮影ができる夜はなかなかないですから、やりようがないかもしれませんね…

あとは自転の位相をずらした画像を並べた疑似3D木星動画とかも作れそう?そのうち作って見るかもしれません。

最後に189フレームの中のベストショットを仕上げた写真を。

木星 (2021/7/17 2:16)
木星 (2021/7/17 2:16)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 276), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 360) / 露出 1/60s x 1500/3000コマをスタック処理 x6 (L:3, RGB:3) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.0.7, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic で画像処理