Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

皆既月食中の天王星食 (2022/11/8)

11月8日の夜は皆既月食天王星食の撮影をしました。皆既月食の最中に天王星食の潜入が始まり、皆既終了後とはいえ月食の最中に出現するという大変レアな天文イベントで、天文家以外の一般の人たちの注目も集まりました。この日初めて天王星を見たという人も多いのではないでしょうか。

天王星食は是非 μ-180C 直焦点でクローズアップで撮りたいと思い、月食の過程をじっくり撮るような撮影は諦めて、ベランダに SX2 + μ-180C とスカイメモS + FSQ-85EDP の2台の望遠鏡を並べて天王星食と皆既月食の同時撮影を試みました。

結果から言うと天王星食の方は概ね満足行く撮影ができましたが、皆既月食の方は後半ピントがズレてしまって、満足度も半分といったところ…

皆既月食については別エントリで書くとして、このエントリでは天王星食の撮影の話を書きます。

まずはリザルトを。

皆既月食中の天王星食・潜入 (2022/11/8 20:39)
皆既月食中の天王星食・潜入 (2022/11/8 20:39)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC (Gain 402), SharpCap 4.0.9268.0 / 露出 1/30秒 / SER Player 1.7.2, 自作 python スクリプト, ffmpeg 4.2.7 で動画編集

皆既月食中の天王星食・出現 (2022/11/8 21:21)
皆既月食中の天王星食・出現 (2022/11/8 21:21)
撮影データは同上

天王星と月面の色がうまく出るかどうか心配でしたが、天王星の青緑色も月面の赤銅色もなんとかわかる程度に写りました。

潜入の第1接触は 11:40:13 UT 前後、第2接触は 11:40:28 UT 前後でしょうか。出現の第三接触 12:21:51 UT 前後、第4接触は 12:22:04 UT 前後でしょうか。

時刻は SharpCap が SER ファイルに埋め込んだタイムスタンプを SER Player が出力したものを自作スクリプトで動画に合成したものです。SharpCap は Windows 10 のシステム時刻を見ていると思います。Windows 10 は1日一回 NTP サーバーと同期(時刻合わせ)していますが、撮影に使ったPCのイベントログを見ると当日の11:00頃に時刻合わせをしていたようです。

PCの時計の精度はマザーボードのRTCの精度次第で日差10秒以上ある場合もあるとのことですが、実際に NTP と同期してから8時間経った時点で iPhone の時計(こちらは携帯電話回線の機能を使ってかなり正確に合わされているはず)と比べても差は1秒以内でした。なので上の動画のタイムスタンプもそのくらいの精度はあると思います。

「第n接触」という言葉の意味については以下の図を参照してください。

https://rna.sakura.ne.jp/share/planetary-occultation-and-transit.png

月食撮影との並行作業で大忙しというのはさておき、撮影前に一番懸念していたのは出現の方の撮影です。潜入は撮影開始前に構図を調整できるので潜入の瞬間は雲でも通過しない限り撮影できますが、一度天王星が隠れてしまうとそうはいきません。赤道儀任せで40分間追尾した結果、天王星は写野の外に出ていた、ということになってしまうと失敗です。

μ-180C の直焦点に ASI290MC の小センサーだと写野は8.93分×5.06分という狭さ。それなりに見れる構図で出現を撮るにはノータッチでも約40分間で赤経方向が±2分、赤緯方向が±1分ぐらいの精度で追尾して欲しいところ。

天王星はほとんど動かないので近くの恒星を使ってオートガイドという手もなくはないですが、オフアキは使えないし、μ-180C にガイドスコープを取り付けるためのパーツも持っていませんし、そもそも皆既明けで輝きだした月の影響を受けずにガイドできるかという話も。

そんなわけで出現の撮影は一種の博打だったのですが、17:00過ぎから一時間くらいかけて念入りにドリフトアライメントで極軸を追い込んだおかげか、なんとか許容範囲内の精度で追尾できました。

残念だったのは天王星の衛星が写らなかったこと。実効3倍のバローで1/15秒露出でもスタックして wavelet 処理で炙り出せば写ったので、1/30秒でもなんとかなるかと淡い期待はあったのですが…

しかし皆既中とはいえ月面からの光害(?)でノイジーな状況では少々画質調整したくらいでは何も見えませんでした。こりゃ無理ゲーだったか、と思っていたら M87JET さんが見事撮影に成功していました!

これはすごい。なんと1コマ5秒露出です。画像処理と合わせて赤黒い皆既の月が真っ白に飛ぶほどに炙り出してやっと見えたと。

うちの動画でも数秒分スタック&waveletで炙り出せばなんとかなるんでしょうか?でもどうやって処理したらいいんでしょうね。特に潜入直前から天王星本体潜入後にかけてのフレームをどう処理したものやら…

というわけで天王星食については心残りは若干あるものの、第一の目的だった「赤い月に青緑色の天王星が飲み込まれていく様子」は無事とれましたし、出現の方もなんとか撮れたので満足しています。

追記

そうそう、なんでわざわざ動画にタイムスタンプを表示したのかというと、キャプチャーのFPSに多少ゆらぎがあったのと、フレームドロップが若干出たため、単純に mp4 とかに変換したものを再生してもシークバーの時間表示が信用できないからです。

SER Player だとシークバーに SER のフレームに埋め込まれたタイムスタンプ情報を表示してくれるのですが、mp4 等に変換する場合は動画内に表示するしかありません。SER Player の AVI 出力にそういうのがあればいいんですが、どうもないみたいだし、そもそも出力した AVI が動画編集ソフトで正常に扱えない場合がありました(AVIインデックスが壊れているっぽい)。

結局画像出力機能でファイル名にタイムスタンプを含めるオプションを指定してフレーム画像を出力し、自作スクリプトでファイル名から読み取ったタイムスタンプをフレーム画像に書き込んで、それを ffmpeg に入力して動画エンコードしました。

自作スクリプトについては後日 github で公開します。