Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

M81, M82 (2020/3/20)

祝日の3月20日新月期に快晴の予報ということで昼から何を撮ろうか考えていました。一つの案はベランダから μ-180C で木星状星雲を撮ること。もう一つの案はマンションの廊下から M81 と M82 を撮ること。悩みましたが結局後者にしました。

自宅のベランダは南向きで北天の天体は撮影できません。スカイメモSで撮っていた時は近所の空き地や公園に出かけて北天の天体をいくつか撮っていましたが、8cm F6 直焦点での撮影には追尾精度や機械的安定性が不足して露出時間に制限があったり導入や極軸調整で苦労が多いものでした。苦労というか苦痛…

SX2を使うようになってからはなんとかしてSX2を野外に持ち出そうと、赤道儀と三脚を収納するバッグ、リチウムイオンのポータブル電源、というところまでは揃えたのですが、トータルで20kg以上になる機材を運ぶための台車もしくはアウトドア用キャリーカートは未購入で、まだ公園にプチ遠征できる体制が整っていません。

そこでマンションの北側の廊下から撮るのはどうか、というのを前から検討していたのですが、天井が意外と近いこと、蛍光灯が複数あってかなり明るいことから敬遠していました。でも気になって iPhone の水準器アプリを利用して測ってみたら高度60度弱までならなんとか天井に邪魔されないようなので M81, M82 なら撮れるのでは… と最近気になっていたのでした。

今回は天体撮影そのものよりも、実際に廊下からどこまで撮れるか調べることと、来たるべきプチ遠征に備えて遠征用機材の問題点を洗い出すことを目的に、プチ遠征の演習的な意味で撮影結果は問わないことにして撮影に臨みました。失敗してもここでは、この機材では撮れない、と判明するのが成果ということで。

というわけでプチ遠征用機材として今回始めて使うのは以下の機材。

コメット 布ケースCB用
HIROPONさんも愛用赤道儀とハーフピラーの収納・運搬用のバッグです(本来はストロボ電源等を運搬するためのもの)。ちなみに三脚用ケースとしてリーベック RC-30 も買ってありますが、今回は使わず、三脚はむき出しで運搬しました。
suaoki ポータブル電源 S200
赤道儀とノートPC用の電源です。容量は200Wh。84Whの SG-1000 では一晩もたないので買いました。付属のアダプターケーブルで12Vシガーソケット出力ができます。
MacBook Air (Retina, 13-inch, 2019)
オートガイド用のノートPCです。PHD2をインストール済。CMOSカメラでの撮影にも使う予定ですが CCDCiel の設定がまだうまくいってません…

いつものベランダ撮影では必要なものは部屋の中のどこかに必ずあるので気楽なものでしたが、廊下での撮影は柱の位置の関係で少し離れたところに設置するので部屋との間を往復するのも大変ですし、今回は演習でもあるので、iPhone のリマインダーに荷物リストを作って忘れ物のないようにチェック。だったのですが、荷物リストにフラット撮影用の iPad とコンビニ袋と輪ゴムを入れるのを忘れていました…

20:00頃までに準備は一通りしたものの、ひきこもり天文家としては不安がいっぱいで、やっぱりやめようか、おとなしくベランダから撮ろうかとか思ったりもしたのですが、なんとか気合を入れて20:30頃に出動。

機材は3回に分けて運びました。本番のプチ遠征では1階との往復になるのでなんとか2回で運べるようにしたいのですが、赤道儀を入れたバッグの強度がまだわからなかったので、いざという時に両手が使えるように赤道儀はそれだけ持って運びました。運んだ感じでは肩掛けベルトを肩に掛けて普通に運搬できそう。

機材の組み立てはそこそこスムースにできました。しかしオートガイダーの映像を見て愕然。映像が真っ白で星が見えません。ガイドスコープにはフードがないので天井の蛍光灯の光が直撃してカブってしまっているようです。

あわてて部屋に戻ってティッシュ箱を切り抜いて黒マジックで塗りつぶしただけの即席のフードを作って輪ゴムで留めたところ、なんとかなりました。でも1秒以上の露出は厳しく、結局1秒露出でガイドすることになりました。撮影鏡の鏡筒からの照り返しも対策が必要かも。

正直この時点で無理だろうなぁという気配が漂ってきたのですが、今回はやってみること自体が目的なので続けます。

次は極軸調整です。ベランダではドリフトアライメントしかやってないので、うちのSX2には極軸望遠鏡を取り付けていません。極軸望遠鏡、実はセットで買ってはあるのですが、今回は PHD2 のスタティック・ポーラー・アライメントを使ってみることにしました。ST-4 接続なのでマニュアルモードでやります。

が、これがうまくいきません。ダイアログに北極星周辺の星図が出て、本来この星図のスケールと傾きがガイドカメラの映像にと一致するはずなのですが、どうも傾きが少しズレているのです。キャリブレーションの精度が悪いのでしょうか。2回キャリブレーションをやり直してマシにはなりましたが、まだ少し傾いています。

無視してそれで合わせても、実際に追尾を開始するとガイドが流れていくので話になりません。廊下からは南の空は見えないので普通のドリフトアライメントもできないし困ってしまったのですが、PHD2 にはもう一つポーラー・ドリフト・アライメントというツールがあるので、それを使ってみることにしました。こちらはうまくいきました。2回繰り返したところ、十分な精度でガイドできそうだったのでこれで行くことにしました。

次はピント合わせです。バーティノフマスクを使うのでまず1等星を導入したいところですが、廊下からの視野は天井と柱に制限されて1等星は見えません。まずおおぐま座α星で北斗七星の柄杓の先の星ドゥべを導入したのですが天井に阻まれて見えず。これで赤緯61度以下の天体は撮影困難と判明。

そこでこぐま座のコカブでピント合わせをしたのですが、M81を導入するとカメラの向きが縦位置にならないことに気付きカメラを回転。ピントを合わせなおそうとしたのですが、コカブを再導入すると子午線超えの際にカメラがぶつからないか心配だったので、名も知らぬかなり暗い星でバーティノフマスクの光条がほとんど見えない状態で、像の対称性を頼りにピントを合わせました。

よく考えたらコカブから子午線超えで導入したのだから逆も問題なかったのでは… とはいえ、M81 の導入は最初子午線を越えず telescope-west で導入されてしまい、そのままだと撮影を続けるとカメラがピラーにぶつかってしまうので、赤道儀の設定を変えて telscope-east で再導入していたので、単に逆コースで鏡筒が動くわけではないので心配だったのです。

結局撮影開始は22:30頃になりました。8cm F6直焦、光害カットフィルターありで6分露出。北天でガイド精度がどの程度出るかわからなかったので今回は露出時間を短く、コマ数を多く撮る作戦で行きました。

ガイドはやや不安定で、4秒角くらい流れては2分ほどかかって復帰するということが何度もあって、5,6コマはボツになるかなという感触。16コマ撮影の予定でしたが0:50までかけて20コマ撮りました。RMSエラーは RA, DEC 共に1.5秒角弱、トータルで2秒前後と、一応及第点。でもばらつきが大きめで星像はぽってりしそうな感じ。

連休中と思って油断していたのですが、途中マンションの住人に何度か声をかけられてしまいました。「星?見えないよ?」「デジカメなら撮れると思って… でもだめかもしれません…」みたいなやりとりをしていました…

さて、まずは最終結果から。

M81, M82 (2020/3/20 22:37)
M81, M82 (2020/3/20 22:37)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) / 露出 6分 x 16コマ 総露出時間 1時間36分 / DeepSkyStacker 4.2.2, Lightroom CC で画像処理

DSS に自動選別させて20コマ中16コマをスタックしましたが… 2016年の冬に撮った写真と比べると、解像度は間違いなく向上しているのですが、M81の淡い部分はイマイチですね… 露出不足もあるのでしょうが、実は画像処理に大変苦労しているのでそのせいもあります。

M82 と M81 のツーショットは定番ですが、この2つは適正露出が合わず、M81 をいい感じにすると M82 が露出オーバーになってしまうという関係です。なので、以下の拡大写真では別々に仕上げています。

M81 (2020/3/20 22:37)
M81 (2020/3/20 22:37)
同上

M81 の拡大写真です。迫力のある大きさに写ってはいるのですが、渦巻き状の腕の写りがギリギリな感じです。中心部右から右斜め下にかけてうっすら暗黒帯も写っていて、解像感は悪くないのですが…

M82 (2020/3/20 22:37)
M82 (2020/3/20 22:37)
同上

M82 の拡大写真です。中心部の燃えているような模様は、昔は銀河が爆発しているのだと言われていましたが、今は「爆発的な星生成」の現場だとされています。本当は中心部から上下に Hαで光るガスが噴き出しているのですが、無改造のデジカメでは全然写りませんね…

DeNoise AI で処理したものも貼っておきます。

M82 (2020/3/20 22:37) (DeNoise AI)
M82 (2020/3/20 22:37) (DeNoise AI)

M81 (2020/3/20 22:37) (DeNoise AI)
M81 (2020/3/20 22:37) (DeNoise AI)

対象によって相性がある DeNoise AI ですが、銀河とは相性が良いみたいでなかなかの仕上がりです。特に M81。

さて、結局そこそこ撮れてるのでは?という感じですが、実は元々は光害(迷光?)カブリがひどいものでした。

M81 (2020/3/21 00:07) (スタックなし、ホワイトバランス、レベル補正のみ)
M81 (2020/3/21 00:07) (スタックなし、ホワイトバランス、レベル補正のみ)

ライトフレーム1枚をホワイトバランス調整とレベル補正のみで仕上げたものです。なんですかこの赤いカブリは… 段階フィルター7つ使ってなんとかごまかしたのですがどうしても背景にムラが残って強調処理の足かせになりました。

この赤カブリの原因はよくわからないのですが、筒先は長い巻きつけフードを付けているし、廊下の蛍光灯は望遠鏡の後ろ側にあるし、筒先からの迷光ではないような… ひょっとしてドローチューブ側からの迷光かも?

というわけで、視野が狭くて撮れそうな天体はこの M81, M82 くらいだし、迷光は出るしでマンションの廊下からの撮影はなかなか厳しいということがわかりました… 恒星は16.4等くらいまで写っているのがむしろびっくりなくらいなんですが。

機材についてはプチ遠征に耐えられそうです。気になる電源関係は、4時間の電源使用で、MacBook Air のバッテリー残量は60%、suaoki S200 のバッテリー残量は5段階中の4(約80%)ということで十分余裕がありそうです。

ということでプチ遠征、なんとか実現させたいのですが、プチ遠征先の公園も照明が明るくて微妙なんですよね… どこかいいとこないかな…