Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

オフアキはじめました: M5, M16(創造の柱) (2022/5/3)

GW中の5月3日の夜、μ-180C + フラットナーレデューサーのオフアキ*1撮影のテストをやりました。同時にビクセンのワイヤレスユニットのテストもやりました。

元々この組み合わせでオフアキは無理そうと思っていたのですが、仕事のストレスでついカッとなって機材一式を発注してしまい、仕事が落ち着くまで開封もしてませんでした。

GWに入って、やっちまったなぁ、でもダメ元でやってみるか… とテスト撮影したのですが、結論から言うと「一応撮れる、でもSX2(少なくともうちの個体)では精度的に厳しい」という感じ。

まずはこの日撮影した M16 中心部(創造の柱)のHα画像を。

M16中心部(Hα画像) (2022/5/4 01:39)
M16中心部(Hα画像) (2022/5/4 01:39)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), 高橋 Mフラットナーレデューサー (合成F9.8), ZWO Ha Filter / Vixen SX2, ZWO OAG + ZWO ASI290MM + PHD2 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (Bin 2, Gain 300, -10℃), SharpCap 3.2.6482.0, 露出 2分 x 19コマ / DeepSkyStacker 4.2.6, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

1コマ2分のガイドに耐えました!よく見ると6本の光条がちゃんとクロスしてないのでピントが若干ズレているのですが、それでもこれだけ写る!ということで、可能性は感じさせるのですが…

実は Hα を撮った時はたまたまガイドが安定して赤緯の修正があまり発生しなかったので歩留まり8割くらいだったのですが、その後のRGB撮影では1分露出でも歩留まり5割くらいでした。

ガイドエラーは主に赤緯ガイドの蛇行が原因です。どうも赤緯バックラッシュが大きすぎて細かい制御ができない感じです。SX2 の赤緯バックラッシュは以前から悩まされてきてだましだまし使ってきたのですが、さすがに 1760mm のガイドとなると誤魔化しが効かないですね。

機材の組み立て

オフアキ撮影のために用意した追加機材は以下の通りです。

タカハシ Mフラットナーレデューサー
タカハシ Mフラットナーレデューサー

タカハシ接続リング M54-M48
タカハシ接続リング M54-M48

ZWO OAG
ZWO OAG

接続はカメラ側から以下の順で組みました。これで光路長は合うはず。

  • ZWO ASI294MM Pro (T2 extender 11mm は外す)
  • ZWO EFWmini
  • M42-M42 adapter (male to male)
  • T2 extender 11mm
  • ZWO OAG
  • タカハシ接続リング M54-M48
  • タカハシ Mフラットナーレデューサー

ガイドカメラ側は、OAG の「31.7mmガイドカメラ用ホルダー」は外して、「5mm T2延長筒」は残して、ASI290MM をT2ネジで直接ねじ込みました。これだとガイドカメラの向きを調整できなくなりますが、なんとかセンサーに入るガイド星を見つけることにします。

ZWO OAG の調整

OAG のプリズムの位置とガイドカメラのピント位置の調整は、夕方にタカハシ接続リング M54-M48 以下を外したものを BLANCA-80EDT (8cm F6 屈折)に装着して遠くのマンションの壁を使って調整しました。

どういうわけか協栄の日本語説明書にも ZWO のサイトにあるマニュアルにも書いていないのですが、調整ネジはプリズムの位置調整とピント位置調整のそれぞれについて、ローレットネジとイモネジの2本、合計4本のネジを回す必要があります。以下の OAG を鏡筒側(対物側)から見た写真で、矢印で指した4ヶ所のネジを使います。

ZWO OAG (鏡筒側の面)
ZWO OAG (鏡筒側の面)

最初これに気付かなくて調整してもガイドカメラがグラつくので不良品かと思いました… 出荷状態ではイモネジの方が緩めに締めてありましたが、調整後、最後に締めて固定するとガッチリ固定されました。イモネジは OAG 付属のヘックスキーで回せます。

ピントの調整中、まだイモネジのことを知らなかったので、プリズムの入った筒とカメラ接続部の摩擦が大きくて調整にずいぶん苦労したのですが、イモネジを少し緩めればスムースに調整できるようです。

ワイヤレスユニットについて

本当は新しい機材は一つずつ試すべきなのですが、天気予報ではGW中の晴れ間はほとんどないということで、オフアキのテストと一緒にワイヤレスユニットのテストもやりました。これはだいぶ苦労しました…

アプリは iPhone 12 mini にインストール。ワイヤレスユニットが Wi-Fi アクセスポイントになるので、そこに iPhone を直結する形になります。その間 iPhone はインターネットに接続できなくなります。

最初、初期設定後に自動導入をしようとしても赤道儀が全く動かなかったので、アプリを強制終了したところ、ファームウェアのアップデート(1.10から1.20に)を促すダイアログが表示されたので、アップデートを実行したのですが(ネットには接続してないのでアプリ内に最新ファームが入っている?)これが全然25%くらいで止まって先に進みません。

マニュアルにはアップデートには5分ほどかかると書いてあったのですが、10分経っても止まったまま。本体LEDは赤-青で電源もWi-Fi接続にも問題ないはず。画面には中止ボタンもないしどうしたものか、と思っていたところ、もしかして?と画面左上の「<」ボタンを押したら中止して前の画面に戻りました。わかりにくい…

とりあえずファームは1.10のまま続けました。当たり前ですが SB-10 の設定は引き継がれないのでイチから設定になります。子午線越えの設定とオートガイダーの設定を設定しておきました。

ガイドカメラにUSBで繋いだPCの PHD2 で新規プロファイルを作成、ガイド鏡の焦点距離を設定(1763mm)、ダークライブラリ作成は省略。PHD2 をカメラと架台に接続しようとすると PHD2 が固まって接続失敗。PHD2 を再起動しても変わらず。SharpCap からもカメラが見えなくなったので、USBまわりの不調?

しょうがないのでPCを再起動してから PHD2 を起動したらあっさり接続できました。なんなんだったのだろう… 焦点距離が長くてガイド星の動きが大きいせいかキャリブレーションが最初うまくいかなかったので、追尾検索区域を大きめ(40ピクセル)に設定し、「赤経赤緯が直交すると仮定」にチェックを入れました。

キャリブレーション中、ワイヤレスユニットとスマホアプリの接続が切れましたが、キャリブレーションは問題なく完了しました。そしてドリフトアライメントで極軸を追い込み。

ワイヤレスユニットの接続が切れる件は、色々試した結果、どうやら部屋の Wi-Fi の方が電波が強いので iPhone がそっちに切り替わってしまうようです。部屋の Wi-Fi 接続の自動接続設定をOFFにしたところ、接続が安定しました。

ここで改めて自動導入をしたのですが… どうも自動導入の子午線越え設定に値が設定してあると設定を無視して telescope-east で導入しようとしてしまう?telescope-west でカメラを接続してしまったので反転するとケーブルが絡んでしまうし、ケーブルを外すと冷却カメラの冷却がやり直しになってしまいます。

結局、子午線越え設定を0に戻して導入すると、子午線を越えていない天体については telescope-west のまま導入できました。なんだか謎ですが、ファームが古いせい?今度ちゃんとアップデートしてからまた試してみます。

この時点で時刻は 20:30。1763mmの手動導入なんてやりたくないので、まだ子午線を越えてない天体を撮るしかなく、子午線越え自動反転の設定も怪しいと思い0に設定したので、撮影終了時に子午線を越えない天体ということで球状星団 M5 を撮ることにしました。せっかくなので銀河を撮りたかったのですが…

オフアキガイド

さて、いよいよオフアキガイドです。ガイド星を探すのにプリズムを動かすのだと思っていたのですが、実際にはプリズムだけを回す方法はなくて、スリーブ接続になっているMフラットナーレデューサーの接続部分を回転させてガイド星を導入し、オフアキの3本のローレットネジを緩めてカメラを回転させて写野を調整する、という手順になります。

しかしガイドカメラがフィルターホイールに干渉して回せない範囲があり、フィルターホイールとカメラの角度は固定になるので、写野の水平を取れる範囲での調整範囲はごくわずかでした。ほぼ選択の余地がない状況でしたが、幸いガイド星は3つくらい見えていました。

オートガイドは一応できるのですが、どういうわけかガイドカメラのバックグラウンドレベルが定期的に?変化して1分に1回くらいの頻度でガイド星を見失うことがありました。写野の1/2くらいの太さのカブリのような光の帯が見えていて、それの明るさが変化するようです。地上風景で調整中はそんなことはなかったのですが… これは今でも原因がわかりません。

M5 の撮影結果はこうなりました。

M5 (2022/5/3 23:10)
M5 (2022/5/3 23:10)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), 高橋 Mフラットナーレデューサー (合成F9.8), ZWO LRGB Filter / Vixen SX2, ZWO OAG + ZWO ASI290MM + PHD2 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (Bin 2, Gain 150, -10℃), SharpCap 3.2.6482.0, 露出 L:1分 x 19コマ, R:2分 x 5コマ, G:2分 x 8 コマ, B:2分 x 5コマ / DeepSkyStacker 4.2.6, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

露出時間も短いので微恒星の写りがいまいちでパッとしませんが、ガイドはできているようです。ですが、実際は撮影したコマの半分くらいはガイドエラーで使い物になりませんでした。冒頭で触れたように赤緯ガイドが蛇行するせいで、修正不足から過修正に切り替わるタイミングで撮ったコマはNGになってしまいます。赤経ガイドは概ね安定していました。

安定しているタイミングでは赤経/赤緯共にRMSエラー0.6秒角くらいのガイド精度が出ているのですが、とにかく赤緯ガイドが不安定。不安定な時のガイドグラフはこんな感じです。

ミューロン180C  + Mフラットナーレデューサー + SX2 のオフアキガイドの様子
ミューロン180C + Mフラットナーレデューサー + SX2 のオフアキガイドの様子

BLANCA-80EDT ではマルチスターガイドができるようになってからはシンチレーションの影響を受けにくくなって赤緯の蛇行はだいぶ減った印象ですが、今回はF値が暗くガイドカメラの写野も狭いこともあってマルチスターガイドはほぼ不可能でした。

例のバックグラウンドの明滅の影響がなければなんとか3つくらいガイド星を掴めたかもかも?とはいえ、暗い星はシーイングが悪化するとぼやけてほぼ消えてしまったりするので、安定したマルチスターガイドは難しそうです。

なお、PHD2 のガイドパラメータは、途中試行錯誤しましたが、最終的には以下のようになっています。

  • 赤経: Predictive PEC (パラメータは全てデフォルト値)

- Predictive Weight: 50
- Reactive Weight: 60
- 最小移動検知量: 0.20
- Period Length: 484.69
- Auto-adjust period: ON
- Retain model: 40
- Max RA duration 2500

  • 赤緯: レジストスイッチ

- 積極性: 50
- 最小移動検知量: 0.61
- 大きな変位に対する高速切り替え: OFF
- Backlash Compensation: OFF
- Max Dec duration: 2500
- 赤緯ガイドモード: Auto

赤緯ガイドモードは蛇行しそうになったり手動で一時的に OFF にしてガイドパルスを間引いたりもしましたが、あまり改善しませんでした。

M5 を撮った後、冒頭に貼った M16 中心部の撮影もしました。こちらは Hα を撮ったこともあって、意外とよく写りましたが、やはり歩留まりが悪く、ただでさえ時間のかかる LRGB 撮影が倍くらいかかってしまい、なかなか厳しいものがあります。

M16 中心部はLRGBの多段階露光も撮ったので、カラー画像も貼っておきます。

M16中心部 (2022/5/4 01:39)
M16中心部 (2022/5/4 01:39)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), 高橋 Mフラットナーレデューサー (合成F9.8), ZWO LRGB Filter, ZWO Ha Filter / Vixen SX2, ZWO OAG + ZWO ASI290MM + PHD2 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (Bin 2, Gain 300, -10℃), SharpCap 3.2.6482.0, 露出 Hα:2分 x 19コマ, L:30秒 x 12コマ + 15秒 x 4コマ + 8秒 x 4コマ, R:1分 x 6コマ + 15秒 x 4コマ, G:1分 x 6コマ + 15秒 x 4コマ, B:1分 x 5コマ + 15秒 x 4コマ / DeepSkyStacker 4.2.6, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

Hα画像と比べて写野がズレているのは赤緯ガイドが流れたのを修正しようとするとハンチングで蛇行して安定するまで時間がかかってしまうので、一度ガイドを切って、流れた先の位置でガイドを再開、ということを繰り返しているうちに写野がズレていったため、クロップ範囲に余裕がなくなったからです…

フラット撮影

μ-180C + Mフラットナーレデューサー、周辺光量落ちは大きめなのでフラット撮影は必須です。いつもの iPad でのフラット撮影は口径が大きすぎて無理なので、薄明を待ってスカイフラットを撮りました。

かなり薄明が進んでも星が見えていたので、結局半透明のゴミ袋を筒先にかぶせてゴムバンドを巻いてなるべく表面がピッタリ張るようにして撮りました。フラットの品質は素直で、DSS で処理したものは傾斜カブリ補正等も不要でした。

まとめ

μ-180C + フラットナーレデューサーのオフアキガイド、今回はセンサーサイズがフォーサーズで、比較的星の多い場所を撮ったこともあり、ガイド星を見つけるのには苦労しませんでした。収差によるガイド星の変形も特に影響はなかったと思います。

しかし、

  • ガイドカメラのバックグラウンドの謎の明滅
  • 赤緯ガイドの蛇行(ハンチング)

という要因で歩留まりが悪く、1分〜2分のガイドでも5割くらいしか使えない感じです。まるでダメ、という結果なら諦めてパーツを売り飛ばす選択もあったのですが、ちょっとそれは惜し過ぎるなという結果に…

SX2 の赤緯バックラッシュが大きいのが一番効いてそうなのですが、調整に出した方がよい?それともエントリーモデルだからこんなもの?調整に出すにしても時間がかかりそうですし、代わりの赤道儀がないのが困ります。結局新しい赤道儀を買うべきなのか…

バックラッシュのないハーモニックドライブ赤道儀が気になるのですが、お値段が… せっかくワイヤレスユニット買ったのに、というのもあります。ビクセンさん、ハーモニックドライブ赤道儀出しませんか?って、お値段はもっと高くなりそうですが…

ZWO の新型赤道儀も気になりますが、中国製の「波動歯車装置」の性能が不明で*2 レビューが複数出てくるまで待ちかな、という感じ。

*1:オフアキ = オフアキシスガイド(Off-Axis Guide)の略称。

*2:産業用ロボットの分野では中国製の波動歯車装置は純正ハーモニックドライブと比べると精度と耐久性は落ちるが、最近伸びている「協働ロボット」の分野では十分使えるとのこと。ちなみに中国製波動歯車装置が増えてきたのは、HDS社が中国向けにはEU向けの倍以上の価格で売りつけていたため、不満に思った中国企業が本気出して国産化を目指した結果だそうです… 参照: 「中国はロボット先進国?日本企業のシェアを奪う中国減速機メーカーの最新動向 – 中国ビジネス支援のミツトミ株式会社