Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

NGC7293 らせん星雲、M45 プレアデス星団 + UGC02838 (2022/10/20)

あけましておめでとうございます。年末の藤井旭さんの訃報でなんとなく喪中みたいな気分でもありますが、星の巡りを祝うことくらいはきっと許してもらえると信じて…

さて、なんと今年も一年のふりかえりエントリが間に合いませんでした!そもそも一昨年(2021年)の振り返りが5月までずれ込んだ挙げ句、2回シリーズの1回だけアップしてそのままになっているのですが…

昨年もそうでしたが、今年も前年に撮った写真の処理が終わらないまま年を越してしまいました。9月30日と10月1日に撮った木星の写真の画像処理がまだ大量に残っていて、大晦日はこれを処理しながら年を越したのですが、まだ残っています。

そして SNS 等に速報は流したものの、まだブログには載せていなかったのが、昨年10月20日に撮影した NGC7293「らせん星雲」と M45「プレアデス星団」の写真です。これは PixInsight で再処理してからアップしようと思っていたのですが、そういうことを言い出すとキリがないのでまずは従来の方法で処理したものをアップしてしまおうと思います。

で、タイトルにある UGC02838 とは?これは後ほど説明したいと思います。

さて、昨年10月20日は夕方からベランダに SX2 を出してワイヤレスユニットのテストから始めたのですが、ファームウェアアップデートがどうしてもうまく行かず結局 SB10 を使うことにしました…*1

気を取り直して極軸合わせして20:00過ぎかららせん星雲の撮影を開始しました。この日の撮影は FSQ-85EDP の実写テストを兼ねています。星像チェックのために ASI294MM Pro の 46 Megapixel モードで撮りました。

NGC7293 らせん星雲 (2022/10/20 20:12)
NGC7293 らせん星雲 (2022/10/20 20:12)
高橋 FSQ-85EDP, フラットナー1.01× (合成F5.4) / ZWO LRGB filter, Ha Filter / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ZWO ASI290MM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (46 Megapixel, L:Gain 150 RGBHa: Gain 300, -10℃), SharpCap 4.0.8949.0 / L: 30秒 x 50コマ, RGB: 各 30秒 x 28コマ, Ha: 3分 x 12コマ, 総露出時間 103分 / DeepSkyStacker 4.2.6, FlatAid Pro 1.2.7, Photoshop 2022(23.5), Lightroom Classic で画像処理, フルサイズ換算 1422mm 相当にトリミング。

どうでしょう?ギリギリですが「眉毛」(左斜め上に弓状に伸びる細い星雲)が映っています。中央のドーナツの穴の部分の青をもう少し出したかったのですが、RGBの露出時間少ないし難しいですかね。それでも中心星*2の青い色は出ました。星雲は、この星の放射する紫外線でガスが電離して光っています。

らせん星雲は2019年に一度 BLANCA-80EDT と ASI290MC で撮っています。

冷却のないカメラなのでさすがにノイジーですが、ドーナツの内側のシュワシュワ感はこちらの方が出ているような… 今回の写真はノイズ処理を強くかけすぎた?今度 PI で再処理する時はそのへん気をつけてやってみようと思います。

この後プレアデス星団を撮りますが、その前に9月26日に撮ったちょうこくしつ座銀河のL画像を撮り増ししました。これは先日アップした写真で使いました。

よく見ると9月26日に撮った分はフラットナー使ってなかったような… そのまま WBPP 大丈夫だったんですかね?

さて、プレアデス星団の撮影は23:00頃開始しました。平日ですし、高度が高くて南中時にはベランダの天井に隠れてしまうのでサクッと撮りました。すなわちLは撮らずRGBのみ。途中でBのピントがやや甘いのに気付いてピントを合わせ直しましたが、画像処理では全部合わせてスタックしています。

M45 プレアデス星団(すばる) (2022/10/20 23:15)
M45 プレアデス星団(すばる) (2022/10/20 23:15)
高橋 FSQ-85EDP, フラットナー1.01× (合成F5.4) / ZWO LRGB filter / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ZWO ASI290MM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (46 Megapixel, Gain 300, -10℃), SharpCap 4.0.8949.0 / R: 1分 x 18コマ, G: 1分 x 27 コマ, B: 1分 x 44コマ, 総露出時間 89分 / DeepSkyStacker 4.2.6, FlatAid Pro 1.2.7, Photoshop 2022(23.5), Lightroom Classic で画像処理, フルサイズ換算 990mm 相当にトリミング

青い星雲のガスの流れはそこそこ写ったと思います。反射星雲ですし横浜の空だとこれが限界でしょうか。追加で光害カットフィルターを使えばもう少し淡いところまで写りそう?でもフィルター二枚重ねは大丈夫でしょうか?ゴーストとか出やすくなりそうな…

ゴーストと言えば事前のテスト撮影で輝星でゴーストが出るのを確認していたので、どうなるかと思ったのですが、これを見る限りあまり気にしなくてよさそうな雰囲気です。

縮小画像だとわかりにくいですが、画像の右側(西側)は荒れ気味です。青い星雲があるからとコマ数をBに偏らせてRとGを減らしたのですがそのせいで色ムラが出やすくなったようです。が、それだけでなくフィルターホイールが偏心しているせいなのか右側に偏った周辺減光が出ていて右端のあたりは露出不足気味でフラット補正後はノイジーになってしまうようです。

クリスマスイブの深夜、ひとり暗い部屋でこの写真を眺めながら「これはまた撮り増ししなきゃなぁ」などと思いながらこの西側の領域を眺めていたところ、なにやらひっかき傷のようなものを見つけました。エレクトラの右の方です。

M45 のエレクトラの西側 (2022/10/20 23:15)
M45 のエレクトラの西側 (2022/10/20 23:15)

うわ、これは画像処理で何かしくじったかな?と思って拡大してみると… これは、銀河?

UGC2838 (2022/10/20 23:15)
UGC2838 (2022/10/20 23:15)

ネットで他の人の画像を見るとやはり同じような細長い天体が写っています。Wikisky で調べると、DSS2の画像にやはり同様の天体が写っています。

マウスオーバーすると USNOA2 1125-01239047 という名前が出てきました。クリックして開いたページには情報がなく、そこにある VizieR のリンクをクリックすると Not Found になります。なんなのこれ?見た目はどう見ても銀河なのですが…

と思って、銀河ならばと HyperLeda で調べてみると「知らない天体だが simbad で検索して出てきた位置で探すと UGC02838 にマッチした」とのことで、正体はやはり銀河でした。

HyperLeda に載っているのなら、と Galaxy Annotatorアノテーションしてみました。

M45 + UGC02838 (2022/10/20 23:15)
M45 + UGC02838 (2022/10/20 23:15)

距離はなんと2億8500万光年と出ました。

というのをクリスマスの夜につぶやいていたのですが、Twitter の天文家のみなさんには全く話題にならず。まあ、こんな夜はみなさんお忙しいことでしょうし……

ということで、そのうちブログのネタにしようと思っていたところ、元旦に海外の天文家 Alex Hawkinson さんがこの天体のことをつぶやいて話題になりました。

すごい!こんな遠くの銀河で暗黒帯まで写っています。

起業家で投資家としての顔も持つ Hawkinson さんですが、2年前からこの天体のことが気になっていて、昨年、所有する一番デカい望遠鏡で40時間露出(!)で撮影したのがこれだそうです。データが書いていないのですが別の M81 の写真のツイートのスレッドを見ると一番デカい望遠鏡というのは Planewave CDK24 (61cm F6.5 反射)のようです。口径の暴力!資本主義の悪魔!

労働者の僕は*3 口径8.5cmの望遠鏡を抱えてぢっと手を見るばかりですが、同じ天体に興味を持っていた人がいるのは喜ばしいことです。ネットで探してもほとんど情報がないし他に撮ってる人いないみたいなんですよね。

というわけで、この実写テストで FSQ-85EDP を使っていけそうな感触を得ました。接眼部も頑丈で BLANCA-80EDT + 高機能DXマイクロフォーカス接眼部 で悩まされたドローチューブの撓みもなさそうです。四隅の星像はスケアリング(tilt)調整でもっと追い込める気がしますが、個人的にはこのままでも問題ないと思っています。今年は積極的に活用していこうと思います。

*1:この時 Twitter でボヤいてたらくろくまさんにビクセンのサポートから Wi-Fi チャネルを変えて試すように言われたという情報をいただきました。後日実際チャネルを変更してファームアップに成功したのですが、また別のトラブルが… その件は別途エントリに書こうと思います。

*2:惑星状星雲の中心にある白色矮星になりつつある星。まだ高温で主に紫外線を放射している。

*3:技術者はサラリーマンでもプチブル扱いらしいですが、知識や技能が生産手段で肉体がそうでないというのもよくわからないので、自分では労働者を自認しています。まあタカハシの屈折望遠鏡買うとかどう考えてもプチブルだろ!と言われたら返す言葉もございませんが…