Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2022/9/26, 2022/10/20)

もう2ヶ月前になりますが、9月26日の夜に FSQ-85EDP の実写テストも兼ねて NGC253「ちょうこくしつ座銀河」を撮りました。この時は L, R, G, B, Ha 全て撮ったのですが、L の総露出時間が足りなくてかなりノイジーな仕上がりになってしまったので、10月20日の夜に L を撮り増しして再処理しました。

まずは結果から。

NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2022/9/27 00:17, 2022/10/20 22:31)
NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2022/9/27 00:17, 2022/10/20 22:31)
高橋 FSQ-85EDP / ZWO LRGB filter, Ha Filter / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ZWO ASI290MM + PHD2 2.6.10, 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (46Megapixel, Gain 300, -10℃), SharpCap 4.0.8949.0 / L: 15秒 x (64+120)コマ, R/G/B: 30秒 x 24コマ, Ha: 2分 x 7コマ, 総露出時間 96分 / PixInsight 1.8.9-1, Photoshop 2023, Lightroom Classic で画像処理

最初は DeepSkyStacker, FlatAid Pro, Photoshop, Lightroom Classic で画像処理していたのですが、せっかくなので PixInsight で再処理しました。ちなみに最初の結果はこちら。

NGC253 ちょうこくしつ座銀河 (2022/9/27 00:17, 2022/10/20 22:31)
DeepSkyStacker 4.2.6, FlatAid Pro 1.2.7, Photoshop 2023, Lightroom Classic で画像処理。他のデータは上と同じ。

色が全然違いますね。バックグラウンドをニュートラルグレーにする形で色調を調整しているのですが、高度が低いので大気の影響で赤っぽく写っているのかもしれません。

PI で処理した最初の写真は先日のアップデートで入った SPCC (Spectrophotometric Color Calibration)を使って色合わせした上で銀河内のHⅡ領域(いわゆる赤ポチ)を強調するためRにHαをブレンドしています。銀河の中心部の赤みが強くなっていますが、他は本来の色に近い色になっていると思います。

PI の SPCC は天体観測衛星で測定した恒星のスペクトルデータとセンサーやフィルターの分光特性を元に撮影データから本来の色を復元する機能です。詳細はだいこもん(id:snct-astro)さんの以下の記事を参照してください。

以下、撮影や画像処理の細かい話を。

撮影

この日の撮影は、元々は9月6日に FSQ-85EDP + フラットナー(1.01x) + ASI294MM Pro の実写テストで輝星のゴーストが結構出たのでフラットナーなしでの状況の確認と、実際の天体撮影でどの程度影響があるかをテストするのが目的でした。

フラットナーなしでの星像も確認したかったのでガイドエラーの影響を抑えるために短時間露出で多数のコマを撮る方法で撮りました。ちなみにフラットナーなしでも輝星のゴーストは出るのは確認したのですが、そのあたりはまた後日機会があればまとめたいと思います。

画像処理

だいたいこんな感じです。ダイアグラムはブログ上に書いた Markdown 風のテキストを Mermaid という JavaScript ライブラリを使って描画しています。

PixInsight

graph TD
    subgraph raws
    R_raws
    G_raws
    B_raws
    L_raws
    Ha_raws
    end
    subgraph flattened
    R
    G
    B
    L
    Ha
    end
    raws -- WBPP, ABE --> flattened
    R & G & B --- _a(( )) -- ChannelCombination --> RGB
    RGB -- SPCC, HistogramTransformation --> RGB_stretched
    L -- HistogramTransformation, TGVDenoise --> L1_stretched
    Ha -- HistogramTransformation --> Ha_stretched
    RGB_stretched & Ha_stretched --- _b(( )) -- NBRGBCombination, TGVDenoise --> RHaGB_stretched
    RHaGB_stretched -- ConvertToGrayscale --> L2_stretched
WBPP でのエラー

WBPP のところは実際には Local Normalization で失敗、Integration で PI が異常終了してしまい Image Registration から先は Local Normalization は省略して Integration を単体で実行しました。

Local Normalization は L/R/G/B の Reference frame selection の処理 Estimating global scale factors のところで「PSFScaleEstimator::EstimateScale(): Internal error: No reference image has been defined」というエラーがコンソールに出て reference frame が生成できず fail になります。なぜか Ha は OK なのですが、コマ数が少ないからでしょうか?

PSFScaleEstimator のエラーなんだからと Scale evaluation method というパラメータで PSFなんとか以外の選択肢 Multiscale analysis 選択してみたのですが、今度は「Unable to compute a valid scale estimate (channel 0)」というエラーが出てきてダメでした。

WBPP での Integration は B/G/Ha は大丈夫で、落ちるのはいつも L のところでした。コマ数が多いのでメモリが足りないのかと思い他のアプリを終了してメモリの空きを 25GB まで増やしたのですがやはりダメ。

ググると同様のトラブルに対してはハードウェア側を疑うコメントばかりで memtest86+ を実行せよとか言われてたので頭を抱えていましたが、試しに単体の Integration を実行すると普通に完了できたので、結局原因究明は諦めてそれで済ませました。ただ、これをやると WBPP で実行された plate solve の結果がファイルに反映されないようで、SPCC を実行する前に改めて ImageSolver を実行する必要が在りました。

ちなみに WBPP はモーダルウィンドウを閉じた時に設定が保存される仕様ですが*1 設定後一度もウィンドウを閉じずに実行開始して実行中に異常終了した場合は設定が全部消えます。必ず一度ウィンドウを閉じてから実行することをお勧めします。*2

また、WBPP は一度実行して設定を変えて再実行する際に生成済みのファイル(cache)をなるべく再利用する仕様ですが、実行中に異常終了するとそこまでで生成されたファイルは再利用されないようです。Pipeline タブの Active Steps で落ちる部分から先のチェックを外して一度正常に実行完了しておけば、そこまでに生成されたファイルは次回以降再利用されるようです。

SPCC

SPCC の準備や設定はだいこもんさんの記事を参考にしました。記事では Gaia DR3/SP のデータを complete set もしくは small set を全部ダウンロードしていましたが、small set だとやや星が足りないとのこと。

じゃあ complete set か、でも全部で70GBか… と思ったのですが、DLするデータファイルは星の等級毎に分かれているので、必要な分だけ落として、落とした分だけ Gaia Preference で設定すればOKでした。

横浜の空ではまともに写るのは16等ぐらいが限界なので checksums-sha256 と gdr3sp-1.0.0-01.xpsd から gdr3sp-1.0.0-06.xpsd までの19GB弱だけDLしました。

SPCC の設定でも Catalog Search の Automatic limit magnitude のチェックを外して Limit magnitude に15.9以下の値を設定しました。今回の写真で試した限りでは Auto でも大丈夫でしたが念のため。

ちなみにセンサーの指定は ZWO ASI294MM Pro の場合 Sony IMX492 を選びます。ASI290MM は IMX290 だったので IMX294 だとばかり思っていたので迷ってしまいました。

Hαのブレンド

IC405 勾玉星雲の処理ではHαのブレンドで StarNet2 を使っていました。

が、NGC253 の赤ポチは小さすぎて StarNet2 に恒星と誤認されてしまうのではないかと思い今回は NBRGBCombination で R に Ha を混ぜるだけにしました。せっかく SPCC で色合わせしたのに、星の色が合わなくなるのでは?と思ったのですが、そこは妥協しました。

ちなみにストレッチ前のHαとRGBをブレンドしたものにSPCCをかけてみるのを試しましたが赤ポチの色が抜けてしまって意図したようにはいきませんでした。

RGB画像から追加のL画像を作る


短時間露出のせいか、Lを184コマスタックしてもまだノイジーだったので、LRGB合成の際にLにブレンドするためにRGB(Haブレンド済み)画像からL画像を生成しました。これは単純に ConvertToGrayscale で変換しました。

Photoshop

LRGB合成と階調と色調とノイズ処理の調整は Photoshop でやりました。このあたりは様々なパラメータの微調整の結果をリアルタイムに見れないと難しいと感じたからです。RGB由来のLをブレンドするのもブレンドの比率を決めるのに不透明度のスライダを動かしながら画像のザラザラ具合を見ると楽でした。

全体の流れはこんな感じです。

graph TD
    L1_stretched ---> L_layer_group
    L2_stretched -- 不透明度40% --> L_layer_group
    RHaGB_stretched ---> LRHaGB_stretched
    L_layer_group -- 描画モード:輝度 --> LRHaGB_stretched
    LRHaGB_stretched -- Camera Raw --> result

階調と色調のノイズ処理の調整は Camera Raw でやっています。ノイズ除去、特に色ノイズの除去は Camera Raw でやるのが簡単で綺麗なようです。トーンカーブの調整はストレッチの微調整もさることながら、背景輝度より暗い部分を持ち上げて低輝度領域をフラットに近いカーブにして背景のノイズが目立たないようにしたいというのが大きな目的です。色調は彩度を少し盛ったり、それでカラーバランスの偏りが目立ったものを再調整する等です。

そうやってできた result を Lightroom Classic に読み込んでから最終調整したものが最初の写真です。Camera Raw の機能は LR とほぼ同じなのですが、いつも LR に読み込むと物足りない気がして LR で最終調整してしまいます。Camera Raw に戻ってもいいのですが、LR 上で作業する方が過去の写真との比較などがやりやすいのでそうしています。

なお、画像は最終的に 3840 x 3840 ピクセルにクロップして仕上げました。元々銀河の大きさに合わせてクロップするつもりで46Megapixelモードで撮ったのですが、低空で光害の影響が大きいこともあって、フォーサーズの写野(フルサイズの焦点距離900mm相当)といえども ABE してもなお背景にムラが残ってしまったのも理由の一つです。

最後に

BLANCA-80EDP から FSQ-85EDP への乗り換えはうまく行きそうです。接眼部も頑丈で冷却CMOSとEFWを取り付けても撓みは感じられません。ゴーストについても大抵の対象では大丈夫そうです。あとは馬頭星雲あたりを撮ってみてダメなら何か対策を考えます。

今回 PI で再処理したのは SPCC の実装がきっかけだったのですが、いい感じに仕上がるのがわかり、これだけでも PI を導入した甲斐があったと言って過言ではないかも。NGC253 は過去何度か撮りましたが、今まではなんか茶色っぽい地味な銀河になってしまっていたので、今回初めて満足できる仕上がりになりました。

*1:赤い×印のボタンを押すと保存、他に保存する手段はない、という挙動はどうかと思うのですが…

*2:ていうか実行前に保存する仕様にしてくれませんかね…