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Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

星雲の色は眼視で見える?

先日の記事「M8 干潟星雲と M20 三裂星雲の色のこと」の件でこんなやりとりが。

こういうコスメティックな(?)調整は眼視のイメージに近づけるって目的ならアリと思ってますが、そもそも眼視で見たことないので… やっぱり一度空のいい場所の観望会とか行ったほうがいいかな。
M8 干潟星雲と M20 三裂星雲の色のこと

そもそも眼視だと色まで分かりませんしね(^^;
HIROPON さんのコメント - M8 干潟星雲と M20 三裂星雲の色のこと

ええ、そうなの!?いや、小型望遠鏡では無理なのはわかりますが、天文台の望遠鏡とか 30cm 以上のごっついドブソニアンとかならある程度写真に近いイメージで見えて色もわかるものとばかり…

1980 年代のドブソニアンが日本で普及しはじめた時期、確か『天文ガイド』で 30cm 級のドブソニアンなら眼視でも星雲・星団が写真で見るような姿で見える!みたいなことを書いてて、今までそういうものだと思ってました。

でもよく考えると当時は写真って言ってもモノクロが主流だったような… 水素増感したテクニカルパン 2415 やら 103aE やら流行ってた記憶。なので、色まで見えるっていうのも後から勝手に記憶が混乱してできた思い込みだったのかも。

というわけで改めてネットで眼視やってる人のレポートを探してみました。数年前、少年時代以来ずっとご無沙汰だった天文趣味に興味を持ちだした時にはデジタル化ですっかり様変わりした天体写真技術の知識を得るのに必死で眼視観測については完全にスルーしていましたが面白いレポートが色々あるんですね。

その中でも読み応えがあったのが、双眼望遠鏡による眼視観測がテーマのサイト「蒼い星」の記録。その中に M42 の色は見えるのか?という話が。

オリオンの大星雲の色を見るには、ある程度の口径が必要と言われている

諸説あるみたいだが、私の知る限り25cmは最低でも必要みたいだ、
Blueは双眼とはいえ、口径はわずか13cmにすぎない
Blueでオリオンの大星雲の色を見るのはというのは無謀だろうか?

(中略)

さて、肝心のM42の色は?
「見えないなあ、白っぽくしか見えない..」
やはり、13cmという口径では集光力不足か? いや、待てよ、
38cmドブソニアンでも色が見えてる訳じゃない、ということは もっと暗い空でなければ
ダメなんだ。
テーマ その2 「オリオンの大星雲の色を見る!」- Blue Impressions

場所は兵庫県砥峰高原です。Google Maps で見ると思いっきり山の中なんですが、そこでも 38cm でもダメなんですか… えええぇぇ…

一方、40cm ドブソニアンでの眼視観測がテーマのサイト「天体観望のすすめ」によると、富士山からだと三裂星雲の色がなんとなくはわかるという話が。

Ninja-400(40cm反射ドブ)で、最高の夜空では、複雑な暗黒星雲の様子は勿論、星雲の色もなんとなく分かります。三裂しているほうが赤っぽく、北の星雲のほうがなんとなく青っぽいのです。最初に色を感じたのは7,8年前の富士山須走五合目ででした。望遠鏡はNinja-320です。
天体観望のすすめ: 三裂星雲M20

「なんとなく」を見るのに「最高の夜空では」という但し書き付きなのが、いかにそれを見るのが難しいかをうかがわせます。

M42 の色については天文ファンの集まる掲示板でこんなやりとりもありました。

■--オリオン星雲(M42)って、本当は何色に見える?
>>>にしはま -- 2002/10/23-15:44..No.[132]

頭と翼のふちになる上の方はピンク。羽の内側はエメラルドグリーンで、
トラペジウム付近は青色が濃く見える。オーストラリアと口径32センチ
という好条件もあり、すばらしい眺めを体験できた(倍率は100倍前後)
*-- 開業準備中♪ --*

>>> Ann -[URL] -- 2002/10/24-23:40..No.[140]

実際は何色というより個人差の方が大きいようです。
私はどうも他人よりも緑の感色性が高いようでして、
そのため赤に対してはやや低めのようです。
当然M42はまみどりに見えます。
25センチでも40センチでも。
過去最大だったのは60センチですがやはり赤く見えた記憶はありません。
もしかするとややピンクかもしれないが...と言う程度でした。
皆さんにはどう見えているのでしょう?
*-- 開業準備中♪ --*

>>> タツヤ2号 -- 2002/10/28-00:39..No.[159]

 信じてもらえることが少ないのですが、私は国内でも
まずまずな空(大塔村、高見峠、御園レベル)で条件が
良ければ25センチクラスでも赤銅色が感じられます。

望遠鏡サミットなどで何人かに「これ赤く見えてますよ
ね!」と言ったのですが誰も賛成してくれませんでした。
写真の影響でイメージ作りすぎかと思っていましたが、
オーストラリアでにしはまさんに「見える!」と言って
いただき、自分の目がおかしくなかったことを確信した
次第です。

 しかし、個人差が大きいとはいえ、あれだけのマニアが
集まるサミットの様なところでも、M42の赤(ピンク)
が見えるという人がいないのが不思議です。
*-- 開業準備中♪ --*

どうも普通は M42 は緑色に見えるようです。「羽根」の部分について赤系の色が見える場合と見えない場合があるようですが、中心部が緑色に見えるのは共通のようです。写真とは随分違う印象ですね。そういえばたまに緑色に仕上げた M42 の写真を見かけるのですが、あれは眼視のイメージに寄せていたのかな…

最初の HIROPON さんのコメントでは昔からの天文ファンだと「昔見た藤井旭氏の写真」がリファレンスになりがちという話が出ていますが、僕も藤井旭『全天 星雲星団ガイドブック』の表紙のカラー写真の記憶から M42 といえばピンク色というイメージがありました。

でも『全天 星雲星団ガイドブック』には眼視での見え方も書いてあるわけで、なんでそんなイメージが根付いちゃったのかな、と思って同書の M42 の解説を見ると驚愕の記述が。

暗い空に6〜8cmの低倍率でながめると,複雑で入りくんだ星雲の光芒と,ピンク色が,じつに生き生きとした美しさを味わせてくれます.
藤井旭『全天 星雲星団ガイドブック』(誠文堂新光社) p266-268

6〜8cm ですか!?三裂星雲についてはこんな記述。

この星雲の魅力はなんといってもその色彩で,15cm以上の大きな口径の望遠鏡でながめると,三裂星雲の淡いピンク色と,そのすぐ北にある青い星雲のベールのような色彩とのコントラストが,目のさめるような,ため息のでるような美しさです。
藤井旭『全天 星雲星団ガイドブック』(誠文堂新光社) p137

15cm ですか…

どちらも先程までの話と比べると目を疑うような話ですが、なにしろ初版が 1978 年の本です。当時の空はそれほどにまで暗く澄み渡っていたのでしょうか…

とりあえずそのへんの天文台の観望会では星雲の色を確かめるのは無理そうです。そもそも天体の淡い光では色の感じ方に個人差があって正しい色が何なのかは一概には言えないという事情もあるようです。

結局のところ天体の色は社会的に構築されたものだ、などと言ったら言い過ぎかもしれませんが、天体写真の色調が「それっぽく見える」かどうかはその時代の色づくりの流行に合っているかどうかという話になって、天体そのものだけでなく天文ファンたちのコミュニケーションにも向き合っていかなければ「正解」は見つからないということなのでしょう。

なんだかむつかしい話になってしまいました。僕そういうの自信ないわ… 天体だけ見ていたい!