Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

M60 + NGC4647 + M59 + NGC4638、M83 (2021/2/19)

2月19日の夜は春の銀河を撮りました。今回は最近流行り(?)のモノクロCMOSカメラとIRパスフィルターを使って赤外線で撮るテストです。赤外線で撮れば光害も平気、という噂なので、銀河ならモノクロでも楽しめるかなと思って試してみました。ターゲットはおとめ座の銀河 M60 + NGC4647 + M59 + NGC4638 の組と、うみへび座の銀河 M83 です。

カメラは惑星のL画像撮影用の ZWO ASI290MM、IRパスフィルターは2018年に火星のダストストームを透過するために使った850nm以上を通すものを使いました。

というかこれしか手元になかったので… Hαもカットしてしまうしセンサーの感度の低い部分を使うので像がかなり暗くなりますが大丈夫でしょうか…

今まで惑星撮影に使っていた ASI290MM、センサーにゴミの影が乗っていたのをある時期から騙し騙し使っていたのですが、今回は惑星と違ってセンサー全面を使うので昼のうちに一度分解清掃しました。無水アルコールで拭くのが正式のようですが、コロナ禍のせいか薬局にも在庫がなかったので、綿棒とブロワーのみでセンサーとカバーガラスの両面をクリーニング。ゴミはFが明るいと目立たなくなるので、8cm F6 + 2.5xバロー(F15)で青空を撮ってゴミがないことを確認。惑星撮影の時のF40で大丈夫か気になりますが確認はまた後日。

昨夜の天気は快晴。19:30頃から機材の設置。今回は普段ガイドカメラとして使っている ASI290MM を撮像に使うので、ガイドカメラを ASI290MC に入れ替えました。PC に ASI290MM と ASI290MC を同時に接続していると PHD2, SharpCap 共に何故かカメラ名の表示と接続先が入れ替わることがあって混乱しましたが、PHD2 や ShapCap を再起動すると直りました。

PHD2 でプロファイルを作り直してダークライブラリの作成とゲインの調整をしてドリフトアライメント。カラーカメラでのガイドは初めてでしたが、特に問題なく使用できるようです。

その後、月明かりの下ではありますが先日撮った NGC2903 を導入して露出を決めました。

モノクロセンサーの感度をもってしてもやはり IR 860nm パスフィルターを通した像は暗く、総露出時間を倍くらいに伸ばしたいところですが、そうもいかないのでとりあえずゲインを少し上げて(250)、3分露出の40コマ(総露出時間2時間)で撮ることにしました。

月没は24:30頃でしたが、撮れるうちに撮っておこうと23:50頃から撮影開始。ガイドはまあまあ好調で、時折赤緯ガイドが若干乱れましたが、赤経赤緯共にほぼRMSエラーが±1.0秒前後に収まっていました。

53コマ撮りましたが24:08からの45コマから DeepSkyStacker で 89% を選別して40コマを 2x drizzle でスタック。結果はこうなりました。

M60, NGC4647, M59, NGC4638 (2021/2/20 00:08) (IR Pass 850nm)
M60, NGC4647, M59, NGC4638 (2021/2/20 00:08) (IR Pass 850nm)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), IR 850nm パスフィルター / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MC + PHD2 2.6.9 による自動ガイド/ ASI290MM (ゲイン250) / 露出 3分 x 40コマ 総露出時間 2時間 / DeepSkyStacker 4.2.2, Lightroom Classic で画像処理

左が M60 でその右上にくっついてるのが NGC4647、右がM59、中央下が NGC4638 です。地球からの距離は M60 が5700万光年、NGC4647 が6300万光年、M59 と NGC4638 は5000万光年です。*1 銀河のタイプは M60 と M59 は楕円銀河、NGC4647 は渦巻銀河、NGC4638 はレンズ状銀河です。

M60 と NGC4647 は親子銀河のように見えますが M51 に見られるような重力相互作用はないか、あってもわずかのようです。しかし、NGC4647 の渦巻き腕の暗黒帯が写るかと思ったのですがほとんど写っていませんね…

バックグラウンドは暗いものの結構ノイジーで、やはり総露出時間をもっと増やしたいところです。

画像処理する前のスタックのみの画像はこうでした。

M60, NGC4647, M59, NGC4638 (2021/2/20 00:08) (IR Pass 850nm) (no stretch)
M60, NGC4647, M59, NGC4638 (2021/2/20 00:08) (IR Pass 850nm) (no stretch)
撮影データは上に同じ。

光害のカブリが全くないというわけでもないようですが、撮って出しとしては今まで見たことのないレベルで天体が見えています。

2:30からは M83 です。赤緯ガイドが若干揺れ気味でしたがRMSエラー±1.1秒前後で許容範囲。総露出時間2時間で、結果はこうなりました。

M83 (2021/2/20 02:30) (IR Pass 850nm)
M83 (2021/2/20 02:30) (IR Pass 850nm)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), IR 850nm パスフィルター / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MC + PHD2 2.6.9 による自動ガイド/ ASI290MM (ゲイン250) / 露出 3分 x 40コマ 総露出時間 2時間 / DeepSkyStacker 4.2.2, Lightroom Classic で画像処理

M83 は地球からの距離が1500万光年の棒渦巻銀河。大きいのは近いからです。大好きなフェイスオン銀河なのですが、一昨年カラーで撮ったものと比べるとやはり暗黒帯が薄い、というかほとんど消えているような…

外周部の淡い部分の写りは良くなっているのですが、個人的には暗黒帯が薄いと魅力が半減です… うーむ、赤外だとこうなるんですかねぇ?

撮って出しはこうです。

M83 (2021/2/20 02:30) (IR Pass 850nm) (no stretch)
M83 (2021/2/20 02:30) (IR Pass 850nm) (no stretch)
撮影データは上に同じ。

赤外とはいえ、さすがに低空では結構カブリがでています。それでも撮って出しで M83 の腕がはっきり見えるのはさすがといったところでしょうか。

というわけで、赤外(850nm 以上)での撮影をまとめると、

  • 暗い。光害カットフィルター使用時と比べて露出時間は倍くらい欲しいかも。
  • 光害カブリの軽減にはかなり効く。ただし低空ではそれなりにカブる。
  • 銀河の暗黒帯の写りが悪くなる?

といったところでしょうか。

ちなみに、フラットの撮影で有機ELパネルのタブレット端末に白い画像を表示して使ったところ、最大輝度でも露出時間が15秒も必要でした。有機ELパネルは赤外線がほとんど出ていないのでしょうか?

あと、これは赤外撮影とは関係ないですが、DSS でモノクロカメラで撮った FITS を使う時は Raw/FITS DDP Settings で Monochrome 16 bit FIT Files are RAW files created by a DSLR or a color CCD camera のチェックボックスを OFF にしないとデベイヤーされてカラーTIFFが出力されてしまうので注意。

というわけで赤外撮影、今後どうしようかな… もっと低波長まで通すフィルターなら暗黒帯も暗くなってくれるのでしょうか?

*1:いずれも Wikipedia 英語版による。