Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

何の成果も得られませんでしたぁぁぁあああっ!!

4月3日は久々に深夜から晴れるということで、仕事を早めに切り上げて帰宅して出撃準備をしてからサクッと就寝。23:30 頃に目を覚まして近所の公園に初出撃。少し距離があるものの機材を抱えての移動もさほど苦にならず。横浜では夜雨が降るという予報もあったのですが、結局降らなかったようで地面は濡れていませんでした。

夕方に下見に来たことはあったけど夜中に来るのは初めてで、照明灯が思いの外眩しかったのですが、天頂付近を撮るならなんとかなりそうな気配。今回のターゲットはおおいぬ座の銀河 M51 と M101、PHD2 を動かす ThinkPad X201s のバッテリーがもてばヘルクレス座球状星団 M13 も、という目論見でした。8cm F6 レデューサーなしの直焦点で狙います。

北天の高い位置を狙うのは初めてなのでカメラが赤道儀にぶつからないように調整するのに手間取りました。赤緯微動台座をスライドさせていつもより鏡筒を赤道儀から少しだけ離して固定してバランスもギリギリとれました。

ここで先にフラットを撮ろうかと思ったら光源がわりの iPad を忘れているのに気付きました。まあバッテリーが切れる前に ThinkPad の液晶を使えばいいかと思い後回しに。

極軸合わせは極望でアバウトに合わせてからいつも通りドリフトアライメント。高度調整は東の空が木立で隠れてしまっているのでいつもと逆の西の空を使って調整。スムースにやれたつもりでしたが結局 40 分以上かかってピント合わせ・導入に入ったのが 1:00 過ぎ。

ピント合わせは木星の縞模様でしっかり合わせたのですが、天頂付近の M51 を導入するためにアルカイド*1に鏡筒を向けた時にクレイフォード式接眼部がカメラの重みに負けてピントがズレてしまいました。しかもフォーカサーのハンドルを回してもカメラが上がらずピントが合わせられません。

念の為に持ってきた六角レンチでローラーの当たりをキツめに調整したところ無事ピントが合わせられるようになって事なきを得ましたが、またピントがズレるのが嫌なので今度はアルカイドでピント合わせ。

やっとのことで M51 の導入が終わり撮影を開始したのが 1:30。一息つけるかと思ったら、ガイドグラフを見ると赤緯方向にガクつくようなブレが出ています。どうやら時折吹いてくる北からの風に鏡筒が煽られているようです。そよ風よりは強い、ぐらいの弱い風なのですが…

Dec の RMS エラーは ±3 秒を超えていて使い物にならなさそう。1 枚 5 分の露出なので風が止んでいる間にうまいこと露出が終わるというのも期待薄ですが、とりあえず撮影を続行します。

4枚目の撮影中、1時間半くらいは残っていたはずの ThinkPad のバッテリー残量が突然残り 6% との警告が出てメーターが一気に 13 分などという値に激減。前回は 2 時間半は余裕という結果になったはずなのになんで?何かの間違いかと思ったのですが残量は減る一方。バッテリー延命モードに設定してみたものの焼け石に水で、結局 5 分足らずで自動シャットダウンしてしまいました。

撮影続行不可能になって、カメラの液晶画面で確認した 4 枚の写真も明らかにブレているし、おまけに 4 枚目には謎の虹色の縞模様のカブリまで写っていたので、もうダークもフラットも撮らずにそのまま撤収しました… 2:10 に帰宅。

帰宅後 PC で確認したところ 4 枚のうち一番ブレの少ないカットでこの程度でした。

M51 (失敗) (2017/4/4 01:35)
M51 (失敗) (2017/4/4 01:35)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6)
ISO 200, 300s
Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 4320mm 相当にトリミング

というわけで、

何の成果も得られませんでしたぁぁああああぁぁっ!!

orz

今回は、

  • 初の公園での撮影
  • 野外では初の直焦撮影(480mm)
  • 野外では初の巻きつけフード使用
  • SSD に換装した ThinkPad の初投入

と、色々初めての事が多かったのですが、問題だらけの結果となりました。

  • 風はなんとかならんのか?
  • ThinkPad の早すぎるバッテリー切れの原因は?
  • 謎の虹色の迷光の原因は?

まず風に弱いのは、さすがに直焦はシビアというのと、長い巻きつけ延長フードをつけているせいで風にあおられやすいのもあるのだと思います。しかし、公園内には複数の照明灯が立っていてしっかりフードでガードしないと筒先からの迷光は避けられそうにない状況です。

そもそもスカイメモ S には文字通り荷が重いというのが一番の問題でしょう。公園内には風よけになるようなものもなく、風が吹かないことを祈るしか…

ThinkPad のバッテリー切れの問題はよくわかりません。12月末に余裕で 2 時間半はもったので寒さのせいではなさそう。念の為帰宅後暖房を入れて温まったところで確認してみましたが残量はそのままでした。省電力設定も確認しましたが前回の設定のまま。

となると SSD に換装したせいでしょうか? 換装した SSDIntel SSD 320 Series 300GB ですが、換装前の Seagate Momentus 5400.6 320GB に比べるとアクティブ時の消費電力が 0.7W ぐらい大きいのですが、アイドル時はむしろ小さいようです。バッテリー持続時間に 1 時間以上差が付くとも思えないですが…

謎の迷光の方はどうやら原因が判明。こんな迷光なのですが、

迷光
謎の迷光

3 枚目にも同じ形のカブリがうっすらとですが写っていました。筒先から入るような形でないこと、鏡筒の角度によって写ったり写らなかったりすることから、接眼部側のどこかに光線漏れがあるのではないかと考えました。

直焦アダプターにはフォーサーズ用ではなくニコン用の T リングを付けていて、それに RAYQUAL のマウントアダプターを付けて E-M5 (+ MMF-3)を接続していたのですが、

IMG_4388
RAYQUAL NF FOURTHIRDS マウントアダプター

よく見るとロックレバーの取り付け部分に隙間があり、そこから光線漏れがあるようです。

IMG_4389
ロックレバーの取り付け部分の隙間

おそらく追尾中に鏡筒がいい感じの角度になって公園内の照明灯の光がダイレクトに隙間から差し込んで、内側にネジが切ってある直焦アダプター内面を照らしてあんな形の迷光になったのでしょう。これは横着せずフォーサーズ用のTリング*2を使えば解決するはずです。

とにかく ThinkPad のバッテリー問題は死活問題なのでなんとかしたいところですが、ノート PC を新調するしかないのかも…

*1:北斗七星の柄の端にある星。

*2:いつもはレデューサーに付けっぱなしにしている

M81 + M82, M108 + M97 (2016/12/29)

昨年12月29日深夜、かねてから撮りたかったおおぐま座の二つの銀河 M81 と M82 を撮ろうといつもの駐車場に出撃しました。が、駐車場は取り壊されて工事現場に… でも今更他に場所を探すのも大変なので結局工事現場の隅っこで撮影。後に建物が建ち、ここで撮るはこれが最後になりました。

目当ての M81 と M82 はフルサイズ換算 1000mm くらいの画角ならツーショットで撮れます。この日はおおぐま座のもうひと組のツーショット M108 と M97 も撮りました。M108 銀河、M97 は惑星状星雲で通称「ふくろう星雲」。北天の天体はなかなか撮れなくてどれもこの日が初めてでした。

星像の歪みを嫌って光害カットフィルターは使わず 180 秒露出。*1 時折強めの風が吹き望遠鏡が揺れてガイドが荒れ気味だったのですが、予備のカットを多めに撮ってなんとか 8 枚使えるカットを確保。やや像が甘いですがそこそこ満足できる結果になりました。

この日撮った M81 と M82 の写真はこちら。

M82, M81 (2016/12/30 02:13)
M82, M81 (2016/12/30 02:13)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 200, 180s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC, FlatAidePro 1.0 で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

M81 の渦巻きっぷりも好きなのですが、この日一番の目当ては不規則銀河の M82 です。普通の銀河と違って形がモコモコしているのが不規則と呼ばれる所以です。

子供の頃に読んだ藤井旭『全天 星雲星団ガイドブック』では M82 は「爆発小宇宙」などと呼ばれていて、銀河中心で大爆発が起こっているのだとされていました。銀河規模の爆発というだけでもアツいものがありますが、滅びゆく銀河の姿というのもロマンチックで、子供の頃からずっと見たかった天体でした。

今回撮った写真でも中心に爆炎のような模様がうっすら浮き上がっているのが見えます。なのですが、今では爆発のように見えるのは「爆発的に星が生成されている」ためと考えられていて、「スターバースト銀河」と呼ばれています。

M82 から Hα 線が噴き出す原因は、1960 年代の初頭には銀河の中心部で起こった巨大な爆発によると考えられていた。その後、M82 の中心部には巨大な分子雲や多くの超新星の残骸が発見され、また国立天文台野辺山宇宙電波観測所の 45m ミリ波望遠鏡による電波観測では、M82 の中心部から外側に向かって分子ガスが流出していることが分かってきた。そこで現在では、銀河中心部における活発な星生成 (スターバーストと呼ぶ) や超新星爆発により、高温の電離した水素ガスが銀河の外側まで噴出し Hα 線として見えている、と解釈されている。このような現象は「スーパーウィンド」と呼ばれており、銀河内の物質を銀河の外側へ運び出し、銀河間空間を加熱する重要な役割を持っている。
観測成果 - 銀河から噴出す真紅の光 (M82, NGC 3034) - すばる望遠鏡

爆発してなくなってしまうというわけではないみたいです。残念…!? 「スーパーウィンド」で広がった赤いガスは今回撮った写真ではほとんど写りませんでした。Hα 線なので改造デジカメじゃないと写らないでしょうか。そういえば M81 の渦巻きの腕の中にも Hα 線を出す赤い星雲が点在しているはずなのですが写っていません。

M81 と M82 のツーショットは偶然ではなく実際にお隣同士の銀河です。M82 のスターバーストは M81 とすれ違った時に受けた重力の影響だと言われるくらいです。

続いて M108 と M97 の写真はこちら。

M108, M97 (2016/12/30 03:05)
M108, M97 (2016/12/30 03:05)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 200, 180s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC, FlatAidePro 1.0 で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

M108 も妙にモコモコ感があって M82 と雰囲気が似ていますが、これは不規則銀河ではなくて普通の渦巻銀河です。M97 は「ふくろう星雲」の名の通りふくろうの正面顔のような形が特徴です。

なんだかかわいらしいツーショットですが、こちらは偶然同じ方向に見えているもので、地球からの距離は M108 が 4600 万光年、M97 が 2000 光年です。*2

*1:参照:「LPS-D1 QRO について

*2:Stellarium 0.15.2 のデータより。

マルカリアンの銀河鎖, M100, M83 (2017/2/2)

新月を前に色々妄想していたのですが、月末はずっと天気が悪くて全然天体撮影ができませんでした。しかたがないので 2 月に撮った銀河の写真を再処理していました。

光害もしくは迷光によるカブリで淡い部分が上手く出なかった写真なのですが、フラットのムラや光害などのカブリを除去できると評判のソフト FlatAidePro を試してみました。有料のソフトですが 800 万画素までの画像なら無料でフル機能が使えます。

以下いずれも2月2日の深夜に撮ったものです。

まずはおとめ座銀河団の中にある銀河でできた首飾り「マルカリアンの銀河鎖」です。

マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算815mm相当にトリミング

たくさんの銀河が写っています。例によってマップも作ってみました。

マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
マルカリアンの銀河鎖マップ (2017/2/3 01:32)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算815mm相当にトリミング

Lightroom での調整だけでは NGC4438 の周囲の淡く広がった部分を強調すると背景のムラが浮いてきてどうしても綺麗に仕上がらなかったのですが、少しはマシになりました。とはいえやはり厳しい…

次は、これもおとめ座銀河団の銀河 M100 です。

M100 (2017/2/3 02:34)
M100 (2017/2/3 02:34)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

以前撮った時には見えなかった渦巻き構造がはっきり写っています。いいですね、渦巻き。

最後はうみへび座の銀河 M83 です。

M83 (2017/2/3 03:46)
M83 (2017/2/3 03:46)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

南中高度が 25 度と低く、ちゃんと写るか不安だったのですが思いの外よく写りました。ていうかでかいですね… M100 の倍くらいあります。迫力ある腕がいい感じのフェイスオン銀河です。

さて、画像処理はいろいろ試行錯誤してこんな感じにしましたが、こんなんでいいんでしょうか…

  • DSS の出力を Lightroom でノイズ軽減・トリミングして TIFF 出力
  • FlatAidePro で元画像をレベル補正
  • レベル補正済み画像をフラット補正(減算)
  • フラット補正済み画像をレベル補正(バックグラウンドを50%くらい残す)
  • FlatAidePro の最終出力を Lightroom に読み込んでノイズ軽減・レベル・トーンカーブ・明瞭度の調整

最初に元画像のレベル補正をせずにフラット補正すると後で強調処理した時に背景のムラが残ってしまいました。また、FlatAidePro のレベル補正で適正なレベルまで仕上げてしまうと淡い部分がザラザラになりがちなので背景がグレーになるぐらいにしてから Lightroom で処理した方がノイズが目立たないようでした。

FladAidePro にはフラット補正以外にもたくさん機能があって、星だけをシャープにしたり、ガイドエラーで少し流れた星像を丸く補正したり、輝星だけにソフトフィルターをかけたりと色々できるようなので、今後ぼちぼち試していきたいと思います。

オートガイダー導入記 (10): 暴走するオートガイダー

前回の続きです。

オートガイダー導入記 (7): 屋外での撮影のテスト」でちらっと触れたガイドが暴走した件、その後何が起こっていたのか判明しました。

当時具体的にどういう状況だったか当時のメモから引用します。

M31の後はM33。そしてM45を撮り始めたのだがガイドに異常が。ガイドパルスが全く効かない感じで赤経方向にガイド星がどんどん流れていってしまう。赤緯クランプが緩んでいるのに気付いてクランプを締め直すがガイドズレは直らない。
一度赤道儀の電源を落として再接続してみたがダメ。結局PHD2を再起動したら正常にガイドするようになった。しかし今度は赤緯方向のズレ。極軸がズレている。M33からM45に望遠鏡を向けた時、子午線を超えるために鏡筒を反転させたせいか、バランスが崩れてしまったらしい。

PHD2 の不具合だろうと思ったまま忘れていたのですが、年明けに HIROPON さんの記事にこんな話が出てきてピンときました。

ところでこの時、ちょっとしたトラブルに見舞われています。M76からM1にターゲットを移してガイドを再開したところ、ガイド星が暴走気味にどんどん外れていくのです。
一瞬、赤道儀の不具合やケーブルの断線を疑いかけましたが、気づけば答えは簡単な話。M76→M1の移動で望遠鏡の姿勢が東西入れ替わっているので、オートガイダーからの指令と動作方向の対応も逆にしなければいけないのですが、キャリブレーションのやり直しをサボっていたため、これがされていなかったのです。

ひょっとしてこれと同じ話だったのでは?PHD2 を再起動したら治ったのは再起動後にいつも通りキャリブレーションをやり直していたから?

M33 を撮った 11月5日 23:06 南中から約1時間経過した M33 に向けた望遠鏡の姿勢は望遠鏡が東側 (telescope-east) でした。その後南中前の M45 に望遠鏡を向け直した時に望遠鏡が西側の姿勢 (telescope-west) に切り替えていたのでした。

望遠鏡の東西を入れ替えると同じ方向を向いたままガイドカメラが逆さになるのでオートガイダーから見た上下左右と赤道儀から見た東西南北の対応関係が逆になるのです。その状態でガイドするとオートガイダーがガイドを修正するとますますガイド星がズレていく悪循環になりガイドが暴走してしまうのです。

自分でもこれがすぐにはわからなかったので順を追って説明します。

まず「望遠鏡の東西を入れ替えるとカメラが逆さまになる」について。

一般的なドイツ式赤道儀の場合、子午線を超えて望遠鏡を動かす時に望遠鏡が三脚などにぶつからないように望遠鏡の東西を入れ替えます。具体的には望遠鏡を極軸を中心に 180 度回転してさらに赤緯軸を中心に 180 度回転します。

図解するとこうなります。


http://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-01.png
http://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-02.png
http://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-03.png

telescope-west で南の空を見ている状態から telescope-east に入れ替える場合を図解したものです。極軸を 180 度回すと望遠鏡がこっちを向くのがわかりづらいかもしれませんが、極軸を垂直に立てた状態を想像するとわかりやすいです。

これをやるとカメラが逆さまになり星が逆さまに写ります。なので撮影用のカメラはここからさらにカメラを回転させて正位置に戻すのが普通ですが、ガイドカメラの場合はそのままにすることが多いと思います。そのためカメラの映像を解析するオートガイダーにも逆転した映像が入力されることになります。

続いて、この状態では「オートガイダーがガイドを修正するとますますガイド星がズレていく悪循環」になるということについて。

最初に telescope-west の状態でキャリブレーションしたオートガイダーは、

  • 映像上でガイド星が右に動いたら赤道儀を西に動かす
  • 映像上でガイド星が左に動いたら赤道儀を東に動かす

というルールで赤道儀を制御します。

http://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-04.png

ガイド星が西に動くと映像上では右に動き、最初のルールでガイド星が最初の位置に戻るまで西に動かすことになります。このルールのまま望遠鏡の東西を入れ替えてしまったらどうなるでしょう?

http://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-05.png

オートガイダーからはガイド星の動きが逆さまに見えていますから、西に動いたガイド星は映像上では左に動き、二番目のルールが適用されて赤道儀を東に動かしてしまいます。

こうするとガイド星は元の位置からさらに左へと離れてしまいます。そして離れたガイド星を追うために二番目のルールがさらに適用されてますますガイド星は離れていってしまい… と悪循環に陥り、結果的に暴走のような動きになってしまうのです。

なので望遠鏡の東西を入れ替えたらオートガイダーの動作ルールを逆にしないといけません。PHD2 にそういうオプションもあるようですが、簡単にはキャリブレーションをやり直せばよいわけです。望遠鏡の姿勢を大きく変えると各部のたわみなど変化するので再キャリブレーションする習慣を付けておいたほうがよさそうです。

「気づけば答えは簡単な話」とは言うものの、言われるまで気付きませんでしたし完全に納得するには時間がかかりました。でもこれでもう大丈夫。

ということで赤道儀購入からオートガイダー導入までを振り返るシリーズはこれでおしまいです。過去に撮った写真については時々振り返って個別の記事にしたいと思います。

LPS-D1 QRO について

以前のエントリ「オートガイダー導入記 (7): 屋外での撮影のテスト」で触れた光害カットフィルター LPS-D1 QRO 48mm (以下 QRO)で発生した問題について顛末をまとめておきます。

昨年10月にオートガイダーを買った時に光害カットフィルターも一緒に購入しました。どうせなら最新のものをと思い、少し値段は高いですが IDAS LPS-D1 QRO 48mm を選びました。

カメラが OLYMPUS OM-D E-M5 なのでマウント内に取り付けるタイプのものは選択できず、レデューサーや直焦アダプターの先端の 48mm ネジに取り付けるタイプのものです。

最初に使用した時にカメラのライブビューでピント合わせをしていて星像が歪んでいるのに気付きました。いくらピントを合わせても星像が微妙に菱型に見えてピントが合わせづらいのです。実際に撮影しても等倍で見ると星像がひし形になっていて特に星団の撮影では気になりました。

テスト撮影したものがこちら。

http://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/no_filter-1.jpg
フィルターなし
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 200, 30s

http://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/LPS-D1_QRO-1.jpg
LPS-D1 QRO 使用
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 30s

写真は Lightroom でカラーバランスをニュートラルにして露光量を背景が 40% になるように揃えて 2 倍に拡大したものです(画面表示では等倍相当)。スカイメモ S をオートガイドで追尾して撮影しています。

QRO 使用では暗めの星の星像が長方形に見えます。また、明るい星の星像は左上から右下の方向に星像が不自然に膨らんでいます。星像が少し横長なのはガイドエラーのせいもあるのですが、カドが立っているのが問題です。

もっともこの程度だと Full-HD 全画面表示ぐらいではほとんどわからないのも事実で、そんなものなのかなぁと思いつつもモヤモヤした気持ちが残っていました。周囲に天体写真を撮る人がいないので実際「そんなもの」なのかどうかわからないし、ネットで探しても QRO を使っている人は見当たりませんでした。*1

QRO は厚さ 1.1mm の薄型ガラス基板を使っているのが売りです(従来品は 2.5mm)。しかしその薄さのせいでフィルター枠内で歪みやすくなっているのでは?と思い、フィルター枠のガラスを押さえているネジを少しだけ緩めてテスト撮影してみると、若干星像が改善されたのですが期待には程遠い結果でした。*2

その後 HIROPON (id:hp2)さんと twitter でやりとりするようになり、この件を相談してみたところ、そういう現象は経験していないし聞いたこともない、不良品かもしれないので販売店に相談してみては、とのアドバイスをいただき、年明けに協栄産業(KYOEI-TOKYO)に写真を添えて問い合わせてみました。

協栄からメーカーのアイキャスエンタープライズ IDAS 事業部(以下 IDAS)に連絡が行き、2週間後 IDAS に着払いで QRO を返送して欲しい旨連絡がありました。フィルターに何らかの異常がある可能性があり、検査したいとのこと。

結果は外観検査や簡易脈理検査では異常なし、精密な検査にはさらに時間がかかる、とのこと。協栄からは、それまでフィルターなしは困るだろうと QRO の交換品と従来品の LPS-D1 (以下無印)を無償で送るので、撮影鏡との相性を確認する意味でも比較して欲しい、と連絡がありました。新月前だったのでこれにはとても助かりました。

そういうわけで、交換品が到着後早速テストしてみました。

http://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/no_filter-2.jpg
フィルターなし
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 200, 30s

http://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/LPS-D1_QRO-2.jpg
LPS-D1 QRO (交換品)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 30s

http://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/LPS-D1-2.jpg
LPS-D1
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 30s

QRO 交換品では星像の菱型の歪みは見られませんでした。しかしよく見ると少しトゲが生えたような歪みが。ガイドエラーかとも思ったのですが 8 枚撮ってどれも同じでした。

一方、無印の LPS-D1 では星像の歪みは全く見られませんでした。フィルターなしと遜色ありません。正直、交換品なら十分かな?と思っていたのですが、これを見てしまうと無印の方を使いたくなりますね…

以上を報告したところ、IDAS からはフィルター枠のガラス押さえが公差ギリギリで加工された個体の場合ガラスが歪んでしまう可能性はある、調査して改良したいとの解答がありました。

その後は無印の LPS-D1 を使っていて、QRO 交換品は予備としてとってあります。QRO を使っていて星像に疑問がある方は一度販売店に問い合わせてみると良いと思います。

ちなみにケンコーではカメラ用フィルターとして一時期 1mm 厚のガラス基板を使った製品を出していたのですが、平面性の精度を保つのが難しいという理由で今では基本的に 2mm 厚にしているそうです。昨年11月に発売された高精度保護フィルター ZX でも 2mm 厚で、さらにフィルター枠には特殊な構造を導入してガラスの歪みを抑えているとのことです。

QRO ではフィルターによる収差を低減する目的でガラス基板を薄くしたようですが、それが裏目に出てしまったということでしょうか。大手のケンコーが諦めた路線を進むのは大変でしょうが IDAS さんには頑張ってほしいです。

*1:当時発売されて間もなかったのと、大抵の人は Canon 用のマウント内に取り付けるタイプを選ぶので、フィルターネジ用しかなかった QRO を買う人は少数派だったのだと思う。

*2:実は最初の比較写真は改善後に撮ったもの。

オートガイダー導入記 (9): 赤い星雲どこまで写る?

前回の続きです。

前回、低感度長時間露出がイケてるかも?という話をしましたが、その後原則 ISO 200 で 3 〜 5 分の露出で撮るようになりました。1軸ガイドなので赤道儀の極軸合わせはだいぶシビアになりますが、時間さえ惜しまなければ 288mm (フルサイズ換算 576mm) でほぼ失敗なしの精度まで追い込むことができます。

しかし、天体の導入時にはどうしてもクランプフリーで操作せざるを得ないので、クランプの緩め・締めで極軸がズレてしまうことがあるようです。1枚目の撮影中にガイドグラフを見て判断して、ダメなら再調整して撮り直しです。

極軸の精度は 5 分間で累積する赤緯方向のズレが 288mm なら 4 秒角以下、480mm なら 2 秒以下、を目標に追い込んでいます。これで各カットの星像はほぼ真円になるのですが、コンポジットすると背景のノイズが各カット毎に少しずつ赤緯方向にズレていって、ノイズが引きずったような縞模様になって目立ってしまうことがあります。

こういう縞ノイズを避けるには各カット毎にランダムに望遠鏡をズラしてノイズの位置を拡散させて目立たなくするとよいのですが(いわゆるディザリング)、スカイメモ S でそこまで器用なことはできないので 4 枚毎に赤緯微動をほんの少しだけひねって写野をわずかにズラすようにしています。これでもだいぶマシになります。個人的にはこれを「なんちゃってディザリング」と呼んでいます。

そんなふうにして撮った天体のうち、オートガイダー導入のきっかけにもなった赤い星雲の写真を以下に。カメラはいずれも無改造の E-M5 です。

まず、ばら星雲です。

ばら星雲 (2017/2/2 22:05)
ばら星雲 (2017/2/2 22:05)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算597mm相当にトリミング

ちょっと周りの星に負け気味の写りではありますが、ちゃんとバラには見えています。

次は、馬頭星雲。

馬頭星雲 (2017/1/4 23:03)
馬頭星雲 (2017/1/4 23:03)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

派手さはないものの、ポニーヘッド部分がクッキリ浮かび上がりました。

最後に、わし星雲(または「かもめ星雲」)。

わし星雲(Seagull Nebula) (2017/1/26 23:24)
わし星雲(Seagull Nebula) (2017/1/26 23:24)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算597mm相当にトリミング

こちらは前の二つよりはだいぶ淡い星雲で、無改造のカメラでは冬の銀河の星々に埋もれてしまってかなり厳しいです。

ということで、個人的には、わし星雲以外はそこそこ満足しています。オートガイダー導入が秋だったので北アメリカ星雲はまだ撮っていませんが、この分なら期待できそうです。

ちなみにどれも処理前の写真の背景の濃度は 50% くらいになります。ホワイトバランスのみ調整したものがこれです。

ばら星雲(処理前) (2017/2/2 22:13)
ばら星雲(処理前) (2017/2/2 22:13)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s
Lightroom CC でホワイトバランスのみ調整

光害カットフィルターを付けてこれです。つらい… こういう状態で露出時間を伸ばして正味の光量を増やそうとすると最低感度で撮るしかないのです。

もっと露出時間を伸ばしたらどうなるか、まだ試していませんが、E-M5 は 12bit RAW ですし、これ以上伸ばしても画像処理後の階調が狭くなりすぎてダメかなと思っています。明るい恒星の白飛びも既に激しいですし。(つづく)

続き:

赤緯方向のズレと大気差

最近は 1 枚 5 分の露出で 8 枚、余裕があれば予備を含めて 10 枚、総露出時間 40 分〜 50 分で撮影しているのですが、PHD2 のガイドグラフを見ていると、赤緯方向のガイドエラー、というか赤緯方向はガイドしていないので単なるズレですが、その量が時間と共に変化することがあります。

ずっとこれを極軸の誤差のせいか、機材のたわみのせいかと思っていたのですが、ひょっとして大気差の差、つまり追尾中に天体の高度が変わることで大気差による浮き上がりの高さが変わって、その赤緯方向の成分がズレとなって出てきたりしますか?

大気差の計算式は国立天文台暦計算室の用語解説によると、簡易的には  h_\alpha を見かけの高度、 R(h_\alpha) を大気差(単位は度)とすると、

 R(h_\alpha) = \frac{0º.0167}{\tan(h_\alpha + \frac{7.31}{h_\alpha + 4.4})}

だそうです。これをグラフにするとこんな感じ。縦軸の単位は秒にしています。

http://rna.sakura.ne.jp/share/refraction-1.png

あんまり低い部分はこの際関係ないので15度から90度までを拡大。

http://rna.sakura.ne.jp/share/refraction-3.png

先日撮ったソンブレロ銀河の写真は、Stellarium の表示によると、撮り初めの(見かけの)高度が 30.1 度、撮り終わりが 23.5 度。上の式で計算すると、大気差は 102.8 秒から 136.6 秒に変化していて、その差は 33.7 秒。結構ありますね…

赤経成分はオートガイドで補正されるはずなので、その赤緯成分が知りたいのですが、『天文年鑑 2017』 p321 によると、\eta を天体が天頂と極に張る角として、

\Delta\delta = R(h_\alpha)\cos \eta

だそうですが、 \eta の「天体が天頂と極に張る角」ってどうやって計算するんですかね?… 天体が子午線上だとすると南天なら 0 度で大気差がそのまま赤緯方向のプラスの差に、北天なら 180 度で大気差がそのまま赤緯方向のマイナスの差になるのはわかるんですが…

1 軸オートガイドでも極軸さえ正確に合わせれば正確に追尾できるかと思っていましたが、そう簡単な話ではなさそうです。とりあえずなるべく子午線をまたいで撮るようにして、撮影中の高度の変化を減らすのがよさそうです。