Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

惑星撮影、ワンショットでどこまでいける?

4月16日のエントリの燐さんからのコメントで、デジカメのワンショット撮影で惑星を撮っているが綺麗に撮れないという話がありました。

僕も以前 8cm 屈折(2xテレコンで合成F12)と E-M5 で木星土星を撮っていました。その時のベストがこれ。

これでも、これだけ写る日は年に数回というレベルでしたし、一晩で百枚くらい撮ってこのレベルが数枚という状況でした。大半は大気の揺らぎで歪んで丸く写りすらしない有様。

当時はこれが 8cm の限界かと思っていたのですが、18cm 反射(μ-180C)が届く前に最新のCMOSカメラで撮ってみたところ、定番の撮り方(動画撮影&スタック&wavelet 処理)をすれば遥かに詳細まで写ることがわかって驚きました。

逆に μ-180C でワンショット撮影はやったことがないのですが、動画からベストショットのフレームを切り出してみたものがこちら。

木星 (2018/7/8 20:05) (1フレーム)
木星 (2018/7/8 20:05) (1フレーム)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s / Lightroom Classic CC で画像処理

昨年の(大赤斑が写ったものでは)ベストの中のベストフレームです。*1 比較のため Lightroom で色調補正、露出補正、ノイズ低減等、いつもの仕上げ処理相当をしてありますが、スタックや wavelet 等の画像処理なしだとこんなものです。

wavelet 処理だけ、いつもと同じ設定でやってみるとこうなります。

木星 (2018/7/8 20:05) (1フレーム, wavelet)
木星 (2018/7/8 20:05) (1フレーム, wavelet)

なんじゃこりゃー!?

輝度ノイズとカラーノイズが大きすぎて wavelet をかけるとザラザラを通り越してモザイク状になってしまいました。

撮影した3000フレーム中上位2000フレームをスタックしたものに上と同じ wavelet 処理をかけて仕上げたもの、要するに普通に画像処理したものがこちらです。

木星 (2018/7/8 20:05)
木星 (2018/7/8 20:05)

こうやって見ると逆にこっちの方がインチキくさい感じもしてくるのですが、元の動画を動画として見ると、ワンショットの画像では視認できない模様が確かに見えます。

木星(2018/7/8 20:05) (60fps動画)
木星(2018/7/8 20:05) (60fps動画)

(flickr の動画埋め込みがうまくいかないので、上の画像をクリックしてリンク先で動画を再生してください)

大赤斑の内部の濃淡や北赤道縞から南に伸びるフェストーンの様子など、ワンショットの画像ではノイズに埋もれて模様として認識できなかったものが、動画で見ると曖昧ながらも確かにそこにあるものとして見えてきます。動画で見ることで脳内でコンポジット的な処理が行われてノイズがキャンセルされるのでしょうか?

そういえばデジカメワンショットで撮っていた時も、ライブビューでは見えていた大赤斑やガリレオ衛星の影が、写真では曖昧にしか写らなくて不思議に思っていましたが、こうして動画と同じ動画から切り出したフレームを見比べても同じ現象が起こるということは、動画という形で見ることで脳内で静止画とは異なった画像処理が行われるのだと思います。

なので、スタックや wavelet などの画像処理がありもしない模様を捏造しているわけではなくて、人間の視覚が行う画像処理に近いことをやっているのだと思います。平たく言うと、多数のフレームから集めた情報から統計的にシグナルとみなせるものを抽出、強調するという点で共通した処理なのでしょう。まあ、理論的なことは全然理解していないのでテキトーですが…

というわけで、ワンショット撮影だとどうしても目で見えるもの以下の写真しか撮れないし、情報量が不足して画像処理では救えない、という結論になるかと思います。

*1:デベイヤーしたものを AutoStakkert!3 で Analyse した結果のベストクォリティのフレーム。