Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

海王星、天王星 (2022/10/1)

昨日の「速報」でもお伝えしたように9月30日と10月1日は二夜連続の惑星撮影祭りでした。

撮り溜めたデータが3TB超あり、まだまだ画像処理が終わらないのですが、10月1日の夜に撮った海王星天王星の写真を仕上げたのでアップします。

まず海王星

海王星とトリトン (2022/10/1 21:26)
海王星トリトン (2022/10/1 21:26)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 450), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 489), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/15s x 1500/3000コマをスタック処理 x2 (L:1, RGB:1) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.2, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理(衛星は同じデータから別画像処理したものを合成)

WinJUPOSによる海王星のシミュレーション画像 (2022/10/1 21:26)
WinJUPOSによる海王星のシミュレーション画像 (2022/10/1 21:26)

土星を撮った後、木星の西に10度ほど離れた場所に海王星がいたので、寄り道してサクッと撮りました。既に木星で大赤斑が顔を出し始める時間だったので。

右上の衛星はトリトンです。見えにくい場合は写真の右下のγ補正ボタンでマイナス側に調整してみてください。上の写真はシャッター速度1/15秒で撮った画像から普通に処理したものと強力な wavelet 処理でトリトンをあぶり出したものとを合成したものです。トリトンの光度は13.45等で、実際にはこれよりずっと暗いです。

他の衛星は写っていません。トリトンの次に明るいネレイドは極端な楕円軌道で周っているため撮影時には写野のはるか外でした。そもそも18.7等なので横浜の空では写らないと思います。その次に明るいプロテウスは20.3等でこれも無理だと思います。ちなみにこの日の海王星本体は7.8等でした。

この日は好シーイングだったので、ひょっとしたら模様が写るか?とも思ったのですがよくわかりません。何か濃淡は見えていますがシャッター速度が遅いですしあまり信用できないような… ALPO-Japan の最近の報告画像を見ると似たような濃淡が写った画像はあるのですが、みなさん輝度情報に赤外もしくは赤フィルターで撮った画像を使っているようで、IR/UVカットフィルターで撮ってもこういう濃淡が写るものなのかどうか…

そして天王星

天王星と衛星 (2022/10/2 0:54)
天王星と衛星 (2022/10/2 0:54)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 354), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 406), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/15s x 1500/3000コマをスタック処理 x6 (L:3, RGB:3) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.2, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理(衛星は同じデータから別画像処理したものを合成)

WinJUPOSによる天王星のシミュレーション画像 (2022/10/2 00:54)
WinJUPOSによる天王星のシミュレーション画像 (2022/10/2 00:54)

これも撮影データから衛星をあぶり出したものを合成しています。左からオベロン、チタニア、アリエル、ミランダ、ウンブリエルが写っています。

一番暗いミランダ(16.5等)はギリギリの写りで本当に写っているのか怪しいところもありますが… de-rotation 前の3セット分のL画像では3つともそこに何かあるようには見えましたが、周りのノイズとほとんど差がない明るさで確信には至りませんでした。しかし de-rotation のオプションで衛星像も3セット分スタックすると微かながら星像が浮かび上がってきたので、おそらく写っているのだと思います。

衛星の並びが特徴的ですが、これは天王星の自転軸が横倒しになっていて、今は極がほぼ地球の方を向いているからです。*1 木星の衛星の公転面は地球から見るとほぼ水平に見えます。土星は環が楕円に見えることからもわかるように自転軸が結構傾いていて衛星も細長い楕円に沿って回っているように見えますが、今の天王星はもっと極端で、衛星の公転面をほぼ垂直方向から見ている状態です。

上の写真では WinJUPOS で向きを天王星の北極が上になるようにしてありますが、写真で左側に見える衛星は、天球上では北の方に、つまり日本から見ると上の方に見えていました。なのでカメラを縦位置にして撮りました。

ところで今「天王星の北極」と書きましたが、北極ってどっちでしょう?天王星の極が今地球の方を向いているとも書きましたが、この時はそれが北極なのか南極なのかは書きませんでした。これは惑星の南北の定義という微妙な話に関わるからです。

惑星の2つある極の北極と南極をどう決めるのかには2つの流儀があります。一つは「惑星の自転方向が反時計回りに見える極を北極とする」という流儀、もう一つは「黄道面(正確には太陽系の不変面)より北(北極星がある側)に出ている側の極を北極とする」という流儀です。国際天文学連合(IAU)では惑星については後者の流儀を採用しています。*2 IAUの流儀に従うなら、天王星の自転方向は逆行である(北極から見た時に時計回りになる)ということになります。*3

WinJUPOS の Ephemerides の Graphics タブで Orientation を Planetary に設定すると「惑星の北が上」で表示されます。現在の日時では地球の方に向いている極は少し上を向いているので、WinJUPOS はこれを北極として扱っているようです。ここで Animetion の右矢印ボタンを押して時間が進む方向にアニメーションさせると、天王星は時計回りに回って見えます。つまり自転が逆行しているということになります。ということは WinJUPOS は IAU の流儀に従っているわけです。*4

なのですが… 『ナショナル ジオグラフィック日本版』の2014年のこの記事なんかだと、2007年の「天王星春分」以降は天王星の「北半球」が太陽の当たらない側、つまり地球の反対側に入ったとしています。

ということは今地球の方に向いているのは南極?でも春分の後ってことは今は春分の21年後(公転周期の1/4)の2028年の夏至に向かっているということですよね?夏至ってことは北極側が太陽を向くってことだから、今太陽あるいは地球の方を向いている極は北極のはずでは?わけがわかりません… 惑星の夏至冬至の定義も何か変なことあるのかな?

とにかく、2028年には天王星の北極だか南極だかが地球の真正面を向きます。北半球だか南半球だかに模様が見えたらなかなか楽しい様子になりそうです。そして2049年には秋分を迎え、また真横から眺める形になります。その頃僕は79歳。たぶん生きてはいない気がしますが、アマチュアの機材では環の消失が観測できるわけでもないだろうし、ま、いっか!

*1:後述するように、今地球に向いているのが北極なのか南極なのかについては微妙な話になります。

*2:参照: 『天文学辞典』(日本天文学会) の「逆行」の項目。

*3:前者の流儀なら定義上「自転の逆行」という概念が存在しなくなります。

*4:なお、5つの衛星の公転の向きも時計回りになっています。