Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

Star Adventurer GTi 購入!(その3): 3本の鏡筒でオートガイド撮影対決!

「Star Adventurer GTi 購入!」シリーズ、前回は FSQ-85EDP + 冷却CMOSカメラ という過積載状態で月面撮影を敢行した結果をお伝えしましたが、

今回はいよいよオートガイドでの DSO の撮影のテストについてまとめます。

テストの概要

テストは3月31日、4月4日、4月10日、5月2日に実施しました。テストに使った鏡筒は以下の通り(重量は {鏡筒+補正レンズ}/{オートガイダー+カメラ一式込み})。

  • William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折) (1.8kg/3.2kg)
  • 笠井トレーディング BLANCA-80EDT + ED屈折用フィールドフラットナーII (D80mm f480mm F6 屈折) (2.5kg/3.9kg)
  • 高橋製作所 FSQ-85EDP + フラットナー1.01x (D85mm f455mm F5.4) (4.8kg/6.2kg)

カメラはいずれも ASI294MM Pro + EFWmini です(EOSマウントのリング類を含めて1.1kg)。読み取りモードはガイド精度をしっかり見るために 46 Megapixel モード(ピクセルサイズ 2.315μm)で撮影しました。BLANCA-80EDT ではさらに 11 Megapixel モード(ピクセルサイズ 4.63μm)での撮影も行いました。

撮影対象は主に球状星団で、M5, M14, M22 を撮っています。最後に BLANCA-80EDT にて 11 Megapixel モードで M27 (亜鈴状星雲)を軽く撮りました。

結果と結論

結果をまとめると以下の通りです。

  • 追尾、自動導入等はどの鏡筒でも脱調することなく駆動できた。
  • オートガイドは搭載重量が重くなるほど不安定に。
    • RedCat 51 では SX2 よりも安定しているかも?46 Megapixel モードでも良好。
    • BLANCA-80EDT は 46 Megapixel モードは厳しい。11 Megapixel モードなら実用範囲?
    • FSQ-85EDP はもっと厳しい。ガイドのゆらぎで星像が甘くなる。
  • 風の影響も重く大きな鏡筒では深刻。
    • 強風時の FSQ-85EDP は撮影するまでもなく星像が踊りまくっていたのでテスト中止。
  • オートガイドは子午線越えで不安定になる。
    • 赤緯ガイドが流れ出したりする。
    • FSQ-85EDP ではガイドグラフはまともなのに撮影結果では流れていたことも。
    • アリミゾの保持力の問題か?
      • アリミゾの固定ネジをノブの大きなものに交換してしっかり締めたら緩和された?

結論としては、

  • 鏡筒側の総重量は最大で4kgぐらいまで
  • 鏡筒の焦点距離は最大で500mmぐらいまで
  • カメラのピクセルサイズは最小で4μmぐらいまで

ならば実用範囲、という感触を得ました。下手に長い鏡筒を載せるより RedCat51 で 46 Megapixel モード(ピクセルサイズ2.315μm)の方が歩留まりもいいし使い勝手もいいかも?

テスト結果の詳細

RedCat 51

まずは今までスカイメモSに載せたりしてきた RedCat 51 です。

Star Adventurer GTi + RedCat 51 + EFWmini + ASI294MM Pro
Star Adventurer GTi + RedCat 51 + EFWmini + ASI294MM Pro

こんな感じで付属の2.3kgのウエイトで余裕でバランスします。不安定な感じは一切なし。まあ、スカイメモSでも余裕あるので当然ですが。

RedCat 51 で M5 を撮影 (2023/4/1 1:11)
RedCat 51 で M5 を撮影 (2023/4/1 1:11)

球状星団 M5 でテスト撮影。46 Megapixel モードです。

RedCat 51 で M5 撮影時のガイドグラフ (2023/4/1 1:38)
RedCat 51 で M5 撮影時のガイドグラフ (2023/4/1 1:38)

ガイドは超安定。SX2 よりいいかも?RMSエラーは RA0.83"/DEC0.62" でRAがややブレますがこの焦点距離ピクセルサイズなら許容範囲です。

と思ったら…

RedCat 51 で M5 撮影時のガイドグラフ (2023/4/1 2:45)
RedCat 51 で M5 撮影時のガイドグラフ (2023/4/1 2:45)

急に不安定に。この日の M5 は 2:26 に南中で、どうやら子午線を越えたあたりから怪しくなっているようです。とはいえ RA/DEC 共に 1" 前後の RMS エラーで、赤緯ガイドも頑張って持ちこたえている感じで、SX2 の大きく蛇行するガイドエラーに比べるとだいぶマシで、バックラッシュが少なめな印象です。

ただし、カクッとガイド星が飛んでしまうことが一度あって、さすがにそれはオートガイドでも救いようがありませんでした。鏡筒の固定の問題でしょうか?この時はまだ固定ネジは付属のものを使っていました。

Star Adventurer GTi + RedCat 51 ガイドエラー(Light frame)
Star Adventurer GTi + RedCat 51 ガイドエラー(Light frame)

Star Adventurer GTi + RedCat 51 ガイドエラー (Guide Graph)
Star Adventurer GTi + RedCat 51 ガイドエラー (Guide Graph)

2分露出16コマをスタックした結果がこちら。長辺4096 pixelでクロップしています。

M5 (2023/4/1 1:10) [Star Adventurer GTi + RedCat 51 テスト]
M5 (2023/4/1 1:10) [Star Adventurer GTi + RedCat 51 テスト]
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折) + ZWO R Filter 31mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (46 Megapixel, Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.9268.0 / 露出 2分 x 16コマ / PixInsight 1.8.9-1, Lightroom Classic で画像処理

M5 拡大 (2023/4/1 1:10) [Star Adventurer GTi + RedCat 51 テスト]
M5 拡大 (2023/4/1 1:10) [Star Adventurer GTi + RedCat 51 テスト]
撮影データは上に同じ。

球状星団の微恒星の星像が針を突いたような、と言うと言い過ぎかもしれませんけど、等倍で見てもノイズは目立ちますがガイドエラーを感じさせない星像です。

調子に乗って2倍 drizzle で仕上げてみました。

M5 (drizzle) (2023/4/1 1:10) [Star Adventurer GTi + RedCat 51 テスト]
M5 (drizzle) (2023/4/1 1:10) [Star Adventurer GTi + RedCat 51 テスト]
撮影データは上に同じ。

M5 (drizzle) 拡大 (2023/4/1 1:10) [Star Adventurer GTi + RedCat 51 テスト]
M5 (drizzle) 拡大 (2023/4/1 1:10) [Star Adventurer GTi + RedCat 51 テスト]
撮影データは上に同じ。

さすがに等倍で見ると星像が太った感じは否めませんが十分アリな気が。

FSQ-85EDP

懸案の FSQ-85EDP はビクセンの 3.7kg のウエイトを端っこいっぱいまで下ろしてギリギリバランスします。モーターの駆動力自体は少々のアンバランスはものともしないのですが、クランプを緩めるとスムースに回ってしまうので注意は必要。

最初のテストは4月4日に行ったのですが、この日は散々でした。ガイドの歩留まりが2割ぐらいでしたし、ガイドエラーにも不可解なものがあり… たとえば、

Star Adventurer GTi + FSQ-85EDP ガイドエラー (Light frame)
Star Adventurer GTi + FSQ-85EDP ガイドエラー (Light frame)

これなんですが、ガイドグラフはこうなんです。

Star Adventurer GTi + FSQ-85EDP ガイドエラー (Guide graph)
Star Adventurer GTi + FSQ-85EDP ガイドエラー (Guide graph)

わけがわからない。確かに赤経方向のブレはあるんですが、1"以下で、あんな動きにはならないはずです。

ガイドグラフと実際のガイドエラーが食い違うというと、鏡筒の撓み等でガイド鏡と撮影鏡の向いてる向きがズレてしまっているのを疑いますが、2分でこれだけズレるというのは異常です。ガイドスコープの固定に異常は見当たらなかったし、FSQ はこんなに撓むようなヤワな鏡筒じゃないですし。

何らかの原因で短周期の振動が発生し続けて、その往復運動がガイドエラーの星像の軌跡になっている可能性も考えましたが、さすがにそれでガイドグラフが2分間も安定し続けるというのは考えづらいです。それともガイドカメラの露出時間の1.5秒周期で振動していたとか?

もう一つ考えられるのは鏡筒の固定が甘くてアリミゾの接合部を支点として鏡筒が傾いている可能性です。ガイド鏡は撮影鏡に比べて支点から離れた位置にあるので一緒に回転しても撮影鏡より大きく動いてしまい、その動きをオートガイダーが頑張って追尾した結果、かえって撮像の方がブレてしまっていたのではないか?

このあたりちゃんと検証したい気持ちはあったのですが、そもそも鏡筒が傾いちゃってるのだとしたら怖すぎるので鏡筒の固定方法をなんとかしないと取り返しのつかないことになってしまうので、その対策を先にしました。

「その2」でも触れましたが、付属のアリミゾの固定ネジのノブが細身のものであまり強い力では締め付けられないものだったので、ビクセンプレートホルダーSXの固定ネジと交換しました。これでだいぶ強く締め付けられるようになりました。が、本当はプレートホルダーSXがそうであるようにもう一本押さえネジが欲しいところ…

この対策を最初に試したのは4月10日のテストだったのですが、この日は風が強く、8秒ほどの露出のプレビューですら星が8の字を描いて踊ってる有様で、どうにもならないのでテストは中止しました。風が強いと言っても SX2 なら諦めずに撮っていただろうという程度の強さなので、やはり風には弱いな、と。

5月2日、前回のエントリで書いた月面撮影の後に改めてテスト撮影をしました。今回も対象は M5 です。2分10コマをスタックした結果がこちら。

M5 (2023/5/2 23:28) [Star Adventurer GTi + FSQ-85EDP テスト]
M5 (2023/5/2 23:28) [Star Adventurer GTi + FSQ-85EDP テスト]
高橋 FSQ-85EDP, 高橋 フラットナー1.01x (F5.4), ZWO R Filter 31mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (46 Megapixel, Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.9268.0 / 露出 2分 x 10コマ / PixInsight 1.8.9-1, Lightroom Classic で画像処理

M5 拡大 (2023/5/2 23:28) [Star Adventurer GTi + FSQ-85EDP テスト]
M5 拡大 (2023/5/2 23:28) [Star Adventurer GTi + FSQ-85EDP テスト]
撮影データは上に同じ。

一応星像は丸く写っているのですが、ちょっとぽってりした感じです。ガイドグラフはこうです。

FSQ-85EDP で M5 撮影時のガイドグラフ (2023/5/2 23:48)
FSQ-85EDP で M5 撮影時のガイドグラフ (2023/5/2 23:48)

RMSエラーは RA1.4"/DEC1.57" で、RedCat 51 の時と比べるとだいぶ悪いです。この日は風は穏やかで鏡筒が風で揺れている感じではなかったので、純粋にモーターの力不足とか架台の剛性不足とかでブレているのだと思います。

等倍画像を RedCat 51 の drizzle のものと比較すると、さすがに RedCat 51 よりは解像してはいるのですけど、差は僅かに見えます。大きく重い鏡筒の取り扱いの大変さを考えるとそうまでして FSQ-85EDP を載せるメリットがあるのかどうか悩んでしまいます。

BLANCA-80EDT

最後は FSQ-85EDP を導入するまで長らくメイン鏡筒として使ってきた BLANCA-80EDT です。三脚座兼アリガタが鏡筒に直付けされていて、トータルで見ると 8cm 屈折としては比較的軽量な鏡筒で、付属の2.3kgウエイトでギリギリバランスしました。

5月2日に FSQ-85EDP のテストの後にテストしたのですが、M5 が子午線を越えてしまったため、M14 でテストしました。

1分露出の10コマをスタックした結果がこちら。フラットを撮り忘れたので背景が荒れているのはご容赦ください…

M14 (2023/5/3 2:29) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
M14 (2023/5/3 2:29) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
笠井 BLANCA-80EDT, 笠井 ED屈折用フィールドフラットナーII (F6), ZWO R Filter 31mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (46 Megapixel, Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.9268.0 / 露出 1分 x 10コマ / PixInsight 1.8.9-1, Lightroom Classic で画像処理

M14 拡大 (2023/5/3 3:16) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
M14 拡大 (2023/5/3 3:16) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
撮影データは上に同じ。

縮小画像だと綺麗に撮れているように見えますが、等倍で見ると赤経方向のガイドエラーが大きくて星像が少し流れていることがわかります。

BLANCA-80EDT で M14 撮影時のガイドグラフ (2023/5/3 2:34)
BLANCA-80EDT で M14 撮影時のガイドグラフ (2023/5/3 2:34)

ガイドグラフを見るとRMSエラーが RA0.85"/DEC0.69" で、RA が流れているというよりは DEC が良すぎる?このグラフは M14 の子午線越えのタイミングで DEC がズレ出した後なので、それまではもっと DEC が安定していました。まあ、極軸の誤差が小さいとこういうことはあるので、RA はもう少し頑張って欲しいところですが、RA の誤差は RedCat 51 の時と同じくらいなので、BLANCA-80EDT のせいではなく、架台の精度がそのくらいだということだと思います。

この時点で 480mm の焦点距離と 46 Megapixel モードでの撮影は無理があるなと諦めて、11 Megapixel モードで色々撮って実用性を探ることにしました。と言ってももう夜明けが近いので M22 と M27 しか撮れませんでしたが…

まず M22 です。

M22 (2023/5/3 3:16) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
M22 (2023/5/3 3:16) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
笠井 BLANCA-80EDT, 笠井 ED屈折用フィールドフラットナーII (F6), ZWO R Filter 31mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (11 Megapixel, Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.9268.0 / 露出 1分 x 10コマ / PixInsight 1.8.9-1, Lightroom Classic で画像処理

M22 拡大 (2023/5/3 3:16) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
M22 拡大 (2023/5/3 3:16) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
撮影データは上に同じ。

等倍でもこれなら悪くないと思います。

そして M27 です。こちらはカラーで。薄明に入ってしまったのと光害カットフィルターを使ってないので赤い色が全然出てませんが…

M27 (2023/5/3 3:45) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
M27 (2023/5/3 3:45) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
笠井 BLANCA-80EDT, 笠井 ED屈折用フィールドフラットナーII (F6), ZWO LRGB Filter 31mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (11 Megapixel, Gain 150, -10℃), SharpCap 4.0.9268.0 / 露出 L: 1分 x 8コマ, RGB: 2分 x 2コマ / PixInsight 1.8.9-1, Lightroom Classic で画像処理

M27 拡大 (2023/5/3 3:45) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
M27 拡大 (2023/5/3 3:45) [Star Adventurer GTi + BLANCA-80EDT テスト]
撮影データは上に同じ。

こちらは少し赤緯方向流れてる?個人的には許容範囲ですが。

というわけで、最初に書いた結論になりました。FSQ-85EDP を諦めないといけないのは残念ですし、BLANCA-80EDT は接眼部がヤワで冷却CMOS + EFW に耐えられないんですよね… 今回は総露出時間が短いので目立ちませんが、撓みで周辺部の星像の流れが変化したりフラットが合わなくなったり。

というわけで当面は RedCat 51 を使うしかない?それだとスカイメモSから進歩がないんですが… でも自動導入できるしスマホからコントロールできるし、手動導入できずに諦めた対象も今まであったので、その点は進歩かな…