Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

マルカリアンの銀河鎖, M100, M83 (2017/2/2)

新月を前に色々妄想していたのですが、月末はずっと天気が悪くて全然天体撮影ができませんでした。しかたがないので 2 月に撮った銀河の写真を再処理していました。

光害もしくは迷光によるカブリで淡い部分が上手く出なかった写真なのですが、フラットのムラや光害などのカブリを除去できると評判のソフト FlatAidePro を試してみました。有料のソフトですが 800 万画素までの画像なら無料でフル機能が使えます。

以下いずれも2月2日の深夜に撮ったものです。

まずはおとめ座銀河団の中にある銀河でできた首飾り「マルカリアンの銀河鎖」です。

マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算815mm相当にトリミング

たくさんの銀河が写っています。例によってマップも作ってみました。

マルカリアンの銀河鎖 (2017/2/3 01:32)
マルカリアンの銀河鎖マップ (2017/2/3 01:32)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算815mm相当にトリミング

Lightroom での調整だけでは NGC4438 の周囲の淡く広がった部分を強調すると背景のムラが浮いてきてどうしても綺麗に仕上がらなかったのですが、少しはマシになりました。とはいえやはり厳しい…

次は、これもおとめ座銀河団の銀河 M100 です。

M100 (2017/2/3 02:34)
M100 (2017/2/3 02:34)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

以前撮った時には見えなかった渦巻き構造がはっきり写っています。いいですね、渦巻き。

最後はうみへび座の銀河 M83 です。

M83 (2017/2/3 03:46)
M83 (2017/2/3 03:46)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, FlatAidePro 1.0, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

南中高度が 25 度と低く、ちゃんと写るか不安だったのですが思いの外よく写りました。ていうかでかいですね… M100 の倍くらいあります。迫力ある腕がいい感じのフェイスオン銀河です。

さて、画像処理はいろいろ試行錯誤してこんな感じにしましたが、こんなんでいいんでしょうか…

  • DSS の出力を Lightroom でノイズ軽減・トリミングして TIFF 出力
  • FlatAidePro で元画像をレベル補正
  • レベル補正済み画像をフラット補正(減算)
  • フラット補正済み画像をレベル補正(バックグラウンドを50%くらい残す)
  • FlatAidePro の最終出力を Lightroom に読み込んでノイズ軽減・レベル・トーンカーブ・明瞭度の調整

最初に元画像のレベル補正をせずにフラット補正すると後で強調処理した時に背景のムラが残ってしまいました。また、FlatAidePro のレベル補正で適正なレベルまで仕上げてしまうと淡い部分がザラザラになりがちなので背景がグレーになるぐらいにしてから Lightroom で処理した方がノイズが目立たないようでした。

FladAidePro にはフラット補正以外にもたくさん機能があって、星だけをシャープにしたり、ガイドエラーで少し流れた星像を丸く補正したり、輝星だけにソフトフィルターをかけたりと色々できるようなので、今後ぼちぼち試していきたいと思います。

オートガイダー導入記 (10): 暴走するオートガイダー

前回の続きです。

オートガイダー導入記 (7): 屋外での撮影のテスト」でちらっと触れたガイドが暴走した件、その後何が起こっていたのか判明しました。

当時具体的にどういう状況だったか当時のメモから引用します。

M31の後はM33。そしてM45を撮り始めたのだがガイドに異常が。ガイドパルスが全く効かない感じで赤経方向にガイド星がどんどん流れていってしまう。赤緯クランプが緩んでいるのに気付いてクランプを締め直すがガイドズレは直らない。
一度赤道儀の電源を落として再接続してみたがダメ。結局PHD2を再起動したら正常にガイドするようになった。しかし今度は赤緯方向のズレ。極軸がズレている。M33からM45に望遠鏡を向けた時、子午線を超えるために鏡筒を反転させたせいか、バランスが崩れてしまったらしい。

PHD2 の不具合だろうと思ったまま忘れていたのですが、年明けに HIROPON さんの記事にこんな話が出てきてピンときました。

ところでこの時、ちょっとしたトラブルに見舞われています。M76からM1にターゲットを移してガイドを再開したところ、ガイド星が暴走気味にどんどん外れていくのです。
一瞬、赤道儀の不具合やケーブルの断線を疑いかけましたが、気づけば答えは簡単な話。M76→M1の移動で望遠鏡の姿勢が東西入れ替わっているので、オートガイダーからの指令と動作方向の対応も逆にしなければいけないのですが、キャリブレーションのやり直しをサボっていたため、これがされていなかったのです。

ひょっとしてこれと同じ話だったのでは?PHD2 を再起動したら治ったのは再起動後にいつも通りキャリブレーションをやり直していたから?

M33 を撮った 11月5日 23:06 南中から約1時間経過した M33 に向けた望遠鏡の姿勢は望遠鏡が東側 (telescope-east) でした。その後南中前の M45 に望遠鏡を向け直した時に望遠鏡が西側の姿勢 (telescope-west) に切り替えていたのでした。

望遠鏡の東西を入れ替えると同じ方向を向いたままガイドカメラが逆さになるのでオートガイダーから見た上下左右と赤道儀から見た東西南北の対応関係が逆になるのです。その状態でガイドするとオートガイダーがガイドを修正するとますますガイド星がズレていく悪循環になりガイドが暴走してしまうのです。

自分でもこれがすぐにはわからなかったので順を追って説明します。

まず「望遠鏡の東西を入れ替えるとカメラが逆さまになる」について。

一般的なドイツ式赤道儀の場合、子午線を超えて望遠鏡を動かす時に望遠鏡が三脚などにぶつからないように望遠鏡の東西を入れ替えます。具体的には望遠鏡を極軸を中心に 180 度回転してさらに赤緯軸を中心に 180 度回転します。

図解するとこうなります。


https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-01.png
https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-02.png
https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-03.png

telescope-west で南の空を見ている状態から telescope-east に入れ替える場合を図解したものです。極軸を 180 度回すと望遠鏡がこっちを向くのがわかりづらいかもしれませんが、極軸を垂直に立てた状態を想像するとわかりやすいです。

これをやるとカメラが逆さまになり星が逆さまに写ります。なので撮影用のカメラはここからさらにカメラを回転させて正位置に戻すのが普通ですが、ガイドカメラの場合はそのままにすることが多いと思います。そのためカメラの映像を解析するオートガイダーにも逆転した映像が入力されることになります。

続いて、この状態では「オートガイダーがガイドを修正するとますますガイド星がズレていく悪循環」になるということについて。

最初に telescope-west の状態でキャリブレーションしたオートガイダーは、

  • 映像上でガイド星が右に動いたら赤道儀を西に動かす
  • 映像上でガイド星が左に動いたら赤道儀を東に動かす

というルールで赤道儀を制御します。

https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-04.png

ガイド星が西に動くと映像上では右に動き、最初のルールでガイド星が最初の位置に戻るまで西に動かすことになります。このルールのまま望遠鏡の東西を入れ替えてしまったらどうなるでしょう?

https://rna.sakura.ne.jp/share/telescope-flip-05.png

オートガイダーからはガイド星の動きが逆さまに見えていますから、西に動いたガイド星は映像上では左に動き、二番目のルールが適用されて赤道儀を東に動かしてしまいます。

こうするとガイド星は元の位置からさらに左へと離れてしまいます。そして離れたガイド星を追うために二番目のルールがさらに適用されてますますガイド星は離れていってしまい… と悪循環に陥り、結果的に暴走のような動きになってしまうのです。

なので望遠鏡の東西を入れ替えたらオートガイダーの動作ルールを逆にしないといけません。PHD2 にそういうオプションもあるようですが、簡単にはキャリブレーションをやり直せばよいわけです。望遠鏡の姿勢を大きく変えると各部のたわみなど変化するので再キャリブレーションする習慣を付けておいたほうがよさそうです。

「気づけば答えは簡単な話」とは言うものの、言われるまで気付きませんでしたし完全に納得するには時間がかかりました。でもこれでもう大丈夫。

ということで赤道儀購入からオートガイダー導入までを振り返るシリーズはこれでおしまいです。過去に撮った写真については時々振り返って個別の記事にしたいと思います。

LPS-D1 QRO について

以前のエントリ「オートガイダー導入記 (7): 屋外での撮影のテスト」で触れた光害カットフィルター LPS-D1 QRO 48mm (以下 QRO)で発生した問題について顛末をまとめておきます。

昨年10月にオートガイダーを買った時に光害カットフィルターも一緒に購入しました。どうせなら最新のものをと思い、少し値段は高いですが IDAS LPS-D1 QRO 48mm を選びました。

カメラが OLYMPUS OM-D E-M5 なのでマウント内に取り付けるタイプのものは選択できず、レデューサーや直焦アダプターの先端の 48mm ネジに取り付けるタイプのものです。

最初に使用した時にカメラのライブビューでピント合わせをしていて星像が歪んでいるのに気付きました。いくらピントを合わせても星像が微妙に菱型に見えてピントが合わせづらいのです。実際に撮影しても等倍で見ると星像がひし形になっていて特に星団の撮影では気になりました。

テスト撮影したものがこちら。

https://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/no_filter-1.jpg
フィルターなし
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 200, 30s

https://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/LPS-D1_QRO-1.jpg
LPS-D1 QRO 使用
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 30s

写真は Lightroom でカラーバランスをニュートラルにして露光量を背景が 40% になるように揃えて 2 倍に拡大したものです(画面表示では等倍相当)。スカイメモ S をオートガイドで追尾して撮影しています。

QRO 使用では暗めの星の星像が長方形に見えます。また、明るい星の星像は左上から右下の方向に星像が不自然に膨らんでいます。星像が少し横長なのはガイドエラーのせいもあるのですが、カドが立っているのが問題です。

もっともこの程度だと Full-HD 全画面表示ぐらいではほとんどわからないのも事実で、そんなものなのかなぁと思いつつもモヤモヤした気持ちが残っていました。周囲に天体写真を撮る人がいないので実際「そんなもの」なのかどうかわからないし、ネットで探しても QRO を使っている人は見当たりませんでした。*1

QRO は厚さ 1.1mm の薄型ガラス基板を使っているのが売りです(従来品は 2.5mm)。しかしその薄さのせいでフィルター枠内で歪みやすくなっているのでは?と思い、フィルター枠のガラスを押さえているネジを少しだけ緩めてテスト撮影してみると、若干星像が改善されたのですが期待には程遠い結果でした。*2

その後 HIROPON (id:hp2)さんと twitter でやりとりするようになり、この件を相談してみたところ、そういう現象は経験していないし聞いたこともない、不良品かもしれないので販売店に相談してみては、とのアドバイスをいただき、年明けに協栄産業(KYOEI-TOKYO)に写真を添えて問い合わせてみました。

協栄からメーカーのアイキャスエンタープライズ IDAS 事業部(以下 IDAS)に連絡が行き、2週間後 IDAS に着払いで QRO を返送して欲しい旨連絡がありました。フィルターに何らかの異常がある可能性があり、検査したいとのこと。

結果は外観検査や簡易脈理検査では異常なし、精密な検査にはさらに時間がかかる、とのこと。協栄からは、それまでフィルターなしは困るだろうと QRO の交換品と従来品の LPS-D1 (以下無印)を無償で送るので、撮影鏡との相性を確認する意味でも比較して欲しい、と連絡がありました。新月前だったのでこれにはとても助かりました。

そういうわけで、交換品が到着後早速テストしてみました。

https://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/no_filter-2.jpg
フィルターなし
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 200, 30s

https://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/LPS-D1_QRO-2.jpg
LPS-D1 QRO (交換品)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 30s

https://rna.sakura.ne.jp/share/LPS-D1_QRO/LPS-D1-2.jpg
LPS-D1
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 30s

QRO 交換品では星像の菱型の歪みは見られませんでした。しかしよく見ると少しトゲが生えたような歪みが。ガイドエラーかとも思ったのですが 8 枚撮ってどれも同じでした。

一方、無印の LPS-D1 では星像の歪みは全く見られませんでした。フィルターなしと遜色ありません。正直、交換品なら十分かな?と思っていたのですが、これを見てしまうと無印の方を使いたくなりますね…

以上を報告したところ、IDAS からはフィルター枠のガラス押さえが公差ギリギリで加工された個体の場合ガラスが歪んでしまう可能性はある、調査して改良したいとの解答がありました。

その後は無印の LPS-D1 を使っていて、QRO 交換品は予備としてとってあります。QRO を使っていて星像に疑問がある方は一度販売店に問い合わせてみると良いと思います。

ちなみにケンコーではカメラ用フィルターとして一時期 1mm 厚のガラス基板を使った製品を出していたのですが、平面性の精度を保つのが難しいという理由で今では基本的に 2mm 厚にしているそうです。昨年11月に発売された高精度保護フィルター ZX でも 2mm 厚で、さらにフィルター枠には特殊な構造を導入してガラスの歪みを抑えているとのことです。

QRO ではフィルターによる収差を低減する目的でガラス基板を薄くしたようですが、それが裏目に出てしまったということでしょうか。大手のケンコーが諦めた路線を進むのは大変でしょうが IDAS さんには頑張ってほしいです。

*1:当時発売されて間もなかったのと、大抵の人は Canon 用のマウント内に取り付けるタイプを選ぶので、フィルターネジ用しかなかった QRO を買う人は少数派だったのだと思う。

*2:実は最初の比較写真は改善後に撮ったもの。

オートガイダー導入記 (9): 赤い星雲どこまで写る?

前回の続きです。

前回、低感度長時間露出がイケてるかも?という話をしましたが、その後原則 ISO 200 で 3 〜 5 分の露出で撮るようになりました。1軸ガイドなので赤道儀の極軸合わせはだいぶシビアになりますが、時間さえ惜しまなければ 288mm (フルサイズ換算 576mm) でほぼ失敗なしの精度まで追い込むことができます。

しかし、天体の導入時にはどうしてもクランプフリーで操作せざるを得ないので、クランプの緩め・締めで極軸がズレてしまうことがあるようです。1枚目の撮影中にガイドグラフを見て判断して、ダメなら再調整して撮り直しです。

極軸の精度は 5 分間で累積する赤緯方向のズレが 288mm なら 4 秒角以下、480mm なら 2 秒以下、を目標に追い込んでいます。これで各カットの星像はほぼ真円になるのですが、コンポジットすると背景のノイズが各カット毎に少しずつ赤緯方向にズレていって、ノイズが引きずったような縞模様になって目立ってしまうことがあります。

こういう縞ノイズを避けるには各カット毎にランダムに望遠鏡をズラしてノイズの位置を拡散させて目立たなくするとよいのですが(いわゆるディザリング)、スカイメモ S でそこまで器用なことはできないので 4 枚毎に赤緯微動をほんの少しだけひねって写野をわずかにズラすようにしています。これでもだいぶマシになります。個人的にはこれを「なんちゃってディザリング」と呼んでいます。

そんなふうにして撮った天体のうち、オートガイダー導入のきっかけにもなった赤い星雲の写真を以下に。カメラはいずれも無改造の E-M5 です。

まず、ばら星雲です。

ばら星雲 (2017/2/2 22:05)
ばら星雲 (2017/2/2 22:05)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算597mm相当にトリミング

ちょっと周りの星に負け気味の写りではありますが、ちゃんとバラには見えています。

次は、馬頭星雲。

馬頭星雲 (2017/1/4 23:03)
馬頭星雲 (2017/1/4 23:03)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

派手さはないものの、ポニーヘッド部分がクッキリ浮かび上がりました。

最後に、わし星雲(または「かもめ星雲」)。

わし星雲(Seagull Nebula) (2017/1/26 23:24)
わし星雲(Seagull Nebula) (2017/1/26 23:24)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算597mm相当にトリミング

こちらは前の二つよりはだいぶ淡い星雲で、無改造のカメラでは冬の銀河の星々に埋もれてしまってかなり厳しいです。

ということで、個人的には、わし星雲以外はそこそこ満足しています。オートガイダー導入が秋だったので北アメリカ星雲はまだ撮っていませんが、この分なら期待できそうです。

ちなみにどれも処理前の写真の背景の濃度は 50% くらいになります。ホワイトバランスのみ調整したものがこれです。

ばら星雲(処理前) (2017/2/2 22:13)
ばら星雲(処理前) (2017/2/2 22:13)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1
ISO 200, 300s
Lightroom CC でホワイトバランスのみ調整

光害カットフィルターを付けてこれです。つらい… こういう状態で露出時間を伸ばして正味の光量を増やそうとすると最低感度で撮るしかないのです。

もっと露出時間を伸ばしたらどうなるか、まだ試していませんが、E-M5 は 12bit RAW ですし、これ以上伸ばしても画像処理後の階調が狭くなりすぎてダメかなと思っています。明るい恒星の白飛びも既に激しいですし。(つづく)

続き:

赤緯方向のズレと大気差

最近は 1 枚 5 分の露出で 8 枚、余裕があれば予備を含めて 10 枚、総露出時間 40 分〜 50 分で撮影しているのですが、PHD2 のガイドグラフを見ていると、赤緯方向のガイドエラー、というか赤緯方向はガイドしていないので単なるズレですが、その量が時間と共に変化することがあります。

ずっとこれを極軸の誤差のせいか、機材のたわみのせいかと思っていたのですが、ひょっとして大気差の差、つまり追尾中に天体の高度が変わることで大気差による浮き上がりの高さが変わって、その赤緯方向の成分がズレとなって出てきたりしますか?

大気差の計算式は国立天文台暦計算室の用語解説によると、簡易的には  h_\alpha を見かけの高度、 R(h_\alpha) を大気差(単位は度)とすると、

 R(h_\alpha) = \frac{0º.0167}{\tan(h_\alpha + \frac{7.31}{h_\alpha + 4.4})}

だそうです。これをグラフにするとこんな感じ。縦軸の単位は秒にしています。

https://rna.sakura.ne.jp/share/refraction-1.png

あんまり低い部分はこの際関係ないので15度から90度までを拡大。

https://rna.sakura.ne.jp/share/refraction-3.png

先日撮ったソンブレロ銀河の写真は、Stellarium の表示によると、撮り初めの(見かけの)高度が 30.1 度、撮り終わりが 23.5 度。上の式で計算すると、大気差は 102.8 秒から 136.6 秒に変化していて、その差は 33.7 秒。結構ありますね…

赤経成分はオートガイドで補正されるはずなので、その赤緯成分が知りたいのですが、『天文年鑑 2017』 p321 によると、\eta を天体が天頂と極に張る角として、

\Delta\delta = R(h_\alpha)\cos \eta

だそうですが、 \eta の「天体が天頂と極に張る角」ってどうやって計算するんですかね?… 天体が子午線上だとすると南天なら 0 度で大気差がそのまま赤緯方向のプラスの差に、北天なら 180 度で大気差がそのまま赤緯方向のマイナスの差になるのはわかるんですが…

1 軸オートガイドでも極軸さえ正確に合わせれば正確に追尾できるかと思っていましたが、そう簡単な話ではなさそうです。とりあえずなるべく子午線をまたいで撮るようにして、撮影中の高度の変化を減らすのがよさそうです。

M104 ソンブレロ銀河 (2017/3/21)

21日は雨でしたが深夜から晴れたのを見てまたベランダから天体撮影。

ターゲットは「ソンブレロ銀河」こと M104。今回も 8cm F6 の直焦点です。

M104 (2017/3/22 03:01)

OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6)
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1200mm相当にトリミング

UFO のような形が印象的な銀河です。中心の丸い部分はもっと外側まで淡く広がっているのですが、条件も悪いのでそこまでは写っていません。

撮影開始が 3:00 と遅くなってしまったので撮影終了時の M104 の高度は 25 度。だんだん低空のかすみの中に沈んでいって、後半のカットはかなりカブリがひどかったのですが、段階フィルターでなんとかごまかしました…

このあたりはガイド星にできそうな星も少なくて、しかたなく右上の三つ並んだ星の一番明るい星をガイド星にしました。すぐそばに星が並んでいて大丈夫かと思いましたが問題なくガイドできていたようです。

ガイドカメラの露出時間を増やせば使える星はいくつもあるのですが、0.5 秒露出ぐらいで小刻みにガイドしないと追尾精度が落ちてしまいます。そういうものなんでしょうか?元々のスカイメモSの本来の追尾精度が悪いからそうなるだけ?

ちなみに極軸合わせは割とスムースにできました。それでも30分以上かかってますが… 極軸方位の微動が不安定なのは押しネジの当たるピンが緩んでいたせいでした。

https://rna.sakura.ne.jp/share/SKYMEMO-S-platform.jpg

写真の赤い矢印が問題のピンです。これをしっかりねじ込んでおくといいようです。

でもこれすぐ緩むんですよね。このピンはネジの頭がついてないので工具で強く締められないので。先を削ってマイナスドライバーで回せるようにしたらいいのかな…

オートガイダー導入記 (8): 低感度で撮った方がよい?

前回の続きです。

土曜(昨年11月5日)の撮影では、野外ということで長時間立つかしゃがむかの姿勢での作業が続いたので、翌々日の月曜になっても筋肉痛がとれなかったのですが、それであきらめるには月曜の夜の天気は良すぎました。結局我慢できずに再び機材を抱えて出撃。

ターゲットは前回撮りそこねたプレアデス星団(M45)と、かに星雲(M1)と、ふたご座の散開星団 M35。M35 は今回初めて撮りました。露出は 90 秒、光害カットフィルターは LPS-D1 QRO 使用。他にも撮りたかったのですが後述する理由でこれだけに。

まずプレアデス星団

M45 (2016/11/7 23:53)
M45 (2016/11/7 23:53)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 90s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算597mm相当にトリミング

プレアデス星団は青い星雲がどこまで写るかが勝負どころですが、フィルターありの 90 秒だと露出はかなり不足気味でした。でも、メローペの周りの刷毛ではいたような星雲の形はわかります。

次はかに星雲

M1 (2016/11/8 00:29)
M1 (2016/11/8 00:29)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 200, 90s x 10枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

かに星雲の「かに」というのは星雲の中から八方に広がる赤いフィラメント状の構造をカニの足に見立てたものだそうですが、その肝心の赤いフィラメントはうっすらとしか写りませんでした。やはり露出不足気味。

最後に M35。

M35 (2016/11/8 01:12)
M35 (2016/11/8 01:12)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 1000, 90s x 7枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算597mm相当にトリミング

青い星が多い星団ですが、右下にある黄色い星が集まった小さな散開星団 NGC2158 との対比が面白いところです。星団はこのくらいの露出の方が星の色味も残っていいかな、と思いつつももう少し露出をかけて NGC2158 の微恒星をクッキリ出したい気も。

ところで M45 と M1 の写真、ISO 感度が 200 になっていますが、これは作業ミスのせいです。

前回フラットを撮れなかったのですが、iPad を忘れて撮れなかっただけでなく、ターゲットを変えた時にカメラを回転させたのにその前にフラットを撮るのを忘れていたというミスもやらかしています。*1

そこで今回は忘れないように最初にフラットを撮ったのですが、その時 ISO 感度を 200 に設定していて、それを ISO 1000 に戻し忘れていたのです。フラットを ISO 200 にしているのはフラットのノイズを減らしたいのが理由ですが、あまり意味はないのかも。

M35 の撮影中にそれに気付いてあわてて M1 と M35 は ISO 1000 で撮り直したのですが、M45 は時間がなくて撮り直せませんでした…

しかし、ISO 200 で撮ったものを DSS で処理して Lightroom で露光量をプラス補正すると、以前 ISO 1000 で撮ったものと比べても遜色がありません。M1 も M35 も同様。時間がなくて枚数を減らしたのとガイドエラーの違いもありそうなので断定はできませんが、M1 については ISO 1000 の方がフィラメントの細部が潰れているように見えました。

M1 (2016/11/8 01:28)
M1 (2016/11/8 01:28)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 1000, 90s x 7枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

そういえば低感度で長時間露出した方がよいかも、という話は以前 HIROPON さんが書いていました。

要は、デジカメで ISO 感度を上げるのはセンサーから出た信号を増幅してるだけで、元々の信号自体はセンサーに届いた光の強さが同じなら変わらない、つまり感度をいくら上げても写らないものは写らない、なので露出(EV値)が同じなら低感度で長時間露出した方がより暗い星まで写るはず、という話です。

では、低感度で同じ露出時間の場合は? 上の記事には書かれていませんが、理屈の上では画像処理でプラス補正しても高感度で撮るのと意味は同じ、画像処理アルゴリズムの違いしか出ないはずです。

センサーの出力から RAW データの記録までの間の信号処理でノイズ除去などを行っているのなら、低感度で撮影して露出不足の画像では絶対値の小さい出力は消えてしまう可能性もあるのですが、逆に高感度ほどより強いノイズ除去がかかるような処理になっているなら低感度の RAW の方がよい、ということになります。オリンパスの RAW はそうなのかも?

しかし、通常の RAW 現像で強いプラス補正をかけると暗部のカラーバランスが崩れる(マゼンタ色のカブリが出る)ものなのですが、今回はそれがなかったのが不思議。と思ったのですが、天体写真だとダーク減算をするのでダークノイズ由来の色カブリがキャンセルされるということでしょうか?

そんなわけで今後は ISO 200 でより長時間の露出を目指すことに。

すっかりオートガイダーの話ではなくなっていますが… ちなみに今回の本来の目的、オートガイド用のノート PC のバッテリー持続時間の改善については、2時間半弱の撮影でバッテリー残量が30%近くあったので3時間くらいは撮影できそうだと確認できました。オートガイド撮影用途でも省電力設定は有効なようです。(つづく)

続き:

*1:接眼部の工作精度のせいか光軸がセンサーの中心から少しズレてしまっているので、カメラを回転すると周辺減光の中心位置が変わってしまうため、カメラを回す前後でフラットを撮っておかないといけない。