Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

AnnotateImage の星座線が気に入らないのでなんとかした件

先日の火星とプレセペの接近の写真に付けた星座線の違和感がどうも… って話ですが、

火星、プレセペ、金星 (2023/6/3 19:55) (アノテーション付き)
火星、プレセペ、金星 (2023/6/3 19:55) (アノテーション付き)
OLYMPUS ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0 (35mm F2.5) / Sky-Watcher Star Adventurer GTi / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 8秒 x 18コマをスタック処理 / PixInsight 1.8.9-1, Lightroom Classic, Photoshop 2023 で画像処理

やっぱり気になるのでなんとかしようと思いました。こんなんカニちゃうわザリガニや!って思いが強くて…

アノテーションには PixInsight の AnnotateImage を使っています。AnnotateImage にはカスタムカタログという機能があって、これを使うと天体の座標を記述したテキストファイルを元に天体にマーカーをつけてくれます。こちらのサイトにやり方が書いてあります。

…なのですが、これは星座線のカスタマイズには使えません。

そもそもどうやって星座線を描画しているのだろうと AnnotateImage のソースコードを見てみたところ、Linux なら /opt/PixInsight/src/scripts/AdP/ の下の*1 ConstellationLines.json という設定ファイルをファイル名決め打ちで読み込んでいました。

ConstellationLines.json は、こんな感じの星座線の定義と思われるオブジェクトがずらずらと並んだ配列になっていました(見やすいように整形しています)。

{
  "pol": [
    { "x": 5.679444, "y": -1.9500 },
    { "x": 5.603333, "y":-1.2000 },
    { "x": 5.533611, "y": -0.3000 }
  ],
  "c": "ORI"
},

これはオリオン座の三つ星を繋ぐ線を表すようです。

配列 pol は星座線の polyline を表し、文字列 c はアルファベット3文字の星座の略号のようです。pol の配列要素は星座線で繋ぐ恒星の座標で、座標の x は赤経(単位は時)、y は赤緯(単位は度)と思われます。

実際に ConstellationLines.json のかに座の定義をアストロアーツiPhone 用アプリ「iステラ」の星座線に合わせた記述に書き換えて*2 試してみると…

できました。

そうとわかればあとは、、、とその前に、そもそも星座線の定義ってどうなっているのでしょう?ググってみると、

なるほど、難航中と… って、これエイプリルフールの記事やんけー!!

気を取り直して真面目な記事を探してみました。

星座線

星座線 ステラナビゲータ で表示している星座線は、白河天体観測所の藤井旭氏の御協力をいただき、氏の作成されたつなぎ方を使わせいただきました。藤井氏による星座線は、星座の形をイメージしやすいようなつなぎ方になっています。天文雑誌の星座線も藤井氏のつなぎ方を採用しているようですので、ステラナビゲータでもそれに準拠しました

天文の基礎知識:5. 星座 - アストロアーツ より

なんと、我々が馴染んでいる繋ぎ方って藤井旭さんの考案したものだったのですか!つくづく偉大な方でした…

となると、ちょっと問題が。何百年も前からの伝統的なものならともかくとして、つい先日まで存命だった人が考案したものだとすると、著作権とかどうなるのでしょう?後述しますがどうも判例では著作権はないということになっているようなのですが、とりあえず、ここは「あなたが定義した星座線を AnnotateImage で使うためのツール」を作るところまでで寸止めしておこうと思います。

というわけで、できました。

例によって astropy と astroquery を使った Python スクリプトです。

星座線の定義はこんな感じ。かに座とふたご座の定義です。

# constellation lines in Japan

Cnc:
ι-γ
γ-η-θ-δ-γ
θ-β
δ-α

Gem:
31-24-43-55-78-66-46-27-13-7-1
55-54
46-34

なるべくシンプルな書式を心がけました。直感的にわかると思いますが、詳しい書き方やスクリプトの使い方については GitHub リポジトリの README_ja.md をご覧ください。ちなみに海外の PixInsight ユーザーにも使ってほしいなーと思って今回は README.md は英語です。*3

というわけで、最終的にこうなりました。

火星、プレセペ、金星 (2023/6/3 19:55) (アノテーション付き)(星座線修正版)
火星、プレセペ、金星 (2023/6/3 19:55) (アノテーション付き)(星座線修正版)

星座線の著作権について

過去に星座線の著作物性を争った裁判があり、星座線の繋ぎ方には著作物性がないという判決がでているようです。

とある会社が、ウチの作っていた星座早見盤をパクったろ!って別の会社を訴えた事件です。判決文の末尾に実物のスキャンが載っていて、これはさすがに… と思わせるものがあるのですが、判決は原告の敗訴。「原告星座板の著作物性」「原告星座板と被告星座板の同一性等」についての裁判所の判断は以下のようなものでした。

イ 星座の特定方法及び星座線の結び方

証拠(甲5,6,19~23,37〔枝番省略〕)によれば,星座はその境界線で区切られた領域により定められており,星座線の結び方や星座絵のデザインについて学術的な取り決めはないこと,1つの星座の星座線に複数のバリエーションがありうることは認められる。

他方で,星座は,恒星の配置を便宜的な形象,すなわち神話・伝説上の存在に見立てて,天球を区分したものであるところ(甲25),星座に属する星の中から特定の星を選択して星座線で結び,当該形象を表すことは一般に行われている。

また,星の明るさは,肉眼で観測することのできる最も暗い星が6等星であるから(甲7の1),星座線で結ぶ星を選択するに当たっては,それ以上の明るさを有する恒星の中から選択する必要があるし,星座名で表される神話・伝説上の存在を表すのに,ふさわしい恒星を選択して星座線で結ぶ必要もある。

これらのことからすると,星座の特定方法及び星座線の結び方に係る表現の選択の幅は相当に狭いといわなければならない。

原告星座板についても,原告の主張及び証拠(甲4の2~4)によれば,各星座に属する1等星から4等星までの恒星の中から,各星座の名称が表象する形象を表現するのにふさわしい星を選択して星座線で結んだというにすぎないのであって,平凡かつありふれた表現であるというべきである。


(中略)


(5) まとめ

前記(4)で検討したところによれば,被告星座板は,表現上の創作性を認めがたい部分において,原告星座板と同一性を有するにすぎないから,被告の行為は複製に当たらないというべきである。

平成24年(ワ)第9969号 著作権侵害差止等請求事件

まあ、そうかな、という気はしますが…

こういう事情なので、ステラナビゲータのデータをぶっこ抜きして再配布とかならともかくとして*4 繋ぎ方をコピーして別の表現でデータベース化する分には法的には問題がなさそうな感じです。

とはいえ業界の慣習とか仁義ってものもあるでしょうから、アストロアーツ/藤井旭式の星座線データを全星座分まとめたものを無断で公開するのはやめておこうかな、と思います。

というか、一度に全星座分作る気もないですし… 今後撮った写真に合わせてちびちび作っていこうかなと思っています。

*1:AdP ってなんなの!?作者のイニシャル?最初散々探してましたが AnnotateImage 使用時の Process Console の出力を見るまで見つけられませんでした…

*2:事前に元の ConstellationLines.json のバックアップを取りましょう。

*3:ほぼほぼ ChatGPT 3.5 に翻訳してもらったものですが…

*4:その場合別途データベースとしての著作物性が問題になると思います