引き続き11月1日の木星の再処理をしていたのですが…
仮処理で弱めの wavelet をかけたスタック済画像を見ていると、イオの表面の濃淡のパターンが複数の画像の間で一貫性があるように思えて、これってひょっとしてイオの模様が写ってる?ということで確かめてみました。
まず HIROPON さんのブログ記事にもあるように、イオの移動速度が速くて普通に撮ってスタックしてもブレて楕円形に写ってしまいます。
しかも AutoStakkert! 3 で自動選別されたフレームが撮影開始時付近と終了時付近に偏っていたりするとスタックした際に偽の模様ができてしまう可能性があります。なので、なるべく撮影時間を短く区切ってキャプチャーする必要があります。
既に約1分/3000フレームのキャプチャー時間で撮影してしまっていますが、幸い AutoStakkert! 3 の Limit Frames 機能(3.1.4 なら [1) Open] ボタンの右の「Limit」をクリックすると設定パネルが開きます)でスタックするフレームの範囲を指定することで、例えば3000フレームのうちの最初の1000フレームから選別したフレームをスタックする、ということが可能です。
そんなわけで、当日一番シーイングが安定していた時間帯のキャプチャーデータを約20秒/1000フレーム毎に区切ってスタックしたものを WinJUPOS で de-rotation してスタックしてみました。見やすいように1.5倍 Drizzle でスタックしています。AP は木星面は自動配置して、手動でイオの上に1個置いています。
画像処理のアーティファクトの可能性をなるべく排除するため、スタック後の画像処理は wavlet と contrast, brightness だけです。Masking や de-ringing は使用していません。木星の模様の具合を見てもわかるように、Wavelet も弱めにかけてあります。
イオの周りの光の輪はおそらく回折像です。よく見るとその外側にうっすらと暗くて細い光の輪がありますが、これは衛星の de-rotation の副作用で出たものだと思います(強い wavelet をかけるとイオの移動方向に沿って細い輪が並んで重なっているので)。
イオの表面は北(上)のあたりが暗く、東(右)から南東(右下)にかけて明るく写っています。この濃淡のパターンは de-rotation する前の各スタック済画像でも一貫していたので、実際の濃淡なのでは…
ということで、WinJUPOS の同時刻のシミュレーション画像を見てみました。
これを Photoshop 2024 でガウスぼかし2.5、レベル補正0/0.75/225、明るさ+5、コントラスト+5 したものがこちら。
さらに彩度を落としてモノクロにしたものがこちら。
どうでしょう?かなり撮影画像に近いのでは?
アルバムの方には LRGB 合成したカラー画像も上げてあります。こちらは大気色分散らしき不自然な色付きがあり、写っている色の濃淡が正確なものかどうかは正直怪しいです。大気色分散は面積の大きい天体なら天体の縁の部分以外は目立たないのですが、イオの場合これだけ小さいとほぼ全部縁ですからなかなか厳しいです。
ということでイオの模様は写ったんじゃないかと思ってはいるのですが、以前少し触れて別途まとめることにしていた「ガニメデの模様」の疑惑の話を少し。
最初にガニメデの模様が写ったかも?としていたエントリでも以下のように書いたのですが、
ちなみに AutoStakkert!3 のスタックでは AP を衛星に置いていません。衛星に AP 置いたらもっとクッキリするかと思って試してはみたのですが、何故か衛星像が中央が黒い穴の開いたようなドーナツ状の像になってしまったので。
「速報: ガニメデの模様が写ったっぽい」
7月30日未明に撮った木星の画像処理では AP (Alignment Point)を衛星にも置くかわりに wavelet をかなり弱めて別処理しています。それでもやっぱりドーナツ感があるのですよね…
この「ガニメデのドーナツ化現象について」以前 Twitter で Lambda さんから重大なご指摘がありました。
話は国立天文台の三好真氏がいわゆる「ブラックホールシャドウ」の EHT (Event Horizon Telesocpe)による撮像に疑義を唱えて、あれは EHT の PSF (Point Spread Function)の特性によるアーティファクトじゃないかという主張をしていて、ブラックホール磁気圏研究会2023の発表資料でそれを反射望遠鏡のスパイダーの回折像で喩えていた、という僕のツイートから始まります。
https://t.co/a80Jd6NMWq
— 🌻ナょωレよ″丶)ょぅすレナ🌻 (@rna) April 10, 2023
ブラックホールシャドウ、疑惑は解消されてないままなのか。写ってるのは望遠鏡の「くせ」で、反射望遠鏡のスパイダーの回折による光条みたいに天体の構造じゃないよ、というたとえがわかりやすかった。 pic.twitter.com/148SZ17IFt
EHTの解析チームはシミュレーションで普通の丸い天体ならドーナツ状の像にはならんかったとか言ってた記憶あるけどあれはなんだったんだろう?
— 🌻ナょωレよ″丶)ょぅすレナ🌻 (@rna) April 10, 2023
ここで Lambda さんからこんなリプライがきて話は急展開。
20cmの口径で見るガニメデがちょうどそんな感じなんですよね。視直径と回折環の重なりが合ってしまうと言いますか。 pic.twitter.com/YJicIXKtZM
— Lambda (@Lambda86514703) April 11, 2023
げげ、うちの18cmで撮れたガニメデもそれかも?AS!3でガニメデにAP置いたらドーナツみたいになっちゃってAP外すとそれっぽくなったんですけど単にブレて誤魔化しが効いちゃった…?https://t.co/MAHlMHpdc8
— 🌻ナょωレよ″丶)ょぅすレナ🌻 (@rna) April 11, 2023
いや、私自身、結論出せてないんです。ブラックホールシャドウと同じくらいな難題だということで ^_^
— Lambda (@Lambda86514703) April 11, 2023
ドーナツ状の濃淡をはみ出す濃淡が実際のアルベドではないかと思ってます。個人的には。。
「ガニメデのドーナツ化」は回折像の影響かもしれないというのです。円形のレンズ(または鏡)による点光源像の回りにはレンズの円形の縁での回折によって薄いリング状の像が出ます。面積を持った円盤状の天体像では、円盤の内部では回折像が重なり合って目立たないのですが、円盤の縁では回折像の影響で縁が二重になって見える(縁の内側に暗い輪ができる)現象が発生します。いわゆる「リムの二重化」「リンギング」という現象です。
これについては『月刊 天文ガイド』2020年11月号に、山崎明宏さんの連載「「月・惑星」画像高解像度撮影法」の「特別編 火星画像処理のポイント」という記事があり、詳しく解説されています。電子書籍だとまだバックナンバーが購入可能なので気になる方は是非どうぞ。
リムの二重化では二重化したリムの太さ(リムの暗い輪の外側の明るい輪の幅)がエアリーディスクの直径ぐらいになるのですが、口径20cmくらいの望遠鏡の場合、エアリーディスクの直径がガニメデの視直径とほぼ一致してしまうので、ガニメデの表面に模様が何もなくてもガニメデ中央部に暗い点が出てしまう(ドーナツ化してしまう)のではないか、というのが Lambda さんの懸念するところだと思います。
例えば口径180mmの望遠鏡で波長550nmの光源を見た時のエアリーディスクの半径(光軸から最小の暗環までの隔たり)は以下のように計算されます。*1
ということで約0.77秒角、直径にすると約1.54秒角。7月30日未明の木星にもガニメデの模様らしきものが写っていましたが、この時のガニメデの視直径が約1.45秒角でほぼ一致します。*2
ちなみに11月1日のイオの視直径は約1.26秒角でエアリーディスク径とは2割くらい差がありますがドーナツ化している感じはないです。
視直径とエアリーディスク径がどのくらい一致するとどのくらい影響が出るのか、定量的に計算しようと思うと上述の天文ガイドの記事でもやっているように副鏡による中央遮蔽も考慮しなくてはならず大変なのですが…
ちなみに HIROPON さんが11月4日に20cmシュミカセで撮影したガニメデの木星面通過の写真ではガニメデの模様が写っています。
模様のパターンからして「ドーナツ化」ではなさそうですよね。これは木星面通過中ということでガニメデの縁と背景のコントラストが落ちたのが幸いしたのかもしれません。
そんなわけで、今年はそろそろ寒気が入ってきて衛星の模様が写るような好シーイングは期待できなくなりそうですが、来年は色々狙っていきたいです。
*1:式はwikipedia:エアリーディスクの式を変形したもの。
*2:視直径は Stellarium 調べ。