12月8日の夜、近所の公園にでかけて天体撮影をしました。久々に「近征」してベランダからは見えない天体の撮影です。ターゲットは M31 アンドロメダ座大銀河ですが、色々あってペルセウス座の二重星団 h+χ、ぎょしゃ座の M36, M37, M38 も撮りました。
近征は今年5月の M101 の超新星の撮影以来、DSO の撮影自体も今年8月の三裂星雲の撮影以来で結構久々です。
結果
色々大変だったんですけど、まずは結果から。
本命の(本命だった) M31 です。元々は総露出時間2時間を目指していたのですが、色々トラブルがあって撮影開始が遅くなったため30分しか露光できませんでした… 中央部の階調を飛ばさないように多段階露光したものを HDR Compose でHDR合成しています。M31は一昨年の同じ時期に ASI294MM Pro でも撮ったので、後でLRGB合成を試してみようと思います。
M31 の後は思いつきでいくつか散開星団を撮りました。星の色が出るようにこれも多段階露光 & HDR です。
ペルセウス座の二重星団 NGC869(右) と NGC884(左) です。h+χ(エイチ・カイ)の名前で知っていたのですが最近はあまりそう呼ばないようですね。
二重星団の名前はダテではなく、二つの散開星団は約6800光年先で実際に隣同士に並んでいます。この後撮ったぎょしゃ座の3つの散開星団に比べてもずっと大きく明るい(肉眼でも見える3.7等!)のになぜかメシエナンバーが付いていないのが不思議です。*1
ぎょしゃ座の散開星団 M37 です。距離は約4500光年で二重星団よりはだいぶ近いのですが視直径は半分くらい*2ですが、集中度が高いので冬の天の川の星々の中でも埋もれずによく写っています。
ぎょしゃ座の散開星団 M36(左下) と M38(右上) です。すぐ近くに勾玉星雲があるだけに赤い星雲も写り込んでいてなかなかにぎやかです。昨年11月に撮った勾玉星雲の写真と写野が一部重なっています。
M36 は小さな散開星団ですが明るい星が密に集まっていて目立っています。M38 はそれより一回り大きい(M37 と同じくらい)のですが微恒星が散らばっている感じで明るさも M36 より少し暗いです。地球からの距離はどちらも約4200光年。
M38 のすぐ下の小さな散開星団は NGC1907 で、昨年11月の写真でも下半分が写っています。そこからさらに下の赤い星雲のは IC417、*3 その左の方にある小さな赤い星雲は NGC1931 です。二つ合わせて The Spider and the Fly nebulae と呼ばれています。大きい方(IC417)が蜘蛛星雲で小さい方(NGC1931)が蝿星雲です。
機材について
今回はカラー冷却CMOSカメラ ASI294MC Pro で撮りました。今年9月末に買ってテスト撮影だけ済ませてまだ実戦投入していなかったカメラです。
やはりカラーカメラは楽ですね… モノクロカメラでもフィルター交換は N.I.N.A に任せられるものの、トラブルでボツのコマができた時にどのフィルターのコマが減ったか確認してシーケンスを修正したり色々面倒です。
ASI294MC Pro は保護フィルターがIR/UVカットではなくセンサーも近赤外まで感度があるタイプなので色がおかしくならないように UV/IR カットフィルターを併用する必要がありますが、48mm のUV/IRカットフィルターを持っていなかったので手持ちの光害カットフィルター IDAS LPS-D1 を使用しました。
三脚は11月に買った INNOREL KT324C です。実戦投入は今回が初。
以前の Manfrotto 055XDB は耐荷重が7kgで今回の機材構成でもわずかに過積載。クランプの摩擦だけで固定されるセンターポールに強度的に不安がありました。そこで今後のことを考えて耐荷重15kg以上でセンターポールなしでマウントを固定できてそれでいて軽くて安くて、、、など贅沢なことを考えていたら中華カーボン三脚にたどり着きました。
メーカーは色々ありますが以前ボスケ(Bosque Rico)さんの YouTube で紹介されていた INNOREL の三脚にしました。耐荷重は20kg。もっとパイプ径が太くて耐荷重の大きいモデルもありますが、取り付けパンの径が大きいモデルでは小さなポータブル赤道儀をそのまま載せた時にウェイトが脚にぶつかったりしないか心配だったので。*4
カーボン三脚は初めてですが、軽くて剛性もあって最高です。ソフトケースも付属してて便利。脚の伸縮がスムースでないというレビューがありましたが、触ってみると緩くもなくきつくもなく、特に困るほどではありませんでした。ゴム足がイマイチ柔いというレビューがあったので交換用に Velbon の可変石突セット(V800) も買ったのですが、触ってみると元のゴム足でも問題なさそうだったので交換せずに使いました。耐久性は未知数ですが今のところ満足しています。
StarAdventurer GTi の電源は今回初めてポータブル電源から給電しました。DC 12V ですが、ポータブルの USB-C が USB-PD の 12V に対応していたのでトリガーケーブルで繋いで給電しました。冷却カメラと一緒に使って電源容量は足りるかな?と思ったのですが、suaoki S200 は DC12V が10A、USB-PD が12V/3Aまで給電できるので余裕みたいです。
一晩くらいは乾電池で全然OKなのは確認していますが、出撃するたびに残り容量が不明な乾電池が8本残って、それを次の出撃で使うのも不安なので新品の電池を8本下ろして… となるのは困りものですし、ニッケル水素電池を使うのも充電管理が面倒すぎるので冷却カメラ用のポータブル電源に一本化しました。
オートガイドに使うノートPCはいつもの中古 Let's Note ですが、QHY のカメラが止まる症状を回避するため相変わらず裏で mp3 再生しています。
上の記事のコメント欄で教えてもらったBIOS設定で回避する方法は事前にテストする時間がなかったのでまだ試していません。忘れないうちに試さなきゃ…
画像処理について
結果の説明でも触れましたが多段階露光したものを PixInsight で HDR Compose して、仕上げは Lightroom です。HDR Compoese の前段階で ABE と PCC をかけています。SPCC は光害カットフィルターの扱いをどうしたらいいかわからなくて今回は敬遠しました。
ABE は2度がけしたりもしています。低空で光害カブリがひどかった M31 は3度がけも。今まで2度がけで良くなったことがなかったのですが、Box size を大きくすると(30とか40とか)効果あるっぽい?Function degree は1回目は小さめ、2回目は大きめにするといい感じになりやすいような…
PCC が光害カブリに影響されないか心配で ABE してから PCC しましたがどうなんですかね?PCC 後も若干緑カブリが残っていて仕上げに苦労しました。緑カブリを補正すると背景が微妙にマゼンタカブリするんですよね。
って、そんな話以前聞いたような… と思ったら丹羽さんが書いてました。
PCC事故調査委員会か!だいこもんさんがそんな話をつぶやいてた気がするのですが、当時はまだ PI 使ってなかったので忘れてました。このへんは後日試してみます。
トラブルいろいろ
今回は、というか近征では毎回のような気がしますが、色々トラブルがあり何度か帰ろうと思いました…
まず雲。SCW の予報では20時くらいから快晴のはずでした。20時過ぎに公園に到着した時にはまだ雲が残っていましたが、東に雲が流れていく予報だったので、ちょっと遅れてるんだろうぐらいに思っていましたが、全然雲が途切れません。オートガイダーのキャリブレーションすら途中で雲に邪魔されて完了できず、ドリフトアライメントもできません。北の空も雲だらけで北極星だって見えません。
そして30分くらいして雲が一時途切れた時にキャリブレーションがある程度進んだのですが、west step が終わった後 east step でガイド星が動かないとかいうエラーで失敗しました。よく見るとwest step で左方向に動いていたガイド星が east step でほぼ真下に向かって動いています。なにこれ!?west と east でガイド星の動きがほぼ直交しているので east で星が動かないと判定されたようですが、極軸回してるだけなのになんで直交するの!?
最初はガイドケーブルか赤道儀の問題だと思ってケーブル抜き差ししたり赤道儀を再起動したりしたのですが全く改善せず。雲は次から次へと流れてきて作業もなかなか進まないしもう帰ろうかと思ったのですが、こればっかりは実際にガイド星使わないとトラブルシュートできそうにないので、帰るにしてもこれだけはなんとか解決していこうと粘りました。
木星なら少々雲があってもキャリブレーションに使えるかも?と思って自動導入してみたら全然写野に入ってこず、鏡筒の後ろに回って鏡筒の向きを確認すると、明後日の方向とまではいかないものの、木星の向きからは水平方向に20度くらい東にズレた方向に向いていました。
赤道儀の設置の際にだいたいの向きを合わせるのですが、この日は雲で北極星も見えなかったので iPhone のコンパスで向きを合わせました。それが大間違いだったようです。その後北の空も一時雲が途切れて北極星が見えてはっきりとわかりました。極軸が西に大きくズレています。
架台の方向ネジでは調整しきれない大きなズレだったので望遠鏡一式を丸ごと持ち上げて向きを直しました。本当は危ないのでやっちゃダメですが…
その後また雲が途切れるのを待ってキャリブレーションを実行したところ、無事キャリブレーションが完了しました。というかガイド星の動きも最初と全然違っててびっくり。極軸ズレ過ぎてガイド星のドリフトが大きすぎるとこういうことになるんですかね?また後で考えてみようと思います。
ここまでで2時間以上ロスしていたのですが、南の空は一面の雲でドリフトアライメントはできず、北の空もほとんど雲で北極星も見えなくて極軸望遠鏡やポーラードリフトアライメントも使えません。本当にもう帰ろうかとも思ったのですが、さらに30分くらい経って南の空の雲が減ってきたのでドリフトアライメント。
その後北西の空も晴れてきて M31 も見えるようになりました。予定の3時間遅れの23時半ごろになってやっと撮影が開始できました。高度は40度くらい。なんとか高度30度くらいまで粘ろうと思っていたのですが途中で撮像に黄色いカブリが写るようになって撮影終了。
街灯由来の迷光かと思ったのですが、実は街灯に照らされた木の枝が写っていたのに後で気が付きました。そして画像処理の時に気付いたのですが、撮影終了の20分くらい前から枝が写野内に入っていました。プレビューを等倍表示にしていたので気付かなかった…
M31 は満足に撮れなかったので、ちょっとこのままでは帰れないなと思い、急遽二重星団を撮ることにしました。そこから先はスムースで、せっかくなので、ということで M37, M36+M38 も追加で撮影し、深夜2時過ぎに撮影終了。
その後はカメラの昇温でセンサー温度が-1℃より上がらなくて困惑していたのですが、結局そのまま電源を抜いて撤収しました。気温は7℃くらいだったのでそこまでは上がってもいいはずですが、熱伝導より放射冷却が勝ってしまった?
ちなみに週末ということで、公園には人が結構いました。人というか、高校生というか、ヤンキー… いや、本人たちは「なんかお前ヤンキーっぽいな!」とか言ってたので自分はヤンキーじゃないと思ってるようなんですが、おじさんから見るとどこからどう見てもヤンキーです…
そんなヤンキーが10人くらいたむろしてて結構ビビってたんですが特にトラブルにはなりませんでした。もっともあっちではなんかトラブルがあったようで男子同士が一触即発の空気に。こんなところで喧嘩は勘弁してくれーと思っていたのですがなんとか仲直りしたようで本当によかった…
あと、キャリブレーションのトラブルでオタオタしてた時にヤンキー女子二人組がやってきて「なにしてるんですか〜」とか声かけられたんですが、色々パニクってたので、天体撮影しようとしてるけど今日は無理かも、ぐらいしか返せませんでした。まあ、下手に話盛り上がったら男子も集まってきそうだしそれでよかったのかも。
ヤンキーは深夜にはいなくなりましたが、その後は猫が喧嘩してたりなにかとにぎやかな夜でした。