Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

オートガイダー導入記 (6): テスト撮影

前回の続きです。

その後、新月が来るのが待てなくてまだ24日にオートガイダーを使ったテスト撮影を実施。オートガイダーと一緒に購入した光害カットフィルター IDAS LPS-D1 QRO のテストも兼ねています。*1

この日は M33、プレアデス星団(M45)、オリオン座の大星雲(M42, M43)、そして馬頭星雲を撮りました。一般に光害カットフィルターを使うと光量が半分くらいに落ちるので露出時間は倍必要なのですが、まだ 2 分以上の露出を成功させる自信がなくて 90 秒露出です。

まず前回と比較できる馬頭星雲から。

馬頭星雲 (2016/10/25 01:20)
馬頭星雲 (2016/10/25 01:20)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 1000, 90s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

だいぶポニーヘッドが見えてきました。でもまだクッキリ浮かび上がるような写りにはなりません。光量は前回より少ないのですがコントラストが上がって画像処理後はむしろ明るく写っています。光害カットフィルターの効果が出ていると言っていいでしょう。

こちらはプレアデス星団

M45 (2016/10/25 00:00)
M45 (2016/10/25 00:00)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 1000, 90s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算441mm相当にトリミング

青いガスがそこそこ見えています。ちなみに写真下の方にカブリが激しく出ていたのですが、Lightroom の段階フィルターでごまかしています… おそらくベランダの天井からの照り返しが迷光になってカブったものと思われます。露出時間が長くなるとこういうことにも気を使わないといけなくなります。

こちらはオリオン座の大星雲(M42, M43)。

M42 (2016/10/25 00:56)
M42 (2016/10/25 00:56)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 1000, 90s x 7枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

かなり淡いところまで写っていますが、中心部は白飛びしてしまっています。綺麗に撮るには多段階露光して HDR 処理とかしないといけませんね…

馬頭星雲もそうでしたが、LPS-D1 QRO を使うといつもは紫がかった色に写る星雲が赤っぽく写ります。背景のカラーバランスをニュートラルにすると青成分が少し抜けてしまうようです。

最後は M33 です。

M33 (2016/10/24 23:15)
M33 (2016/10/24 23:15)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー + LPS-D1 QRO
ISO 1000, 90s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

夏に20秒露出で撮ったものに比べるとだいぶハッキリしてきました。でもまだまだ微妙ですね。しかし夏の写真ではわからなった M33 の中にあるピンク色の散光星雲が一部見えてきています。ちなみに M33 の写真もベランダの天井の照り返しによると思われるカブリが出ていましたがごまかしてあります。

ということで、光害カットフィルターは赤い星雲に対しては特に効果があることがわかりました。露出時間が長くなるのもオートガイダーを使えばなんとかなりそうです。しかし天頂付近や北天の天体を撮るにはオートガイダーを制御するためのノートPCを野外に持ちださなくてはなりません。(つづく)

続き:

*1:実は20日にもうお座の銀河 M74 を撮ったのですが、ガイドが安定せず 8 枚中 4 枚しか使えるカットが確保できず失敗。

オートガイダー導入記 (5): ファーストライト

前回の続きです。

オートガイダーにファーストライトという言葉を使うものなのかどうかわかりませんが、とにかく最初のオートガイド撮影をするべく、まずはキャリブレーションです。PHD2 の画面には既に星が映っています。カメラ露出時間の設定は 0.2 秒で、肉眼では見えないような星が視野にいくつも入ってきています。

キャリブレーション赤道儀のモーターを動かした時にオートガイダーの映像上でどの方向にどれだけ星が動くかを測定する作業です。これによってガイド中に星がズレた時にモーターをどの方向にどれだけ回すかが決定できるようになります。

Shft + ガイド開始ボタンクリックでキャリブレーションを開始すると、画面の適当な星がガイド星に選ばれて画面下のステータスバーに West step がカウントアップしていくのですが、途中で止まってしまい「赤経(RA)キャリブレーション失敗: ガイド星が十分に動きません」というエラーが出てしまいます。

何度やっても同じです。ガイド星自体は動いていますし、スカイメモS の方は PHD2 の信号に反応しているらしく、キャリブレーション中はコントロールボタンのバックライトが小刻みに点滅しています。

解説サイトで、ノイズがガイド星に選ばれてしまうせいでガイド星が動かなくてエラーになることがあると読んだのを思い出して、手動でガイド星を選択したのですが、ダメ。手動で選んだのもノイズなのか?とダークライブラリ*1 を作成してやりなおしたけどやはりダメ。

よく考えたらキャリブレーション中にガイド星が少しは動いていたのだからノイズなわけがないのですが、この時は気が付きませんでした…

極軸が合ってないのが悪いのかと思って PHD2 のツールメニューからドリフトアライメントを選択したら「ドリフトアライメントを開始する前にキャリブレーションをして下さい。」のエラー。これも考えれば当たり前です。ドリフトアライメントでは実際に1軸ガイドを行うわけですから。

改めてマニュアルをよく読むと、キャリブレーションステップサイズというパラメータの設定が必要になる場合があるとのこと。これはキャリブレーションの1ステップでどれだけモーターを回すかを決めるパラメータでしょうか。これが小さすぎるとキャリブレーション中に星が十分動かなくてエラーになるようです。

キャリブレーションステップサイズを設定するには、まず怖くて触りづらい脳みそアイコンを押して設定画面を開きます。PHD2 の設定画面を出すボタンのアイコンは歯車ではなくてなぜか脳みそです。それもカラーの。

https://rna.sakura.ne.jp/share/phd2-20170313/PHD2-brain-button.png

設定画面の [ガイド] タブを開いて、

https://rna.sakura.ne.jp/share/phd2-20170313/PHD2-settings-guide.png

Calibration グループのキャリブレーションステップ入力欄横の [計算...] ボタンをクリックします。するとこんなダイアログが開きます。

https://rna.sakura.ne.jp/share/phd2-20170313/PHD2-settings-guide-calc.png

ここでガイドスコープの焦点距離とオートガイダーのセンサーのピクセルサイズを入力すると(他の欄はデフォルト値のままだったと思う) 適切なキャリブレーションステップの値が計算されて [OK] ボタンを押すと先ほどの入力欄に入力されます。

QHYCCD miniGuideScope + QHY5L-II-M の場合は、ガイドスコープの焦点距離が 130mm, センサーのピクセルサイズは 3.75μm で、キャリブレーションステップサイズは 1700 と計算されました。

この値で設定画面も [OK] してキャリブレーションをやりなおすと、今度は West step が終わると East step に進むようになりました!が、その後 North step とか言い出してエラーに。スカイメモS は赤緯軸ガイドできないからそこはキャリブレーションしようがないのですが…

どうも初期設定で何か間違えたのか赤緯軸がないことが PHD2 に伝わってなかったようです。設定をどう直せばいいのかマニュアルを見てもなかなかわからなかったのですが、結局脳みそボタンの設定画面の [Algorithms] タブの赤緯グループの最初のドロップダウンメニューを [無し] に、赤緯(Dec)ガイドモードを [Off] に設定すればよいようです。

https://rna.sakura.ne.jp/share/phd2-20170313/PHD2-settings-algorithms.png

これで無事キャリブレーションが完了してガイドが開始するようになりました。オートガイダー接続から 2 時間かかりましたが、ここから先は順調に進みました。ドリフトアライメントは 30 分くらいで完了。

テスト撮影は、とりあえずファインダーなしで導入しやすい天体ということで、西の空の高くにあったアルタイルをターゲットにしました。オートガイダーを電子ファインダーとして使うつもりでしたが、視野が狭すぎて使えないことがわかったので…

レデューサーありの 288mm (フルサイズ換算 576mm) と、なしの 480mm (フルサイズ換算 960mm) で 60 秒露出で撮影。288mm は 4 枚中 3 枚は星像がほぼ点像に、480mm はどれも赤経方向に少しブレていてなんとか使えそうなのが 5 枚中 2 枚という結果に。288mm の方は 120 秒露出も試してみましたが贅沢を言わなければ使えそう?という感じ。*2

PHD2 のガイドグラフを見ると RMS エラーが ±2 秒ぐらい、ピークは ±4 秒くらい。心配した赤緯方向のズレは極軸をきちんと合わせてあればこのくらいの露出時間ではほとんど問題にならないようです。

というわけで 288mm は使えそうという結論になったところで、せっかくだからと深夜に馬頭星雲を撮ってみることにしました。満月が出ていて条件はかなり悪いのですが 60 秒露出でチャレンジ。前回の倍の露出時間です。結果は…

馬頭星雲 (2016/10/16 02:37)
馬頭星雲 (2016/10/16 02:37)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 800, 60s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

前回よりはマシでポニーヘッドも見えてきましたが、まだまだ露出が足りませんね。月明かりで背景が明るいせいであまりきつい強調処理もかけられませんでした。この後朝方までかかって M42 や M1 も撮ったのですが寝不足のせいでミスを連発。新月が近付いた頃に再チャレンジすることを誓って撤収しました。(つづく)

続き:

*1:オートガイダーのセンサーのダークフレームを露出時間毎に記録したもの。これを作っておくと PHD2 がノイズキャンセルに使用する。

*2:どうもこの時はコンディションがあまり良くなかったようで、その後のテストでは 480mm でも使えそうな感触を得ています。参照: 「スカイメモSの追尾精度の限界は? - Deep Sky Memories」。

オートガイダー導入記 (4): オートガイダー到着

前回の続きです。

翌日の10月15日の朝、ついにオートガイダーが届いたのですが、朝から病院の予約があって開封できないまま外出。帰宅して午後から開封、組み立てとなりました。

QHYCCD のオートガイダーとガイドスコープはそれぞれおかきの缶みたいなブリキの缶に入っていました。今時は家電でもカメラでも紙や段ボールの箱に入っているのが普通なのでこれは新鮮でした。

QHYCCD QHY5L-II-M 開封

ケーブルは一式入っていました。説明書は入っていませんでしたが、届いた荷物には協栄産業が付けた日本語の説明書と、ドライバと PHD2 Guiding を収録した CD が同梱されていました。

QHYCCD QHY5L-II-M

本体は 31.7mm 径アイピースのサイズで、重さは普通のアイピースよりはずっと軽いです。

ミニ・ガイドスコープの方はこんな缶。

QHYCCD miniGuideScope

ガイドスコープ自体は組み立て済みで、あとはオートガイダーを取り付けるだけの状態でしたが、オートガイダーの付属品の延長筒等を使うのか使わないのか、そのあたりの説明書は付いてなくて取り付け方がいまいちよくわからず。商品写真を見る限り延長筒は使ってなさそうなのでそのままねじ込んで取り付けましたが、それで正解だったようです。

QHYCCD miniGuideScope + QHY5L-II-M

アリガタのマウントの裏には 1/4 インチのカメラネジの穴があり、カメラ雲台などに取り付けられるようになっています。アリガタ自体には普通のファインダーの足にあるようなストッパーの突起がついていないので着脱時には滑り落ちないように注意が必要です。

QHYCCD miniGuideScope マウント部裏

さて、ガイドスコープのピント合わせは昼のうちにやっておくとよいという話だったので、さっそく PC に繋いで… というところで問題発生。制御用の PC には MacBook Air を使う予定だったのですが、Mac にインストールした PHD2 が QHY5L-II-M を認識しません。

あ、ドライバ別に入れるんだっけ、と思ったら Mac 用のドライバがない。メーカーのサイトにもないし、ググッても Mac では普通には使えそうにないという話ばかり。QHY5L-II-M は PHD2 に対応していて、PHD2 は Mac に対応しているので、てっきり Mac で使えるものとばかり思っていました。発売から何年も経っていますし…

Windows のノート PC は1台持ってはいますが、会社に置きっぱなしで手元にありません。会社まで取りに行くには往復2時間以上かかるし… ということで、近所の家電量販店でノート PC、、、ではなくて、5m の USB 延長ケーブルを買ってきました。

これでベランダから室内のデスクトップ PC まで USB ケーブルを引き込んで、デスクトップ PC からオートガイダーを制御することにしました。ケーブルをつなぐと QHY5L-II-M の電源 LED が点灯し、PHD2 からも接続を確認。

ここでまたトラブル。ピント合わせのためにガイドスコープを遠くの鉄塔に向けますが映像が真っ白で何も見えません。露出時間を最短の 0.01 秒にしてもダメ。故障か?とケーブルが繋がったままのオートガイダーとガイドスコープを部屋に持ち帰ったところ、PHD2 に部屋の様子がぼんやり映っています。

どうも感度が高すぎて昼間の野外では露出オーバーになるようです。夕方日が落ちてくると野外の様子も映るようになり、無事ピント合わせ完了。そうこうしているうちに西の空には金星が輝きだしました。さっそく赤道儀にオートガイダーを接続して PHD2 のキャリブレーションを開始するのですが、ここでまたトラブルです。(つづく)

オートガイダー (QHYCCD miniGuideScope + QHY5L-II-M)

続き:

オートガイダー導入記 (3): なぜ小さなガイドスコープでガイドできるのか

前回の続きです。

オートガイダーを注文したのは昨年10月12日で届いたのが土曜日の15日ですが、それまでの間、オートガイダーについて色々予習をしていました。

オートガイダーの使い方については PHD2 Guiding を使うなら公式マニュアルの日本語訳を公開している HIROPON さん(id:hp2)の書いたものがベストだろうと Starry Urban Sky の解説記事を読んでいました。

もうひとつ予習しておきたかったのは、なぜ小さなガイドスコープで長焦点鏡をガイドできるのかということ。最近オートガイダーとセットで売られているガイドスコープは 100mm 前後のものが多く、それで焦点距離 500mm 程度までのガイド撮影が可能と謳っています。なぜそんなことが可能なのでしょう。

オートガイダーのセンサーの画素ピッチは QHY5L-IIM の場合 3.75μm とデジタル一眼とさほど変わりはありません。マイクロフォーサーズ 1600 万画素の E-M5 ならほぼ同じです。オートガイダーのセンサー上で 1 ピクセル星が動くのを検出してから追尾速度を修正するのなら撮影鏡と同じくらいの焦点距離のガイド鏡が必要なはずです。

しかし実際にはオートガイダーのソフトウェアは 1 ピクセル以下の星の動きを検出することでガイド鏡の焦点距離の 5 倍程度なら問題なくガイドできるのです。そのあたりの原理について、PHD2 Guiding の前バージョンの PHD Guiding を開発した Stark Labs のブログに解説がありました。

PHD, subpixel guiding, and star SNR | Ask Craig | Stark Labs
http://www.stark-labs.com/help/blog/files/PHDSubpixelAccuracy.php

話を思いっきり単純化すると、こんな話です。

例えば星像の広がりがオートガイダーのセンサーの画素 1 ピクセルの面積に収まっているとします。星像が画素の中心にあるならオートガイダーの映像にはその画素だけが光っているように写ります。

https://rna.sakura.ne.jp/share/subpixel-guiding.png

ここで星像が 1/2 ピクセル分右に動いた場合を考えると、星像は二つの画素をにまたがることになり、それぞれの画素は半分ずつの光を受け取るので、オートガイダーの映像には明るさ半分の画素が二つ並んで光っているように写ります。

このように星像がまたがった複数の画素の明るさのバランスを見れば 1 ピクセル以下の星の動きを検出できるのです。PHD の場合、理論上は 1/250 ピクセルの動きまで識別できるそうです。

しかし実際にはセンサーにはノイズが入り、微妙な明るさのバランスの変化はノイズにかき消されて検出できなくなってしまうので、そこまでの精度ではガイドできません。シミュレーションでは比較的大きなノイズがある場合 1/5.5 ピクセル程度の精度になるとのこと。

ガイド鏡の約 5 倍の焦点距離の撮影鏡をガイドできるというのはこのあたりから来ているようです。

というわけで 130mm のミニ・ガイドスコープなら 700mm 程度までなら安心してガイドできそうだということがわかりました。BLANCA-80EDT の直焦撮影も余裕です。スカイメモS が PHD2 の制御についてこられれば、ですけど…

10月14日の夜は久しぶりの快晴。でも残念ながらオートガイダーはまだ届いていません。月齢も満月前日で天体撮影には不向きでしたが、ノータッチ追尾の限界を確認しておく意味で深夜に馬頭星雲の撮影にチャレンジしてみました。馬頭星雲の撮影はこれが初めてです。

馬頭星雲 (2016/10/15 02:56)
馬頭星雲 (2016/10/15 02:56)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー
ISO 1000, 30s x 6枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1150mm相当にトリミング

馬頭星雲の上にある NGC2024 通称「燃える木星雲」はそれらしく写っていますが、馬頭星雲の背景になる赤い星雲はほとんど写っていません。肝心の馬の首… と呼ぶとなんだか不気味なので僕はポニーヘッドと呼んでいますが、その肝心の部分は、元の形をよく知っていれば存在はなんとかわかる = 普通はわからない、という写りです。

馬頭星雲の背景の散光星雲のような赤い星雲は普通のデジカメでは写りにくいものです。水素の出す赤い光の波長は、普通のデジカメのセンサーの前に付いている赤外線カットフィルターがカットする波長と被ってしまうので、センサーの感度が落ちてしまうからです。

そのため天文ファンは Canon の EOS 60Da や、Nikon の D810a のような天体専用機や、普通のデジカメから赤外線カットフィルターを除去した改造カメラを使ったりするのですが、志の低い僕は普段使いのデジカメを天体撮影に流用しているのでそういうわけにもいきません。

もっとも天文雑誌のデジカメの新製品レビューなどを見ると無改造でも十分露出時間をかければ赤い星雲もそこそこ写るようです。オートガイダー導入で馬頭星雲はどこまで写るようになるでしょうか。(つづく)

続き:

銀河を見るということ

僕らは僕らの住む天の川銀河が宇宙にたくさんある銀河の中の一つに過ぎないことを知っている。天の川銀河で起こっている事は他の銀河でも起こりうることなのだと。だから僕は銀河を見るたびにこう思う。この銀河に僕らが住んでいるように、あの銀河にも誰かが住んでいるはずだと。

そこに望遠鏡で他の銀河を観察するような文明が存在するなら、彼らも望遠鏡で僕らの銀河を見て、あの銀河にも誰かが住んでいるはずだ、と思っているに違いない。そして僕らが望遠鏡で彼らの銀河を見て思っていることにも想像が及ぶことだろう。

つまりこの広い宇宙に同じことを考えている誰かがいるはずなのだ。言葉も文化もきっと驚くほど違うだろうけれど、望遠鏡で銀河を見た時に考えることはきっと同じで、同じだということを互いに知っているのだ。

だから銀河を見るという行為はちょっと特別で、遠い宇宙にいる見知らぬ誰かと繋がる行為なのだと、そんな気がしてならないのだ。

ぎんがさがし

先週末に撮った銀河の写真について。

上のエントリではトリミングした写真を載せていますが、実際にはもっと広い範囲を撮っていて、そこにはたくさんの銀河が一緒に写り込んでいます。反転画像から探してみましょう。

M91, M88 周辺 (2017/3/5 00:05)
M91, M88 周辺 (2017/3/5 00:05)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー, IDAS LPS-D1 48mm
ISO 200, 300s x 10枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, 白黒反転
オリジナルサイズの画像

M90, M89 周辺 (2017/3/5 01:10)
M90, M89 周辺 (2017/3/5 01:10)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー, IDAS LPS-D1 48mm
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, 白黒反転
オリジナルサイズの画像

M99 周辺 (2017/3/5 02:13)
M99 周辺 (2017/3/5 02:13)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー, IDAS LPS-D1 48mm
ISO 200, 300s x 10枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, 白黒反転
オリジナルサイズの画像

M61 周辺 (2017/3/5 03:19)
M61 周辺 (2017/3/5 03:19)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6) + 0.6x レデューサー, IDAS LPS-D1 48mm
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, 白黒反転
オリジナルサイズの画像

ぎんがさがしたっのし〜!ということで、Stellariumにらめっこしながらマッピングしてみたのがこちらです。

M91, M88 周辺の銀河マップ (2017/3/5 00:05)
M91, M88 周辺の銀河マップ (2017/3/5 00:05)
オリジナルサイズの画像

M90, M89 周辺の銀河マップ (2017/3/5 01:10)
M90, M89 周辺の銀河マップ (2017/3/5 01:10)
オリジナルサイズの画像

M99 周辺の銀河マップ (2017/3/5 02:13)
M99 周辺の銀河マップ (2017/3/5 02:13)
オリジナルサイズの画像

M61 周辺の銀河マップ (2017/3/5 03:19)
M61 周辺の銀河マップ (2017/3/5 03:19)
オリジナルサイズの画像

集計してみました。

写真 見つけた数
M91, M88 周辺 26
M90, M89 周辺 32
M99 周辺 18
M61 周辺 18

ということで合計94個の銀河が写っていました。名前を書き込む余白がなかったりして書き込んでいないものもあるので、本当はもう少し写っています。

これだけ銀河があれば、きっといるよね? 宇宙人のフレンズ!

スカイメモSの追尾精度の限界は?

昨年オートガイダーを導入した時はスカイメモSの実力がどの程度か把握せずに見切り発車で買ってしまったのですが、結果的には当初の目的、つまり 8cm F6 + 0.6x レデューサー(288mm)で数分程度のガイド撮影は達成できました。

ではレデューサーなしの 480mm (フルサイズ換算 960mm)ではどうでしょう?これはオートガイダー購入当初試しにやってみたものの、ガイドエラーで星が流れてしまい、無理だと判断していたのですが、最近当時の写真を見返してみると、この頃はまだ設定を詰め切れてなかったせいか 288mm でもあまり安定してガイドできていませんでした。

そこで今の設定でもう一度試してみることにしました。昨日は空はよく晴れていたものの、深夜まで月が出ていて DSO の撮影には不向きでしたが、こういう時こそテスト撮影に向いています。

まず、スカイメモSの素の追尾精度を知りたくてピリオディックモーションの写真を撮ってみました。適当な星野を極軸を方位だけずらした状態で10分露出で撮影します。*1

追尾精度が完璧なら南北(赤緯)方向にまっすぐ星が流れていくはずですが、実際にはギアやモーターの誤差で追尾速度が揺らいで蛇行した光跡が写ります。実際に撮ってみた写真がこれです。

https://rna.sakura.ne.jp/share/periodic-motion-of-SKYMEMO-S.jpg
スカイメモSの追尾誤差
左: ノータッチ追尾
右: QHY CCD QHY5L-IIM + miniGuideScope (130mm) + PHD2 Guiding でオートガイド
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井BLANCA-80EDT (8cm F6)
ISO 200, 600s

ノータッチ追尾で撮影した方(左)は赤道儀の誤差がそのまま光跡のゆらぎとしてあらわれています。オートガイダーで1軸ガイドしながら撮った方(右)では大きな揺らぎは補正されてほぼ真っすぐの光跡が写っています。

BLANCA-80EDT の焦点距離は 480mm, E-M5 の画素ピッチは 3.75μm なので、画像上の1ピクセルは1.61秒になります。*2 ノータッチでの光跡の揺らぎの幅は21ピクセルなので、ピリオディックモーションは±16.9秒ということになります。結構ありますね…

しかしオートガイダーを使うと長周期の揺らぎは完全に補正されて誤差は±4.0秒まで減少します。たいしたものですが実際に使い物になるのかどうか。というわけで、今度は極軸をちゃんと合わせて実際に天体を撮ってみました。しし座の三つ子銀河を5分露出です。

M65, M66, NGC3628 (2017/3/7 23:51)
M65, M66, NGC3628 (2017/3/7 23:51)
OLYMPUS OM-D E-M5, 笠井 BLANCA-80EDT (8cm F6)
ISO 200, 300s x 8枚
DeepSkyStacker 3.3.2, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算1600mm相当にトリミング

意外とイケてるような…? てっきりガイドエラーでぼやけてしまって焦点距離が活かしきれてない写真になるものと思っていたのですが、少なくともレデューサー使用時よりは細部まで解像しているように見えます。

等倍で見ても、若干星が楕円になっているカットもあったものの顕著な星像の乱れは見当たりませんでした。PHD2の表示では赤経の誤差のRMS値が±1.6秒前後でした。赤緯は極軸調整の精度がイマイチで5分で2秒弱の速度でズレていってました。

今回はテスト撮影だったので光害カットフィルターは使っていません。本来直焦では 0.6x レデューサー使用時と比較すると約2.8倍の露出時間が必要になるのですが、今回はフィルターなしなので光量が約2倍になり、普段と同じ露出時間でもプラス補正で十分見れる明るさに写っています。

光害カットフィルターを使うと10分以上の露出時間が必要になり、さすがに極軸調整がシビアになってしまいます。でも、光害の影響の少ない天頂付近を通る星団や惑星状星雲をフィルターなしで撮るなら使えるかも? もっとも球状星団の微恒星はガイドエラーが目立ちやすいのですが… そのへんも今度試してみようと思います。

2017-05-13 追記

その後、直焦点で色々撮ってみた結果を以下の記事にまとめました。

*1:追尾速度の誤差の周期は通常極軸を回すウォームネジが1回転してウォームホイールが歯1枚分回転する時間になります。ウォームホイールの歯数が144枚なら周期は10分になります。

*2:\tan^{-1} \frac{0.00375}{480} = 0.000447623° = 1.6114428″