8月18日の深夜、北アメリカ星雲の撮影から帰ってきて少し休憩した後、ベランダで木星を撮影しました。温度順応のために帰宅後すぐ鏡筒だけはベランダに出して、30分ほど休憩した後、赤道儀を設置・調整して、1:00頃撮影開始。
体力的に厳しい状況でしたが、大赤斑が見える日なので頑張りました。シーイングがめまぐるしく変わる日でしたし、度々雲に邪魔されたりして、去年の7月の撮影みたいにタイムラプス動画を作れるような連続撮影はできませんでしたが、なるべく沢山撮りました。
大赤斑は1:30頃にははっきり見えてきて、撮影終了の3:00前に正面を通過しました。
撮影した動画はLとRGB合わせて42本。まだ一部しか画像処理できていませんが、とりあえず比較的シーイングが良く大赤斑がよく見えていた2:30前後のデータを処理した写真がこちら。
左上の衛星はエウロパです。せっかくエウロパが写っているのでクロップサイズをいつもより大きくしてあります(いつもは 800 x 800、今回は 960 x 960)。
ベストとは言えないまでも、そこそこ見れる仕上がりになりましたが、頑張ればもう少しディテールを出せるのではないかとも思います。この日はシーイングの変化や薄雲の通過による輝度変化などがあり、その影響で AutoStakkert!3 のフレーム選別があまり機能していない懸念があります。
実際 AP の自動配置を使うとスタック結果で惑星の縁が割れたようになる現象が発生しました。以前シーイングが悪い時に撮った火星の画像処理で起こったのと同じ現象のようです。
この時と同様に Min Bright を上げて惑星の縁ぎりぎりに AP が自動配置されないようにして、足りない部分には手動で AP を配置するようにしたところ解決しました。火星の時と違って中央部の模様のディテールは保たれており、終始像が歪んでいたわけではなさそうなので、フレーム選別をもっとうまくやれれば改善しそうな気もします。
スタック以降の画像処理には以前と違う手順が二つあります。
まず、フリップミラー経由で鏡像で撮影されたRGB画像の処理ですが、かつては Photoshop で鏡像反転したものを「コピーを保存」でTIFF保存したものを使っていましたが、最近は XnConvert というフリーソフトで一括変換していました。この変換は非圧縮TIFFから非圧縮TIFFへの変換なので画質の劣化はないと思っていました。
それが今回、シーイングの乱れが気になって鏡像反転前のスタック画像に強めの wavelet 処理をかけて写りを確認していたのですが、本番の画像処理で XnConvert で一括変換した画像に同じ wavelet をかけるとモアレ?(トーンジャンプ?)が発生してしまいました。wavelet パラメータは同じなので XnConvert の時に画質の劣化が起こっているということです。
迂闊なことに今まで気付いてなかったのですが、よく見ると変換後のファイルサイズが変換前の半分になっています。画像のプロパティを確認すると色深度 48bit (16bit/channel)の元画像が、変換後は 24bit (8bit/channel)になっています。調べると XnConvert は 48bit TIFF が入力されても、黙って 24bit に変換して読み込んでから画像処理を行うようです。これでは 16bit/channel で撮影した画像には使えません。
替わりのツールを探すか、あるいは python か ruby で ImageMagik を使って変換するスクリプトを書くか… と思っていましたが、ひょっとして?と思って WinJUPOS の Image Measurement の画面を見ると、ありました。画像を鏡像として扱うオプションが。
Opt タブの Image orientation のラジオボタンで Mirrored-inverted image を選択すると、画像を鏡像として扱います。画面上では画像が反転するのではなく Outline frame の方が反転するのですが、de-rotation で出力すると反転した画像が出てきます。
これで問題は解決したのですが、今までの分は… とはいえ、惑星を L/RGB で撮影した時は RGB 画像は弱めの wavelet で処理していたのであまり影響はない、というかそれ故に今まで気付かなかったわけですし、RGB の方はディテールの表現には影響しないので、手間をかけてやり直す価値はあまりなさそう。
とはいえ、やはり気持ち悪いので今後は今回のやり方で処理していこうと思います。
もう一点、これも WinJUPOS の機能なのですが、今回初めて de-rotation 時に衛星像が複数できないように補正する処理を入れてみました。
De-rotation 画面の Options にある、Correction of the planetary moons outside the planetary disc にチェックを入れるとこの処理が有効になります。
このオプションの存在は今回たまたま Options を見直していて気付いたのですが、ヘルプにも説明がないのですが、どうも最近のバージョンアップで追加された機能のようで、こちらのブログによると7月18日の 12.1.0 から追加されたそうです。
とりあえず試してみたところ、出力画像の衛星像は一つになりました。ただし他のパラメータを色々試していた時に全部消えてしまうこともあって、まだ挙動が安定しないところがあるようですが、以下のような処理が行われるようです。
- 各画像の衛星像はオプションで指定した半径の円形に切り取られる
- 出力画像の衛星像は切り取られた衛星像をスタックしたものになる
- 出力画像の衛星像の位置は Reference time の位置になる
2番目はフレームに印を付けたダミー画像を使って確認しました。衛星の自転の扱いについては不明です。衛星面も de-rotation するのでしょうか?
まあ、18cm では衛星の模様なんて写らないし… と思ったら、上のブログの主*1 は8月3日に 18cm でカリストの衛星の模様を撮れてますね。すごい。
木星面の写りを見てもベストに近いシーイングだったようですが、ここまで写るものなんですね…
ということで、一年ぶりに大赤斑を正面から見ることができました。去年の大赤斑は色が薄いというかあまり赤くなくて、色が濃くなった赤道帯北組織(EZn)とあまり変わらない色でした。*2
今年はちゃんと赤くなっていて安心です。でも大赤斑の周りに縁取りができて目のような形になっていて、2019年の「赤い涙」騒動の時と似た形になっているような…
でもなんか… 普通な気もしてきた。戻って画像処理しなきゃ。*3
*1:ココログの不具合なのかプロフィールが表示できないので名前がわかりませんが… やきしいたけさん?
*2:それとも EZn が赤いのにカラーバランスを見誤っただけ?
*3:元ネタ: https://twitter.com/ngnchiikawa/status/1560610893733322755