最近、撮影後の画像処理に時間がかかったり、撮影自体が疲れるので心身の回復までに時間がかかったりするせいで、撮影の速度にブログを書く速度が追いついてません。今日はもう大晦日ですが12月1日の夜の話を今更書いています。今年の撮影は今年のうちにブログに書きたいと思っていたのですが、昨夜4つも撮影したので無理です…
さて、「モノクロ冷却CMOSカメラ購入」シリーズ最後のエントリになります。このシリーズの前回のエントリはこちら。
12月1日の夜は M31 を撮りました。超メジャーな天体ですが、直焦点で撮ったのは一度しかありません。オートガイダーを導入した年にスカイメモSと BLANCA-80EDT + 0.6倍レデューサーで撮ったっきりです。
当時はまだスカイメモSを使いこなせてなくて、デジカメで 90秒 x 8コマ と控え目な露出でした。その後ちゃんと撮り直したいとは思っていたのですが、ベランダからは撮れない位置にあるので野外で撮影しなくてはならないし、0.6倍レデューサーは周辺の星像がかなり流れるのでどうせ撮るならちゃんと撮りたいというのもあって後回しになっていました。
RedCat 51 を買った理由の一つは M31 を撮ることで、フォーサーズセンサーとの組み合わせでちょうど良い画角になりますし、スカイメモSに安心して載せられる大きさです。ASI294MM Pro + EFWmini を付けても標準のバランスウェイトでバランスしました。
というわけで何度か行っている近所の公園で撮影したのですが… まずは結果を。
流石に横浜の空では一番外周の淡い部分は写らず、一回り小さい感じになっていますが、まあまあ写っているのではないでしょうか。
え?なんでモノクロなのかって?実はトラブル続きで時間がなくてRGBが撮れませんでした…
準備
トラブルについては追って話すとして、今回は久々の野外での撮影で、しかも冷却CMOSカメラを初めて野外で使うということで色々準備が大変でした。
ノートPC
まずノートPCを買い替えました。中古の Let's Note CF-SZ6 (Core i5 7300U)です。横河レンタ・リースのレンタルアップ品を扱う Qualit にて 40,700円で購入。バッテリー容量が若干不安だったので、Lバッテリーも別途購入。なぜか新品在庫が残っていたヨドバシにて。Windows 11 非対応ですが、天体撮影専用ですし当分なんとかなるでしょう。
今までは2010年発売の ThinkPad X201s に6セルバッテリーを付けて使っていたのですが、HDDをSSDに換装したとはいえUSBが2.0までですし、CPUも今となっては非力ですし、バッテリーの保ちもイマイチというか、さすがに古くてヘタってるようなので。
MacBook Air (Retina, 13-inch, 2019)もあって最初はこれを使うつもりだったのですが、コロナ以降リモートワーク用にガッツリ使うようになってしまって、仕事のデータが入ったものをむやみに野外に持ち出すのもよくないのでやめました。それに PHD2 以外は Windows とは違うソフトを使わなくてはならず、憶え直すのも大変なので…
Let's Note には撮影用に PHD2 と SharpCap をインストール。念のため DSS, AS!3 等もインストール。PHD2 は接続テストもして、ダークライブラリも作成したのですが、後述するようにその後トラブルが発生します。
約3時間の撮影でバッテリー残量は75%でした。これならLバッテリーいらないかも?念のため Poweradd Pilot Pro2 も持っていきましたが、不要でした。*1
電源
スカイメモSは乾電池で十分ですが、冷却CMOSカメラには12V電源が必要です。元々 SX2 の電源用にと用意した suaoki S200 を使いました。去年の春にマンションの廊下での撮影で使ったものです。
電源にシガーソケット変換ケーブルが付属しているので「その1」で買ったケーブルでカメラに繋ぎます。
こちらは特にトラブルなく給電でき、-10℃の冷却も問題なく維持できました。約3時間の撮影で残量は目盛り4/5。
SX2 を使った時に冷却カメラと両方に給電できるのかどうかは未確認ですが、当分 SX2 を野外に持ち出すことはないので、そのうち気が向いた時に試してみます。
運搬方法
現場でカメラと EFW を組み付けるのは神経を使いますし、それをやるとフラット撮影も現場でやることになり荷物も撮影時間も増えてしまいます。徒歩で往復するのでなるべく荷物は減らしたいし早く帰りたいので、カメラは家で取り付けてそのままの状態で持っていき、持ち帰る、フラットは家で撮る、ということにしました。
問題はカメラ付きの RedCat 51 をどうやって持ち運ぶか。RedCat 51 にはかわいいキャリングケースが付いてきますが、ゴツい冷却カメラを付けたままでは収納できません。そこで、BLANCA-80EDT 付属のハードキャリングケースのウレタンを一部切り抜いて使うことにしました。このハードケースはノートPCを置く台にもなるので便利です。
長いアリガタとファインダー台座の出っ張りが収まるようにウレタンを2箇所切り抜くと、RedCat 51 + EFWmini + ASI294MM Pro がピッタリ収まるようになりました。EFW は BLANCA-80EDT の接眼部から横に張り出した合焦ノブが収まるところにすっぽり収まります。運搬の問題はこれで解決しました。
トラブル続出
今回は撮影も画像処理もトラブル続出でした。
ガイドカメラから映像が入らない
Let's Note に繋いだ QHY5L-IIM からの映像が PHD2 に流れてきません。これではオートガイドができませんし、ドリフトアライメントによる極軸合わせもできません。
USBケーブルを抜き差ししてるうちに直ったのですが、その後(というかこの日の明け方)レナード彗星の撮影の時にも同じ現象が発生して、この時は復帰が間に合わずノーガイドで撮ることに。顛末は12月3日のブログに書いた通りです。
PHD2 のトラブルですが、後で調査したものの原因がわからず、結局今後は ASI290MM を使うことにしました。ノートパソコンは Panasonic Let's Note CF-SZ6 で、最近天体撮影用に買った中古品です。事前のテストでは問題なかったのですが…
前夜の撮影でも同様のトラブルがあったのですが、ケーブルをつなぎ直したりしているうちに直ったのでケーブルの接触が悪かったのかと思っていたのですが、その状況でも SharpCap では普通にプレビューできるし、同じケーブルでデスクトップPCに繋いだら PHD2 でも問題ありません。
レッツノート本体の Wi-Fi のスイッチを OFF/ON すると復帰して10秒くらい映像が流れてくるのですが、また止まってしまうのも謎です。QHYのドライバーを再インストールしたりインテルのオプションのドライバを更新したり、デスクトップで使っている古いドライバに入れ替えたりと色々試したのですが症状は変わりませんでした。
C/2021 A1 レナード彗星 (2021/12/2)
M31 が導入できない
スカイメモSなので手動導入なのですが、これが苦労しました。アンドロメダ座のβ星ミラクからスターホップするはずが、どうしても届きません。なんで?そもそもミラクだと思った星が違う星だった?横浜の空といえども2等星は見えるはずなんですが、公園の真ん中あたりは四方からかなり強力なLED照明で照らされていて肉眼では星座の形はもちろん2等星すらも視認が難しい状態。
何度もトライしましたがダメでした。光学ファインダーを持ってきておけばよかったのですが… あとガイドカメラからプレートソルブできるようにしておけばよかったかな、とも。
今回はボウズで帰るしかないかと諦めかけたのですが、最後にペルセウス座のα星ミルファク(1.79等)からのスターホップにチャレンジ。むちゃくちゃ遠回りですが、なんとか M31 にたどり着きました。21:00頃には撮影開始の予定が既に22:30。公園に到着してから2時間以上経っています。
銀河中央と周辺で輝度差の激しい天体なので多段階露光で撮影したのですが、予定の枚数を撮り終わったのが23:30。高度があまり下がると公園の照明が直撃してしまうので、ここからRGBを撮っても間に合わないし、フラット撮影もあるし、未明にはレナード彗星の撮影もあるし、ということで、ここで撤収しました。
フラットが合わない
帰宅後ベランダでフラットを撮影しました。赤道儀を設置して鏡筒を真下に向けて床に置いた iPad を撮影というものです。BLANCA-80EDT ではこれで安定したフラットが撮れていたのですが、RedCat 51 は画角が広いせいかフラットが偏ってしまいました。このフラットを使うと画像の下半分が暗くなって星がほとんど見えなくなる有様です。
結局、4日未明の レナード彗星 + M3 の撮影前に別の方法で撮ったフラットを流用してなんとかなりました。
その方法というのは、「ライトボックスアプリで画面タッチに反応しないようにした iPad の画面に直に鏡筒を立てて撮影」というもの。ライトボックスアプリというのは iPad をトレース台として使えるようにするアプリです。古い iPad ですが*2 Lightbox Trace というアプリが使えました。
鏡筒を鏡筒バンドから取り外して(そうしないとアリガタが邪魔になる)、フードを外して、一応自立するとはいえ倒れるとまずいので座布団の上に置いた iPad の上に、近くに置いた箱に少し寄りかかる感じで立てました。
冷却カメラと EFW を付けると結構重いとはいえ RedCat 51 なので画面が割れることもなく無事フラットが撮れました。もっとデカい鏡筒だと無理かも。何らかの治具を作った方がいいのかな…
カメラと鏡筒は全てネジ接続なので、バラして組み直す度にねじ込み具合によってカメラの角度がズレてしまうはずですが、周辺光量に変な偏りがないせいか問題なく使えました。撮ったフラット自体には若干変な偏りがあるのですが、これは EFW 周りで少しケラれてるのかな… ここはカメラ本体と EFW の一箇所のネジ込み具合にしか影響されない部分なので大丈夫だったのかも。
DSS のHDR合成が失敗
画像処理にも苦労しました。LRGB合成でもないのに。
これはフラットを撮り直す前の話ですが、多段階露光の露出時間毎にコンポジットした結果画像を DeepSkyStacker のHDR合成(Entropy Weighted Average Stacking)でコンポジットしたのですが、謎のアーティファクトが発生して使えませんでした。
DSS の出力の中央部をクロップしたものです。M31 の中心部にブロックノイズ状のパターンが発生しています。なんなんですかねこれは?
仕方なく Photoshop の HDR Pro を使ったのですが、よく見ると星がズレて二重になっている部分があります。ボツにする前に気づかずアップしてしまったので、画像をクリックして flickr の機能で拡大して確認してみてください… 画面上の方です。
フラットを新しいものに換えて DSS のHDRをやりなおしたところ、最初に出てきたアーティファクトはなくなったのですが、やはり微妙にズレてスタックされてしまい、星がズレる部分がでてきてしまいました。
スタックの様子を見るとアライメント処理で位置ズレを直しています。本来全部同じ reference frame でスタックしているので位置ズレはないはずなのでアライメントを行わない設定でスタックしたところ、無事冒頭の結果となりました。
うーん、なんなんでしょうね?最初に撮った2分露出と最後に撮った30秒露出では撮影時の高度がかなり違うので大気差で歪みが出たのか?とも思いましたが、それならどうやってもズレてしまいそう。ズレが部分的なのも謎です。