Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

M81, M82 (2020/3/20)

祝日の3月20日新月期に快晴の予報ということで昼から何を撮ろうか考えていました。一つの案はベランダから μ-180C で木星状星雲を撮ること。もう一つの案はマンションの廊下から M81 と M82 を撮ること。悩みましたが結局後者にしました。

自宅のベランダは南向きで北天の天体は撮影できません。スカイメモSで撮っていた時は近所の空き地や公園に出かけて北天の天体をいくつか撮っていましたが、8cm F6 直焦点での撮影には追尾精度や機械的安定性が不足して露出時間に制限があったり導入や極軸調整で苦労が多いものでした。苦労というか苦痛…

SX2を使うようになってからはなんとかしてSX2を野外に持ち出そうと、赤道儀と三脚を収納するバッグ、リチウムイオンのポータブル電源、というところまでは揃えたのですが、トータルで20kg以上になる機材を運ぶための台車もしくはアウトドア用キャリーカートは未購入で、まだ公園にプチ遠征できる体制が整っていません。

そこでマンションの北側の廊下から撮るのはどうか、というのを前から検討していたのですが、天井が意外と近いこと、蛍光灯が複数あってかなり明るいことから敬遠していました。でも気になって iPhone の水準器アプリを利用して測ってみたら高度60度弱までならなんとか天井に邪魔されないようなので M81, M82 なら撮れるのでは… と最近気になっていたのでした。

今回は天体撮影そのものよりも、実際に廊下からどこまで撮れるか調べることと、来たるべきプチ遠征に備えて遠征用機材の問題点を洗い出すことを目的に、プチ遠征の演習的な意味で撮影結果は問わないことにして撮影に臨みました。失敗してもここでは、この機材では撮れない、と判明するのが成果ということで。

というわけでプチ遠征用機材として今回始めて使うのは以下の機材。

コメット 布ケースCB用
HIROPONさんも愛用赤道儀とハーフピラーの収納・運搬用のバッグです(本来はストロボ電源等を運搬するためのもの)。ちなみに三脚用ケースとしてリーベック RC-30 も買ってありますが、今回は使わず、三脚はむき出しで運搬しました。
suaoki ポータブル電源 S200
赤道儀とノートPC用の電源です。容量は200Wh。84Whの SG-1000 では一晩もたないので買いました。付属のアダプターケーブルで12Vシガーソケット出力ができます。
MacBook Air (Retina, 13-inch, 2019)
オートガイド用のノートPCです。PHD2をインストール済。CMOSカメラでの撮影にも使う予定ですが CCDCiel の設定がまだうまくいってません…

いつものベランダ撮影では必要なものは部屋の中のどこかに必ずあるので気楽なものでしたが、廊下での撮影は柱の位置の関係で少し離れたところに設置するので部屋との間を往復するのも大変ですし、今回は演習でもあるので、iPhone のリマインダーに荷物リストを作って忘れ物のないようにチェック。だったのですが、荷物リストにフラット撮影用の iPad とコンビニ袋と輪ゴムを入れるのを忘れていました…

20:00頃までに準備は一通りしたものの、ひきこもり天文家としては不安がいっぱいで、やっぱりやめようか、おとなしくベランダから撮ろうかとか思ったりもしたのですが、なんとか気合を入れて20:30頃に出動。

機材は3回に分けて運びました。本番のプチ遠征では1階との往復になるのでなんとか2回で運べるようにしたいのですが、赤道儀を入れたバッグの強度がまだわからなかったので、いざという時に両手が使えるように赤道儀はそれだけ持って運びました。運んだ感じでは肩掛けベルトを肩に掛けて普通に運搬できそう。

機材の組み立てはそこそこスムースにできました。しかしオートガイダーの映像を見て愕然。映像が真っ白で星が見えません。ガイドスコープにはフードがないので天井の蛍光灯の光が直撃してカブってしまっているようです。

あわてて部屋に戻ってティッシュ箱を切り抜いて黒マジックで塗りつぶしただけの即席のフードを作って輪ゴムで留めたところ、なんとかなりました。でも1秒以上の露出は厳しく、結局1秒露出でガイドすることになりました。撮影鏡の鏡筒からの照り返しも対策が必要かも。

正直この時点で無理だろうなぁという気配が漂ってきたのですが、今回はやってみること自体が目的なので続けます。

次は極軸調整です。ベランダではドリフトアライメントしかやってないので、うちのSX2には極軸望遠鏡を取り付けていません。極軸望遠鏡、実はセットで買ってはあるのですが、今回は PHD2 のスタティック・ポーラー・アライメントを使ってみることにしました。ST-4 接続なのでマニュアルモードでやります。

が、これがうまくいきません。ダイアログに北極星周辺の星図が出て、本来この星図のスケールと傾きがガイドカメラの映像にと一致するはずなのですが、どうも傾きが少しズレているのです。キャリブレーションの精度が悪いのでしょうか。2回キャリブレーションをやり直してマシにはなりましたが、まだ少し傾いています。

無視してそれで合わせても、実際に追尾を開始するとガイドが流れていくので話になりません。廊下からは南の空は見えないので普通のドリフトアライメントもできないし困ってしまったのですが、PHD2 にはもう一つポーラー・ドリフト・アライメントというツールがあるので、それを使ってみることにしました。こちらはうまくいきました。2回繰り返したところ、十分な精度でガイドできそうだったのでこれで行くことにしました。

次はピント合わせです。バーティノフマスクを使うのでまず1等星を導入したいところですが、廊下からの視野は天井と柱に制限されて1等星は見えません。まずおおぐま座α星で北斗七星の柄杓の先の星ドゥべを導入したのですが天井に阻まれて見えず。これで赤緯61度以下の天体は撮影困難と判明。

そこでこぐま座のコカブでピント合わせをしたのですが、M81を導入するとカメラの向きが縦位置にならないことに気付きカメラを回転。ピントを合わせなおそうとしたのですが、コカブを再導入すると子午線超えの際にカメラがぶつからないか心配だったので、名も知らぬかなり暗い星でバーティノフマスクの光条がほとんど見えない状態で、像の対称性を頼りにピントを合わせました。

よく考えたらコカブから子午線超えで導入したのだから逆も問題なかったのでは… とはいえ、M81 の導入は最初子午線を越えず telescope-west で導入されてしまい、そのままだと撮影を続けるとカメラがピラーにぶつかってしまうので、赤道儀の設定を変えて telscope-east で再導入していたので、単に逆コースで鏡筒が動くわけではないので心配だったのです。

結局撮影開始は22:30頃になりました。8cm F6直焦、光害カットフィルターありで6分露出。北天でガイド精度がどの程度出るかわからなかったので今回は露出時間を短く、コマ数を多く撮る作戦で行きました。

ガイドはやや不安定で、4秒角くらい流れては2分ほどかかって復帰するということが何度もあって、5,6コマはボツになるかなという感触。16コマ撮影の予定でしたが0:50までかけて20コマ撮りました。RMSエラーは RA, DEC 共に1.5秒角弱、トータルで2秒前後と、一応及第点。でもばらつきが大きめで星像はぽってりしそうな感じ。

連休中と思って油断していたのですが、途中マンションの住人に何度か声をかけられてしまいました。「星?見えないよ?」「デジカメなら撮れると思って… でもだめかもしれません…」みたいなやりとりをしていました…

さて、まずは最終結果から。

M81, M82 (2020/3/20 22:37)
M81, M82 (2020/3/20 22:37)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) / 露出 6分 x 16コマ 総露出時間 1時間36分 / DeepSkyStacker 4.2.2, Lightroom CC で画像処理

DSS に自動選別させて20コマ中16コマをスタックしましたが… 2016年の冬に撮った写真と比べると、解像度は間違いなく向上しているのですが、M81の淡い部分はイマイチですね… 露出不足もあるのでしょうが、実は画像処理に大変苦労しているのでそのせいもあります。

M82 と M81 のツーショットは定番ですが、この2つは適正露出が合わず、M81 をいい感じにすると M82 が露出オーバーになってしまうという関係です。なので、以下の拡大写真では別々に仕上げています。

M81 (2020/3/20 22:37)
M81 (2020/3/20 22:37)
同上

M81 の拡大写真です。迫力のある大きさに写ってはいるのですが、渦巻き状の腕の写りがギリギリな感じです。中心部右から右斜め下にかけてうっすら暗黒帯も写っていて、解像感は悪くないのですが…

M82 (2020/3/20 22:37)
M82 (2020/3/20 22:37)
同上

M82 の拡大写真です。中心部の燃えているような模様は、昔は銀河が爆発しているのだと言われていましたが、今は「爆発的な星生成」の現場だとされています。本当は中心部から上下に Hαで光るガスが噴き出しているのですが、無改造のデジカメでは全然写りませんね…

DeNoise AI で処理したものも貼っておきます。

M82 (2020/3/20 22:37) (DeNoise AI)
M82 (2020/3/20 22:37) (DeNoise AI)

M81 (2020/3/20 22:37) (DeNoise AI)
M81 (2020/3/20 22:37) (DeNoise AI)

対象によって相性がある DeNoise AI ですが、銀河とは相性が良いみたいでなかなかの仕上がりです。特に M81。

さて、結局そこそこ撮れてるのでは?という感じですが、実は元々は光害(迷光?)カブリがひどいものでした。

M81 (2020/3/21 00:07) (スタックなし、ホワイトバランス、レベル補正のみ)
M81 (2020/3/21 00:07) (スタックなし、ホワイトバランス、レベル補正のみ)

ライトフレーム1枚をホワイトバランス調整とレベル補正のみで仕上げたものです。なんですかこの赤いカブリは… 段階フィルター7つ使ってなんとかごまかしたのですがどうしても背景にムラが残って強調処理の足かせになりました。

この赤カブリの原因はよくわからないのですが、筒先は長い巻きつけフードを付けているし、廊下の蛍光灯は望遠鏡の後ろ側にあるし、筒先からの迷光ではないような… ひょっとしてドローチューブ側からの迷光かも?

というわけで、視野が狭くて撮れそうな天体はこの M81, M82 くらいだし、迷光は出るしでマンションの廊下からの撮影はなかなか厳しいということがわかりました… 恒星は16.4等くらいまで写っているのがむしろびっくりなくらいなんですが。

機材についてはプチ遠征に耐えられそうです。気になる電源関係は、4時間の電源使用で、MacBook Air のバッテリー残量は60%、suaoki S200 のバッテリー残量は5段階中の4(約80%)ということで十分余裕がありそうです。

ということでプチ遠征、なんとか実現させたいのですが、プチ遠征先の公園も照明が明るくて微妙なんですよね… どこかいいとこないかな…

NGC4565 Needle Galaxy (2020/3/18)

3月18日の夜、平日ですが週末は天気が崩れるようなので思い切って天体撮影。ターゲットはかみのけ座の銀河 Needle Galaxy こと NGC4565 です。昨年撮影したものの中途半端にしか撮れなかったのでちゃんと撮りたいなと思って。

昨年中途半端になった理由は南中高度が高いためベランダの天井に隠れてしまったからです。方位192度/高度80度あたりで天井にぶつかったので、昨夜だと24:15ぐらいに方位163度/高度80度あたりで限界と見て96コマ撮るなら21:30ぐらいには撮影開始したいと思って帰宅後急いで準備しようとしたら電話がかかってきて出遅れてしまいました。

今回もうっかり間違った星でアライメントを取ってしまって自動導入が明後日を向いてしまったので、アライメントの取り直しに時間を取られたりして、撮影開始は21:50。1/2.8インチセンサーの狭い写野ではアライメントのための導入がなかなか難しいです。

ガイドは蛇行はないものの揺れ幅が大きめでぼちぼちといったところでしたが、途中から蛇行が始まってしまって… それを抑えるために手動でガイドをON/OFFしてガイドパルスを間引くなどしてなんとか持ちこたえました。

天井の到来が予想より少し遅れたので撮影は結局0:20まで続けてライトフレーム100コマを確保*1 最終的にはガイドが流れたコマを弾くために DSS でスタックコマ数を90%に設定してスタック。結果はこうなりました。

NGC4565 (2020/3/18 22:39)
NGC4565 (2020/3/18 22:39)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ ASI290MC (ゲイン240) / 露出 60秒 x 90コマ 総露出時間 1時間30分 / DeepSkyStacker 4.2.2, Lightroom CC で画像処理

エッジオン銀河の姿がよくわかる、と言いたいところですが、「針先」が意外と淡くて光害*2 で明るい背景に溶け込みがちで画像処理に苦労しました。もっとくっきり描出したかったのですがこれ以上強調するとノイズが浮いてきて無理でした。

高解像度のセンサーで前回より大きく写るので期待していたのですが、暗黒帯の構造はほとんど見えていません。そのあたりを描写するにはもっと露出時間をかけてノイズを減らさないと難しそう。

とはいえそこそこ迫力のある写りになったので、昨年のリベンジを果たせたと言っていいのではないでしょうか。

このあと明け方まで待って惑星を撮りたいと思っていたのですが、あまりに眠かったので諦めて撤収しました。でも結局朝方に目がさめてしまったので撤収せずに置いといた方が良かったかな…

*1:何故か1コマだけ紫色の変な画像になっていたので捨てて、101コマ目まで撮りました。

*2:というかベランダの天井からの照り返し?

月齢22.2 (2020/3/16)

M87のジェットを撮った後はすぐには撤収せず、画像処理をやりながら月が昇るのを待って、4:00過ぎにカメラをデジカメに換えて月を撮りました。

月齢22.2 (2020/3/17 4:22)
月齢22.2 (2020/3/17 4:22)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 1/60s x 96/132コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC, Lightroom CC で画像処理

シーイングはそんなに悪くない感じだったのですが、いまいちキリッとしない写りです。もっとコマ数撮って厳しく選別するべきだったか?

月を撮った後、南東の空には木星と火星が出ているのに気が付きましたが、μ-180Cを出しても温度順応してるうちに夜が明けてしまうと思って結局撮りませんでした。ここ数日冬の寒さがぶりかえしてきていますが、本格的に春になったら惑星も撮りたいと思います。

M87のジェット (2020/3/16)

3月16日の夜は快晴。月の出は1:15で、それまでに何か撮ろうということでM87を撮ることにしました。もちろん目当てはブラックホールから出るジェットです。

M87のジェットの撮影は昨年4月にチャレンジしましたが、存在は確認できたもののジェットらしい姿が写らず、いまいち撮れたという感じのしない結果になっていました。


ちゃんと撮るには μ-180C で撮るしかないのか?ということでしたが、これについてはガイドする機材をどうするか未だに悩んでいる段階でまだ無理なのですが、BLANCA-80EDT と惑星用CMOSカメラで撮った M100 と M104 の写真が思いの外よく撮れていたので、同じように撮ってみたらそこそこ写るのでは?と期待して撮ってみることにしたのです。

22時頃から機材をベランダに出して極軸を合わせて、23:00過ぎに撮影開始。HDR スタック用に2段階露出で撮って、30秒露出を96コマ、60秒露出を80コマ撮影しました。60秒露出のコマ数が少ないのは予定より15分ほど遅れての撮影開始で月の出の前に撮れるコマ数が減ってしまったためです。

結果はこうなりました。ジェットがよく見えるように銀河の淡い部分を強調せずにリニアに近いトーンカーブで仕上げています。

M87のジェット (2020/3/16 23:03) (拡大/wavelet)
M87のジェット (2020/3/16 23:03) (拡大/wavelet)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ ASI290MC (ゲイン240) / 露出 30秒 x 96コマ + 1分 x 80コマ 総露出時間 2時間8分 / DeepSkyStacker 4.2.2 (2x Drizzle), RegiStax 6.1.0.8, Lightroom CC で画像処理

どうでしょう?これなら「撮れた」と言っていいのではないでしょうか。ドリフトアライメントで極軸を追い込んだおかげか、この日はガイドがほぼ絶好調だったので、DSS の 2x Drizzle でスタックしてみました。それを wavelet 処理して等倍表示で切り出したのが上の写真です。

ちなみに wavelet をかけずに仕上げたのがこちら。

M87のジェット (2020/3/16 23:03) (拡大)
M87のジェット (2020/3/16 23:03) (拡大)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ ASI290MC (ゲイン240) / 露出 30秒 x 96コマ + 1分 x 80コマ 総露出時間 2時間8分 / DeepSkyStacker 4.2.2 (2x Drizzle), Lightroom CC で画像処理

なんかこれでも十分よく写ってる気がします。

拡大せずに、また、ジェットを気にせず淡い部分をあぶり出すように仕上げたのがこちら。

M87 (2020/3/16 23:03)
M87 (2020/3/16 23:03)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ ASI290MC (ゲイン240) / 露出 30秒 x 96コマ + 1分 x 80コマ 総露出時間 2時間8分 / DeepSkyStacker 4.2.2 (2x Drizzle), Lightroom CC で画像処理

これでもよく見るとジェットが見えますね。ちなみに今回はカメラの水平(赤道と平行)を取るのを忘れていたので写野が3度ほど傾いています(拡大写真では直してあります)。

BLANCA-80EDT の焦点距離は480mm、ASI290MCの画素ピッチが2.9μmなので、像面では1ピクセルあたり1.246秒角です。*1 2x Drizzle で処理したので画像上では1ピクセルあたり0.623秒角になります。

M87の中心(一番明るい部分)からジェットの根本までの距離は画像上では約18ピクセルで11.3秒角に相当します。以前ジェットの根本の明るい部分までは11.7秒角と計算したので*2 ほぼ計算通りということになります。

というわけでシリウスBに続きまた昨年のやり直しみたいな撮影でしたが、8cm でこれだけ撮れれば満足です。

*1:atan(0.0029 / 2 / 480) * 2 * 180/π * 60 * 60

*2:「M87のジェット?」の注2

土星の衛星

以前、土星の衛星を BLANCA-80EDT とCMOSカメラで撮影したことがあります。

この時はエンケラドゥスはギリギリ、ミマスは確認できず、という結果でしたが、今年は μ-180C でも撮ってみたいと思い撮り方を考えていたのですが、ひょっとして過去の土星の写真に写っていないかと思い、過去の土星の写真を再処理してみました。

まず昨年5月に撮った土星

土星 (2019/5/24 02:32)
土星 (2019/5/24 02:32)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/30s x 2500/5000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理

これを wavelet でガンガン攻めてみたのがこちらです。

土星、ミマス、エンケラドス、テティス (2019/5/24 02:32)
土星、ミマス、エンケラドス、テティス (2019/5/24 02:32)
同上

土星の右側に三つ、一つはギリギリですが、衛星が写っています。ギリギリなのがミマス、次に暗いのがエンケラドゥス、一番明るいのがテティスです。

土星、ミマス、エンケラドス、テティス (2019/5/24 02:32)

ミマスは画像の左側のノイズよりも暗い感じなので正直これを写っていると言っていいのかどうか… でも WinJUPOS で Measurement すると衛星の位置がぴったり一致するんですよね。

https://rna.sakura.ne.jp/share/WinJupos-Saturn-2019-05-23_1723.6UT.png

昨年はあまりいい土星が撮れなかったので一昨年の2018年7月29日の土星も見てみましょう。

土星 (2018/7/29 20:42-20:44) (1500/3000 LRGB)  (2019/6/30 再処理)
土星 (2018/7/29 20:42-20:44) (1500/3000 LRGB) (2019/6/30 再処理)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM, RGB: ZWO ASI290MC / L, RGB: 露出 1/30s x 1500/3000コマをスタック処理したものをLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 10.3.9, Lightroom Classic CC で画像処理

これはLRGB撮影したL画像を攻めてみました。

土星、エンケラドス、ミマス、テティス、レア (2018/7/29 20:42)
土星、エンケラドス、ミマス、テティス、レア (2018/7/29 20:42)

これはくっきり出ました。土星の左上がエンケラドゥス、左下がミマスです。写野外から光があふれてきている形ですがテティスとレアも見えています。

土星、エンケラドス、ミマス、テティス、レア (2018/7/29 20:42)

これも WinJUPOS の衛星の位置とぴったり一致します。

https://rna.sakura.ne.jp/share/WinJupos-Saturn-2018-07-29_1142.5UT.png

というわけで、エンケラドゥスとミマス、実は既に撮っていた、という結果でした。

しかしモノクロカメラのノイズの少なさは想像以上で、これを見ると疑似LRGBじゃなくてちゃんとLRGBで撮りたい気になってきます。

7年前のパンスターズ彗星(C/2011 L4 (PANSTARRS)) (2013/3/11, 2013/3/12)

Facebook には「何年前の同じ日にあなたはこんな投稿をしました」と通知する機能があるのですが、それで昨日、7年前(2013年)のこの時期にパンスターズ彗星(C/2011 L4 (PANSTARRS))を撮ったのを思い出しました。

当時僕は病気で休職中で気晴らしに望遠レンズで月や星座を固定撮影で撮っていました。まだ本格的に天文をやるというつもりはなく、パンスターズ彗星の事を知ったのもたまたま Twitter で話題になっていたからだったと記憶しています。

そんな明るい彗星ならひょっとしたら写るかも?ぐらいの気持ちで、特にそのための装備を揃えたりすることもなく、手持ちの機材で軽い気持ちで撮りました。当時はまだ望遠鏡も持っておらず、カメラもレンズも元々当時追っかけていた女優さんを撮るために買ったものを使いました。

2013年3月9日に一度チャレンジしてみたのですが、眼視でもカメラのライブビューでも確認できませんでした。当てずっぽうで撮った写真に怪しい光点が写っていたのですが、パンスターズ彗星の方位と高度を iStella HD で調べて、Google Maps で近くの山の山頂の高度と方位を計算して、山頂からの彗星の相対位置を計算したところ、これは彗星でないと判明。

翌日は寝落ちして撮影できず、その翌日3月11日、夕方18:00過ぎに西の空を見ると夕焼け空で概ね快晴でしたが空の低いところには薄雲が出ていました。9日の計算で使った目印の山が雲に隠れて方位が正確にわからず、確かこの日は肉眼でもカメラのライブビューでも彗星が確認できてなかったと思います。

当たりをつけた位置から少しずつ方位をずらして撮った写真の中から彗星らしき尾を引いた光を見つけました。

パンスターズ彗星(2013/3/11 18:26:48)
パンスターズ彗星(2013/3/11 18:26:48)
ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0 (100mm F2.0) / ミザールテック K型微動マウント(固定撮影) / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 1秒 / Lightroom 4.3 で画像処理

パンスターズ彗星(2013/3/11 18:26:48)
パンスターズ彗星(2013/3/11 18:26:48) (拡大)
同上

架台がミザールのK型微動マウントですが、これは月や星座を撮るのに自由雲台では辛くなってきていたので、前の年の12月にをヤフオクで落札したものです。目盛環はありませんが微動ハンドルを回す回数で相対的な位置は把握できました。

さて、これが本当にパンスターズ彗星なのか、目印の山頂が雲に隠れていたせいですぐには確信が持てないでいました。別の山の山頂で再計算したところ、位置が微妙に合いません。カメラの時計が少しズレていたのに気付いて再計算、そして大気差も計算に入れましたが誤差は0.6度ほど。ほぼ彗星に間違いないとは思ったのですがちょっともやもやが残りました。

翌日3月12日もよく晴れました。この日も肉眼では彗星は見えませんでしたが拡大ライブビューで彗星の姿を確認。その時の写真がこれです。強調処理のない撮って出しの画像です。どこに彗星があるかわかりますか?

18:10:37
18:10:37
ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0 (100mm F2.8) / ミザールテック K型微動マウント(固定撮影) / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 1/15秒 / Lightroom 4.3 で画像処理

強調処理をかけるとこんな感じです。右上にたなびいた雲の少し上に光点が見えます。

18:10:37
18:10:37 (強調)
同上

この後彗星は雲に突っ込んでいってしまったのですが、薄雲越しでも彗星の形がわかるくらいの明るさでした。そして低空の雲の切れたところに再び姿を現しました。

パンスターズ彗星(2013/3/12 18:20:21)
パンスターズ彗星(2013/3/12 18:20:21)
ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0 (100mm F2.5) / ミザールテック K型微動マウント(固定撮影) / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 1秒 / Lightroom 4.3 で画像処理

パンスターズ彗星(2013/3/12 18:20:21)
パンスターズ彗星(2013/3/12 18:20:21) (拡大)
同上

この後西の山の稜線に沈むまで撮り続けました。連続写真をアルバムにまとめました。

沈むパンスターズ彗星(2013/3/12)
沈むパンスターズ彗星(2013/3/12)
ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0 (100mm F2.5〜F2.0) / ミザールテック K型微動マウント(固定撮影) / OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO320, RAW) / 露出 1s〜1.3s / Lightroom 4.3 で画像処理

さて、同じような場所に2日続けて彗星らしき姿が見えてしかも日周運動ぽい動きで西に沈んでいったわけですから、これがパンスターズ彗星で間違いないのでしょうが、一応また計算してみたところ、山の高さの入力ミスを見つけて、それを直すと誤差0.1度以下で写った位置に彗星が来ることがわかりました。

というわけで無事パンスターズ彗星を撮ることができました。この時の興奮が天文趣味に本格的に復帰するきっかけになりました。

パンスターズ彗星は0等程度まで明るくなりました。薄明下では肉眼では厳しいものの、双眼鏡では見えましたし、写真でも固定撮影で十分楽しめる明るさでした。今年は5月に接近するアトラス彗星(C/2019 Y4)が期待されています。

大彗星になるとの予想はあまりあてにならないようですが、生暖かい目で見守っている HIROPON さんの予想でも「パンスターズ彗星に近い見え方かも」とのことですから、デジカメと三脚だけで撮れる天文趣味の入門には好適な彗星になるかもしれません。

そういえば2013年にはアイソン彗星も撮りました。その時の話はまたいずれ…

シリウス A & B (動画)

昨日のシリウスB、動画を仕上げてみました。あれから人の撮ったシリウスBを色々見ていると動画で上げてるのをいくつか見かけたので。*1

Sirius-A & B (2020/3/11)
Sirius-A & B (2020/3/11)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC (ゲイン100) / 露出 1/8秒 1000コマ(8fps) / SER Player 1.7.2, TMPGEnc Video Mastering Works 55.5.3.108 で動画編集、静止画パートは AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理。
BGM: Air Hockey Saloon (http://chriszabriskie.com/vendaface/) © Chris Zabriskie (http://chriszabriskie.com/), licensed under CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).

シリウスBが見えますでしょうか。ちなみに動画の最後の方で答え合わせができます。撮影した1000コマ全部動画にしたのでちょっと長いですが、何度かシリウスBがはっきりわかる瞬間がありますのでじっくり見ていってください。

再生速度は実際と同じ速度です。8fps なのでコマ落ちしたような見え方になっていますが、眼視だとシリウスの光芒のギラギラがもっと高速に動いて見えて、シリウスBは全然視認できませんでした。

撮影中のプレビューでも撮って出しの動画でも視認できなかったのですが、SER Player でゲインとガンマを上げててみると*2 動画上でもシリウスBがなんとか見えてきました。とはいえ、揺れるシリウスの光芒の間から垣間見えるような見え方で、天文やってない人には見つけられないかも。

ところでシリウスBは白色矮星ですが、将来巨大化したシリウスAからガスが流れ込んでIa型超新星爆発を起こす可能性があったりする?などということをふと思ったのですが、どうなんですかね?

軽くググってみたところ、いくつかのQ&Aサイトで同様の質問が投稿されていて、*3 それらの回答によると、シリウスBはシリウスAから遠すぎるのでIa型超新星になるのに十分な量のガスを蓄積できないだろうというのが結論のようです。万一シリウスBがIa型超新星になるとしても、それはシリウスAが赤色巨星になる数億年先の話で、その頃にはシリウスは地球から遠く離れているだろうし、超新星以前に太陽の膨張で既に地球環境はヤバい状態かも、とも。残念。

ということでここはやはりベテルギウスさんに頑張ってもらうしかないのでしょうか…