Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

ネオワイズ彗星 (C/2020 F3 (NEOWISE)) (2020/7/19)

いつまで経っても梅雨が明けない関東地方ですが、7月19日は久々の晴れ。SCW の予報では夜も晴れそうということで、朝からネオワイズ彗星(C/2020 F3 (NEOWISE))の撮影準備。

尾を写すには30秒くらいの露出は必要だろうということで久々にスカイメモSを引っ張り出してきました。雲との戦いになりそうなので機材の設置・調整に時間をかけたくないのと、今回はマンションの廊下=隣の部屋の真ん前に陣取る関係で SX2 は場所を取りすぎて邪魔になるだろうと考えてのことです。

尾が随分長いとのことなので、レンズは 35-100mm F2.0 を尾の写り具合に合わせてズームすることに。

日没後の19:00過ぎからスタンバイ。北西方向は雲が薄いものの北は雲が厚く北極星が見えません。仕方なく勘で極軸を合わせて薄明が終わるのを待っていました。19:30過ぎあたりから雲の隙間に星が見えてきたので導入開始。目印の北斗七星も見えなかったのですが、赤緯赤経をそれっぽい位置に合わせると、薄雲越しに彗星らしき星の姿が。

F2.5で5秒露出の試し撮りをしたところ近くにおおぐま座の前足の先の2つの星(タリタアウストラリスとタリタ)が写っていて、尾を引いた星がネオワイズ彗星であることを確認。薄明の中の薄雲越しで、10秒露出だとほぼ真っ白になったので、8秒露出で連射。しかし、これは撮ってるうちに雲が厚くなってほとんど写っていませんでした。

そうこうしてるうちに北の空が晴れてきて北極星らしき星が見えてきたので、極軸を調整。しかし、これがアダとなってネオワイズ彗星を見失ってしまいます。再導入しようとしているうちに北西の空には雲がどんどん湧いてきて星が全く見えなくなりました。

やっと雲越しに星がちらちら見えてきた時には20:40を回ってネオワイズ彗星は高度12度。その後だんだん雲が薄くなって星が見えてはきたのですが、霞んだ空が街の灯りで照らされて、低空はほとんど星が見えません。5cm ファインダーでも見つけることができず、彗星の高度が10度を切った21:00過ぎにギブアップ。

結局、彗星らしい姿を捉えられたのは最初の試し撮りの1枚だけでした。

C/2020 F3 (NEOWISE) ネオワイズ彗星 (2020/7/19 19:45)
C/2020 F3 (NEOWISE) ネオワイズ彗星 (2020/7/19 19:45)
ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0 (71mm F2.0) / ケンコー スカイメモS, ノータッチ / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) / 露出 5.0秒 / Lightroom CC で画像処理、トリミング

写真の向きは北が右です。フルサイズ換算200mm相当の画角なので、本来なら画面からはみ出すぐらいに尾が出てるはずなんですが、薄明と雲のせいで露出時間が伸ばせず、淡い尾は全然写りませんでした。なんか「ネオワイズ彗星の写真ヘタクソ選手権」とかあったらエントリーできそうな出来ですね…

関東の天気は明日からまた下り坂。残念ですがネオワイズ彗星とはこれっきりになりそうです。SNS やブログで素晴らしい写真の数々を見てきた身としてはかなりがっかりなんですが、遠征しない引きこもり天文家の限界ですかね… まあ、ヘタクソでも撮れただけラッキーだったと思うことにします。

NHK『コズミック フロント☆NEXT』で KAGAYA さんの機材をチェック

7月16日放送のNHK BSP『コズミック フロント☆NEXT』は「スターゲイザー 星空の冒険者たち」と題して世界の天文関係者を紹介する番組でした。この回に天文ファンにはおなじみの映像作家 KAGAYA さんが登場するということで見てみました。

番組で紹介されたのはスティーブン・オメーラさん(眼視観測の達人)、KAGAYA さん、高橋製作所、ゲナティ・ボリソフさん(ボリソフ彗星の発見者)。KAGAYA さんの出番は15分程でした。

KAGAYA さんについてはその仕事ぶりもさることながら、天文ファンとしては使用機材も気になるところ。ということで番組中に出てきた機材をチェックしてみました。

KAGAYA パートの冒頭、スカイツリー新月前の細い月のコラボを狙ってずらりと並んだ機材。カメラが素早くパンして機材の詳細はよくわからないのですが、それでもひと目見て異様なシルエットのレンズが…

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画面右端に見える緑色の巨大なレンズ、SIGMA APO 200-500mm F2.8 / 400-1000mm F5.6 EX DG じゃないですか!?なんでこんなの持ってるの!?

知らない人が見たらシュミカセか何かかと思われるでしょうが、れっきとした屈折式のレンズです。最大径23.6cm、全長72.6cm、重量15.7kg という他に類を見ない巨大なレンズで、SIGMA の山木社長も「作ってみてびっくり」*1 のキワモノレンズです。

気を取り直してその隣に設置していた機材。

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天体望遠鏡とのことですが、接眼部のロゴを見た感じ BORG の鏡筒でしょうか。カメラは α7R IV のようです。

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こちらのレンズは FE 70-200mm F2.8 GM OSS でしょうか。ボディーはα7系と思われますがよくわかりません。

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バックに見えているのは先程の SIGMA APO 200-500mm F2.8 / 400-1000mm F5.6 EX DG ですが、ここは KAGAYA さんの額のヘッドライトに注目。

後のシーンでも着用していて、愛用品と思われますがアウトドア用品には疎くて自力では特定できず、Twitter で気になるーって言ってたら親切な方が教えてくれました。Petzl の e+LITE というモデル、それも旧型(おそらくE02 P3)のようです。

KAGAYA さんのは赤いスイッチでバンドが細い紐のモデルですが、新型(2017年モデル)の E02 P4 はスイッチが白でバンドが平たいラバーバンドです。新型の方が明るいのですが、電池の持ちが短くなっているそうで*2 それで旧型を使い続けているのかもしれません。

ところ変わって KAGAYA さんの仕事場。

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仕事部屋の上にロフトがあるのですが、Vixen AP赤道儀(赤緯モーター付き)が置いてあるのが見えます。

そして仕事部屋のデスク。

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モニターが6面!手前の2つはキーボードとマウスが別に付いているのでサブマシンでしょうか。

それはともかくガラスのデスクに置いてあるグラスの下の方に注目。天文年鑑が見えますね。銀色の表紙は2018年版と思われます。KAGAYA さんは古い天文年鑑を捨てられないタイプなのかも。*3

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メインマシンのマウスは MX Master 3 のようです。ロジクールのマウスの最上位機種ですね。

ここで KAGAYA さんの少年時代の話になって、高校時代の写真が。

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なにやら見おぼえのある赤道儀… ミザール AR-1 赤道儀でしょうか?モータードライブがなくガイド鏡を載せているので手動ガイドで撮っていたんでしょうね。すごい。

KAGAYA さんの Twitter を検索してみるとやはり AR-1 でした。

僕も子供の頃ビクセンかミザールかタカハシかで悩んでいたものでした。結局ビクセンにしたのですけど…

ところ変わって機材置き場にて一番よく使うレンズを見せてくれる KAGAYA さん。

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明るい広角レンズで天の川を撮るのに使うとのこと。SIGMA Art 14mm F1.8 DG HSM でしょうか?レンズには白い(蓄光?)シールが割符のように貼ってあります。暗いところでレンズ装着時の位置合わせがしやすいようにする工夫でしょうか。

よく見るとレンズとボディーの間にマウントコンバーターらしきものが挟まっています。MOUNT CONVERTER MC-11 でしょうか?このレンズは SONY Eマウント用もあるのですが、どうも Canon FE マウント用を MC-11 CANON EF-E 経由で使っているようです。

夜になって仕事部屋の上のロフトのベランダで月を撮影する KAGAYA さん。

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どういうわけかAP赤道儀を普通の三脚ではなくSXGハーフピラーデスクトップ脚を組み合わせた超低い脚に載せて、寝転がって撮影しています。何故?ベランダの天井が低いとか?

鏡筒は BORG ですね。107FL天体鏡筒セットCR あたりでしょうか。*4

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カメラは冒頭でも出てきた α7R IV、BORG の1.4倍テレコンも使っています。

最後はベテルギウスの減光でちょっと趣の変わったオリオン座を撮りに山梨まで遠征した KAGAYA さん。遠征機材は…

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SWAT ですね。それもフル装備*5の。よく見ると銘板に V-spec の文字が… どうやら SWAT の最上位機種 SWAT-350V-spec のようです。

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三脚は Vixen APP-TL130三脚 でしょうか。

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SONY のレンズに緑ラインの白レンズなんてあったっけ?と思ったら Canon のレンズですね。EF400mm F4 DO IS II USM と思われます。

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ボディーはやはり α7R IV なので SIGMA MOUNT CONVERTER MC-11 EF-E で接続しているものと思われます。MC-11 での純正EFレンズの接続は動作保証外ですが、天体撮影で手ブレ補正もAFも不要だから使えているということなのかも。

というわけで KAGAYA さん愛用の機材を見てきました。全体的に作品作りのためには投資を惜しまない攻めの姿勢が伺えます。そう言えばスカイツリーと月のシーンで KAGAYA さんはこう言っていました。

二度と同じ繰り返しのない一瞬なので、失敗するとものすごく後悔するんですね。自分で対応ができなかった時は。ですのでその瞬間っていうのは本当に自分の全能力を使って失敗がないように、気を配って、見逃さないようにしております。

番組の取材は今年の1月下旬のようで、先日の大火球撮影に関連する話は出てこなかったのですが、そのへんについては三菱電機 DSPACEの記事「KAGAYAさんは、なぜ真夜中の大火球を捉えることができたのか」に詳しく載っています。

7月2日未明の大火球の動画を見た時は「え?KAGAYA さんなんでこんな曇り空撮ってたの?」とびっくりしたのですが、例のロフトのベランダに2年前から火球監視用のカメラが仕掛けてあって常時全天を撮影していたというのです。

決定的瞬間を見逃さないために全力を尽くす。そんな KAGAYA さんの姿勢を見習いたいものです。

とはいえ、今回の大火球といい、7年前のラヴジョイ彗星と流星(+流星痕)といい、努力してなければ絶対撮れないけど努力してるからといって誰でも撮れるものではない、というレベルのスーパーショットを繰り返してるところを見ると、なんというか「天に愛されてる人」なんだろうなぁ…

*1:デジカメ Watch【PMA07】“キワモノ"が写真を変える」より

*2:Petzl e+lite E02P4 /ペツル イーライト 2017年モデル - 和田哲哉 -LowPowerStation- より

*3:僕も捨てられないタイプです…

*4:中川光学研究室ブログのこの記事によると、やはり BORG 107FL のようです。シュミットでお買上げとのこと。

*5:オプションは極軸微動ユニット、マルチ赤緯ブラケット、回転ユニット、アルカスイスキャッチャー、ウェイトシャフト、バランスウェイト、極軸望遠鏡が確認できました。

木星の自転を止めて撮るには?

天リフを見ていて天下一画像処理会でご一緒した(?)木人さんのブログのこの記事が目に留まりました。

木星を撮影する時に動画1本(一度にスタックする単位)をどのくらい時間までかけてよいのか?という話です。木星は自転が速いため、フレーム数を稼ごうと一本の動画の撮影にあまり長い時間かけてしまうとスタックした結果がブレたようになってしまいます。ではどのくらいなら大丈夫なのか?

木人さんの記事ではドーズの限界を基準に撮影時間を決める方法を紹介しつつ、実際に画像処理するとドーズの限界を越えて解像してしまうので、もっと厳しく見積もる方がよいのでは?としています。具体的にはドーズの限界を基準にすると口径20cmなら2分が目安となるところ、90秒くらいがよさそう、ということです。

ドーズの限界を基準にするのは2年ほど前に天文誌の記事でも見たことがあったのですが、本当にそれでいいのか?という疑問がありました。というのは、8cm 屈折で3分間隔で撮った木星をタイムラプス動画を1フレームずつ見るとフレーム単位で自転が認識できてしまうからです。

https://rna.sakura.ne.jp/share/22_23_26_lapl4_ap50_Drizzle15-2.gif

8cm ならドーズの限界は1.45秒、3分間に木星面の中心にある模様が動く距離は約0.72秒です。*1 ということは、ドーズの限界の半分程度の移動距離でもスタックすればブレた像に見えるはずなのです。

そもそもドーズの限界というのは二重星がある程度綺麗に分離して見える距離で、これより近いからといって一つの星に見えるわけではなく、実際にはダルマ状または長円状の星像として見えるわけですから、スタックしてブレて見えない基準としては緩すぎるのではないでしょうか。

では何を基準にすればいいかというとよくわからないのですが… とりあえずドーズの限界の半分以下にはしたいということで、自分は口径18cmで1/60秒露出で3000フレーム(50秒)で撮るようにしています。

木人さんの記事にもあるように、少々の位置ずれはスタックの際の歪み補正で修正されてしまうはずなのでそこまで神経質にならなくてもよいのかもしれません。でも経験上1/60秒露出で5000フレーム(83秒)で撮ったものは微妙にブレてるように見えるんですよね。気のせいかもしれませんが…

*1:木星の自転周期は 9時間55.5分(= 595.5分)、一分間あたりの回転角は 360度/595.5分 = 0.61(度/分)、木星面の中心の点が3分間に移動する距離は、木星の視直径を45秒とすると、(45秒 / 2) * sin(3 * 0.61度) = 0.72秒。

金星とアルデバラン (2020/7/11)

ネオワイズ彗星(C/2020 F3 (NEOWISE))が話題ですね。

https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2020/07-topics05.html

7月11日未明、ネオワイズ彗星を撮ろうと2:00過ぎからマンションの最上階の廊下でスタンバっていたのですが、横浜からだと北東方向の雲が全然切れず、3:15頃まで粘りましたが、目印のカペラすら一度も見ることなく終わってしまいました。

東の空は時折雲が途切れて金星がよく見えていました。あの晴れ間がこっちに来てくれれば!と思いながら撮ったのがこの写真。

金星とアルデバラン (2020/7/11 02:40)
金星とアルデバラン (2020/7/11 02:40)
ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0 (71mm F2.0) / ミザールテック K型微動マウント(固定撮影) / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO400, RAW) / 露出 2.0秒 / Lightroom CC で画像処理、トリミング

明るく雲を照らしている星が金星、金星のやや右斜め下に見える赤っぽい星がアルデバランです。

アルデバランは肉眼ではほとんど見えていなかったのですが、写真には写っていました。そういうこともあるので北東方向の写真も念の為撮っていたのですが雲しか写っていませんでした。

部分日食 (2020/6/21)

6月21日は部分日食の日。横浜からもそこそこ欠けた太陽が見えるはず、なのですが天気は曇り。でも雲の隙間から垣間見えるのを期待して15:40からマンションの廊下にスタンバイ。数秒から30秒程度ですが何度か雲の隙間から欠けた太陽を撮ることができました。17:20以降は空が厚い雲に覆われてこれ以上は無理ということで17:30に撤収しました。

flickr のアルバムにまとめましたので欠けていく様子をご覧ください。

【注意!】 太陽の観察・撮影には専用の機材が必要です。専用の機材があっても些細なミスや不注意が失明や火災などの重大な事故につながる危険性があります。未経験の方は専門家の指導の元で観察・撮影してください。

部分日食 (2020/6/21)
部分日食 (2020/6/21)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12), Kenko PRO ND-100000 77mm / ミザール K型微動マウント(固定撮影) / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200〜3200, RAW) 露出 1/60〜1/4s / Lightroom CC で画像処理

最大食分は17:10頃だったのですが雲の向こうで見逃しました。17:13のショットが一番欠けていますが残念ながら半分雲に隠れて全体が写っていません。それでも爪のように尖った太陽の姿はなかなかのものでした。

次に横浜から見られる日食は2030年の部分日食。2035年皆既日食は皆既帯から外れているのですが、遠征するべきか?ってその頃はもう高齢者になっていますね… 遠征できる元気があるといいのですが。

木星、土星、火星 (2020/6/16)

6月16日の深夜に惑星を撮影しました。平日ですが梅雨の間の貴重な晴れ間なので頑張って撮りました。その甲斐があって途中トラブルはありましたが良い写真が撮れました。翌日昼休みに横になったらそのまま夕方まで寝てしまいましたが…

今回は気合を入れてLRGB撮影です。ガイドスコープに付けっぱなしだった ASI290MM を久しぶりに使いました。鏡筒をベランダに出して温度順応させながらドリフトアライメントで極軸を合わせたのですが、星の揺れがいつになく小さかったので好シーイングを期待しつつ0:30頃から撮影開始。

1:30頃まで撮って画像処理をしてみるとL画像にゴミのような謎のノイズが浮いてきて使い物になりません。しかしRGBの方は何ともありません。フィルターにゴミが付いているのか?と思ってモノクロカメラからUV/IRカットフィルターを外して再撮影しました。

前半で撮った画像はノイズのことは抜きにしてもボケボケで期待はずれだったのですが、後半戦は打って変わって細部までよく写りました。ベスト記録更新と言ってもいい写り。画像処理にも気合が入り、WinJUPOS の de-rotatin も入ってフルコース。

まずは木星

木星 (2020/6/17 02:25)
木星 (2020/6/17 02:25)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25"(RGB), ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 217), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 296) / 露出 1/60s x 1500/3000コマをスタック処理 x6 (L:3, RGB:3) を de-rotation してLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 11.1.5, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC 2020, Lightroom Classic CC で画像処理

北赤道縞の複雑な模様がよく解像しています。赤道帯もずいぶん荒れて?います。大赤斑が見えない時間帯だったのが惜しまれます。前半戦ではギリギリ大赤斑が見えていたのですが… それでもここまで模様の入り組んだ木星面を撮ったのは始めてなので興奮しました。

次は土星

土星 (2020/6/17 02:41)
土星 (2020/6/17 02:41)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25"(RGB), ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 217), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 296) / 露出 1/30s x 1500/3000コマをスタック処理 x4 (L:2, RGB:2) を de-rotation してLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 11.1.5, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC 2020, Lightroom Classic CC で画像処理

北半球の縞模様が細いものまでよく見えています。カッシーニの間隙も一応全周見えています。輪の開きは2017年がピークであれからだいぶ小さくなりました。2025年には輪を真横から見る形になって、見かけ上輪が消失します。

https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2020/07-topics03.html

土星の de-rotation は輪の部分に土星本体の影が写り込んでしまったりしていまいち信用していないのですが、この写真でも少しそれが見えますね。他の人の写真では見たことがないので何かを間違えているのだと思うのですが…

最後はまだ小さな火星です。

火星 (2020/6/17 02:56)
火星 (2020/6/17 02:56)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25"(RGB), ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 217), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 296) / 露出 1/125s x 2500/5000コマをスタック処理 x4 (L:2, RGB:2) を de-rotation してLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 11.1.5, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC 2020, Lightroom Classic CC で画像処理

先週の写真と比べると驚くほど細かい模様が写っています。とはいえちょっとLを強調しすぎたかも。ちょっとどこがどこだか地図を見てもよくわかりませんでした。

話は変わって前半戦の「ゴミみたいなノイズ」について。フィルターの汚れかと思っていたのですが、どうもよくわかりません。フィルターのゴミなら同じ場所に同じ影が写るはずですが、センサー面のあちこちで撮ったにも関わらず決まって惑星像の縁の近くにノイズが出てきます。おせんべいの端にあるヒビみたいに見えるので「おせんべいノイズ」と名付けました。

具体的にはこのようなものです。wavelet は弱めにかけてあります。

「おせんべいノイズ」の例 (木星)
「おせんべいノイズ」の例 (木星)

不思議なことにRGB画像の方では全く見られませんでした。シーイングが悪かったり筒内気流で像が歪んだりが原因ならRGBの方も同様のノイズが出てもいいはずなのですが…

AutoStakkert!3 の継ぎ目ノイズの可能性も考えましたがやはりRGB画像に出てないのが不可解だし、丸い水滴の跡のようなノイズが出るのは継ぎ目ノイズにしては不自然な気がします。APはサイズ104を自動配置で80個です。

ちなみに土星だと輪が欠けたような写りになります。

「おせんべいノイズ」の例 (土星)
「おせんべいノイズ」の例 (土星)

一体なんなんでしょうね?フィルターは目視で裏表確認したのですが、特に汚れは見つかりませんでした。

というわけで謎は残りましたが、諦めずに取り続けたおかげでベストショットが撮れました。次は大赤斑が見える時にこのくらいの結果を出したいです。

天下一画像処理会 : 惑星の部 応募作品解説

あらまし

天文系VTuberけむけむさん主催の「天下一画像処理会 : 惑星の部」に応募しました。天下一画像処理会はけむけむさんが用意した同じ生データを参加者が各々工夫して画像処理した結果を持ち寄ってけむけむさんが動画にまとめるという企画です。

発表動画はこちらで見られます。

画像処理手順が出てきますが、1画面にまとめるという制約があるため概略のみとなっています。そこでこのエントリで詳細を解説することにしました。

自己紹介

https://rna.sakura.ne.jp/share/tenkaichi-planet-nanba-20200607-01.jpg

名前: なんばりょうすけ
Twitter: @rna
Hatena: id:rna
ブログ: https://rna.hatenablog.com/

横浜の自宅から天体撮影をしているアラフィフおじさん。
DSO、惑星、月、太陽(可視光)、彗星、なんでも撮ります(ベランダから撮れる範囲で)。

生データ

第2回の今回は木星土星の動画(カラーのみ)を処理する回でした。生データの動画は以下の3つ。

  • 木星(小): 8 bits RAW, 3000 frames
  • 木星(大): 8 bits RAW, 3005 frames
  • 土星(大): 8 bits RAW, 3001 frames

撮影機材については説明がなかったのですが、こちらの動画を見たところ、鏡筒は GS-200RC(1600mm F8) で、小は2倍バロー、大は2倍バローと2倍テレコンの二段重ねでしょうか。カメラは生データについてきたカメラ設定の記録によると ASI385MC です。

それにしてもこの木星の模様、なんか見覚えがあるような… と思ったら、撮影日時は 2018年4月28日深夜の木星でした。そう、同じ日に僕も木星を撮っていたのです。

当時はまだ μ-180C が届いてなくて 8cm 屈折(BLANCA-80EDT)で撮っていたのですが、この日は好条件で 8cm 屈折による木星のベストショットが撮れました。この時の画像は後に再処理してこうなりました。


処理手順

処理手順の概要を図解したものが以下になります。

https://rna.sakura.ne.jp/share/tenkaichi-planet-nanba-20200607-02.jpg

生データがカラー動画なので、去年から始めた「セルフLRGB合成」で処理しました。元画像から擬似L画像を作って、元画像とは別に画像処理して最後にLRGB合成して仕上げます。

ポイントは以下の通り。

  • AS!3ではフレームを多め(1500〜2000フレーム)にスタック(ノイズ抑制)
  • RS6では
    • Use Linked Wavelets を ON (ディテール炙り出し)
    • De-ringing 使用(惑星の縁が明るくなる現象を抑制)
  • カラー画像の Wavelet 処理は弱めに(カラーノイズ抑制)

以下各処理について解説します。画像毎の処理パラメータの詳細は処理結果の章にまとめます。

前処理

最初 AutoStakkert!3 (AS!3)にそのまま生データの動画を入力したのですが、木星(大)の動画で Analyse すると破損フレームがベストフレームに選ばれてしまうというアクシデントが発生しました。破損フレームというのはこれです。

https://rna.sakura.ne.jp/share/Jupiter-004_Bilinear_F_00001364.png

このままスタックするとマズいことになりそうなので木星(大)の動画は TMPGEnc Video Mastering Works 5 (TVMW5) でカット編集して破損フレームを除去し、非圧縮AVIでエンコードしたものを AS!3 に入力しました。

TVMW5 の出力のコーデックは 24 bits RGB(RV24) でしたが、デベイヤーされるわけではないので実質モノクロです。AS!3 に入力するとベイヤーパターンは自動認識で正しく設定されました。

スタック

AS!3 で普通にスタックします。動画は各1本のみで de-rotation スタックできないので、フレーム数は多めにします(1500〜2000フレーム)。

木星(大)の AP Size は最初は64に設定していたのですが、継ぎ目破綻らしきノイズが発生したので AP Size 104でやり直しました。AP の配置は全部自動配置です。

大気色分散はぱっと見目立たないようでしたが、ADC を使っていないようだったので RGB Align は ON にしておきました。

疑似L画像生成

スタック結果の画像(RGB画像)から Photoshop (PS) で擬似L画像を作ります。疑似L画像を作る目的は、カラーノイズを避けて強い wavelet 処理をかけるためです。カラー画像で強い wavelet 処理をかけようとするとカラーノイズが目立ってしまって、あまり強調できませんが、モノクロ化した画像ならより強い処理に耐えられます。

Photoshop での処理手順は以下の通りです。

  • Lab カラーモードに設定 [イメージ - モード - Lab カラー]
  • チャンネル一覧で L チャンネルのみ選択された状態にする
  • グレースケールモードに設定 [イメージ - モード - グレースケール]
  • TIFFで保存 [ファイル - 別名で保存]

ここで画像の保存に「書き出し」を使ってはいけません。「書き出し」は PNG 等の非圧縮形式に等倍で出力する場合でも再サンプリングがかかるようで、書き出した画像を wavelet 処理するとモアレのようなノイズが浮いてきて使い物になりません。

wavelet 処理

wavelet 処理には RegiStax 6 (RS6) を使います。RGB画像と疑似L画像はそれぞれ別のパラメータで処理します。RGB画像は弱めに、疑似L画像は強めに wavelet をかけます。

原因はよくわかりませんが、RS6 に同じような露出の画像を読み込んでも、特定の画像だけやたら画像が明るくなることがあります。そのまま wavelet 処理すると白飛びが発生しがちなので、そういう時は Contrast を落として処理します。

ポイントは Use Linked Wavelets を ON にすることです。これによってディテールをより浮かび上がらせることができます。実はどういう原理なのかよくわかっていないのですが…

Linked Wavelets は wavelet を強くするとノイズも強烈に浮いてくるのですが、これを Denoise で抑え込む形でバランスをとっていくのが基本です。いまいち直感的に理解できない挙動があり、慣れないと扱いにくいのも事実です。

wavelet を強くかけると惑星の縁が明るくなってしまって立体感が損なわれる副作用が出てきますが、これを抑えるために De-ringing 機能を使います。Dark と Bright を ON にして、Bright を上げていくとコントラストが強い部分のギラつきが和らぎます。縁に限らず惑星面の模様も影響を受けるので考えものなのですが、見映え重視で使っています。

また、wavelet 処理の影響で惑星周辺がうっすら明るくなったり、画像の端に出るノイズが強調されてしまったりするのを抑制するために Mask 機能も使っています。このあたりはあまりよくわかってなくて、今のところデフォルト設定で Low を上げるだけです。

ちなみに RS6 のバグなのか、Mask 機能を使用したまま別の画像を開くと wavelet 処理がかからなくなったりすることがあります。Use Mask や Toggle を ON/OFF してるうちに直ったりもするのですが、ややこしいので RS6 を再起動してやり直しています。

RGB画像では RGB Balance 機能でカラーバランスを調整します。Auto でいい感じになるので、いつも Auto で設定して仕上げで微調整しています。Photoshop 等でイチから調整するよりはずっと楽なので使っておくのがよいと思います。

LRGB 合成

wavelet 処理したRGB画像と疑似L画像はそれぞれ PS に読み込んで以下のような手順で合成します。

疑似L(wavelet):

  • Lab カラーモードに設定
  • チャンネル一覧でLチャンネルを選択
  • 全選択してコピー

RGB(wavelet):

  • Lab カラーモードに設定
  • チャンネル一覧でLチャンネルを選択
  • ペースト

あとは RGB(wavelet) 画像の方に仕上げ処理を施します。明るさを調整して彩度を上げてトーンカーブで模様の少しコントラストを調整して完成です。

処理結果とパラメータ詳細

木星(小)

木星、イオ、エウロパ (2018/4/29 01:28) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)
木星、イオ、エウロパ (2018/4/29 01:28) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)

AS!3 設定
  • Image Stabilization: Planet(COG)
  • Quality Estimator: Laplace Δ: ON, Noise Robust 4, Normal range: Local (AP)
  • Reference Frame: Double Stack Reference: OFF, Auto size (quality based): ON
  • RGB Align: ON
  • AP Size: 64 AUTO (19APs)
  • Number of frames to stack: 1500
RS6 設定

疑似L:

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
    • L1: Denoise: 0.06, Sharpen: 0.100, 22.0
    • L2: Denoise: 0.07, Sharpen: 0.100, 2.4
    • L3: Denoise: 0.05, Sharpen: 0.100, 1.1
  • De-ringing: Dark side: 10, Bright side: 10
  • Mask: Low: 6, Hight: 255, Radius: 2, Feather: 5, Method: Lo-Hi Intensity
PS 仕上げ

木星(大)

木星、エウロパ (2018/4/29 01:40) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)
木星エウロパ (2018/4/29 01:40) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)

AS!3 設定
  • Image Stabilization: Planet(COG)
  • Quality Estimator: Laplace Δ: ON, Noise Robust 4, Normal range: Local (AP)
  • Reference Frame: Double Stack Reference: OFF, Auto size (quality based): ON
  • RGB Align: ON
  • AP Size: 104 AUTO (30APs)
  • Number of frames to stack: 2000
RS6 設定

疑似L:

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
    • L1: Denoise: 0.16, Sharpen: 0.100, 35.5
    • L2: Denoise: 0.10, Sharpen: 0.100, 14.0
    • L3: Denoise: 0.05, Sharpen: 0.100, 1.8
  • De-ringing: Dark side: 10, Bright side: 105
  • Mask: Low: 10, Hight: 255, Radius: 2, Feather: 5, Method: Lo-Hi Intensity
  • Contrast: 75
  • Brightness: 0

RGB:

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
    • L1: Denoise: 0.16, Sharpen: 0.100, 24.5
    • L2: Denoise: 0.10, Sharpen: 0.100, 8.5
    • L3: Denoise: 0.05, Sharpen: 0.100, 1.1
  • De-ringing: Dark side: 10, Bright side: 105
  • Mask: Low: 10, Hight: 255, Radius: 2, Feather: 5, Method: Lo-Hi Intensity
  • RGB Balance: Auto balance (Red: 1.02, Green: 0.90, Blue: 2.19)
  • Contrast: 75
  • Brightness: 0
PS 仕上げ

土星

土星 (2018/4/29 03:09) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)
土星 (2018/4/29 03:09) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)

AS!3 設定
  • Image Stabilization: Planet(COG)
  • Quality Estimator: Laplace Δ: ON, Noise Robust 4, Normal range: Local (AP)
  • Reference Frame: Double Stack Reference: OFF, Auto size (quality based): ON
  • RGB Align: ON
  • AP Size: 104 AUTO (13APs)
  • Number of frames to stack: 2000
RS6 設定

疑似L:

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
    • L1: Denoise: 0.15, Sharpen: 0.100, 35.5
    • L2: Denoise: 0.10, Sharpen: 0.100, 8.5
    • L3: Denoise: 0.05, Sharpen: 0.100, 1.8
  • De-ringing: Dark side: 10, Bright side: 55
  • Mask: Low: 10, Hight: 255, Radius: 2, Feather: 5, Method: Lo-Hi Intensity
  • Contrast: 100
  • Brightness: 0

RGB:

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
    • L1: Denoise: 0.16, Sharpen: 0.100, 24.5
    • L2: Denoise: 0.10, Sharpen: 0.100, 7.3
    • L3: Denoise: 0.05, Sharpen: 0.100, 1.1
  • De-ringing: Dark side: 10, Bright side: 55
  • Mask: Low: 10, Hight: 255, Radius: 2, Feather: 5, Method: Lo-Hi Intensity
  • RGB Balance: Auto balance (Red: 0.94, Green: 0.92, Blue: 2.53)
  • Contrast: 100
  • Brightness: 0
PS 仕上げ
  • ノイズを軽減: 強さ:6, ディテールを保持:50, カラーノイズを軽減: 0, ディテールをシャープに: 50
  • 色相・彩度: 色相: -3, 彩度: +30, 明度: 0
  • 明るさ・コントラスト: 明るさ: 20, コントラスト: 0
  • トーンカーブ: ごくわずかにS字型にしてコントラストアップ。

おまけ: 土星と衛星

土星の画像ですが、Stellarium で当日の衛星の位置を確認すると、写野内に衛星が5つありました。レア、ディオネ、テティスエンケラドゥス、ミマスの5つです。ひょっとして写っているのではと思い、疑似L画像を wavelet でガンガン攻めて衛星を炙り出してみました。

土星の衛星 (2018/4/29 03:09) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)
土星の衛星 (2018/4/29 03:09) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)

RS6 のパラメータは以下の通り。

  • Waveletscheme: Linear
  • Initial Layer: 2
  • Step Increment: 0
  • Wavelet filter: Gaussian
  • Use Linked Wavelets: ON
    • L1: Denoise: 0.20, Sharpen: 0.100, 70.5
    • L2: Denoise: 0.20, Sharpen: 0.100, 62.5
    • L3: Denoise: 0.20, Sharpen: 0.100, 51.5
    • L4: Denoise: 0.25, Sharpen: 0.100, 35.5
    • L5: Denoise: 0.15, Sharpen: 0.100, 2.4
  • De-ringing: Dark side: 10, Bright side: 55
  • Mask: Low: 4, Hight: 255, Radius: 4, Feather: 5, Method: Lo-Hi Intensity
  • Contrast: 100
  • Brightness: 0

残念ながら土星の輪のすぐそばにいたミマスは輪から溢れた光に埋もれてしまいましたが、残りの4つの衛星は確認できました。これを土星の処理結果と合成してみました。

土星と衛星 (2018/4/29 01:40) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)
土星と衛星 (2018/4/29 01:40) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)

土星と衛星 (キャプション付き) (2018/4/29 01:40) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)
土星と衛星 (キャプション付き) (2018/4/29 01:40) (撮影:けむけむ、画像処理:なんば)

エンケラドゥスが確認できない方はモニターを掃除して部屋の灯りを消してご覧ください…

むすび

一枚の惑星写真ができる過程には様々な要素が絡み合ってきます。シーイング、筒内気流、ピント、光軸、拡大光学系、ADC、カメラのノイズ、画像処理、等々。そのため、他人の写真と比較した時に、違いがどこにあるのか絞り込むのは簡単ではありません。特定の要素のみ変えて、他の要素を揃えて比較するということが簡単にはできないからです。

でも画像処理については、同じ生データを使えば画像処理以外の要素を完全に揃えられるので比較が可能です。とはいえ、他人の生データを触る機会なんて通常ありません。貴重な機会を用意してくださったけむけむさん、本当にありがとうございます!

みなさんの処理結果と比べることで、課題も見えてきました。解像感のある表現という点では一定の水準に達したかなと思っているのですが、de-ringing の影響なのか不自然な点があるのに気が付きました。

具体的には、惑星の縁に近い部分で解像感が急に落ちたり、土星の輪が少し削られたようになったり、という点です。de-ringing はどうも思ったように調整できないのですが、もっと詰めていきたいと思います。

そして今年は画像処理以外のところでも改善すべき点を見つけていって、ベストな状態で火星の最接近を迎えたいと思います。