Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

遠方銀河のアノテーション用ツールを作成しました(距離表示付き)

先日、遠方の銀河の距離の調べ方について書きましたが、

これをなんとか自動化してアノテーション付き画像まで生成するツールを作りました。github で公開しています。

v0.5 のダウンロードはこちらから。

手順としては、元画像を用意して、

  1. astrometry.net に元画像をアップロードしてプレートソルブを行って wcs.fits (結果画像表示ページの右側にリンクがあります)をダウンロードする。
  2. 1 で得た wcs.fits から写野の範囲を取得し HyperLeda の SQL 機能で写野にある銀河のデータ(VOTABLE形式のXMLファイル)をまとめてダウンロードする。
  3. 2 で得たXMLファイルからアノテーション用データ(JSONファイル)を生成する。
    • オプションで視線速度データから距離を計算して説明文に追加する。
    • オプションで指定した等級より明るい銀河だけ抽出する。
  4. 3 で得たJSONファイル、スタイル設定ファイル、wcs.fits、元画像、からアノテーション付きの画像(SVGファイル)を生成する。
  5. 4 で得たSVGファイルをSVGエディタ(Incscape)で微調整し、PNGでエクスポート。
  6. 5 で得たPNGファイルを任意の画像編集ツールでJPEGに変換。

今回作ったのは 2〜4 を自動処理するスクリプトです。各ステップで中間ファイルを作るので、何か手違いがあっても前のステップに戻らずにやりなおせます。

手順や仕様の詳細は github の README.md を参照してください。

使用例を以下に。字が小さいので画像をクリックして拡大画像を見てください。

M64 (2021/5/3 21:42) (17.5等までの銀河をアノテーション)
M64 (2021/5/3 21:42) (17.5等までの銀河をアノテーション)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ZWO ASI290MC + PHD2 2.6.9dev4 による自動ガイド/ ZWO ASI290MM (ゲイン80) / 露出 2分 x 40コマ 総露出時間 80分 / DeepSkyStacker 4.2.2, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理, GalaxyAnnotator v0.5 でアノテーション処理.

M64(NGC4826)の写真です。データ上には18等台の銀河もありましたが、写真では確認できなかったので17.5等まで絞り込んであります。最遠で22億光年の銀河(PGC1656969)が写ってますね。いや、マルで囲むとあるように見えますが、本当に写ってるのかなこれ…

しし座4重銀河(NGC3189, NGC3193, NGC3187, NGC3185) (2021/3/14 20:45) (17等までの銀河をアノテーション)
しし座4重銀河(NGC3189, NGC3193, NGC3187, NGC3185) (2021/3/14 20:45) (17等までの銀河をアノテーション)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MC + PHD2 2.6.9 による自動ガイド/ ASI290MM (ゲイン75) / 露出 2分 x 60コマ 総露出時間 2時間 / DeepSkyStacker 4.2.2, Photoshop 2021, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理, GalaxyAnnotator v0.5 でアノテーション処理.

3月に撮った「しし座4重銀河」です。

以前の記事ではトリミングしていた部分も見てみました。なんと29億光年の銀河(2MASXJ10173306+2139538(PGC3753586))が写っている!?でも正直ノイズっぽいような… 27億光年の銀河(PGC1660919)も写っていて、これは確かに写っている?

ちなみに距離表示は赤方偏移データのみから計算しているため、メインの被写体(NGC3189, NGC3193, NGC3187, NGC3185)のように比較的近い銀河については精度が低いです。

NGC4302, NGC4298 (2021/3/14 23:01) (17等までの銀河をアノテーション)
NGC4302, NGC4298 (2021/3/14 23:01) (17等までの銀河をアノテーション)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MC + PHD2 2.6.9 による自動ガイド / ASI290MM (ゲイン75) / 露出 2分 x 60コマ 総露出時間 2時間 / DeepSkyStacker 4.2.2, Photoshop 2021, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理, GalaxyAnnotator v0.5 でアノテーション処理.

20億光年の 2MASXJ12215059+1425578(PGC3787372) は写ってる気がしたので残したのですが、今見ると写ってない気が… 14億光年の PGC169089 も位置が少しズレてるようですが、近くに恒星もないのでこれはたぶん写っていると思います。

というわけで、個人的にはこの結果に満足しているのですが、他人の環境でちゃんと動くのかよくわかりませんので、何かあったら github に Issue を投げてください。軽い質問などはこのエントリのコメント欄でもいいです。

今回、天文計算ライブラリが一番充実している、という理由で初めて Pythonスクリプトを書きました。手慣れた RubyJavaScript で書きたかったのですが、Python の astropy に匹敵するライブラリがなくて…

Python は他人の書いたスクリプトを少しだけ手直しして使ったことはありますが、ほぼ初心者の状態から始めたので色々変なところがあるかもしれません。開発・実行環境は Anaconda を使いました。科学技術計算系のライブラリが最初からたくさん入っているので使いやすいです。

出力が SVG で、これは作りやすいしブラウザでも一応見れるので便利ですが、それ以外の編集ツールがこなれてなくて、事実上 Inkscape 以外では扱えないかも… GIMPPhotoshop もインポート機能はあるものの正しく読み込むことができませんでした。単体で PNG に出力できるようにしたかったのですが、よさそうなライブラリが Anaconda でうまくインストールできませんでした…

Python の環境を作らないと距離もわからないというのも不便なので、ブラウザで動く Greasemonkey スクリプトも作っています。WIKISKY.ORG で見つけた銀河の距離を表示するというもの。これについてはまた後ほど紹介します。

遠方の銀河の距離について

5月4日の黒眼銀河のエントリで18等星まで写ってるとドヤってた写真、遠方の銀河と思われる小さな像も写っています。アノテーションを付けた拡大画像の範囲だと PGC1651721 という銀河が写っています。

https://rna.sakura.ne.jp/share/M64-20210503-16bit-stretch-wavelet-3-2-cut.jpg

右下の方の黄色い楕円で囲ってあるのがそれです。*1

これだけ暗くて小さな銀河だと何億光年も離れているのでは… と思って調べていたら深みにはまってしまいました。

正直、HIROPONさん(id:hp2)が以前やってたみたいに、○○億光年先の銀河が写った!って言ってみたかっただけなのですが、実はこの「○○億光年先」というのが一筋縄ではいかないヤツでした。

これらのうち、NGC1072はM77やNGC1055より5倍ほども遠い約3億4000万光年の彼方にある天体で、さらにPGC10354(正式名称:MCG +00-08-002)やPGC10146(正式名称:MCG+00-07-079)は約6億光年、PGC1145106(正式名称:2MASX J02430393-0022045)に至っては、地球から実に約10億光年も離れた位置にある天体です。

最大&最遠 - 星のつぶやき

この約10億光年等のソースが書かれていないのですが、ステラナビゲータだと表示されるのかな、Stellarium では PGC 銀河自体表示されないし、でも最悪赤方偏移のデータがあればハッブルルメートルの法則で計算できるよな、などと考えていたのですが…

まず、wikisky.org で PGC1651721 の上にマウスポインターをかざすとこんな感じで情報がポップアップします。

https://rna.sakura.ne.jp/share/wikisky-PGC1651721.jpg

「Distance (parsec)」の欄が unkown ですが、さらなる情報を求めて天体をクリックします。

https://rna.sakura.ne.jp/share/wikisky-PGC1651721-starview.jpg

新しい情報は特にないのですが、「Catalogs and designations」のところにある「HYPERLEDA-I」の欄の「PGC 1651721」をクリックします。

https://rna.sakura.ne.jp/share/VizieR-PGC1651721_01.png

VizieR データベースのページが出てきました。位置情報関係ばかりで困惑しますが、下の方までスクロールして、

https://rna.sakura.ne.jp/share/VizieR-PGC1651721_02.png

LEDA」をクリックします。すると HyperLeda のページが出てきます。

https://rna.sakura.ne.jp/share/HyperLeda-PGC1651721_01.jpg

HyperLeda は PGC(主要銀河カタログ) をまとめた LEDA プロジェクトの後継となる HyperLeda プロジェクトのサイトです。PGC 天体のデータは全部ここからアクセスできる、はずなのですが、実はこのサイト、時々落ちてたり天体の検索に失敗することがあります。

その場合はミラーサイト http://atlas.obs-hp.fr/hyperleda/ で検索しましょう。というか、この記事を書いてる途中に HyperLeda の検索が出なくなったので上のスクショはミラーのものです…*2

距離が測定されている天体だと下の方の「Basic data」に「Distance」のリンクが表示されるのですが、

https://rna.sakura.ne.jp/share/HyperLeda-PGC1651721_02.jpg

残念ながら PGC1651721 には「Distance」のデータがありません。しかたがないので距離に関わるパラメータを探します。

視線速度関係のパラメータ(v, vlg, vgsr, vvir, v3k)があればハッブルルメートルの法則から距離を計算できるはず、と思ったら距離指数(distance modulus)というパラメータ(modz, modbest)がありますね?こちらからも距離が計算できるようですが、どちらを使うのがよいのでしょう?

日本天文学会の天文学辞典で距離指数を調べると「見かけの等級と絶対等級との差」だそうです。天体の明るさは距離の二乗に反比例して暗くなるので、そこから距離が計算できるというものですが、遠方銀河の絶対等級なんてどうやってわかるの?と思ったら、HyperLeda の modz の説明 だと結局視線速度、要は赤方偏移から計算したもののようです。*3

ならどっちでもいいのか、と思ったら modz の説明を見てると距離と言っても色々あるようです。距離指数の距離は光度距離(luminosity-distance)ハッブルルメートルの法則の距離は固有距離(proper distance)、見かけの大きさと実際の大きさの差に基づく角径距離(angular-diameter distance)、宇宙膨張に合わせて膨張する座標系での距離である共動距離(comoving distance)など色々あります。

これらは宇宙論パラメータ(cosmological parameter)*4 を決めると互いに変換可能ということなのですが、天文ファンが気軽に「○○億光年」とか言ってる「距離」ってどの距離なのでしょうか?そういえば「○○億光年」って国立天文台の発表とかでも言うよな、注釈とかあったっけ?と思って調べると、国立天文台のサイトにこんな注意書きがありました。

10億光年を大きく超えるような距離は、天体からやって来る光の波長の伸びの量(赤方偏移)から推定しています。この値と距離との関係は、宇宙が誕生してから現在までの宇宙の膨張の歴史で決まります。膨張の歴史は、採用する法則(宇宙モデル)と、そのモデルを特徴づける数値(宇宙論パラメータ)で表わされます。宇宙論パラメータはさまざまな方法で測定が続けられており、毎年のように新しい値が報告されています。また、距離の定義の方法も、共動距離や光度距離などいくつかあり、それぞれで値が異なります。これらがあいまって、同じ天体でもいろいろな距離の値が言及されるなど、問題を複雑にしています。

国立天文台では、記者発表や一般向けのウェブ記事の中でこのような距離を表現する場合、以下の方針をとっています。

  • 宇宙モデル:広く受け入れられている、宇宙項と冷たいダークマターを考慮した一般相対論的モデル(Λ-CDMモデル)
  • 宇宙論パラメータ:主要な観測装置で求められ論文発表されたもので、なるべく最新の値(*1)
  • 距離の定義:光が天体を発してから私たちに届くまでに旅した距離(光路距離)

ただし、「宇宙図」特設サイトなど特別な箇所ではこの限りではありませんので、ご注意ください。

*1 2015年以降は、Planck観測機チームが2013年に公表した、H0 = 67.3 km/s/Mpc、Ωm = 0.315、ΩΛ = 0.685を用いています。Planck Collaboration et al. (2014) "Planck 2013 results. XVI. Cosmological parameters"

参考サイト: Ned Wright's Javascript Cosmology Calculator

遠い天体の距離について | 国立天文台(NAOJ)

光路距離(light-travel distance または lookback distance)*5 また新しい距離が出てきてしまいました… 光路距離は光行距離とも言うそうです。これまた国立天文台の説明から。

(補足)距離の定義について

10億光年を大きく超える距離の場合、距離をどう定義するかについていくつかの考え方があります。光が天体を出てから私たちに届くまでに途中の空間が膨張するため、身近で使っている距離の考え方をそのまま当てはめることが難しいからです。

このページで使っているのは、「光行距離」(「光路距離」とも)という考え方です。天体から出た光は、宇宙空間を進み、ある時間をかけて私たちのところに届きます。「光行距離」とは、光が天体を出てから私たちに届くまでにかかった時間に光の速さを掛けた長さを、その天体までの距離とみなしたものです。例えば、その天体を出た光が120億年かかって私たちに届いたとき、その天体までの距離を「120億光年」と表します。「光行距離」は、新聞記事など多くの文章で使われています。

他方、文章によっては「宇宙の果てまでの距離は450億光年」のように、138億光年とは大きく異なった値が書かれていることがあります。その場合の「距離」は「光行距離」ではなく、「固有距離」や「共動距離」など別の考え方による値だと考えられます。

質問6-2)宇宙の果てはどうなっているの? | 国立天文台(NAOJ)

なんだかややこしいのですが、西はりま天文台(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 天文科学センター)の『宇宙NOW』という広報誌の記事にこれらの「距離」のうち「固有距離」「光路距離」「共動距離」の関係を大変わかりやすくまとめた図が載っていました。

https://rna.sakura.ne.jp/share/uchu-now-2019-09_p4.jpg
宇宙NOW 2019年9月号(No.354)』p4,
斎藤智樹「おもしろ天文学 遠くの銀河を見るということ」図2

斎藤智樹「おもしろ天文学 遠くの銀河を見るということ」という記事の図で、図中 QSO とあるのはクェーサーのこと。2019年4月になゆた望遠鏡で検出に成功したクェーサーまでの距離が約131億光年と測定されたのですが、この131億光年ってどういうこと?というのを解説したのがこの記事です。

記事には「光度距離」「角径距離」についても説明があるので読んでみてください。角径距離はあまり遠いと(光路距離で100億光年ぐらい)減少に転じます。つまり、より遠いものほど大きく見えるという不思議なことが起こります。このように宇宙での何十億光年という「距離」は人間の直観が通用しない世界なのです。

このあたりの話題では、大阪市立科学館の研究報告誌『大阪市立科学館研究報告』の第20号(2010年)の石坂千春「“宇宙の果て”が137億光年でない理由 −宇宙は400億光年先まで見えている−」も参考になりました。

こちらの記事には計算式も載っていて、Excel で計算した表も載っています。もっとも積分計算が必要なので Excel に数式をそのまま入力して、というわけにはいかないようです…*6 そして気になったのが記事の最後の以下のような苦言です。

「光年」は学術用語というよりは、歴史的な慣用表現である[5]。不動産的距離「徒歩○○ 分」が、単に徒歩1分を80mとして計算した目安であって、本当に歩いて○○分で着くことを保証するものではないのと同じように、「光年」も光速に1年という時間を乗じただけの、距離の目安にすぎない。「光が1年間に進む距離」という、実際には測ることができない量を、距離を表わす単位として使うと、前章までで見てきたように、宇宙論的距離では齟齬や誤解を生じてしまう。
最も深い(遠い)宇宙を撮影したハッブル宇宙望遠鏡のサイト[4]でも、「光年(light year)」という単位は使われていない。「129~131億年前の銀河を撮影した・・・(The faintest and reddest objects in the image are galaxies that correspond to "look-back times" of approximately 12.9 billion years to 13.1 billion years ago.)」とあるだけである。
宇宙年齢137億年に光速を乗じた“137億光年”は、実際には何の意味もない場所である。137億年前に光を発した場所でもなく、現在観測されている最も遠い天体が存在する場所でもない。
「宇宙 は137億年前に始まったのだから、宇宙の観測限界“宇宙の果て”は137億光年である」としてしまうことは、相対論的宇宙論における最も重要な事実である「宇宙は膨張している」ということを無視してしまうことなのである。
大阪市立科学館研究報告 第20号』p61,
石坂千春「“宇宙の果て”が137億光年でない理由 −宇宙は400億光年先まで見えている−

むむむ… 確かにその通りなのですが、観望会などで一般の人に説明する時に「アンドロメダ大銀河は230万光年先にあって、つまり230万年前の光を見ているんだよ」みたいな事を言うので、暗黙のうちに光路距離として説明してるんですよね。

そういえば『恋する小惑星』でもそんなシーンあったような… と思って確認したら、あおは「230万光年」とは言ってませんでした!

https://rna.sakura.ne.jp/share/koias-07_01.jpg
あお: 遠くの星を見ると大昔の宇宙のことがわかったり…
はるか: ほぉ…
あお: うわ、ごめん、私、説明が下手で…
はるか: 大昔の宇宙って?
あお: えっと、星の光が地球に届くまで時間がかかるから、たとえばさっき見た土星は約80分前の姿だし、もっと遠くにあるアンドロメダ大銀河は約230万年前の姿を見ていることになる。
はるか: じゃあ、もっともっと、ずーっと遠くの星を見たら?
あお: そうだね、宇宙の最初の頃の姿が見られるかも。

アニメ『恋する小惑星(ステロイド)』第7話「星空はタイムマシン」

観望会で星に興味を持てない子供(はるか)にあおがなんとか興味を持ってもらおうと話しかけるシーンです。「光年」は使わずに「約230万年前の姿」としか言っていません。なにげに NASA/ESA 方式だったんですね。「約」を端折らないのも律儀というか…

さて、この「230万年前」とか「129~131億年前」というのはルックバックタイム(lookback time)と言います。「“宇宙の果て”が137億光年でない理由」の表1の「T 億年」がそれです。似たような表は日本天文学会の天文学辞典の「9. 赤方偏移と宇宙年齢および距離」にも載っています。こちらは「ルックバックタイム(Gy)」の表記です。単位の Gy は Giga year = 10億年 です。

「光路距離」は英語の lookback distance からもわかるようにルックバックタイムに光速を掛けた距離で、ルックバックタイムの単位が「○○年」なら、そのまま「○○光年」にしてしまえば「光年」単位の距離になります。*7

というわけで、あとはルックバックタイムをどう計算するかですが、実はこのあたりを計算するサイトがいくつかあって、Cosmology Calculator と呼ばれています。*8 宇宙論パラメータと赤方偏移を入力すると、各種距離やルックバックタイムを計算してくれるものです。その先駆けが「Ned Wright's Javascript Cosmology Calculator」で、実は最初の方で引用した国立天文台の「遠い天体の距離について」で参考サイトとしてリンクされているのがこのサイトでした。なんだかずいぶん回り道したような…

というわけで、Ned Wright's Javascript Cosmology Calculator で計算しましょう。宇宙論パラメータは国立天文台の採用する値(H0 = 67.3 km/s/Mpc、Ωm = 0.315、ΩΛ = 0.685)を使います。同サイトでは「OmagaM」の欄に Ωm を、「Omagavac」の欄に ΩΛ を入力します。*9

「z」の欄に赤方偏移パラメータを入力するのですが、HyperLeda に載っているのは km/s 単位の視線速度(cz)なので、これを光速(299792.458 km/s)で割って z を求めます。

視線速度には銀河の回転や運動などを考慮した vlg, vgsr, vvir, v3k といったパラメータもあるのですが、どれを使うのが適切なのかよくわからないので赤方偏移の測定値から直接出した v (= cz)を使うことにします。PGC1651721 では v = 22708 km/s なので、 z = 0.07574573473759637 になります。これを「z」の欄に入力して、[General] のボタンを押すと以下の結果が表示されました。

For Ho = 67.3, OmegaM = 0.315, Omegavac = 0.685, z = 0.076

  • It is now 13.812 Gyr since the Big Bang.
  • The age at redshift z was 12.770 Gyr.
  • The light travel time was 1.042 Gyr.
  • The comoving radial distance, which goes into Hubble's law, is 331.3 Mpc or 1.081 Gly.
  • The comoving volume within redshift z is 0.152 Gpc3.
  • The angular size distance DA is 308.0 Mpc or 1.0045 Gly.
  • This gives a scale of 1.493 kpc/".
  • The luminosity distance DL is 356.4 Mpc or 1.162 Gly.

light travel time がルックバックタイムです。*10 単位の Gyr は10億年。1.042 Gyr なので、10億4200万年。つまり光路距離で10億4200万光年先の銀河というわけです。色々不確定な要素があるので「約10億光年」というのが妥当なところでしょうか。

というわけで、横浜の空にも約10億年かけて届いた星の光が確かに届きました。この明るさでこれだけ遠いなら、もっと遠い銀河も写っているかもしれません。梅雨の間に探してみようと思います。

さすがにこのままだと手間がかかって仕方がないのでまた Greasemonkey スクリプトでも書きますかね…

*1:ちなみにその左にある USNOA2 1050-06811433 も SDSS-II の画像を見る限り銀河なのですが、PGCナンバーは振られていないようです。

*2:ミラーは右上のロゴが違います。

*3:天文学辞典と HyperLeda で距離指数と距離の関係式違いますが、これは距離の単位の違い(前者はパーセク、後者はメガパーセク)によるものです。

*4:宇宙の膨張速度やその変化を決めるパラメータで観測データから推定されています。個々のパラメータの意味は僕もよくわかりません…

*5:参照:Wikipeda 日本語版「光年」Wikipedia 英語版「Distance measures (cosmology)」

*6:たぶん数値積分をやっているのだと思います。

*7:数式で書かれたソースとしては Oliver Piattella『Lecture Notes in Cosmology』p45 を参照。この本のPDF版は有償のはずですが、某国の公共図書館が無償で公開していてそこで閲覧しました。全世界に公開して契約上本当に大丈夫なのか?とか小国の公的サイトに万一アクセスが集中したらマズそう、等の懸念があるのでアドレスは伏せておきます…

*8:Web で利用できるものについては NED (NASA/IPAC Extragalactic Database)公式サイトの COSMOLOGY CALCULATORS に一覧があります。

*9:各パラメータの意味については割愛。というか H0 (バッブル定数)以外僕もよくわかりません…

*10:のはずですが、"The light travel time was" と過去形なのは何故でしょう?

『月刊 星ナビ』6月号「ネットよ今夜もありがとう」に載りました!

天リフの先読み記事で既にご存知かもしれませんが、今日発売の『月刊 星ナビ』6月号の「ネットよ今夜もありがとう」に当ブログが掲載されました!

https://rna.sakura.ne.jp/share/hoshinavi-202106-p93.jpg

「ネットよ今夜もありがとう」は『星ナビ』の名物企画で、天文関係の個人や同好会のサイトをリレー形式で紹介していくコーナーです。選ばれた人は自分のサイトの自己紹介文を載せることができ、その際に次に紹介して欲しいサイトを編集さんに指定する、という形でリレーが続きます。

リレーは同時に2本走っていて毎月2つのサイトが紹介されます。2000年12月号(創刊号)から今まで紹介されたサイトの数を数えてみたら486件!サイトの一覧はこちら。

今回は、HIROPONさん(id:hp2) → だいこもんさん(id:snct-astro) という順でバトンが回ってきました。別にはてな民で談合してるわけじゃないですよ!

自己紹介文は250文字程度ということで光害地での撮影という点に絞ってアピールしてみました。ちなみに「アラフィフ」と書きましたが昨年ちょうど50歳になりました。まあ「アラサー」も34歳くらいまで自称してよいらしいので…

このブログを始めた2017年頃は光害地での天体撮影と言えばHIROPONさんが先駆者で、僕も大いに参考にさせていただいたのですが、最近はワンショットナローや赤外撮影などの撮影技法や電子観望の普及で光害地での撮影・観望もずいぶん身近になった印象です。とはいえ首都圏の人口を考えるとまだまだとも言えますね!

まあ、うちは横浜横浜言うてますが SQM 18.7 ぐらいって話からもわかるように横浜の中でも辺境の地ですから若干「盛ってる」部分もなきにしもあらずですが、アウトドアが苦手な人や自宅からでも宇宙を身近に感じたい人の希望になれたらなと思います。

星ナビ』に書ききれなかったことと言えばポタ赤*1 で直焦点撮影というアクロバット的な撮影方法で頑張ってた時期があって、天リフさんから「変態」認定されたこともありました。

惑星撮影用の鏡筒(μ-180C)を載せるために普通の赤道儀(SX2)を買ってからはすっかりやらなくなったのですが、天体撮影趣味の入り口としては今でもアリだと思っています。興味のある方は以下の記事から始まるシリーズを是非どうぞ。

そもそも「Deep Sky Memories」ってブログのタイトルも、なんとかして「Sky Memo」をタイトルに入れたいと思って決めたんですよね。

さて、「ネットよ今夜もありがとう」のお隣のレーンにはシベットさんの「浮気なぼくら」が掲載されていました。僕も天リフ経由でちょくちょく読んでいるブログです。謎の機材やら謎の改造やらが次から次へと繰り出されてきて楽しませてもらっています。あと漫画「天文動物」シリーズも!

なお、リレーのバトンの行方ですが… それは来月のお楽しみということで!

ということで天文誌初掲載!でした。

追記: で、どんな写真撮ってるの?って話ですが、最近年末に書いてる1年間のふりかえり記事を見ると一度に見れて便利です!


*1:星ナビ』的にはコンパクト赤道儀と言うべき?

M64 黒眼銀河 / マルチスターガイドのテスト (2021/5/3)

5月3日の夜は快晴の予報だったので、月が出る1:00前までに M64 と M83 を撮る計画を立てていたのですが、夕方に寝落ちしてしまって出遅れてしまい、結局 M64 だけ撮りました。前回に引き続き赤外域まで使ったノーフィルターのモノクロCMOSカメラでの撮影です。

夕方の薄明の終わる20:15頃から撮影開始の予定が21:40までずれ込んでしまいました。南中高度の高い M64 は途中でベランダの天井に隠れて撮れなくなるのですが、撮影開始が遅れたことで総露出時間2時間の予定が90分で限界に。そこから雲の通過でボツになった分を除いて80分露出(2分×40コマ)になりました。

結果はこちら。

M64 黒眼銀河 (2021/5/3 21:42)
M64 黒眼銀河 (2021/5/3 21:42)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ZWO ASI290MC + PHD2 2.6.9dev4 による自動ガイド/ ZWO ASI290MM (ゲイン80) / 露出 2分 x 40コマ 総露出時間 80分 / DeepSkyStacker 4.2.2, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理

2x Drizzle でスタックしたものを軽く wavelet 処理しています。等倍だと結構ザラザラした仕上がりですが Full-HD 全画面ぐらいなら悪くない仕上がりではないかと。


M64 は2年前にデジカメで撮っていましたが、やはり赤外域まで露光しているせいか暗黒帯のコントラストが落ちる傾向はあります。


銀河周辺部の淡い部分の描写はほぼ同等でしょうか。もう少し写ると思っていたのですが、時折薄雲が出るような透明度の悪い空だったのでコントラストが落ちているせいもあるのかも。とはいえ、センサーの解像度が上がった分暗黒帯の構造が見えてきたのでよしとします。

さて、今回は次期 PHD2 の新機能「マルチスターガイド」を開発版(2.6.9dev4)でテストしました。マルチスターガイドは複数のガイド星を使ったオートガイドで、シンチレーションの影響によるガイドの乱れを抑える効果が期待できます。

脳みそアイコンからガイド設定で Use multiple stars にチェックを入れてガイド星を自動選択させると8個ぐらいの星に丸いマークが付いて選択されます。あとは普通にガイドを開始するだけです。雲の通過などで一部のガイド星が隠れても問題なくガイドが続くようです。

気になるガイド精度ですが、明らかに安定します!ガイドカメラの露出時間は2.5秒ですが、ガイドグラフのギザギザの振れ幅が半分くらいになって、RMSエラーも半分近くまで改善しました。RA/DEC共に±1.0秒以下になることは稀だったのですが、今回は±0.7秒前後に。

今までDECのガイドエラーが気になっていたのですが、極軸が追い込んであればDECはほとんどブレません。DECの蛇行(ハンチング)もゼロではありませんが、振れ幅も小さく、すぐ収束して落ち着く感じです。むしろRAのピリオディックモーションの方が大きくて星像が東西方向に伸びて写ります。これはRAの MinMo を下げて Agr を上げると改善しました。

と言ってもガイドグラフ上だけのことなのでは?とも思ったのですが、撮影したフレームの星像も締まっているように見えます。今まではシンチレーションで揺れた星像に振り回されて余計な修正を行ってかえってガイドが乱れていたのではないかと思われます。

シンチレーションの影響はガイドカメラの露出を長くすることで抑えられるとされていますが、ピリオディックモーションに短周期の成分がある赤道儀だとRAの追尾精度が落ちてしまう可能性があります。マルチスターガイドで短い露出でもシンチレーションの影響を抑えられるならそれに越したことはありません。

ところで、ガイド精度が上がったためなのか、赤外域まで使った撮影法のせいなのか、あるいはその両方なのか、今回撮った写真ではいつもより暗い星まで写っているようです。

写真のこの部分を切り出して、

https://rna.sakura.ne.jp/share/M64-20210503-16bit-stretch-wavelet-3-2-crop-area-800.jpg

17等より暗い星に印を付けてみました(等級はwikisky.org調べ)。

https://rna.sakura.ne.jp/share/M64-20210503-16bit-stretch-wavelet-3-2-cut.jpg

前回の撮影では17等台が限界でしたが、今回は18等台まで写っています。19等は流石に写っていませんでしたが、18.8等までは写っています。

等級は可視光での明るさなので、赤外まで含めて撮るのはある意味チートなのですが、SQM 18.7 ぐらい(Light pollution map 調べ)の光害地でここまで写るとは思っていませんでした。

春の銀河祭りもそろそろ終わりですが、もう少しモノクロで色々撮るか、カラーで撮り足してLRGB合成するか… あるいはオフアキとフラットナーレデューサーともっと大きなCMOSカメラを買って μ-180C で銀河を、というのはさすがに間に合わないかな…

月齢20.6 / 継ぎ目破綻の恐怖 (2021/5/3)

5月3日未明、久しぶりに月を撮りました。連休中ですが家に篭っているだけなの疲れが溜まっていて SX2 をベランダに出す気力もなかったので久々にスカイメモSと BLANCA-80EDT で撮りました。

下弦に近い月齢で、南中までには空が明るくなってしまうので、2:30 頃に撮り始めました。最近の月は南中高度も低く、この時の月の高度は20度弱。シーイングも良くなく薄雲越しでもあり最高の月面など望むべくもない状況ですが、久しぶりなので肩慣らし程度に考えて撮りました。

今回もここ数年やっているデジカメの静音モードで連射したものをスタック & wavelet という撮り方です。2000万画素を数百枚スタックするための画像処理はCPU的にもストレージ的にも負担の重い処理ですが、やるだけの価値はあると思っていたのですが…

最初に出てきたのがこれでした。なんじゃこりゃー!?

AS!3スタック失敗(Surface, AP Size 104)
AS!3スタック失敗(Surface, AP Size 104)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12) / ケンコー スカイメモS / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO400, RAW) 露出 1/60s x 125/513コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14 で画像処理(スタック、シャープ化)

月面がギザギザの歯の生えた怪物の顔みたいになっています。もちろん AS!3 のスタック処理の失敗で発生した「継ぎ目破綻」なのですが、ここまでブチ壊れた出力を見たのは初めてです。なんでこんなことに…

拡大するとこう。

AS!3スタック失敗(Surface, AP Size 104) (拡大)
AS!3スタック失敗(Surface, AP Size 104) (拡大)

こわっ!

Image Stabilization は「Surface」にしていました。月や金星のように欠けた天体は、COG (Center Of Gravity)で stabilize すると天体の中心が画像の中心からズレてしまって後でトリミングする時に余裕がなくなることがあるので「Surface」でやっています。

今回は極軸をまともに合わせていない状態で、間欠的に連射しているので(SDカードへの書き込み待ちのため)月が写野中心からズレていくため、途中で月を導入しなおしています。それで月の位置が飛んでいる部分があるため AS!3 の天体のトラッキングに支障が生じたように見えます。

そこで Image Stabilization を「Planet (COG)」にしてやり直したのがこちら。

AS!3スタック失敗(COG, AP Size 104)
AS!3スタック失敗(COG, AP Size 104)

一見して激しい破綻はなくなったのでホッとしていたのですがよく見ると破綻が…

AS!3スタック失敗(COG, AP Size 104) (拡大)
AS!3スタック失敗(COG, AP Size 104) (拡大)

ところどころに縦線の継ぎ目が目立つだけでなく、月の左端の模様が二重化していて位置ズレが補正されないままスタックされているのがわかります。

まあ、AS!3 をもう3年以上使っている僕なので、こういう時は慌てず AP Size を大きくしてスタックしなおします。

AS!3スタック失敗(COG, AP Size 256) (拡大)
AS!3スタック失敗(COG, AP Size 256) (拡大)

ダメじゃん。むしろ二重化が激しくなってるし…

これについてはまだ原因がはっきりしません。薄雲が流れる中で撮っていて像のコントラストが変化しているので AP の追跡がうまくいってないのか、あるいは月の周囲の薄雲が照らされている部分の明るさの変化で画像の重心位置がブレて COG による stablization が上手くいってないのかもしれません。

とりあえず撮影した513コマのうち、月の位置が大きくジャンプする前の372コマだけ取り出し、念の為トリミングして位置が少しジャンプする部分の位置を戻した上でスタックし直すと無事スタック出来ました。それを最後まで仕上げた画像がこちら。

月齢20.6 (2021/5/3 02:36)
月齢20.6 (2021/5/3 02:36)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), OLYMPUS EC-20 2x TELECONVERTER (合成F12) / ケンコー スカイメモS / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO400, RAW) 露出 1/60s x 125/372コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, WinJUPOS 1.2.0.6, Lightroom Classic で画像処理

まあ、なんとかなりました。解像が悪くて等倍で見ると今ひとつですが…

強い wavelet 処理による偽色の発生を避けるため、Lチャンネルを別処理してからLRGB合成する「疑似LRGB合成」をやっています。WinJUPOS は月の南北を垂直に合わせるためだけに使っています。

シーイングが良くてカリカリにシャープな結果が得られるならこのくらいの苦労は苦にならないのですが、ちょっと今回は疲れました…

今月は皆既月食がありますが、刻一刻と月面の様子が変わる月食では今回のような撮り方ではまともな結果が得られそうにないので、素直にワンショットで撮る予定です。

M8 (干潟星雲) と M20 (三裂星雲) (2021/4/18)

4月18日の深夜、M8 (干潟星雲) と M20 (三裂星雲) のツーショットを撮りました。久々に RedCat 51 出動です。定番の構図ですが、以前は手持ちの鏡筒で適当な画角のものが BLANCA-80EDT + 0.6x レデューサーしかなく、この組み合わせだとフォーサーズの画角でも周辺部の収差が目立って撮れませんでした。それを撮るのが RedCat 51 を買った理由の一つでした。

当日は月没が0:30頃、天文薄明開始が3:30頃で、あまり時間のない中での撮影でした。というか、夕方から寝落ちしてしまい出遅れて撮影開始が2:00過ぎてしまいました。当初は90分かけて多段階露出の予定でしたが、時間がなくて4分露出の16コマで64分露出になりました。

途中雲が出て中断したりで最後のコマは薄明開始にかかってしまいましたが、元々光害カブリの大きい低空からスタートの撮影で、最初のコマよりはずっとマシだったのでそのままコンポジットしちゃいました。

M8, M20, M21 (2021/4/19 02:22)
M8, M20, M21 (2021/4/19 02:22)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折), LPS-D1 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + ASI290MM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) / 露出 4分 x 16コマ 総露出時間 64分 / DeepSkyStacker 4.2.2, Lightroom Classic で画像処理

光害地で無改造デジカメでここまで撮れれば上等といったところでしょうか。

下のピンク色の大きな星雲が M8 (干潟星雲)、上の青とピンクの小さな花みたいな星雲が M20 (三裂星雲)、その左斜め上の青白い星が少し密になっているのが散開星団の M21 です。M8 の左斜め下の黄色っぽい小さな星の塊(拡大すると粒が見えます)は球状星団の NGC6544 で、左下隅の黄色っぽいモヤのようなものは天の川の一部です。

地球からの距離は近い順に M8 (4077.5光年)、M21 (4240.6光年)、M20 (5219.2光年)、NGC6544 (9786.0光年)です(いずれも Stellarium の表示より)。距離の違いを認識した上で写真を見ると、ちょっとだけ宇宙の奥行きが感じられます。

さて、RedCat 51 で淡い対象を撮るのは2度目ですが、前回は失敗しています。

この時問題になった右辺が白っぽくカブる現象は E-M5 のセンサーの問題だったのか、E-M1 Mark II では今の所出ていません。黄色いカブリについては、上の写真には出ていませんが、実は今回も確認しました。

今回はフラットの撮影で液晶版(iPad)が傾いてしまってフラットにグラデーションができてしまったので、最初はフラット補正なしで仕上げたのですが、この時どうしても中央部に黄色っぽいカブリがうっすら残ってしまい困りました。

その後フラット補正ありで処理したものをフラットのグラデーションに合わせて段階フィルターをかけて無理やり仕上げたのが上の写真です。こちらには黄色いカブリは見られませんでした。

前回はフラット補正してもカブってたのに… と思って調べたら、前回はテスト撮影の際に光害カットフィルターなしで撮ったフラットで補正していました!ということは黄色いカブリはやはりフィルターのせい?

LPS-D1 は対物側から見ると黄色い反射光が出るのでそれが後玉に反射して戻ってきてカブリになっているのでしょうか?BLANCA-80EDT ではそんなことはなかったのですが、RedCat 51 は接眼部近くに対物レンズの後玉が迫る光学設計なので可能性はありそう?でも干渉フィルターの反射光が反射して戻ってきたところで、またフィルターに反射されてしまってほとんど影響ない気もするのですが…

ともあれ、適切なフラット補正で消せる類のもののようなので、今後は安心して撮れそうです。でも周辺減光が少なくてフォーサーズの画角ならフラットなしでも撮れる!と思っていたのでちょっとがっかり。まあ、センサーやフィルター上のゴミの影とかもあってフラットなしで撮り続けるのも厳しいものがあるので元々無理な期待でしたね。

RedCat 51 の有効活用は昨年の「やり残したこと」の一つでしたから、まずは一歩進んだ形です。

まだまだこの鏡筒で撮りたいものはあるので頑張っていこうと思います。

エウロパによるガニメデの掩蔽 (2021/4/6)

4月6日の明け方にエウロパによるガニメデの掩蔽があったので撮影しました。ガリレオ衛星同士の相互食/掩蔽は昨年末から見られるようになり来年春までは頻繁に起こるようです。*1

久しぶりの μ-180C 出動ですが、衛星と木星が無理なくフレームに入るようにバローレンズの拡大率はいつもより抑えめにしました。2倍バローにADCを付けてフリップミラーなしで2.16倍(F25.9, fl=4662mm)です。*2

4:00頃に先に昇ってきた月でピントを合わせたのですが、低空でしかも朝方大気が冷え込んでいるからか、シーイングは相当に悪くピントをあまり追い込めませんでした。土星の輪で追い込もうとするもカッシーニの間隙も全く見えない状況。

これは無理かもと思いつつ勘でピントを合わせて4:10頃に木星を導入してADCの調整。プリズムの開き角を全開にしてなんとか色分散がキャンセルできました。テスト撮影で衛星は一応写りましたが木星の縞模様は極めて曖昧でこれは無理かなと思いつつ4:30から撮影開始。

5分ごとに3000フレーム、露出はゲイン260で1/30秒。大気減光が大きいのでこれでも木星面が飛ばない範囲です。後半は明るくなってきたので1/60秒くらいまで落としています。

プレビュー映像ではエウロパとガニメデは最初は分離して見えていましたが、4:48にはほぼ一つに。またシーイングが徐々に改善するにつれ木星面にイオの影が見えるようになりました。天文年鑑の予報では掩蔽の開始が4:52:24、終了が4:59:42でしたが、5:05ぐらいになってやっと再び分離して見えるようになりました。

画像処理はAS!3でAPは木星に1点のみ。「木星と土星の接近(最接近) (2020/12/21)」の時にAPを増やすと背景に継ぎ目ができてしまう現象があったのでそうしています。

ということで、掩蔽の真ん中あたりに撮った4:55の写真はこうなりました。

エウロパによるガニメデの掩蔽(2021-04-06 04:55:56)
エウロパによるガニメデの掩蔽(2021-04-06 04:55:56)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F25.9), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2, ZWO ASI290MC (Gain 260) / 露出 1/30s x 1500/3000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2021, Lightroom Classic で画像処理

画面左上がエウロパとガニメデです。重なって一つに見えています。木星のすぐ左はイオ。イオの影が木星面の左側の赤道あたりに見えています。

連続写真は Flickr のアルバムで見てください。

エウロパによるガニメデの掩蔽(2021-04-06)
エウロパによるガニメデの掩蔽(2021-04-06 04:35-05:30)

位置合わせは木星面とにらめっこして手動で合わせています。

動画も作ってみました。

エウロパによるガニメデの掩蔽(2021-04-06)
エウロパによるガニメデの掩蔽(2021-04-06) (動画)

Flickr の調子が悪いと動画再生でエラーが出るのでその時はリロードしてみてください。

TMPGEnc Mastering Works 5 のスライドショー作成でトランジションクロスフェードを指定したのですが、妙にヌルヌル動いてます。単にフェードイン/アウトするんじゃなくて中割しているのでしょうか?正確なフレームはタイムスタンプ(JST表記)が表示された瞬間のものだけです。あくまで観賞用ということで。

ということで、一応撮れました。シーイングが悪くて解像度的には不満の残る写りでしたが、一応掩蔽の様子はわかるのでよしとします。

ところで薄明がだんだん明るくなる状況で撮った動画を AutoStakkert!3 で処理するとクオリティの評価が機能してないように見えるのですが…

https://rna.sakura.ne.jp/share/as3-20210406-01.jpg

このようにバックグラウンドが明るさでクォリティがほぼ決まってしまうような状況でまともに選別できてないように見えます。これはなんとかならないんですかね…

*1:「食」は二つの天体と太陽の位置関係が一直線になり太陽から見て手前の天体の影に奥の天体が入る現象、「掩蔽」は二つの天体と観測者の位置関係が一直線になり観測者から見て手前の天体が奥の天体を隠す現象を指します。「日食」や「星食」は厳密には掩蔽です。参照:暦Wiki/食、掩蔽、経過 - 国立天文台暦計算室

*2:WinJUPOS で計測した結果がピクセルサイズ 2.9μm で 0.1283"/pixel でした。