Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

皆既月食 (2022/11/8)

11月8日は皆既月食天王星食でした。天王星食の撮影結果(動画)は前回のエントリに書いた通りですが、

並行して撮っていた皆既月食の撮影結果と撮影記をこちらに。

まず結果から。皆既前の部分食の状態から月食後の満月の状態までを flickr のアルバムにまとめました。いずれもデジカメのワンショットを現像したもので概ね10分毎に撮っています。

皆既月食 (2022/11/8)
皆既月食 (2022/11/8)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折) / Kenko-Tokina スカイメモS / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO400(17枚目のみISO200), RAW) 露出 1枚目: 1/320秒, 2〜16枚目: 1/2.5秒〜1.0秒(現像時の露出補正で全て1.3秒相当に調整), 17枚目: 1/1600秒 / Lightroom Classic で画像処理、Photoshop CC でクロップ

いつもは単純に「適正露出」に仕上げていましたが、今回は地球の影に入った側に露出を合わせた写真については現像の際の露出補正で全て同じ露出(ISO400/F5.3/1.3s相当)に合わせたので実際の明るさの変化が反映されているはずです。また、カラーバランスも最後の満月の写真で調整した値に全て合わせました。

構図は天球上の北が上です。普段の月の写真では月の北極が真上になるようにしていますが、今回は天王星との位置関係(= 月の天球上での運動)の表現も兼ねているのでこうしています。

今回の月食では皆既が1時間半近く続いたのですが、その間にも月の明るさが随分変化しているのがわかります。皆既最大の一番暗い月がこちらです。

皆既月食 (2022/11/8 19:58)
皆既月食 (2022/11/8 19:58)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折) / Kenko-Tokina スカイメモS / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO400, RAW) 露出 1.0秒(現像時の露出補正で1.3秒相当に調整) / Lightroom Classic で画像処理、Photoshop CC でクロップ

まさに赤銅色の月です。月の左側に見える青っぽい星は天王星です。PC でご覧の方はクリックして flickr の写真ページに飛んで拡大機能(写真のクリックで2段階まで拡大可能)で見てください。天王星が青緑色で他の恒星とは違う色なのがわかります。

それぞれの写真は連写したものからセレクトしたものです。連射したコマを stack & wavelet 処理で月面のディテールを復元した画像も作成しました。これもアルバムにまとめました。

皆既月食 (stack & wavelet) (2022/11/8)
皆既月食 (stack & wavelet) (2022/11/8)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折) / Kenko-Tokina スカイメモS / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO400(21枚目以降はISO200), RAW) 露出 1/1600秒〜1.0秒 x 30〜60コマをスタック処理(詳細は各写真のExifのコメントフィールドを参照) / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理、Photoshop CC でクロップ

こちらはカラーバランスは揃えてありますが、露出は撮影時のままです。またスタックすると何故か発色があっさりめになるので彩度を少し上げています。

皆既最大前後の画像がこちらです。

皆既月食 (stack & wavelet) (2022/11/8 19:57)
皆既月食 (stack & wavelet) (2022/11/8 19:57)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折) / Kenko-Tokina スカイメモS / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO400, RAW) 露出 1.0秒 x 60/123コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理、Photoshop CC でクロップ

やはりディテールが見えると気持ちいいです。そのかわり天王星や恒星は流れてしまいますが… ワンショットの写真と合成しようかと思いましたが、妥当性のある位置合わせの方法が思いつかなかったのでそのままにしてあります。

今回 UHS-II の高速 SDXC カードを使ってスムースに連写できたのですが、皆既前後の月は連写中に欠け具合が変化するため、AS!3でいつも通りにスタックすると欠け際あたりで継ぎ目破綻が発生してしまいました。

試行錯誤した結果、欠け際の周りから通常サイズ(104にしました)のAPを取り除き、空いた部分に重なるように大きなサイズのAP(200にしました)を置くようにするとうまく行きました。欠け際の変化で明るさが大きく変わる部分は大きい方のAPの端の方に入るようにしてアライメントへの影響を小さくしたわけです。

ちなみに18枚目と19枚目のディテール描写が明らかに悪いのですが、これはピンぼけです… 20枚目の前にピントを合わせ直しました。実は皆既の後半あたりからピント位置がズレています。気温の変化のせいかな?と思ったのですが、天王星食を撮った μ-180C もたいして変わらないタイミングでピントを合わせたのに、そちらは問題なかったので、おそらくフレーミングの修正中にうっかり接眼部を動かしてしまったのだと思います。

今回はスカイメモSに微動装置のないジンバル雲台を取り付けて、そこに鏡筒を載せたので月の赤緯方向の移動による構図のズレを、雲台のクランプを緩めて鏡筒を支えて微調整していたので、その時にドローチューブに触ってしまったようです。微妙なピントのズレを恐れてドローチューブのストッパーを緩くしか締めてなかったのもマズかったかもしれません。

最後にターコイズフリンジについて。ターコイズフリンジというのは皆既月食の皆既の前後に欠け際が青っぽくなる現象です。地球の赤い影になぜ青い縁取りがあるのか不思議ですが、どうも地球の大気のオゾン層の性質が関係するそうです。詳しくは HIROPON (id:hp2)さんの解説をご覧ください。

2018年の皆既月食の撮影の後、初めてターコイズフリンジのことを知り、これが見えるように強調処理した写真を作成しました。

今回も同様に月食終了後の満月で調整したカラーバランスを適用してから彩度を上げてみたものをまとめました。前回より彩度の強調は弱めです。

ターコイズフリンジ (2022/11/8)
ターコイズフリンジ (2022/11/8)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折) / Kenko-Tokina スカイメモS / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO400(5枚目のみISO200), RAW) 露出 1〜2枚目 1/320秒, 3枚目: 1/1.6秒, 4枚目: 1/2.5秒, 5枚目: 1/1600秒 / Lightroom Classic で画像処理、Photoshop CC でクロップ

皆既入り皆既明け共に欠け際が微妙に青っぽい色になっているのがわかります。

というわけで撮影した写真は一通り紹介しました。撮影機材や撮影方法にまつわる話についてはまた後日書きたいと思います。

皆既月食中の天王星食 (2022/11/8)

11月8日の夜は皆既月食天王星食の撮影をしました。皆既月食の最中に天王星食の潜入が始まり、皆既終了後とはいえ月食の最中に出現するという大変レアな天文イベントで、天文家以外の一般の人たちの注目も集まりました。この日初めて天王星を見たという人も多いのではないでしょうか。

天王星食は是非 μ-180C 直焦点でクローズアップで撮りたいと思い、月食の過程をじっくり撮るような撮影は諦めて、ベランダに SX2 + μ-180C とスカイメモS + FSQ-85EDP の2台の望遠鏡を並べて天王星食と皆既月食の同時撮影を試みました。

結果から言うと天王星食の方は概ね満足行く撮影ができましたが、皆既月食の方は後半ピントがズレてしまって、満足度も半分といったところ…

皆既月食については別エントリで書くとして、このエントリでは天王星食の撮影の話を書きます。

まずはリザルトを。

皆既月食中の天王星食・潜入 (2022/11/8 20:39)
皆既月食中の天王星食・潜入 (2022/11/8 20:39)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC (Gain 402), SharpCap 4.0.9268.0 / 露出 1/30秒 / SER Player 1.7.2, 自作 python スクリプト, ffmpeg 4.2.7 で動画編集

皆既月食中の天王星食・出現 (2022/11/8 21:21)
皆既月食中の天王星食・出現 (2022/11/8 21:21)
撮影データは同上

天王星と月面の色がうまく出るかどうか心配でしたが、天王星の青緑色も月面の赤銅色もなんとかわかる程度に写りました。

潜入の第1接触は 11:40:13 UT 前後、第2接触は 11:40:28 UT 前後でしょうか。出現の第三接触 12:21:51 UT 前後、第4接触は 12:22:04 UT 前後でしょうか。

時刻は SharpCap が SER ファイルに埋め込んだタイムスタンプを SER Player が出力したものを自作スクリプトで動画に合成したものです。SharpCap は Windows 10 のシステム時刻を見ていると思います。Windows 10 は1日一回 NTP サーバーと同期(時刻合わせ)していますが、撮影に使ったPCのイベントログを見ると当日の11:00頃に時刻合わせをしていたようです。

PCの時計の精度はマザーボードのRTCの精度次第で日差10秒以上ある場合もあるとのことですが、実際に NTP と同期してから8時間経った時点で iPhone の時計(こちらは携帯電話回線の機能を使ってかなり正確に合わされているはず)と比べても差は1秒以内でした。なので上の動画のタイムスタンプもそのくらいの精度はあると思います。

「第n接触」という言葉の意味については以下の図を参照してください。

https://rna.sakura.ne.jp/share/planetary-occultation-and-transit.png

月食撮影との並行作業で大忙しというのはさておき、撮影前に一番懸念していたのは出現の方の撮影です。潜入は撮影開始前に構図を調整できるので潜入の瞬間は雲でも通過しない限り撮影できますが、一度天王星が隠れてしまうとそうはいきません。赤道儀任せで40分間追尾した結果、天王星は写野の外に出ていた、ということになってしまうと失敗です。

μ-180C の直焦点に ASI290MC の小センサーだと写野は8.93分×5.06分という狭さ。それなりに見れる構図で出現を撮るにはノータッチでも約40分間で赤経方向が±2分、赤緯方向が±1分ぐらいの精度で追尾して欲しいところ。

天王星はほとんど動かないので近くの恒星を使ってオートガイドという手もなくはないですが、オフアキは使えないし、μ-180C にガイドスコープを取り付けるためのパーツも持っていませんし、そもそも皆既明けで輝きだした月の影響を受けずにガイドできるかという話も。

そんなわけで出現の撮影は一種の博打だったのですが、17:00過ぎから一時間くらいかけて念入りにドリフトアライメントで極軸を追い込んだおかげか、なんとか許容範囲内の精度で追尾できました。

残念だったのは天王星の衛星が写らなかったこと。実効3倍のバローで1/15秒露出でもスタックして wavelet 処理で炙り出せば写ったので、1/30秒でもなんとかなるかと淡い期待はあったのですが…

しかし皆既中とはいえ月面からの光害(?)でノイジーな状況では少々画質調整したくらいでは何も見えませんでした。こりゃ無理ゲーだったか、と思っていたら M87JET さんが見事撮影に成功していました!

これはすごい。なんと1コマ5秒露出です。画像処理と合わせて赤黒い皆既の月が真っ白に飛ぶほどに炙り出してやっと見えたと。

うちの動画でも数秒分スタック&waveletで炙り出せばなんとかなるんでしょうか?でもどうやって処理したらいいんでしょうね。特に潜入直前から天王星本体潜入後にかけてのフレームをどう処理したものやら…

というわけで天王星食については心残りは若干あるものの、第一の目的だった「赤い月に青緑色の天王星が飲み込まれていく様子」は無事とれましたし、出現の方もなんとか撮れたので満足しています。

追記

そうそう、なんでわざわざ動画にタイムスタンプを表示したのかというと、キャプチャーのFPSに多少ゆらぎがあったのと、フレームドロップが若干出たため、単純に mp4 とかに変換したものを再生してもシークバーの時間表示が信用できないからです。

SER Player だとシークバーに SER のフレームに埋め込まれたタイムスタンプ情報を表示してくれるのですが、mp4 等に変換する場合は動画内に表示するしかありません。SER Player の AVI 出力にそういうのがあればいいんですが、どうもないみたいだし、そもそも出力した AVI が動画編集ソフトで正常に扱えない場合がありました(AVIインデックスが壊れているっぽい)。

結局画像出力機能でファイル名にタイムスタンプを含めるオプションを指定してフレーム画像を出力し、自作スクリプトでファイル名から読み取ったタイムスタンプをフレーム画像に書き込んで、それを ffmpeg に入力して動画エンコードしました。

自作スクリプトについては後日 github で公開します。

IC405 勾玉星雲 (2022/11/2) / PixInsight 始めました / 火球を見た

11月2日の深夜に IC405 勾玉星雲を撮りました。昨年の12月に無理やりベランダから撮って失敗したので、今回は公園にでかけてリベンジです。

今回はいつもの公園ではなくダイエットがてら散歩していて見つけたもっと広い公園で撮影しました。撮影中、散歩中のおじさんに声かけられたりしましたが… なぜ女の子は声をかけてこないのでしょう?おじさん同士は互いに引かれ合う性質があるとでもいうのでしょうか?

この日は上弦を少し過ぎた月齢8の月が深夜0時頃まで出ていたため23:00頃に出動。広いとはいえ公園の四隅には明るい照明があり、目の周りを両手で遮らないとカシオペア座すら視認困難でした。なんとか北極星を見つけて極望でざっくり極軸を北に向けてから PHD2 でドリフトアライメント。

ガイドカメラはノートPC(Let's Note CF-SZ6)と相性が悪くて一時期退役状態だった QHY5L-IIM ですが、先日のエントリで紹介した「裏で音楽または動画をループ再生する」という驚愕の回避法を実戦投入。

効果はあったようでカメラトラブルは発生せずに4時間で大容量バッテリー(70Wh)の残量が55%と余裕でした。ただ、やはりバッテリーの減りは若干速くなったようで、昨年の撮影では3時間で残量75%でしたから、25%ほど減りが速いようです。

もっとも撮影そのものはトラブル続きでした。それは後述するとしてまずはリザルトを。

リザルト

IC405 勾玉星雲, IC410 おたまじゃくし星雲, IC417 (2022/11/3 01:19)
IC405 勾玉星雲, IC410 おたまじゃくし星雲, IC417 (2022/11/3 01:19)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折), ZWO LRGB Filter, ZWO Ha Filter / Kenko-Tokina スカイメモS, 30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (11 Megapixel, -20℃, Gain 300), SharpCap 4.0.9268.0, 露出 Ha:2分 x 20コマ, R:30秒 x 32コマ, G:30秒 x 32コマ, B:30秒 x 32コマ, 総露出時間 88分 / PixInsight 1.8.9-1, StarNet++ 2.0.2, Lightroom Classic で画像処理

右が IC405 勾玉星雲(あるいは曲玉星雲)、左が IC410 で「おたまじゃくし星雲(Tadpole nebula)」とも呼ばれている星雲です。

その左上の小さい星雲は IC417 で、海外では Spider nebula と呼ばれている星雲で、写真では見切れていますがそのすぐ左の NGC1931 と合わせて "The Spider and the Fly" nebulae と呼ばれています。Stellarium の日本語キャプションではそれぞれ「蜘蛛銀河」「ハエ星雲」と訳されています。なぜ「銀河」?

実は RGB ではむちゃくち淡くしか写っていなくて、上の写真は RGB に Hαをブレンドしています(詳細は後述)。そこそこいい感じに仕上がりました。これはリベンジできたと言ってよいでしょう。まあ、露出時間短めだし等倍で見ると粗はあるんですが…

写真の主役とも言えるHαはこれです。

IC405 勾玉星雲, IC410 おたまじゃくし星雲, IC417 (Hα) (2022/11/3 01:19)
IC405 勾玉星雲, IC410 おたまじゃくし星雲, IC417 (Hα) (2022/11/3 01:19)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折), ZWO Ha Filter / Kenko-Tokina スカイメモS, 30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.11 による自動ガイド / ZWO ASI294MM Pro (11 Megapixel, -20℃, Gain 300), SharpCap 4.0.9268.0, 露出 Ha:2分 x 20コマ, 総露出時間 40分 / PixInsight 1.8.9-1, Lightroom Classic で画像処理

やはり星雲の構造はHαの方がよく見えますね。IC410 が「おたまじゃくし星雲」と呼ばれているのは丸い明るい部分が頭で右上から伸びて左回りにくるんと曲がってる細い星雲がしっぽという見立てでしょうか?

画像処理

PixInsight はじめました

さて、今回初めて画像処理の大半を PixInsight で処理しました。トライアルライセンスで試したのですが、使いこなす、というところまで行けるかはわからないけど必要最低限使えそうということがわかったので、今回の画像を仕上げた後すぐに商用ライセンスも購入しました。円安どこまで行くかわからないし…

PixInsight (以下、PI)は、だいこもん(id:snct-astro)さんや k (id:mayururii)さんが使っているのを横目で見ていて、システマティックに再現性のある処理ができ、サードパーティーが拡張可能で日々コミュニティの手で進歩しているソフトという印象があり興味を持っていたところ、星沼会丹羽雅彦さんの著書『PixInsightの使い方 [基本編] たのしい天体写真シリーズ』(以下、PI本)が出版されました。

まずはこれを読みながらトライアル版を試してみるか、ということで Kindle 版を買ったのが8月。

でもいつものことながら積読になってたんです… が、秋の間に FSQ-85EDP のテストでいくつか撮っているうちに*1 モノクロ冷却カメラで LRGB 撮影した画像の処理の扱いの難しさに疲れ果てて、もうちょっとなんとかならんかな、と思って重い腰を上げてトライアル版ライセンスをリクエストしたのが先月。

Linux 版があって Ubuntu で動作実績があるのにも背中を押されました。今、家で一番速いマシンが Ubuntu 20.04 入れてるメインマシン(Ryzen 3 PRO 4350G (4C8T/3.8GHz))なんですよね。

今まではゲーム用を兼ねている Windows のサブマシン(Core i5-6600 (4C4T/3.3GHz))が最速で天体撮影や画像処理もそっちでやっていたのですが、グラボのファンが止まって異臭がして取り外してからゲームから遠ざかっているうちに仮想通貨ブーム等でグラボが高騰。PC自体の買い替えも先延ばしにしてるうちにメインPCを新調したところそちらが最速になってしまったという…

トライアル版のダウンロードはセキュリティ上の理由とやらで PI の開発元が手動で確認してからメールで案内があるとのことでいつになるかと思いましたが朝リクエストして夜にはメールが来てDLできました。

丹羽さんのPI本はデジカメ画像を使った基本的な処理フローのチュートリアルになっているので、昨年4月に OM-D E-M1 Mark II 撮った M8 と M20 の写真を使って試してみました。

PI の独特な構造やUIデザインには初見殺しの趣があり、本で丁寧な解説を読んでおいて正解でした。というか途中から本を見ずに先に進んでみたらほとんど何もできなくて結局本に戻ってきました…

素直に本を読んで先に進んだらここまでできました。

驚いたのは ABE (AutomaticBackgroundExtractor)の優秀さ。PCC (PhotometricColorCalibration)の色合わせの優秀さにも驚きました。なんなら STF (ScreenTransferFunction)のオートストレッチの優秀さにも驚きました。なんか驚きっぱなしです。

ただ、ノイズ処理は基本的な機能ではそこまでアグレッシブにはやってはくれなくて、特にこの画像の場合いわゆる「縮緬ノイズ」が多いため、等倍で見ると結構ひどいことになっています。そこであぷらなーとさんの「クールファイル補正法」をだいこもんさんがPIで実装した手順を試してみました。

が、手順を間違えたのかうまくいかず… 後から手順を自動化したスクリプトを教えてもらったのですがバタバタしていてまだ試せていません。

さて、ここまでやって一番問題だったのはストレージの消費量です。ライトフレーム16コマの画像処理ですが、27.5GBも消費しました(元のRAW画像は含まず)。まあこれはクールファイル補正法の中間ファイルが半分くらいあるのですが、それにしても厳しい。中間ファイルは消しても問題ないようですが、どれを消すと何が面倒になるとかよくわからないのでそのままにしてあります。

あと、機能間での画像データの受け渡しが大量の中間ファイルを経由するせいか以外と処理が重いです。HDDのIOがネックになっている模様。ここは SSD を使いたいところですがストレージの消費量を考えると大容量 SSD が必要になり… まあ、当面は足りそうなので、その間に消せるファイルとそうでないファイルの見分けが付くようなることを目指します。

今回の画像処理

と、ここまでやっただけでいきなりモノクロカメラの撮影画像の処理は無謀かなと思ったのですが、まず一度はやってみなくては、と頑張ってみました。逃げたら一つ、進んだら二つ手に入る、と言いますし…

基本的なところとわからないところは主にPI本の丹羽さんのサイトを参考にしました。基本的なところはこちら。

初っ端から曼荼羅めいた図に圧倒されて挫けそうになりましたが、よく見れば DSS でやるよりは楽かも?と、気を取り直して WBPP からスタート。

実は撮影中のトラブルでゲインが違う画像やセンサー温度が違う画像が混じっていたのですが、WBPP に画像を登録して自動仕分けされる際にそういうパラメーターは見てくれないので、ゲイン違いだけは捨てて後はそのまま処理しました。

ちなみに SharpCap で darkflat として設定した fits ファイルを PI は認識してくれなくて「わからんから light にしといたよ」という警告が出て light に振り分けられてしまうのですが、これは手動で dark に振り分けておけば露出時間のマッチングで勝手に flat 用の dark として扱ってくれます。

ちなみにフィルター毎の flat の露出をヒストグラムの山が合うように調整して撮ってたのですが、どうも10ms以下の露出の違いを区別して振り分ける方法がないようで全部同じ種類のダークとしてまとめられてしまいましたが、もうそのまま処理してしまいました。

WBPP した結果をとりあえず STF でオートストレッチしてみると… 結構撮れてる?

https://rna.sakura.ne.jp/share/PI-20221106/Screenshot from 2022-11-03 11-04-31.png

丹羽さんの記事ではこのあと DynamicCrop してますが、いきなり操作法がわからず省略…

とりあずそのままそれぞれに対して ABE をかけて、RGB はこの後 ChannelCombination でカラー画像にしてから PCC → HistogramTransformation → SCNR → TGVDenoise で処理。Hαは HistogramTransformation → SCNR → TGVDenoise。

パラメータは割と適当ですが、ABE の次数(polyDegree)は星雲が消えないように減らしたいものの光害のムラのことを考えて 2 に、HistogramTransformation のパラメータは STF のオートストレッチの値をそのまま使いました。ArcsinhStretch というのをみんな使ってるみたいですが原理を理解していないせいかイマイチいい感じにならず、オートストレッチが一番マシだなと思ってそれにしました。結果はこんな感じ。

https://rna.sakura.ne.jp/share/PI-20221106/Screenshot from 2022-11-03 16-16-29.png

RGB画像の星雲、淡いですね…

ここからは HαのブレンドPhotoshop でやっていた時はなかなか悩ましい処理だったのですが、ここでは丹羽さんとそーなのかーさんの最新版レシピ?を使いました。

これは StarNet2 の PI プラグインを使う方法ですが、Ubuntu 20.04 ではプラグインのインストールがうまくいきませんでした。所定の場所にファイルを配置して PI でプラグインを Search しても認識してくれないのです。

仕方がないのでHα画像を16bit TIFFにエクスポートしてCLI版 StarNet2 で処理したものを PI で読み込んで処理を続行しました。処理フローが途切れて history に記録されないのが辛いところですが…

最後に Lightroom Classic で調整して処理したのが冒頭の写真です。せっかく PCC で色合わせしましたが、全体的に赤カブリのような雰囲気になっていて星雲の形がわかりにくかったのでかなり色調をいじってしまいました。でも星の色とかはそんなには偏ってないはず…

最終的なストレージ消費量は21.3GB(元画像含まず)。元画像入れると36.2GBですが、このくらいならなんとかなるかな?

火球を見た

機材の設置作業中、確か二重星団の導入に苦労していた時だったと思うのですが、2022/11/3 00:53 頃、北の空にむちゃくちゃ明るい流星を見ました。慌ててツイートしたのがこちら。

カシオペア座の方を見上げた時にいきなりブワッと緑色に縁取られた眩しいくらいの光が目に飛び込んできて、上から下にほぼ垂直に落ちていって、一瞬でスッと消えました。

最初に見えた時の位置は北極星より高くカシオペア座よりは低い位置だったと思います。明るさはその時の空で一番明るく見えた火星よりもずっと明るかったです。朝になって藤井大地さんが動画を公開していました。

時間といい、方向といい、この火球だと思います。おうし座北流星群だったんですね。流れ始めの部分は見えてなかったようで、タイミング的には大きく爆発した瞬間ぐらいに顔を上げていたようです。電磁波音の方は気が付きませんでした。

こんな明るい火球は久しぶりに見たのでびっくりしました。あ、そういえば願い事言うの忘れてた。まあタイミング的に間に合いませんでしたが…

トラブル

今回の撮影はそこそこトラブル続きでした。忘れ物については事前にチェックリストを作って念入りに確認してから出発したので大丈夫でしたが、まず事前に予定していたターゲットを撮れませんでした…

予定では勾玉星雲の前にサクッとペルセウス座二重星団(h+χ)を撮るはずでした。

が、まずPHD2のキャリブレーションが終わらない。これはプロファイルの設定がミスってて(でも前回からいつ変更したのだろう?)赤緯ガイドがOFFになっていなかったのが原因だったようで、再設定後一度切断してから再接続するとうまく行きました。

その後極軸を合わせてピントを合わせて二重星団の導入を試みましたがスターホッピングの開始点となるカシオペア座がほとんど見えません。両手で目の周りを遮って公園の照明が目に入らないようにすればなんとか見えるのですが、その状態では星を見たままで鏡筒を操作できず、星が見えない状態で記憶した方向に向けるようにしたのですが、全然ダメでした。

15分ほど頑張って、これは無理!と判断し、時間も押していたので勾玉星雲の撮影に入ったのです。勾玉星雲はカペラから南に降りていくだけなので比較的スムースに導入できました。

勾玉星雲の撮影の方では SharpCap の操作でミスを連発。まず最初ゲイン300で撮っていたはずがいつのまにか250になっていました。幸いすぐ気付いてゲイン違いは4コマのみで済みましたが、いつのまにミスったのか不明なまま。おそらくタッチパッドのタップが発動して意図せず設定UIに触れてしまったのだと思うのですが…

その後もう一つのミスに気づきました。冷却カメラの設定温度です。いつも通り-10℃に設定していたつもりが、気がつくと-20℃まで冷やしていました。これは撮影がだいぶ進んでから気付いたのでもうやり直せません。そのまま-20℃で最後まで撮りました。

冷やせば冷やすほどノイズが減るとはいえ、-20℃となると帰宅してから気温の高い(というか寒くない)室内でダークやフラットを撮るのは冷却パワー的に厳しいものがあります。気温10℃の野外でも冷却パワーが65%ぐらいまで上がっていました。おかげで帰宅してすぐまだ寒いうちにベランダでふらふらになりながらダークやフラットを撮るはめになりました。

立て続けのミスで自分が信じられなくなり、その後の作業はずいぶんと神経をすり減らすものになりました。そうこうしてるうちに気がつくと夜露が降りまくってて頭がびっしょり濡れています。カバンやコートやケーブル類を小分けする用のビニール袋も濡れていて、そのまま地面に落ちたりしていたので泥だらけ。後が大変でした。

幸いダンボール製の巻き付けフードのおかげなのか望遠鏡のレンズは曇らずに済んだのですが、今後はレンズヒーターも必要かなぁ… しかしベランダで撮っている時は夜露に悩まされることは全然ないのですが、なんででしょうね?

そして極めつけのミスは撤収時に機材をバラす時に気付きました。なんとスカイメモSを微動雲台に固定できていませんでした!!

赤道儀本体と極軸調整用の微動雲台は、本体に取り付けたアリガタを微動雲台のアリミゾに嵌めて押さえネジを締め込んで固定するのですが、そのネジがユルユルでした。えええ… 確かに締めたと思ったのですが一体… ガイド中に赤緯ガイドが時々カクッとズレてたのはそのせい?

後で別件でスカイメモSを組み立てていて気付いたのですが、どうもアリガタをやや斜めに傾いた状態で嵌めたままネジを締めてもなんとなく固定できてしまうようで、でもその状態で機材を載せると重みで傾きが解消されて水平になり、結果的にネジが緩んだ状態になるようです。

一応ミゾに嵌った状態ではあるし、アリガタにはストッパーが付いているので簡単には崩壊はしないと思うのですが、ストッパーはネジ一本で、ここに荷重のかなりの部分がかかる形になるので耐えきれなくなってネジが折れたらアウトです。

撮影結果には満足していますが、ちょっと先が思いやられる「近征」でした。

P.S.

FSQ-85EDP でテストがてら色々撮影しているのですがなかなかブログにまとめる時間がとれません。9月30日と10月1日に撮った惑星の画像処理もまだ途中です。それに加えて11月8日には皆既月食天王星食ということでいつになるのやら…

*1:まだブログにまとめてません。そのへんは後日…

PHD2 で QHY5L-IIM の映像が止まる件、解決したかも?

色々積み残し満載ですがこれは忘れないうちに記録しておこうと思って速攻で書きます。

以前 Let's Note に繋いだ QHY5L-IIM からの映像が PHD2 に流れてこないトラブルがあったと書きました。

極軸合わせは PHD2 の Polar drift alignment を使う予定だったのですが、PHD2 がガイドカメラ(QHY5L-IIM)から映像を取得できないトラブルが。結局極軸は極軸望遠鏡でアバウトに合わせて(使い方忘れた)、オートガイドも諦めました。このトラブルでばたばたしていて撮影開始が遅れてしまいました。

(中略)

PHD2 のトラブルですが、後で調査したものの原因がわからず、結局今後は ASI290MM を使うことにしました。ノートパソコンは Panasonic Let's Note CF-SZ6 で、最近天体撮影用に買った中古品です。事前のテストでは問題なかったのですが…

前夜の撮影でも同様のトラブルがあったのですが、ケーブルをつなぎ直したりしているうちに直ったのでケーブルの接触が悪かったのかと思っていたのですが、その状況でも SharpCap では普通にプレビューできるし、同じケーブルでデスクトップPCに繋いだら PHD2 でも問題ありません。

レッツノート本体の Wi-Fi のスイッチを OFF/ON すると復帰して10秒くらい映像が流れてくるのですが、また止まってしまうのも謎です。QHYのドライバーを再インストールしたりインテルのオプションのドライバを更新したり、デスクトップで使っている古いドライバに入れ替えたりと色々試したのですが症状は変わりませんでした。
C/2021 A1 レナード彗星 (2021/12/2)

実際その後は ASI290MM を使うようにしていたのですが、ASI290MM は惑星カメラと兼用で、頻繁に付け外ししているとセンサーにゴミが落ちてクリーニングが面倒ということもあって、なるべくなら QHY5L-IIM を使いたいと思っていました。

QHYCCD miniGuideScope + QHY5L-II-M
QHYCCD miniGuideScope + QHY5L-II-M

で、先日ふと燐さん(id:Rin0724)のブログを見ていると Pole Master がノートPCでまともに動かないという話が出てきました。

紹介動画では、カメラが動作してる時は「動画」で導入及びセッティングが出来る様に見えるのですが凄く読み込みが遅いのです。低スペックPCで動画を再生してる時の様な「カクカク」した動きどころか一度読んだら次の更新まで30秒待ちとかザラ。下手すると1分は待ちます。
Pole Master始めました。 - 自己満万歳

QHYのカメラからの映像が届かなくなるという現象。これ、ひょっとしてうちの QHY5L-IIM の件と同じでは?と思いつつ、続報を待つと、どうも解決法があるそうです。

先日導入したPole Masterがマトモに動作しない点でHIROPON (id:hp2)様からコメント頂いたり、KYOEI大阪さんからも対処方法を頂きました。で、そのKYOEI大阪さんからの話が普通は思いつかない様な話で、「動画プレイヤーを立ち上げて動画を再生しつつPole Masterを使えばいける「かも」しれない」との事。思わず「・・・はぃ?」って聞いてしまいましたよ。
Pole Master一応解決 - 自己満万歳

…はぃ?

KYOEI大阪さんの説明では省電力モードに落ちないために動画を再生するとのことでしたが、USBの省電力関係の設定も切ってるし、燐さんと同様うちでもAC電源に繋いだ状態でも再現するので変な話だなと思ったのですが、なんと燐さんの問題はこれで解決したとのこと。マジか。

コメント欄にて HIROPON さん(id:hp2)曰く、だいぶ前に知られていた裏技だそうで、天文ハウスTOMITAさんが注意喚起の動画を上げていたとのこと。

起動後すぐキャプチャが止まる → マウスカーソルを動かし続けるとキャプチャされる(ダルすぎる) → 横で動画を再生するとキャプチャが正常に継続する → 動画の再生を止めるとまたキャプチャが止まる、という内容。

うーん、にわかには信じがたいのですが、こうして動画で見ると… というわけで、QHY5L-IIM でも試してみました。PC は前回同様 Let's Note CF-SZ6 です。

結果は… マジで直ったぽい。えええ… 上の動画と同様で、動画再生中は PHD2 の露出ループが正常に継続します。動画再生を止めるとまた止まります。

色々試してみたのですが、CPU負荷がある程度連続でかかるなら動画再生じゃなくても効果があるようで、Webブラウザベンチマーク Octane 2.0 JavaScript Benchmark の実行、あるいはブラウザの JavaScript コンソールから JavaScript のビジーループを回しても効きました。

しかしさすがにベンチマークやビジーループではCPU使用率が100%になってしまうので、ある程度間引きしないと、と思って JavaScript の setTimeout() メソッドでCPU使用率を落とそうとしたのですが、これがあまり上手くいきません。どうも間欠的な負荷では効かないようでもっと連続的に負荷がかからないとダメっぽいです。結局一番楽なのは動画か音楽の再生というところに落ち着きそうです。

テスト環境では Windows 標準の Windows Madia Player での動画(mp4)再生、Grooveミュージックでの音楽再生(mp3)共に効果がありました。VLC による mp4, mp3 再生でもOKでした。面白いところでは Intel のグラフィック設定画面にある動画の設定画面(プレビューでドライバ同梱のwmv動画をループ再生しているようです)を開きっぱなしにしても効果がありました。

しかし Pole Master なら極軸合わせ中だけのことですが、オートガイド中に負荷をかけ続けないといけないとなるとバッテリーの減りが大きくなるのは避けられずどうしたものか… と思いましたが、実際に PHD2 で露出ループと同時にGrooveミュージックで mp3 をループ再生して放置したところ、2時間でLバッテリー(70Wh)の減りが10%程度でした。このくらいなら実用上問題なさそうです。

このテスト、最初は露出時間0.01秒でループさせていてCPU使用率は常に20%ぐらいでしたが、後半からより現実的な露出時間2秒の設定にしたところCPU使用率は10%以下に落ちました。なので、実際はもっと減りが遅いと思います。

ということで未解決の問題が一つ解決したようです。燐さん、HIROPON さん、どうもありがとうございました。

火星 (2022/9/30)

9月30日の深夜に撮った火星です。この夜は土星木星がメインターゲットでしたが、木星の大赤斑が出てくるまで待っている間に火星も撮りました。

火星 (2022/10/1 01:06)
火星 (2022/10/1 01:06)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 248), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 321), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/125s x 2500/5000コマをスタック処理 x8 (L:4, RGB:4) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.2, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

写真は火星の北が上です。火星はまだ遠く、視直径は11.9秒角。それに加え、撮影時には火星がマンションの壁際に位置してマンションの壁面と気温の温度差でシーイングがあまりよくなく、頼りない写りではありますが…

火星では9月下旬に黄雲(ダストストーム)が発生して、9月30日時点でも黄雲が拡大している状況でした。地表の模様が見えにくくなり見た目が様変わりしているとの報告があります。

写真でも東側(右側)の欠け際から中央にかけて見える大シルチスまではわかるのですが、人その西側の模様がよくわからない感じです。ALPO-JAPAN の当日の報告だと荒川毅さんの報告画像の1枚目のIR画像がほぼ同時刻ですがやはり似たような模様で、2020年の火星と比べてもなんだか様変わりしています。

2020年は地球からは南極側から少し見上げるような角度で火星が見えていたのに対して、現在はほぼ真横から見えているため、2020年の画像を少し手前に回した姿を想像して比較してください。

この後木星を撮ってから最後にもう一度火星を撮りました。

火星 (2022/10/1 03:17)
火星 (2022/10/1 03:17)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 208), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 285), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/125s x 2500/5000コマをスタック処理 x6 (L:3, RGB:3) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.2, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理

2時間の間の自転で大シルチスは影の部分に隠れて中央付近に子午線の湾が見えていますが、その南の方は黄雲がかかっているのか黄雲で砂をかぶったのかあちこち明るくなっています。

このあたりの2020年の画像はこちら。

うーん、やっぱり比較しづらいので地図も作ってみました。

火星の地図 (2022/9/30 16:06.1-18:17.3 UT)
火星の地図 (2022/9/30 16:06.1-18:17.3 UT)

火星像のリムに由来する部分(経度45度付近や南極近く)はリムの二重化の影響が大きいため不正確です。極がリムに近いため極冠はよくわかりませんが、北極付近には白い雲がかかっています。

そして、こちらが2020年に作成した地図。

火星地図 (2020/10/1-2020/10/26) (0º中心・マーカー付き)

❶ シレーンの海 ⓫アキダリアの海
オリンポス山 ⓬真珠の海
❸アルシア山 ⓭子午線の湾
❹パボニス山 ⓮サバ人の湾
❺アスクラエウス山 ⓯大シルチス
❻太陽湖 ⓰ヘラス盆地
❼マリネリス峡谷 ⓱インディス平原
❽ルナ湖 ⓲チュレニーの海
❾オーロラ湾 ユートピア平原
クリュセ平原 ⓴キンメリア人の海

2020年10月28日の記事から再掲しました。

今年は火星の接近の年で最接近の12月1日には17.2秒角まで大きくなります。

とはいえ12月はシーイングがあまり期待できないので撮れる時に撮った方がよさそうです。

土星と衛星 (2022/9/30)

9月30日と10月1日は二夜連続の惑星撮影祭り、まだ未処理の撮影データがありますが、ぼちぼち処理した分を上げていきます。今回は9月30日の土星です。

土星の de-rotation ができるようになったので、調子に乗って17本(Lx9, RGBx8)、フレーム数にして1万7千フレームを使って画像処理したのがこちら。

土星と衛星 (2022/9/30 21:00)
土星と衛星 (2022/9/30 21:00)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 300), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 377), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/30s x 1000/2000コマをスタック処理 x17 (L:9, RGB:8) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.2, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理(衛星は同じデータから別画像処理したものを合成)

衛星は左からエンケラドゥス、ミマス、ディオネ、テティス。例によって同じデータから強力な wavelet 処理で衛星をあぶり出したものを合成しています。WinJUPOS の衛星のスタックをONにして処理したので暗いミマスも難なくあぶり出せました。

土星面の方は嵐などは見当たりませんが、今までで一番低ノイズで、微妙な濃淡の縞模様もよく見えます。A環の外側に見える空隙のようなものはさすがに「偽エンケ」だと思います。

明るい縁の内側に黒い線が入るのは回折像によるものだそうで「リムの二重化」と呼ばれる現象です。火星で特に目立つことが知られており以前ブログでも紹介しました。

今回の写真だと環に土星の影が落ちて環が切れたようになっている部分でも「二重化」が発生しているので、A環の空隙のように見えるところも「二重化」だと思います。

この後、撮影時のクロップ設定(ROI)なしで撮った土星がこちら。

土星と衛星 (2022/9/30 21:21)
土星と衛星 (2022/9/30 21:21)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F41.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / L: ZWO ASI290MM (Gain 300), RGB: ZWO ASI290MC (Gain 377), SharpCap 4.0.8949.0 / 露出 1/30s x 1000/2000コマをスタック処理 x5 (L:3, RGB:2) をLRGB合成 / AutoStakkert!3 3.0.14, WinJUPOS 12.1.2, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop 2022, Lightroom Classic で画像処理(衛星は同じデータから別画像処理したものを合成)

5本しか撮ってなくてスタックしたフレーム数が少なく、若干ノイジーです。wavelet 処理はノイズが目立たない程度に抑えたため、最初の写真よりふわっとした仕上がりになっています。

衛星は左からエンケラドゥス、ミマス、ディオネ、テティス、レアです。写野が広がったので右端のレアが入りました。実はタイタンも木星の下の方に位置していたのですが、残念ながら写野の外。鏡筒をもう少しだけ下に振ったらギリギリ入ったのですが、撮影時には気付いていませんでした… 残念。

2022/10/13 2:24 追記: 土星好きの子供の話

そうそう、最初の土星の写真を先にインスタに上げたら(自分にしては)いっぱい「いいね」が付いて、みんな土星好きだなぁ、と思ってたら「土星好きの3歳の息子が喜んでいます」って母親さんからのコメントがあってびっくりしました。本で見た土星が同じ姿で今も浮かんでいると知って満足したそうです。

天体写真というと、本に載ってるのと代わり映えのしない、なんなら画質の劣る写真を撮って何の意味があるのか?って思いにふと駆られがちですが、本で同じような写真を見ていても「昨夜撮った」写真があることに意味を見出す人もいるんですね。

僕たち天文家が飽きもせず同じ対象を何度も繰り返し見たり撮ったりするのも、もちろん、もっと良く撮りたいからとか、何か変化があるかもしれないからとか、そういう理由はあるのだけど、その根本のところにはこの3歳の子と同じで「その天体の今の姿を見たい」って気持ちがあるのかもしれません。

せっかくなので是非とも観望会で生の土星を息子さんに見せてあげて欲しいと返信しておきました。喜んでくれるといいなぁ。

満月 (2022/10/10) / FSQ-85EDP テスト撮影 (その1)

連休中は色々用事があって連休最終日の10月10日はオフだったのですがくたびれて夜までほぼ寝てばかりだったのですが、22時頃にベランダから外を見ると満月が輝いていたので、せっかくなのでとテスト撮影も兼ねて撮影しました。

何のテストかというと、今年7月上旬に注文して8月下旬に届いた FSQ-85EDP のテストです。実はこれまで9月5日と9月26日の夜に恒星と銀河でテスト撮影していたのですが、月面のテスト撮影は今回が初めてです。

今回のテスト撮影はデジカメ(OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II)での撮影です。BLANCA-80EDT で悩まされた色ズレがないかチェックするためにカラーカメラを使います。

まず直焦点。マイクロフォーサーズ用Tリングには RedCat 51 で使っている William Optics 製のものを使用しました。FSQ-85EDP への接続には「タカハシ接続リング M54-M48」を噛ませてあるので1mm程光路長が余計かもしれません。

撮って出し(RAW現像で露出補正とクロップのみ)の1枚がこちら。

月齢14.7 (2022/10/10 23:54) (直焦点撮って出し)
月齢14.7 (2022/10/10 23:54) (直焦点撮って出し)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 1/1000秒 / Lightroom Classic で画像処理(露出補正とクロップのみ)

撮って出しでシャープネス等一切なしなのでややぼんやりしていますが、色滲みや収差っぽいボケもなく良く写っています。これを72コマスタックしてガッツリ画像処理したのがこちら。

月齢14.7 (2022/10/10 23:54)
月齢14.7 (2022/10/10 23:54)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 1/1000秒 x 72/144 コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理

カリッカリに解像してます。4Kモニターに表示しても十分見れそうです。

続いて BLANCA-80EDT で月を撮る時にいつも使っていたオリンパス純正の2倍テレコンバーターを使ったものですがここで問題発生。この2倍テレコン(EC-20)はマイクロではない方のフォーサーズ用で、いつもはM42のTリングに接続するわけですが「タカハシ接続リング M54-M48」には直接つながりません。

FSQ のように補正レンズを内蔵している望遠鏡では後玉からセンサーまでの最適な距離が決まっていて、カメラや追加の補正レンズを接続する際には決まった光路長になるようにしなくてはなりません。

しかし手元には変換リングとして一番短いのが ZWO の冷却カメラに付属していた「M42M-M48F-16.5L」しかなく、さすがに16.5mmも光路長が伸びるのは気が引けるのでなんとかならないかと考えて、Tリングを分解して光路長を無理やり縮めました。

ビクセンのフォーサーズ用Tリングビクセンのフォーサーズ用Tリングを分解したところ
ビクセンフォーサーズ用Tリングを分解したところ

このTリングはリングのマウント側に近い方のイモネジを3本緩めると2つに分解できます。マウント側のパーツの内側にはM42のメスネジが切ってあって、ここに「M42M-M48F-16.5L」をねじ込むことができます。

分解したTリングに ZWO M42M-M48F 16.5L 変換リング + タカハシ接続リング M54-M48 を接続するところM48F-M42M + フォーサーズTリング(一部) + MMF-3 とマイクロフォーサーズ用Tリングの光路長の比較
分解したTリングに ZWO M42M-M48F 16.5L 変換リングして光路長を比較

光路長を比較するためにFT-MFT用マウントアダプターを繋いでマイクロフォーサーズ用Tリングと並べてみました。5mm 程長いですがこのくらいなら…

ということで撮影してみました。撮って出し(露出補正+クロップのみ)がこちら。

月齢14.7 (2022/10/11 00:29) (2xテレコン撮って出し)月齢14.7 (2022/10/11 00:29) (2xテレコン撮って出し)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), OLYMPUS 2x TELE CONVERTER EC-20 (合成F11) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 1/400秒 / Lightroom Classic で画像処理(露出補正とクロップのみ)

等倍で見ると月面の縁に少し色の滲みが見られます。上側が青、下側が黄色く見えます。カメラはざっくりとですが赤道方向が水平になるように回転しており、ほぼ南中時の撮影なので、画像の向きはおおむね実際の上下と一致しています。となるとこれは大気色分散なのでしょうか?でもそれなら下側はもっと赤っぽく見えないとおかしいような…

まず大気色分散ですが、「ほしぞloveログ」の Sam さんの記事で公開されている計算用の Excel シートを使います。

過去の天気図とアメダスの記録を確認して、気圧(P)に1012hPa、気温(T)に287.65K(14.5℃)、高度に62.583+0.264度(月の高度+月の視半径)を設定したところ、月の上側の端では大気色分散によるRとBの差は約0.80秒角。下側の端も同じように計算すると大気色分散は約0.82秒角。

WinJUPOS で月の大きさを測定したところ、2xテレコン使用時は 0.7500"/pixel でした。なので、上側ではBがRに対して1.07ピクセル上に、下側ではRがBに対して1.08ピクセル下にズレる計算です。

しかし、実際にチャンネルをずらしてみると、月の上側の画像はRチャンネルを1ピクセル上げると青いフリンジがほぼ消え、下側の画像のRチャンネルを0.375ピクセル下げる(画像を8倍に拡大して3ピクセル下げて1/8に縮小する)と黄色っぽいフリンジはほぼ消えました。下側は逆では?

これはBの画像がRに比べてボケているか(軸上色収差)、もしくはRの拡大率がBに比べて小さい(倍率色収差)ということです。しかしそのどちらだとしても上側の色ズレの量はより大きくならないといけないので変なんですよね… なんだかよくわかりません。

色収差の原因が鏡筒側かテレコン側かもわかりませんし、とりあえず直焦点では問題ないというところまでが今回の結論。

最後に2xテレコン版を96コマスタックして仕上げたものを見てみましょう。こちらは RGB Align をONで処理しています。

月齢14.7 (2022/10/11 00:29)
月齢14.7 (2022/10/11 00:29)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), OLYMPUS 2x TELE CONVERTER EC-20 (合成F11) / Vixen SX2 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) 露出 1/400秒 x 96/176 コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理

大気色分散と色収差が混じっているせいか、色ズレは完全には消せてませんが、まあこれだけ写れば文句はないかな、という感じではあります。