Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

M87 のジェット?

昨夜の M87 の写真、中心のブラックホールから出ているジェットが写っているのか写ってないのか微妙なままでしたが、こういう時は、そう、wavelet です。

せっかく16枚コンポジットでノイズも減らしたので RegiStax6 で wavelet 処理をかけてみました。処理後の画像を二倍に拡大したのがこちらです。

M87のジェット (2019/4/27 22:33)
M87のジェット (2019/4/27 22:33)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-II-M + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 2分 x 16コマ 総露出時間 32分 / DeepSkyStacker 4.1.1, Lightroom CC, RegiStax 6.1.0.8, Photoshop CC で画像処理, 2倍に拡大

確かに何か出てますよね?と言ってもジェットらしい細長い形までは見えず、この位置に恒星がないことを知らなければ恒星にしか見えません。解像度的にギリギリなのでしょうか。

写っているのはおそらくジェットの一番明るいところ。先日の国立天文台のリリース「史上初、ブラックホールの撮影に成功」のプレスキットにジェットの写った図があるのですが、ジェットの一番明るい部分は M87 の中心から3120光年くらいの位置のようです。*1

地球から M87 までの距離が5500万光年なので、上の画像上では中心からジェットまでの距離は14.5ピクセルくらいになるはず*2 なんですが、実際に測定すると20.2ピクセルありました。結構ズレましたね。うーん… 本当にジェットなのかな…?ジェットの一番明るいところが写っているという仮定が間違い?

ここは μ-180C で撮りたいところですが、手持ちの機材ではオートガイドする方法がないんですよね… ミューロン180/210でオートガイドするためのアリガタ完売だそうですので、K-ASTEC μ-180C用ファインダーバンド FB45ですかねぇ。いや、μ-180C では月と惑星しか撮らないと決めていたはずだったのですが…

*1:5000光年のスケールが230px、中心から明るい部分までの距離が 143.5px で 5000 / 230 * 143.5 = 3119.57 光年

*2: atan(3120 / 55000000) * 180.0 / π * 60 * 60 = 11.7秒、f=480mm で E-M5 の1ピクセル幅は1.613秒なので 11.7 / 1.613 = 7.25ピクセル、写真は2倍に拡大しているので 14.5 ピクセル

NGC4565, M87中心部 (2019/4/27)

4月27日の横浜は雨でしたが20時頃から快晴の予報。早い時間に NGC4565 と M87 を撮る計画を立てていたのですが、昼寝してしまって起きたら20時過ぎ。あわてて機材を設置して撮影の準備をしたのですがトラブルもあって NGC4565 の撮影開始は21:50。

赤緯25度52分で南中高度が80度を越える NGC4565 は途中からベランダの天井に隠れてしまう可能性があり、長時間露出では枚数が足りなくなるのを懸念して今回は光害カットフィルターなしで8分露出で撮影。

しかし撮影開始時点で既にガイドカメラの視野には天井が写っており、2枚目の撮影完了時には天井が視野のほぼ全体を覆い、ガイド星がぎりぎり隠れるか隠れないかという状態。写野はもう少し余裕はあるもののこれ以上はオートガイドが不可能ということで撮影終了。

わずか2枚のコンポジットですが一応仕上げました。

NGC4565 (2019/4/27 21:50)
NGC4565 (2019/4/27 21:50)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-II-M + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 8分 x 2コマ 総露出時間 16分 / DeepSkyStacker 4.1.1, Photoshop CC, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 1915mm 相当にトリミング

NGC4565 は Needle Galaxy の愛称で知られるエッジオン銀河です。思ったより明るく大きな銀河で写野確認のための1分の試し撮りでもその姿が確認できました。暗黒帯のぞわぞわした様子まで写すには 8cm F6 では力不足でしょうか。右斜め下にうっすら写っている小さな銀河は NGC4562 です。

気を取り直して M87 です。史上初のブラックホールの撮影で話題のあの M87 です。今回の狙いは銀河中心のブラックホールから吹き出しているというジェットです。id:snct-astro さんのブログで 20cm 反射で撮っているのを見て、8cm では厳しいかなと思いつつ撮ってみることにしました。

M87の中心部は普通に撮ると露出オーバーでつぶれてしまうので露出時間はかなり短くする必要があります。思い切って2分露出(光害カットフィルターなし)で撮ってみました。

M87 中心部 (2019/4/27 22:33)
M87 中心部 (2019/4/27 22:33)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折) / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-II-M + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 2分 x 16コマ 総露出時間 32分 / DeepSkyStacker 4.1.1, Lightroom CC で画像処理, フルサイズ換算 5557mm 相当にトリミング

中心部を等倍表示でよく見ると、右斜め上にわずかに出っ張っているのがわかります。おそらくこれがジェットでしょうか?方向的には合っているように見えます。でも本当かなーというのが正直なところ。トーンカーブをちょっといじるとすぐ見えなくなってしまう微妙な写り具合ですし。

というわけで煮え切らない感じですが、NGC4565 も M87 のジェットも一応「撮れた」ということにしておきます。どちらももう一度チャレンジしてみたいけど連休中は天気悪そうなのでまた来年かな…

今回は、前回 ASI290MM に替えたガイドカメラを QHY5L-II-M に戻して撮影しました。前回は好調だったオートガイドは今回は不調。また赤緯ガイドが蛇行運転。

NGC4565 は2枚ともかなりガイドが流れているのですが、2枚しかないのでそのままコンポジットしました。等倍で見ると明らかに星が縦長です… M87 は短時間露出なので大丈夫かと思ったのですが、そうでもなかったので途中から一方向赤緯ガイドに切り替えましたが、それでも暴れ気味。等倍で見ると星が少し四角く写っています…

また、今回は PHD2 のキャリブレーションの際に South のステップが何故か動かず警告が出ました。手動ガイドでもオートガイドでも South には動くようなので謎です。最初、赤緯ガイドモードが North (一方向赤緯ガイド)になっているせいかと思ったのですが、Auto に設定してキャリブレーションを実行しても再発したので赤緯ガイドモードは関係なさそう。

赤緯の蛇行運転(ハンチング)なんとかなりませんかね… 前回はほとんど蛇行しなかったのですがガイドカメラによってハンチングが起きたり起きなかったりってありうるんでしょうか?赤緯軸のバックラッシュが原因ならガイドカメラは関係ないはずですよね。それとも前回はたまたまギアの当たりのいい部分に当たっていただけとか?梅雨に入ったら調整に出してみようかなぁ…

惑星撮影、ワンショットでどこまでいける?

4月16日のエントリの燐さんからのコメントで、デジカメのワンショット撮影で惑星を撮っているが綺麗に撮れないという話がありました。

僕も以前 8cm 屈折(2xテレコンで合成F12)と E-M5 で木星土星を撮っていました。その時のベストがこれ。

これでも、これだけ写る日は年に数回というレベルでしたし、一晩で百枚くらい撮ってこのレベルが数枚という状況でした。大半は大気の揺らぎで歪んで丸く写りすらしない有様。

当時はこれが 8cm の限界かと思っていたのですが、18cm 反射(μ-180C)が届く前に最新のCMOSカメラで撮ってみたところ、定番の撮り方(動画撮影&スタック&wavelet 処理)をすれば遥かに詳細まで写ることがわかって驚きました。

逆に μ-180C でワンショット撮影はやったことがないのですが、動画からベストショットのフレームを切り出してみたものがこちら。

木星 (2018/7/8 20:05) (1フレーム)
木星 (2018/7/8 20:05) (1フレーム)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s / Lightroom Classic CC で画像処理

昨年の(大赤斑が写ったものでは)ベストの中のベストフレームです。*1 比較のため Lightroom で色調補正、露出補正、ノイズ低減等、いつもの仕上げ処理相当をしてありますが、スタックや wavelet 等の画像処理なしだとこんなものです。

wavelet 処理だけ、いつもと同じ設定でやってみるとこうなります。

木星 (2018/7/8 20:05) (1フレーム, wavelet)
木星 (2018/7/8 20:05) (1フレーム, wavelet)

なんじゃこりゃー!?

輝度ノイズとカラーノイズが大きすぎて wavelet をかけるとザラザラを通り越してモザイク状になってしまいました。

撮影した3000フレーム中上位2000フレームをスタックしたものに上と同じ wavelet 処理をかけて仕上げたもの、要するに普通に画像処理したものがこちらです。

木星 (2018/7/8 20:05)
木星 (2018/7/8 20:05)

こうやって見ると逆にこっちの方がインチキくさい感じもしてくるのですが、元の動画を動画として見ると、ワンショットの画像では視認できない模様が確かに見えます。

木星(2018/7/8 20:05) (60fps動画)
木星(2018/7/8 20:05) (60fps動画)

(flickr の動画埋め込みがうまくいかないので、上の画像をクリックしてリンク先で動画を再生してください)

大赤斑の内部の濃淡や北赤道縞から南に伸びるフェストーンの様子など、ワンショットの画像ではノイズに埋もれて模様として認識できなかったものが、動画で見ると曖昧ながらも確かにそこにあるものとして見えてきます。動画で見ることで脳内でコンポジット的な処理が行われてノイズがキャンセルされるのでしょうか?

そういえばデジカメワンショットで撮っていた時も、ライブビューでは見えていた大赤斑やガリレオ衛星の影が、写真では曖昧にしか写らなくて不思議に思っていましたが、こうして動画と同じ動画から切り出したフレームを見比べても同じ現象が起こるということは、動画という形で見ることで脳内で静止画とは異なった画像処理が行われるのだと思います。

なので、スタックや wavelet などの画像処理がありもしない模様を捏造しているわけではなくて、人間の視覚が行う画像処理に近いことをやっているのだと思います。平たく言うと、多数のフレームから集めた情報から統計的にシグナルとみなせるものを抽出、強調するという点で共通した処理なのでしょう。まあ、理論的なことは全然理解していないのでテキトーですが…

というわけで、ワンショット撮影だとどうしても目で見えるもの以下の写真しか撮れないし、情報量が不足して画像処理では救えない、という結論になるかと思います。

*1:デベイヤーしたものを AutoStakkert!3 で Analyse した結果のベストクォリティのフレーム。

木星、土星 (2019/4/16)

夜明け前に大赤斑が見えるので木星を撮影しました。今期初の土星の撮影も。なのですが…

木星 (2019/4/16 03:39-03:41) (1000/3000 x 4 derotation)
木星 (2019/4/16 03:39-03:41) (1000/3000 x 4 derotation)
高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/60s x 1000/3000コマをスタック処理 x 4 を de-rotation / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, WinJUPOS 11.0.2, Lightroom Classic CC で画像処理

土星 (2019/4/16 03:48)(3000/5000)
土星 (2019/4/16 03:48)(3000/5000)高橋 ミューロン180C (D180mm f2160mm F12 反射), AstroStreet GSO 2インチ2X EDレンズマルチバロー (合成F40.4), ZWO IR/UVカットフィルター 1.25", ZWO ADC 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 1/30s x 3000/5000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理

なんかピンぼけ。大赤斑もカッシーニの間隙もぼんやりしています。木星面で頑張ってピントを追い込んだつもりですが、いまいちピントの山もつかめなかったのでダメだったのかも。シーイングも悪かったとは思うのですが、それにしても。

今回は 16bit RAW で撮ってみたのですがあまり意味なかったですね。

黒点の大きさ

先日撮った2738黒点群の大きさについて。

光学系の拡大率がわからないし、太陽全体が写ってないので画像上の太陽の直径から計算するのもできないと思っていたのですが、よく考えると少し写っている太陽の縁の弧の形から太陽の直径が計算できるのでやってみました。

計算に使ったのはこちらのサイト。

画像状に線を引いて測定したところ、弦長 960 pixel 矢高 67 pixel という値が得られたので、上のサイトで計算したところ、半径は 1752.902985074626865672 pixel と出ました。直径は約 3505.8 pixel です。

これは太陽が円形に写っていると仮定していますが、実際には赤道方向に伸びた楕円形になっているはず… まあ気にせず計算を続けます。

太陽の直径は 1392000 km なので 1 pixel あたり 397.056 km、黒点の暗部の幅と高さがだいたい 28 x 55 pixel なので、11117.568 x 21838.08 km となります。地球の直径が 12756.274 km なので、地球を黒点の上に置くと幅がちょっとはみ出す感じでしょうか。

半暗部の面積は、GIMP で選択範囲を作ってヒストグラムに表示されるピクセル数を見ると 7353 pixel、1 pixel の面積は 157653.47 km^2 なので 1159225943.85 km^2、地球の投影面積が π*(12756.274/2)^2 で 127801973.35 km^2 なので地球約9個分の面積ということになります。

かなりアバウトな計算ですが、今回みたいなちょっと目立つ程度の黒点でも、その大きさは地球いくつ分というスケールなのがわかります。

2738黒点群 (2019/4/11)

久々に大きめの黒点が出てきました。2738黒点群です。今日は具合が悪くて午前中休んでいたのですがついつい撮ってしまいました。前回の「2699黒点群 (2018/2/12)」が1年以上前ですが、今回は…

【注意!】 太陽の観察・撮影には専用の機材が必要です。専用の機材があっても些細なミスや不注意が失明や火災などの重大な事故につながる危険性があります。未経験の方は専門家の指導の元で観察・撮影してください。

2738黒点群 (2019/4/11 11:55)
2738黒点群 (2019/4/11 11:55)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), 笠井FMC3枚玉2.5倍ショートバロー (合成F??), Kenko PRO ND-100000 77mm, ZWO IR/UVカットフィルター 1.25" / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC / 露出 0.55ms x 500/5000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 3.0.14, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic CC で画像処理

半暗部もはっきりしている黒点らしい黒点です。もう少しディテールが欲しいところですが8cmではこんなものでしょうか。太陽の表面のもやもや(粒状斑)もそこそこ解像しています。

ASI290MC での撮影は今回が初めてです。太陽の色を出したいと思ってカラーカメラを使ったのですが、プレビューでは太陽の縁がオレンジがかっている以外はほぼ白色に見えました。現像でRGBのヒストグラムが揃うように調整すると少し黄色くなったので、まあ、それっぽいか、と思ってそのまま仕上げました。本当はどうするのがいいんでしょうね、可視光での太陽のカラーバランスって。

拡大系ですが、最初システムCで撮ろうとしたのですが、BLANCA-80EDT ではピントが来ないことが判明して、結局システムAの ADC なしで撮影しています。

例によって光学系の色ズレを ADC で補正しようかと思ったのですが黒点では調整のしようがなくて、どうせ調整できないなら使わないほうがいい、コントラスト落ちそうだし、と思って ADC を外しての撮影となりました。

拡大率が変わるので合成焦点距離は今のところ不明です。黒点の大きさ地球何個分ですねーみたいなのやりたかったのですが。まあ、たぶん2個分くらいはあると思います。

でも地味ですよね、黒点… もっとデカいのが来ると盛り上がるんですが。

アニメ『スター☆トゥインクルプリキュア』の天文台の望遠鏡について

先日の記事の続きです。

『スター☆トゥインクルプリキュア』は現在第8話まで放送されていますが、第6話でずっと気になっていた遼じいの天文台の望遠鏡が明らかになりました。

https://rna.sakura.ne.jp/share/STPrecure/stprecure-20190310-01.jpg
https://rna.sakura.ne.jp/share/STPrecure/stprecure-20190310-02.jpg

これは… 子午環?

巨大な屈折望遠鏡ですが架台が普通ではありません。一見すると経緯台のようですが方位軸が見当たりません。高度軸を支えるフォークは床面に固定されているように見えます。

こういうのどこかで見たことあるな、と思って調べてみると「子午儀」もしくは「子午環」という特殊な天体望遠鏡のようです。

子午儀は子午線を通過する天体を観測して天体の赤経を測定するもので、観測精度を高めるため子午面内でのみ回転する一軸の架台に望遠鏡が取り付けられています。子午環は高度軸に巨大な目盛環のついた子午儀で、この目盛環を使って天体の高度を測定し、天体の赤緯を決定することができます。

詳細は日本天文学会の天文学辞典の項目を参照。

子午儀/子午環は現在では使われないタイプの望遠鏡ですが、歴史遺産として保全されているものもあります。

しかしなぜこんな特殊なタイプの望遠鏡を選んだのでしょうね?一軸の架台ということで作画の負担が軽いからでしょうか?あるいは、作中でこの望遠鏡をモチーフにしたモンスターが登場するのですが、モンスターのフォルムが生き物らしく見えるのを優先して選んだのかもしれません。

ちなみに観測室には天体写真らしきものも貼ってありますが、子午儀では天体の追尾ができないので天体写真の撮影はほぼ不可能ですね。

などとドヤ顔で解説しておいて、そのうち望遠鏡が床ごと水平に回転するシーンが出てきて度肝を抜かれたりするかもしれませんが…